場面36 ETとマーズアタック
「ほほう。では兄のヒロシ殿の方が優秀であると?」
「いえ、誠司も負けず劣らずでは有るのですが、あの子はどうも面倒臭がりな所が有るようでして。とは言え父の私が言ったところで…お、誠司。作るのはお粥か?」
「何の話をしてるのさ。色々入れるから…まぁ雑炊かな。」
誠司は(また兄との比較か)と、うんざりしながら持ってきた食材などをテーブル――今や庭でなく納屋に設置されたので”ガーデン”テーブルとは呼べなくなったテーブル――に広げると足りない物が無いか確認した。
「藤田家についてな。ブローギンさんは納屋に置いてある物に興味をお持ちのようだが、まずは我々の紹介をしていたよ。」
「家族構成の話なんかされてブローギンも困るし、第一興味ないだろ。それじゃブローギンにはまず色々見てもらおうかな。」
カセットボンベをガスコンロにセットすると、大鍋を乗せてペットボトルの水を注ぐ誠司。空になったペットボトルにブローギンは釘付けになった。1本では全く足りなかったので、最初の1本をブローギンに渡した誠司は次々とペットボトルを開けていった。
「なんじゃこの容器は!軽い!軽すぎる!!最初はガラスかと思ったが、全く違うな。まるで虫の外殻のような、しかし透明じゃな?お、おい!何をする!止めんか!!」
何本目かを注ぎ終わった誠司が手に持ったペットボトルをテーブルに叩きつけようとしていたのでブローギンは止めようとしたが、誠司はそのまま振り降ろした。
すると、ポコンと音がしただけで、誠司の手元のペットボトルは何事も無かったかのように存在していた。
「うん?おぬし今これを確かに叩きつけよったよな?なんで壊れないんじゃ?どうなっておる?」
「これはペットボトルと言って、俺の世界じゃ当たり前に使われている容器なんだ。刃物は無理だけど、簡単な打撃や圧力じゃ壊れない。まぁブローギンの怪力には敵わないだろうけどね。何で出来ているかっていう質問なら、残念だけど『俺もよく知らない』だな。」
そう言って誠司はまだ半分程度はミネラルウォーターの入ったボトルもブローギンに渡すと、コンロのツマミを回して火を付けた。
「何!?お主は火の魔法が使えたのか?!いや、この火の色はなんじゃ?青いぞ?しかも大きさが均一?何かを燃やしておる…という訳でもなさそうじゃな。はっはっは!なんじゃこれ!はははは!」
両手にペットボトルを持ったまま腹を抱えてブローギンは笑いだしていた。
「俺は魔法なんて使ってないよ。メイ姉は使えるみたいだけど、たぶん俺には無理さ。この火は道具が点けてる。だから誰でも使える。このライターみたいにね。」
誠司はポケットから100円で購入出来る電子式のライターを新之助に渡した。意を汲んだ新之助はライターで何度も火を点けたり消したりして見せた。
「ほほう。なるほど道具か?それはわしが触ってもいいのか?」
目線で確認すると誠司が頷いたので、新之助は持っていたライターをブローギンに渡して使い方を説明しつつ、水の残ったペットボトルの水をコップに注いだ。
ブローギンがライターに集中したので、誠司は白米を鍋に注ぎ入れると、ニンジンや大根などを切り始めた。
「なるほど。液体に引火させておるのか?この液体は油?いや、しかし油にしては粘度が…いや、まず引火させる方法が分からんぞ。火花が散っておるが、火打ち石ではなさそうじゃしのう…うーむ、分からん。」
「やっぱり火起こしをするなら石か。だったら、このライターは便利だろ?ああ、電子式じゃなく火打ち石式のライターがコレね。しかしノーヒントで液体に引火させてると推測出来るのはすごいな。俺なら何も分からないままじゃないかな。」
誠司は切り終わった食材を鍋に入れると蓋をして、別のライターを渡すとテーブルに着いた。
「ヒントというのは科学知識とか、そういう意味だよな?確かに…、ん?もう料理はいいのか?」
新之助は水の入ったコップを渡しながら誠司に聞いた。
「うん、あとは煮るだけ。好みが分からないから味付けは…。その代わりに塩、味噌、醤油とかを添えるだけ…かな。」
コップを受け取った誠司は水を飲んだが、ぬるかったので沢山飲む気になれず、一口飲んだだけでテーブルに置いた。
「そうか。それは名案だ。それで相談ってなんだ?」
誠司が目を合わせず歯切れ悪い話し方をする時は何か相談事だと知っていた新之助は話を促した。
「ひとつは俺の仕事だね。まぁ相談というより連絡かな?仕事をね。辞めようと思ってます。」
言葉するとスッキリしたのか、誠司はやっと新之助の目を見た。
「理由は推測出来るけど、ちゃんと説明してくれるか?」
