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場面37 現地通貨の為に

「ん、まぁ。じゃあ基本方針は固まったから、まずは直近の問題を片付けよう。」


 父と触れあったのが何年振りか分からなかった誠司は妙な気恥ずかしさを感じて、それを拭うように指先を服の裾で無意識に拭っていた。新之助はそれに気付いたが、気付かないフリをして質問した。


「その前に芽衣子の意思は確認しないのか?」


「メイ姉が侵略なんて言う訳ないし、確認しただけで怒りだしそうだからね。親父も想像出来るだろ?」


「ああ、確かに。わかった。それで?直近の問題だったな?」


「うん、お金の問題。一応は3人分の貯えが有るとはいえ、このまま行けば我が家はジリ貧です。なので生計を立てたいと考えました。どうやって生計を立てるのか考える必要が有るけど、その前にどっちの通貨を主軸として手に入れるか相談したいです。それによって手段も変わるかなと思うので。」


「どっちのというと、片方は日本円だよな?もう片方はこっちの世界の通貨か?たしか、えーっと。」


「ここはマーロ王国で、通貨もマーロじゃ。」


 通貨単位を思い出せなかった新之助だったが、ブローギンが助け舟を出してくれた。


「ありがとうブローギン。マーロと日本円のどちらを稼ぐか。もちろん両方有った方がいいと思うけど、メインは日本円で有るべきだと思っているんだ。理由としてはシンプルで日本円の方が買える物の種類も量も多そうだから。マーロが有っても、このナブーポル村じゃ商店は無いし…なぁブローギン以外にも行商へ来る商人って居るのかな?」


「いや、わし以外にはおらんハズじゃな。まずこの村は人口も少ないから旨味が無い。次にここはドン詰まりで他に都市なども無い。利益を出すどころか、時間の浪費と見て、わざわざここまで行商するワシを指差して笑うのが普通の商人じゃよ。」


 ブローギンが自嘲して笑うが、何故そこまでして壊滅した開拓村のナブーポルまで来るのか、今日会ったばかりの誠司と新之助は聞くのを躊躇った。


「ブローギンさんはいつもどのような品を扱っているのですか?」


 話題をズラして新之助は聞いた。


「主には塩じゃな。村々では麦などの食料を買って、それを都市部で売る。食料を売った金で頼まれた品々を購入して村へ向かうといった具合じゃな。」


「小売業っていうよりは、輸送業に近いっぽいな。」


「塩は儲かりますか?」


 新之助が興味深そうに聞いた。


「うーむ、答えが難しいのう。というのも、塩は必需品じゃからして、売れない事はまず無い。その意味ではまず損はあり得ん。しかし売却価格が地域によって固定されておる。よって利益は薄いんじゃ。もしも決められた価格よりも安くても高くても取り引きしたのがバレたら死刑じゃしな。」


「価格統制してるのか。でも抜け道が有りそうだな…。」


「では胡椒はどうですか?」


 塩取引の抜け道と取り締まり方法を想定する誠司をよそに新之助が質問を続けた。


「胡椒は入手ルートさえ有れば儲かるが、あれは商業都市国家の連中が牛耳っておるからな。まぁわしら弱小商人では、まず相手にしてもらえん。品物さえあれば販売ルートはいくらでも思いつくが…まぁ考えた所で意味はないじゃろ。なんじゃ?まさか入手ルートを持っとるのか?」


「ルートと言える程かどうか分かりませんが…他には玩具はどうですか?」


「おもちゃ?」


「ええ、ボードゲームといった類のものになるのですが――「ちょっと待った!親父ちょっと待ってくれ!」」


 ブローギンに質問を投げる新之助に誠司が待ったをかけた。


「胡椒にボードゲームって異世界資金稼ぎの定石じゃないか。なんで親父がそんな事を知っているんだ?」


「金策について一家の大黒柱が何も考えない訳が無いだろう?俺だって掲示板で相談してたんだ。そしたら胡椒とボードゲームを出せとアドバイスをくれた人が居たのさ。それで、どうです?この世界は著作権や特許などの制度は?」


「特許は商業都市の方でそんな制度が有ると聞いたが詳しくは知らん。チョサクケンも分からん。玩具で遊ぶのは子供じゃろ?」


「この開拓村を見る限り、あまり経済的に余裕がある国には見えないから娯楽は厳しい気がするよ。著作権とか無いなら、王家御用達マークとか入れるのがセオリーだけど、ブローギンは王家に知り合いって…」


「居たら行商はやらんな。」


「だよねぇ。都市部なら状況も違うかもしれないけど、ここから娯楽を発信するには色々足りない物が多いと思う。輸送だけでも大変だし。ブローギンの知ってる範囲で構わないけど、大人の娯楽と聞いて何を思い浮かべる?」


