場面40 異世界の保存食
「飯を届けてきたよーっと。さぁ俺も食うかなー。」
再び納屋に戻ってきた誠司だったが、テーブルの上には空になった食器しか無かった。
「あれっ?!俺の飯は?三人分用意してたよね??」
「すまん。わしが食った。」
「すまん。俺が良いと言った。」
納屋の荷物を漁っていたブローギンと新之助が順番に片手を上げた。
「そっか、まぁ良いけど…もしかして足りなかった?結構よそったけど、ちゃんと量を確認したら良かったかな。」
「いや、量は良かったんじゃが、ミソというのが旨くてな。つい食ってしまった。」
「そりゃ出汁入り味噌だから旨味も入ってるし…そういえばブローギンは普段どんな物を食べてる?」
「食べ物か?特別なものは食っとらんぞ?――えっとな、ほれ。こんなもんじゃな。」
ブローギンは自分のリュックをゴソゴソと探ると、いくつかの包みを取り出してテーブルに並べたので、誠司は着席してひとつ手に取って一番大きい包みを広げた。
「これはパンか。おお、硬いな!乾燥させて日持ちさせてるのか。これ、少し貰ってもいいか?うちの保存食と交換って事で。」
「良いとも。おぬしらの分を食ってしまったし、代わりの食料を貰えるなら問題ない。何より、おぬしらの食べ物は興味ある!」
「おし、交渉成立!で、こっちは…干し肉か?おお、こっちも硬いなぁ。ザラザラしてるのは…塩か。塩分凄そうだなぁ。味は――うーん…。」
小さい切れ端を見つけた誠司が口に放り込むと肉の臭みが口に広がり、味そのものも塩をそのものを食べているようだった。
「そのまま食う奴があるか。これは鍋に入れたりする物じゃぞ。直接食べる種類は、この時期では値が張るから安い代用品じゃ。」
「鰹節みたいなもんか。そういえばアンナさんから聞いたけど、神父様から薬草を買い取っているらしいじゃん。体力を回復する薬草って珍しいの?」
「カツオブシというのが気になるが…。デール草か?この辺りではそう珍しくも無いらしい。しかし領都まで行くと、あまり生えておらんな。煎じて飲むと疲れが消えるんじゃ。しかし味が良くない。じゃからそこまで需要は無い。しかし愛飲家はおるので、こうして纏まった量が手に入ったら買い取っておるんじゃよ。他にこの村で仕入れらえる物もないしの。デール草も要るか?」
「いや、この村で手に入るなら自分たちで探してみるよ。なぁ親父。」
「そうだな。今すぐに必要なものでもないだろう?」
包みが気になったのか、新之助もテーブルに近付いてきた。小脇にはアルバムを抱えている。
「そうだね。成分が何なのか気になるけど、別に急ぎじゃないし。そのうち毒草も含めて目録にしたいな。ああ、本と言えば、ブローギンは何か伝承の書かれた本とか入手する方法を知らないか?」
「伝承?知り合いに読書家は居るが、どうしてそんなものに興味があるんじゃ?」
「日本に帰還する手がかりを探しているんです。もしかしたら古い言い伝えなどに、ヒントでも有ればと思いまして。」
新之助もテーブルに座ってアルバムを開くと、懐かしそうにページを捲り始めた。
「親父は日本に――故郷に帰りたいんだよ。神父様からも聞いたかもしれないけど、どうしてこの世界に来たのか俺たちにも分からないんだ。だから帰る方法を探しつつ、この世界で生活する方法を模索しているんだ。」
「ああ、それはイージルド殿からも聞いた。しかしおぬしは他人事じゃな?帰りたくはないのか?」
「俺は正直どっちでも良いかな。こっちの世界じゃ病気とか怖いけど、日本で希望が持てるか聞かれても俺は返す言葉を見うけられない。メイ姉――俺の姉は寧ろこっちの世界に興味津々みたいだけど。…メイ姉は何処でだって生きていけるだろうし。」
「芽衣子はそんなに強くないぞ?帰国して暫く塞ぎ込んでいたのは誠司も見ただろう?どちらかと言えば誠司の方が色々な意味で”しぶとい”と父さんは思っているぞ。」
「どんな評価だよ。ブローギンはもう荷物を漁らなくていいのか?」
父からの褒め言葉に気まずさを感じた誠司は露骨に話題を反らした。
「うむ、まだ気になる物もあるが、そろそろ暗くなる。相棒をほったらかしじゃから、そろそろ帰ろうと思う。」
「相棒?」
「荷馬車を引いてるアイアンスラッグのスルスナグゥじゃよ。」
「アイアンスラッグっていう種類なのか?ヘビーマシンガンでも打ちそうだな…ん?帰るって何処に?」
「この村には空き家がいくつもあるじゃろ?馬屋の有る家も有ってな。そこをこの村での根城にしとる。当然じゃが神父殿に許可を貰ってあるぞ?」
「ああ、なるほど。てっきりあのデカいリュックだけで行商してるかと思ったけど、そうだよな。」
「馬車なしは流石にキツイわい。まだ商談も済んでおらんから明日もここに来ていいんじゃろ?」
「もちろん。でも取り扱い注意な物も有るかもしれないから、荷物を漁るなら俺か親父を呼んで欲しい。」
「一人で家探しする程に厚顔ではない。ではまた明日。見送りはいらんので、ここでな。」
「はいよ。それじゃまた明日。鰹節なら母屋に有るから用意しておくよ。」
ブローギンは大きなリュックを背負うと、納屋を出ていった。
「ところでヒロ兄には連絡した?」
「植物の売却先か?条件についてはメッセージを送っておいた。あれを読んだら連絡が来るかもしれないな。」
「そっか、お?」
誠司はポケットに入れていたスマホが鳴っているのに気付いて画面を見ると、博史からの着信通知になっていた。