「うぉっほん!あー…込み入った話をしとるようじゃが、わしがここに居ってもいいのか?」
家族の会話に居心地が悪くなったブローギンが話を遮った。
「この後の相談にブローギンも関わってくるから、出来ればこのまま話を聞いて欲しい。あ、そうだ。ライターの他にマッチっていうのも有ってね。ほら、こうして使うんだ。」
「ほう?しかしこっちは直ぐに消えてしまうな。しかももう摩っても着火しない。ふむ、使い捨てか?いやしかし、ただの枝なら、このまま薪にくべても惜しくないか。」
「うん、マッチとライターじゃ少し用途が違うね。原価で言えばマッチの方が安いけど、流通の問題でランニングコストじゃライターの方がコストパフォーマンスは上かな。マッチは他にもあるから、それは試供品。無料で使い切っていいよ。」
「ほう。太っ腹じゃな。では遠慮なく。」
今度はマッチで火を起こし始めたブローギンをみて、玩具を与えれば大人しくなる親戚の子供を誠司は思い出していた。
「理由はもちろん『異世界に来たから』だね。地球に帰ろうにも今のところ『王都の図書館に手がかりがあるかも』程度だし、このまま有給の範囲で帰還する手段を見つけられるとは思えない。休職も一瞬考えたけど、正社員とはいえホームセンターに未練も無いし…商品の在庫管理は性に合ってたけどね。とは言え職歴に穴が開くのは考えものかな?」
自虐風に聞く誠司だったが、ブローギンが反応した。
「どこかの商店で働いとったのか?在庫の管理を任せられるとは…しかも大店だったのか?」
「うーん、店は大きかった。端から端まで歩くと五分くらいか。今ブローギンが持ってるライターや鍋も生活に必要な物は一通り取り扱ってたよ。」
「なんと!そんな大きな店が?!いやしかしこのような商品を扱えばそれだけ人も集まるか…いや、すまん。話を続けてくれ。」
ブローギンは再びライターとマッチの観察に戻ったので、新之助が話を戻した。
「職歴は実家の農業でも手伝ってたと言えば良いさ。それに誠司はまだ若いんだ。どうとでもなるだろう。父さんは休職にする。休職だったら3年は時間が稼げるからな。それで本題は何だ?」
「親父は長年勤めてきたから休職の方が良いだろうね。うん、俺も職歴はそこまて悲観的に考えてないから本題はここから。親父は火星人とETのどっちになりたい?」
「…ん?」
「火星人とETだった、どっちになりたい?」
「ET…って、『オウチ カエル』の宇宙人か?お前たちと一緒に映画館でも見た。」
「そう、そのET。俺とメイ姉はアメコミ映画が見たいのに、リバイバル上映してるからって親父が駄々を捏ねたから仕方なしに見た映画。ブローギンの反応を見ても分かる通り、地球はエルエニルよりも進んだ文明を持っているように見えるとも言える。違う?」
誠司は新之助に聞いたが、新之助は目を知らして鳴りもしないスカスカの口笛を吹き出したので、ブローギンが口を挟んだ。
「半分は何を言っているか分からんかったが、文明について何故そのように遠回しな言い方をする?わしには進んだ文明を持っているようにしか見えんぞ?」
「進んでいるかどうかは主観次第だと思ってるからさ。あえて昔ながらの生活を選ぶ人間こそ進んでいると思う人も居るしさ。それに進んでいるって言い方が少し傲慢な気がして、なんか嫌なんだ。」
「なんじゃそれは。言わんとしたい事は分かるが、なんとも中途半端じゃとワシは思うぞ。嫌いではないがな。」
ブローギンはライター弄りに飽きたのか、腕を組んで誠司の意図を咀嚼するように首を傾げた。
「ただの俺のわがままだよ。で、文明の進んだ知的生命体が別の星で接触した時にどうするか。大きく分けて2種類あると思うのさ。…で、親父はどっちでいきたい?俺はETで行きたいと思ってる。」
2種類の内容を明言しなかった誠司を見て、違いを考えた新之助の頭には”友好”と”侵略”の2つの言葉が浮かんだ。そして誠司が明言しない理由を考えたが、目の前で無邪気にライターを弄っているブローギンを見て答えが分かった。
「なるほど。火星人は宇宙戦争のイメージか?」
「俺はレコードで頭が爆発する方を想像してたけど、まぁそれはどっちでもいいや。」
「すまん。最近の映画は良く分からん。しかし言いたい事は分かった。ETで行こう。それに敵対や侵略なんて我々には無理だろう?」
方針が決まったので、確認の意味で新之助は『敵対』と口にした。
「そうだね。武器も何もないし。出来る事と言えば、『オウチ デンワ』みたいに故郷の日本に電話出来るだけだし。」
誠司が数字の1を表すように人差し指を立てた。
「電話だけじゃなく、一応は物資も手に入るけどな。」
言いながら新之助は誠司の指先に自分の指先を合わせた。