「やはり酒じゃな。農村なら収穫祭の音楽や踊り、都市部になれば観劇やら娼館になるか。読書が娯楽と言うとったやつもおったな。」


「そうだ、本!ブローギンは書物を持っていないか?この際、もう文字さえ書いてあるなら何でも良い!」


「本は持っておらんが、今回の行商で頼まれた品物のメモ書きなら――ほれ、これじゃ。」


 ブローギンは自分のリュックを漁ると、中から丸めた羊皮紙を取り出した。


「ありがとう!…塩10キロ。大人の服10着。針3本。ナイフ1本。おお!読めるよ親父!ほら!」


 見たことのない文字が書き込まれていたが、意味が分かった誠司は羊皮紙を新之助に渡した。


「読めるな。ということは芽衣子も読めるのか?不思議だなぁ…ああ、こちらはお返しします。」


「おぬしらはワシらの文字が読めるのに、ワシはおぬしらの文字を読めんのか?不公平ではないか?」


 羊皮紙を返却されたブローギンは誠司の見ていた書類を思い出すと、仏頂面で腕を組んだ。


「好きでこの能力を手に入れた訳でもないから、俺らに文句言われても困るって。それよりも建設的な話をしようじゃないか。この村に唯一出入りをしている商人のブローギン様よ。」


 わざとらしくニヤリと笑う誠司に、ブローギンは胡乱な目を向けた。


「なんじゃ?わしは堅実に儲けると決めておるんじゃ。誰かに後ろ指を刺されるような真似はせんぞ?」


「商人には商人らしく、商品を扱って欲しいのさ。さっき渡したマッチ、ライター、それとペットボトルに胡椒。ついでに色々この納屋にあるものをね。」


「ここに有るものじゃと?」


 誠司は立ち上がるとガスコンロの火にかけていた鍋の蓋を開けて煮え具合を確認して火を止めた。


「例えばブローギンが今使ってる羊皮紙だけど、代わりになるものを渡そう。えーと、確かあの辺りに高校まで使ってた筆記用具が…。」


 納屋の片隅に置かれた衣装ケースの山に行き、貼られたラベルを確認すると目当てを見つけたのか誠司はケースを開けると、いくつか取り出してテーブルに戻った。


「有った有った。ほら、ルーズリーフと紙。ついでにペンケースを丸ごとあげよう。中にはボールペンとシャープペンも入っているから。」


「この紙は先程おぬしが見ておったものと同じか?いや、こちらは穴が沢山空いて…ほほう。ここにセット出来るようになっておるのか。しかしボールペンというのは万年筆の一種か?」


「まぁ似てるけど、インクを用意しなくていいから楽だよ。ほら、ここを押すとペン先が出るから、ササッと書ける。書いたインクは消せない。シャープペンは芯の補充をここに入れて、押すと芯が出てきて書ける。こっちは補充が居るけど、こっちの消しゴムで消せるから、書き直したい書類で使う。便利じゃない?」


「ほほう!これはいいわい!しかしこのインクどうやって…うん?先端にボールが――だからボールペンか?こっちのは細いの炭が詰まっておるようじゃな。それを同じく細い鉄が補強して折れにくくしておるのか。考えたのう!!」


 テーブルから立ち上がって筆記用具を頭上に掲げて喜ぶブローギンを見て、ねればねるほど色が変わる駄菓子のCMを新之助は思い出していた。


 しかしブローギンの表情はすぐに曇った。


「これらをワシに買えじゃと?!いったいどんな大金を要求する気じゃ!わしはただの行商人じゃぞ?大きな商会に属している訳でもない、ごく普通の商人じゃ!大金なぞ持っとらん!!」


 筆記用具をテーブルに置くと、ブローギンは再びテーブルにドシンと座った。


「ちょっと待ってくれ。俺は買って欲しいなんて言ってない。扱って欲しいと言ったんだ。」


「うん?確かにそう言っとったな。しかし扱うとはどういう意味じゃ?」


「これらの商品を俺達はブローギンに渡す。」


 誠司は言いながら机の上に置かれた品物をブローギンに押しやって、更に言葉を続けた。


「ブローギンは商品を売れそうな所へ持っていき、現金を手に入れる。で、初回については何がいくらで売れたか相場情報を俺らに伝える。これが俺からの提案だけど、親父はどう思う?」


「最初は売上を貰わないんだろ?いいんじゃないか?ブローギンさんは大きなリュックをお持ちのようだけど、今の提案はどれも軽い品々だから、そこまで荷物にならないだろう。いやぁ土産で一番困るのは重くて嵩張る物だからなぁ。」


「そうかな?俺は原材料が分からない外国の菓子の方が怖いなぁ。」


「ああ、それも困るな。はっはっは。」


 親子の談笑が始まったのでブローギンは唖然としていたが、なんとか我に帰った。


「まだ現物を見ていない胡椒もそうだが、おぬしら本気か?これは結構な値になるぞ?」


「不満か?ああ、売れなかった時に輸送費だけ損になるか…じゃあ俺のキャンプセットをプレゼントするよ。行商してるなら野営する事もあるだろ?結構便利だと思うから、騙されたと思って試して欲しい。」


「違う違う!ワシが言いたいのはワシを信用しすぎだと、もう少し考えろということじゃ!売れない訳がないわい。どんな駆け出し商人だって簡単じゃこんなもん!!それよりワシが持ち逃げしたらどうする!?」


 聞かれて誠司と新之助は確認の為に互いの顔を見たが、どちらも笑っていた。


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