場面38 藤田、農業やるってよ
「その時はその時だし。親父もそう思うだろ?」
「そうだな。それに、利益が薄いのに義理人情で寒村まで足を運ぶような人が持ち逃げするとも思えませんよ?」
「その品も俺たちの価値観ではそこまで大事じゃない。どちらかといえば、それらがどれだけの価値が有るのか。簡単に言うと”情報”の方が欲しいんだ。だからお金の話は売れた後で良いさ。持ち逃げされたら、まぁ俺らの勉強代かな。あ、でも出来ればこの世界の金貨と銀貨については何種類か欲しい。」
「それは含有量を知りたいのか?」
「親父も分かってるじゃん。そう、その通り!江戸時代の黄金流出みたいな事態は避けたいけど、最悪の場合は金塊として地球に売る事も考えないとね。ねぇブローギン。主要な金貨って何種類くらい有る?」
「この辺りの商人は3種類を使っておるが…ちょっと待て。ではこういう事か?おぬしらはこれらをタダでわしに引き渡す。そして売ってこいと。売却価格を教えろと。ついでに金貨を何枚か渡せば良いと?」
「情報の為ならタダでも構わない。ただし情報の内容としては売却価格というより、市場価格というか…適正価格を知りたい。期間限定品として売るのではなく、安定的に売り出した時に、より売りやすい値段と言えばいいのかな。」
「そんなに大量に仕入れられるのか?」
「うん、まぁ…そうだね。今はあまり詳しく言えないけども。」
急に言い淀む誠司だったが、利益になるならと考えたブローギンも深くは追求しなかった。
「分かった。今回は今後を占うおぬしらなりの試験も兼ねていると。そう言いたいのじゃろ?であれば分かった。」
「よかった。じゃあ初回に何をどれだけ用意して欲しいかブローギンは考えてくれ。」
「すぐに用意出来るのか?」
「ああ、まぁ長く見積もっても3日貰えれば何とかなるかな。」
「…分かった。それと『ここにあるもの』をと言ったが、他に何があるんじゃ?」
「そうだなぁ。正直ここに何があるのか俺も全部把握してる訳じゃないんだよなぁ。親父はわかる?」
「いいや。多分俺の婆さんの時代からの物も有るぞ。奥の方にあるものは多分触らないほうが良い。どうせ価値も無いしな。」
「じゃあ、とりあえず半透明のケースに入ってるやつかな。でも沢山用意出来るのはさっきのラインナップだけ。ここにあるのは1点物も多いけど、それでも良ければ適当に漁ってくれていいよ。使い方が分からないものは俺らに聞いてくれたらいいし。」
「ほほう。では適当に見させてもらおう。」
ブローギンはテーブルから立ち上がると腕まくりをして納屋の隅に押しやられた荷物の山に向かった。
「とりあえず異世界サイドの通貨はどうにかなりそうだね。あとは日本円だけど、こっちで価値が無いけど向こうで高く売れそうな物って有るのかな?」
「それについては父さんの方でアイディアがある。しかも2つ。」
「まじか!2個も?!」
「ひとつは掲示板の入れ知恵だけどな。こっちの植物を向こうに転送して売るっていうのはどうだ?」
「植物を?売れるのかな?」
「道端の草を見たか?」
「いや、バイクやら軽トラやらでしか移動してないから、ちゃんとは見てないな。ああ、もしかして…。」
「そう、どれも日本では見たこと無い種類のものばかりだった!」
「そうか、新種として何かの役に立つかもしれないし…でも雑草だろ?どういう人が買うのか検討も付かないよ?」
「そこについても、条件を教えてもらった。えーっと?『オークションなら値を上げられる可能性があるが、疑われるのが関の山。なので本物と分かる知識人などの個人をターゲットにするべき。そして個人なら守秘義務を組んで、ガッツリ組む方がお金は支払ってくれるだろう。しかし知識だけでなく金も持っていないと駄目。よって企業の研究所の所長か、大きな組織にコネのある大学教授などが狙い目』だそうだ。博史だったらツテが有りそうだと思わないか?」
「なるほど。ヒロ兄なら!いや、でもそれって長期的な収入になるかなぁ。一発当たればデカそうだけど、安定性を考えたら怖いよ。色々な意味で。」
肘に違和感を感じた誠司が横を見ると、そこには絵の具を持ったブローギンが居た。
「すまんが、これは何に使うんじゃ?」
「ああ、それは絵の具だね。絵を描く塗料が中に入っているんだ。水で薄めて使うやつ。」
