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場面30 感動のお別れブレイカー

 芽衣子と誠司は軽トラックで教会に乗り付けると、入口のドアをノックした。すると教会の少女アンナが出迎えてくれた。


「おはようございます。今度はまた妙な乗り物でやってきましたね。本日はどのような御用件ですか?」


 アンナは軽トラックを一瞥すると、用向きを聞いた。誠司はもう少し驚くかなと思っていたので、少女の豪胆さを意外に感じた。


「マウロ君の薬を手に入れたの。それでこの間も言ったけど、うちの離れに来てもらっていい?治療の間だけでいいの。もちろん、あなたたちも一緒に。」


「治療の為ですか?しかし…我々はここが家なので。」


 アンナが困ったように考えていると、教会の奥から人が現れた。イージルド神父だった。


「行っていいんだぞ?ここには私が残ればそれでいい。君らはお世話になりなさい。話を聞けば、マウロを病気にさせたのは私が原因だといってもいいのだから。」


 自分が狩っていたウサギが病気の原因と聞いた神父は責任を感じていた。


「そんな!原因だなんて!神父様も知らなかっただけではないですか!」


「知らなければ罪にはならないという訳にはいかない。それは君もわかるだろう?それに罰として残るわけではない。私はただ。ここに居たいのさ。ただ、君たちまで強制される必要はない。そうだろう?」


「分かりました。マウロが治ったらまたこちらに戻ってくるので、それまで留守お願いします。」





「…あのね、感動のお別れみたいなところで申し訳ないけれど、歩いて数分で会えるから。あんまり重く考えなくて大丈夫だと思うわよ?」


 空気に飲まれていた神父と少女の空気をいとも簡単にぶち壊した芽衣子はズカズカと教会の奥に入って行った。


「すみません。うちの姉が空気読めなくて。」


 誠司は神父たちに謝りながら芽衣子の後に続いた。



 居住エリアの扉が開かれると、マウロは少しだけ身をよじって芽衣子を見た。


「…この間のお姉さん?」


 先日より意識はハッキリしていたが、顔色の相変わらず悪いままだなと誠司は思った。


「はあい、マウロくん。今日はね、入院してもらいに来たの?アンナちゃんと一緒に私たちの家にいらっしゃい。」


 芽衣子はマウロの頭をクシャクシャっと撫でると、彼の寝ていたベッドに腰掛けた。


「入院…?入院って何?」


「病気を治す為に専用の場所で寝泊まりする事だよ。君の病気を治す薬が手に入ったんだ。」


 後から部屋に入ってきた誠司が補足した。その言葉にマウロは驚いたが、すぐに顔を伏せた。


「ダメだよ。…ぼくはココに居なきゃ。」


 マウロは知っていた。


 教会に住む自分が病になった事で、祈っていた住民たちも絶望して村を出ていった事を。


 この病気は治せるものではなく、これまで死んでいった村人と同様に、自分にも死が近付いている事を。


 そしてそれらは自分に対する『罰』だとマウロは考え始めていた。



「どうしてココに居ないとダメなの?」


 芽衣子がマウロに質問した。


「だって、ぼくはお姉ちゃんの――「マウロ。私と行きましょう?」」


 マウロの言葉を遮って、アンナが声をかけた。マウロは伏せていた顔を上げた。


「お二人を信じましょう。大丈夫。今度も私が一緒です。あなた一人にはしません。」


アンナは優しく諭すように、再びマウロに声をかけた。


「…わかったよ。でも、ぼくあんまり動けないんだ。最近は脚にもチカラが入らなくて…。」


「だいじょうぶ。まーかせて!軽トラックっていう馬車?みたいなので来たから!あたしが君を背負うし!」


芽衣子はマウロの布団を引きはがして、その腕を取るとマウロを背負った。


「え、あの…」


戸惑うマウロだったが、芽衣子はお構いなしに教会の外へ連れ出した。


誠司とアンナも慌てて後を追った。





誠司は軽トラックの荷台から金属製のスロープを取り出した。スロープの片方を荷台に引っ掛けると、もう片方を慎重に地面に置き、片足で踏みしめて安定性を確認した。


「よし、これで背負ったまま荷台にあがれるな。おっと、寝袋も敷かないとな。」


軽トラの荷台に引っかけたスロープを駆け足で登ると、キャンプで使っていた銀色のクッションマットを広げて敷き、その上に寝袋を広げて荷台から降りた。


「メイ姉!いいよ!」


 マウロを背負った芽衣子は慎重にスロープを歩いた。その後ろでは倒れてもいいように誠司がスタンバイしていたが無事に荷台に上がり、芽衣子はマウロを寝袋の上に寝かせた。


「これに乗っちゃえば、あとはすぐだから。ちょっと揺れるかもしれないけど、我慢してね。アンナちゃんもこっち来て。」


 芽衣子に手招きされたので、アンナも恐る恐る荷台に乗り込んだ。


 3人が荷台に乗ると、誠司はスロープを外して荷台の隅に載せた。


「すぐ着くから。出来るだけ慎重に走るけど、もし揺れても立ち上がらないようにして欲しい。」


 誠司はアンナに注意点を話すと、運転席に座ってエンジンをスタートさせた。


 その様子を見守っていた神父が運転席の誠司に近付いて話しかけた。


「この子らをお願いします。どうか。」


「任せておいてください。きっと治しますから。神父様も面会に来て下さいね。」


 誠司車をバックさせて反転させると藤田家へ向かった。その荷台ではアンナが神父に手を振り、神父もそれに応えて手を振っていた。




 馬も無しに動く馬車と見送る神父。それらを目撃して驚愕するリュックを背負った小さな人が近くにいた。


 しかし誠司はできるだけ荷台を揺らさないように未舗装道路に意識し、芽衣子は病人のマウロを意識していたので、その人物に気付かなかった。


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