場面31 3人目の被害者
切りの問題で今回と次回は短めになります。
誠司と芽衣子が藤田家に帰ってくると、離れに軽トラックを横付けした。
誠司が運転席から降りて荷台に回り込み、再びスロープを設置した。
それを待って芽衣子はマウロを乗せた時と同様にウロを背負うと、慎重にスロープを降りた。もちろん誠司の介助付きだ。
「よし、とりあえず無事に連れて来られたな。荷台に病人を乗せたのは初めてだから緊張したよ。」
誠司が安堵していると、新之助が近付いてきた。
「二人ともおかえり。君たちが教会の子供だね?ようこそ我が家へ。自分の家だと思ってゆっくりするといい。」
心無しか新之助はマウロ達から距離を取っているように誠司は感じた。
「ありがとうございます。治療の間だけですが、弟とお世話になります。」
アンナは丁寧に挨拶をして、マウロは芽衣子に背負われながらだが、ペコっと頭を下げた。
「おい、誠司。あの先生の指示でな、離れの風呂に湯を沸かしてるぞ。注射の前に体を清潔にした方がいいらしい。コレを薄めて使えと。離れは中も簡単だが掃除しておいたぞ。他の薬はガーデンテーブルにおいて有るから、詳しくは電話してくれ。」
新之助は誠司にリングと薬液の入ったボトルを渡すと、離れの裏に向かっていった。五右衛門風呂へ薪を足しに行ったのだろうと誠司は思った。
「だ、そうだけど、どうする?俺がマウロ君を風呂に入れてもいいけど、どうせならアンナさんにも入って貰った方がいいと思うけど…。」
離れの風呂場は風呂釜こそ時代が停止していたが、使い勝手を考えて、蛇口などのリフォームは行っていた。
「問題は使い方というか、お風呂の入り方よね。うん、じゃあ私たち3人で入ってくるから。アンナちゃん行きましょう」
芽衣子は有無を言わせず離れの玄関扉を器用に足で開けて入っていった。
「じゃあ…コレを宜しく。使い方は…中でメイ姉に読んで貰って。」
誠司は新之助から受け取った虫下しシャンプーをに渡した。
アンナは誠司から『虫下しシャンプー』を受け取ると、離れに入っていった。
手持ち無沙汰になった誠司はとりあえず他の薬を確認すべく、ガーデンテーブルに向かおうとしたが、離れから叫び声が聞こえた。
「どうした?!」
誠司は離れに駆け寄り、玄関扉を開けようとしたところで「あけるな!」という芽衣子の命令口調が聞こえたが、扉は既にレールの上を滑っていた。
「キャー!!」
離れの玄関では全裸の芽衣子の手によって、服を半分以上も脱がされたアンナが再び叫び声を上げていた。
「うわ、ごめん!」
一瞬混乱した誠司だったが、見てはいけない姿だと理解すると、直ぐに玄関に対して回れ右をした。
「って、メイ姉!何してるんだよ!マウロ君はどうした!」
アンナに背を向けたまま誠司は芽衣子を問いただした。
「あの医者の指示なの!服に病原菌を持ったダニとか居るかもしれないから、服は玄関で抜いでお風呂に入りなさいって!ここに指示が!マウロ君は玄関で横になって貰ってるの!」
背を向けたままの誠司に、芽衣子は『注射の前に』とプリントアウトされた紙を突き出していた。
「あー。なるほど…とりあえず扉を閉めるぞ。」
誠司は後ろでに玄関扉を再度スライドさせて閉めた。
「アンナさん。悪いけど、メイ姉の言うことに従って欲しい。じゃないとマウロ君以外も病気になってしまう可能性が上がる。」
玄関の扉越しに誠司はアンナを説得しようとした。
「…分かりました。そういう事なら仕方ありませんね。でも急に脱がそうとしないで下さい。訳を話してくれれば…納得出来れば、ちゃんと従いますから。」
誠司の真剣な声にアンナは納得した。
「ごめんね!早くマウロ君に注射したくて、剥こうとしちゃった♪」
後半部分を可愛く言おうとした芽衣子に誠司は少しイラっとした。
「気持ちは分かるけど、ダメだろ。色々な意味で。あ、そうだ。アンナさん。先に言っておくと風呂の外には親父がいるけど、覗きとかじゃなく温度調整の為に薪を燃やしているんだ。声は聞こえるけど、外からは何も見えないから安心して欲しい。」
半分オヤジが入った姉のおかげで、親父の事を先に伝えられたと誠司は思った。
「そんな、よそ様の、しかも家長の方にそんな事までさせてしまうなんてダメです!私がやります!」
半裸の自分を忘れてアンナは玄関の外に出ようとしたが芽衣子に止められた。
「いーの、いーの。誠司もそうだけど、ウチの父さんてば人の世話を焼くのが結構好きな方だから。やらせといたらいーの。」
芽衣子の言葉に、俺はそんな事もないけどと思ったが何故か言葉にするのは憚られた誠司だった。
「そうですか?でしたら今はマウロも病気ですから、お言葉に甘えさせて頂きます。」
そう感謝するアンナは完全に無防備で、その隙を芽衣子は見逃さなかった。
「隙あり!!」
芽衣子は腕をクロスさせ、親指と人差し指、そして中指の3本だけを立たせながら、芽衣子自身にも意味不明なポージングをしていた。
「キャー!!!」
先程よりも大きい叫び声だったが、何が起きたか想像が出来た誠司に動揺は無かった。
「体が冷える前に風呂に行けよな。バスタオルとか替えの服は持ってくるから」
誠司はそう言って母屋に向かった。
「しかしメイ姉に関わる女の人って、いつも裸にされてるよなぁ。」
見方によっては『誠司に関わる女性が裸にされている』とも言える事実に、まだ誠司は自覚が無かった。