「そうか。すまん。話を続けてくれ。」
ブローギンはまた納屋の隅に向かったので、新之助が話し始めた。
「いや、案はこれ1個じゃないさ。むしろメインはもうひとつの案になる。」
「おお!真打ち登場?!」
「農業だ!!」
「…え?」
「農業だ!そもそも我が家は代々農家だったからな!」
「それは知ってるけど、爺ちゃんの時代が最後だったろ?」
「専業農家だったのは俺の親父、つまり誠司の爺さんの代までだな。しかし俺も子供の頃は手伝ってた。そして兼業とはいえ俺もやってた時期が有ったぞ?」
「まじか…いや、でもいい考えかもな。こっちで育てた農作物を向こうに売れば日本円は手に入るし、向こうが天候不順になってもこっちには関係ないから、収穫高が普通の農家以下になっても儲けは出るか?うん、いいね!」
誠司はサムズアップで新之助に同意したが、またもブローギンがやってきた。今度は大きな筒を持っている。
「うわ、それってヒロ兄の望遠鏡じゃん?天体観測用の。懐かしいなぁ!」
「ああ、そうだな。博史が中学生になったお祝いに買ったやつだ。そういえばずっと覗いていたのに、いつの間にか使わなくなったな。」
「それは…。ああ、使い方だけどそっちを覗き込むと、こっちの先がよく見えるから。」
「こうか…うーん?ぼやけた模様しか見えないんじゃが、使い方がおかしいのか?」
「それは対象が天体で…いや、壊れてるかもしれないな。」
天体の説明をしようと思ったが、この世界も地球と同様に球体なのか、更には同じ物理法則なのか分からなかった誠司は説明を放棄した。
「そうか、では戻しておくとしよう。」
「うん、よろしく。それで何の話…ああ、農業だった。そういえばF1野菜で農家無双もあるか。じゃあ草木を採取して日銭を稼ぎながら、農業をして中長期的に稼ぐと。でも採取って、どこまで行く?危険な場所とか俺ら全く知らないじゃんか。」
「ああ、神父様が言うには、この辺りにモンスターは出ないらしいぞ?」
「モンスター!出るのか…。え?この辺りには出ない?…野兎病が原因で出ないのかな。」
「原因はよく分からないらしい。神父様は狩りに行くのを辞めると言っていたからな。護衛ついでに採取の手伝いをお願いしてもいいかもしれないと思っていたんだ。農業については松井家に相談だな。」
「うーん、ジローのところか…。」
「なんだ?反対か?」
「いや、こっちに転移してからジローに甘えっぱなしだと思ってさ。ちょっと気が引けるというか、申し訳ないというか。」
「そうだな。でもそこは仕事として報酬も提示してお互いに納得出来れば問題ないだろ?農業指導料と、市場への出荷に伴う運搬手数料やら、向こうの利益になるよう考えるつもりだぞ?」
「…まぁそうか。うん、それなら分かった。じゃあホムセンを辞める前に、従業員割り引きで色々買おうか。」
「おお、そうだな。道具や肥料ならそうそう悪くなったりしないし――お?懐かしいな、今度はカメラを持ってきたぞ?」
ブローギンがフィルムカメラを手にテーブルにやってきた。
「これなんじゃが…」
「凄いな。年代物じゃないか。俺が子供の時に使ってたラジオと同じくらい古いだろ?もう壊れて動かないんじゃないか?」
「フィルムカメラだぞ?デジタルカメラなんかと違って簡単に壊れてたまるか。仕舞う時はかなり念入りに梱包したからな。カビは…ほら、全然ないぞ!これならフィルムを入れさえすれば、すぐに使える!」
新之助はカメラの内部を覗き込みながら確認すると、すぐにハイテンションになった。
「何に使うものなんじゃ?これは。」
「確かあの辺りにアルバムがあるので――。」
そう言って新之助がテーブルから立ち上がって案内を始めた。誠司が外を見ると、いつのまにか雨があがっていた。
「じゃあ飯を離れに届けに行ってくるよ。そっちのガラクタ漁りが落ち着いたら二人も飯を食ってくれ。ブローギンも落ち着いたら何をどれだけ持っていくか考えておいてくれな!その後で契約書を書こう!親父はヒロ兄への連絡頼む!」
「うむ、わかった!」
「おう、連絡しとく!」
良い返事が返ってきたので、誠司は3人分の雑炊を盛り付けると、調味料や皿などをバスケットにまとめて鍋と一緒に離れへ向かった。




