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鎮魂歌は世界の端まで響き渡る   作者: 綾織 茅


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第一章~ 村のしきたり 3

 




 ◇◆◇◆




 お昼も済ませたし、荷物の片付けも一休みして散歩に行こう。


 まだまだ春休み期間中で急ぐこともないし、早くこの村のことを知っておいた方がいいだろう。学校が始まってしまえば自由な時間は限られてくるから。



「おばあちゃん、拓真さん、散歩行ってきます」



 玄関から中に向かって声をかけたけれど、返事はない。もう一度声をかけようか迷っていると、庭の方から人影が延びてきた。拓真さんが野菜をザルの上に乗せて収穫して戻ってきたところだった。


 食にこだわりがある拓真さんは家庭菜園をしているそうで、日本庭園のような造りの庭とは反対側の敷地にあるらしい。



「散歩ですか?気をつけて行ってらっしゃい」

「行ってきます」



 門を出ると、左と右に道が分かれている。



 どちらへ行こう。確か、左に行けば春から通う中学校があるんだったっけ。右は……林。例の神社がある方だ。


 左、だな。



 左に足を向け、そのまま道なりに真っ直ぐ進んでいく。


 学校は小学校から高校までエスカレーター式で同じ校舎らしい。中学校までは村の中にあっても高校は村外へ通うことになるんだろうなと漠然と思っていたから、拓真さんに聞いた時驚いた。ちなみにお父さんも拓真さんも当然のようにその学校出身だ。


 途中で川を渡り、小さな商店の角を曲がる。その先にこれから通う学校の門が見えてきた。



久遠(くおん)学園」



 それが学校の名前。


 家の名前と同じ漢字がつけられた学園は遠い昔、私の家が私財を出して村の子供達のために作ったらしい。そのままの名前をつけるのは宜しくないと漢字だけ同じにして読みを変えたそうだ。


 村にあるとは言えど、それなりに人数はいるらしく、中にはわざわざ村外から通う生徒もいるみたい。


 校庭を覗くと、陸上部や野球部が練習しているところだった。



「なに見てるの?」

「えっ!?」



 後ろからトントンと肩を叩かれ、振り返ろうとするとムイッと頰を人差し指で押された。


 驚いて目を瞬かせていると、声をかけてきた同じくらいの歳の女の子がアハハっと声を上げて笑った。笑いすぎたのか、涙まで出てきたらしく目元を拭っている。



「ごめんごめん。ビックリしたよね?」

「ううん。大丈夫」

「どこの家の子?見慣れないけど、もしかして転入生!?確か先生が春に同級生が一人、女の子が来るって言ってた!」

「たぶん、それかも。えっと……」

「私、夜風(よかぜ)美花(みはな)。美花でいーよ。よろしくね!」

「う、うんっ!私、久遠(くどう)朝妃。私も呼び捨てで大丈夫だから」



 明るくて元気が良い夜風さんーー美花はそのまま私の手を取って門を通り、門の側近くで練習していた陸上部の友達らしき子に声をかけた。



「志織!転入生の久遠朝妃ちゃん!朝妃でいいんだってー!」

「くぉら、また乱入を!……って、ホントだ」



 振り返った女の子は隣で可愛らしく腕を取る美花とは違い、ボーイッシュで利発そうな人だ。


 その言葉から想像するにちょくちょく美花に練習中に乱入されてるみたいで怒っていたけれど、私を見てその気持ちもどこかへ行ってしまったようだ。


 タタタッと小走りでこちらに駆け寄ってきた。



「私は月野(つきの)志織(しおり)。志織って呼んで。何もない村なんだけど、来てくれて嬉しいよ」

「あ、久遠朝妃です。よろしくお願いします」

「いやいや、年上に見られがちだけど、同い年だし。敬語じゃなくていいから」

「え、あ、ごめん。……あの、二人とも、ありがと。昨日来たばっかりで、まだ同じくらいの子全然知らなくって」



 二人が話を続けてくれるおかげで人見知りする私でもスルスルっと言葉が口から出て来た。


 最初に話しかけてくれた同級生が二人で良かった。もしかすると、四月からの新学期も同じクラスになるかもしれないし、実際そうなるといいな。


 元いた学校の友達もそう簡単に会えない距離に来てしまったし。仕方ないとはいえ、友達と離れることになる。それだけは少し残念だったから。



「あ、昨日来たばっかりならさ、しきたりのことちゃんと聞いてる?」

「あ、それ、一つしか聴けてないの。拓真さん……叔父さんから教えてもらいなさいっておばあちゃんから言われてて」

「そっか。ならさ、実際に回ってみる?」



 美花が提案してきたことに、すぐに返事は返せなかった。だって、行ってはいけないと言われている所に行くことになるのは駄目なんじゃないだろうか。


 それでも、せっかく誘ってくれたのだから一緒に行きたいという気持ちもある。



「注意するにもどこだか分かってないとダメでしょ?」

「そう、だね。でも、他の用事とかは大丈夫?」

「もちろん!」



 志織も後一時間もしないうちに部活が終わるからと、シャワーを浴びてから合流することになった。



「じゃあ、校門前でもう一回集合ね!」

「おっけー」



 それまでそこそこ強いという野球部の練習を見ていようと美花と校庭の反対側へ向かった。フェンスの向こう側からあの人はその人はと美花から教えてもらっているとあっという間に一時間半が過ぎた。


 いつのまにか陸上部は練習を終えていた。


 約束通り校門前に行くと、志織が服を着替えて門に背を預けて待っていた。



「遅い!」

「ごめんごめん!日比谷君のバッティング見てたら夢中になっちゃって!」

「もー。ごめんねー。美花ったら、ペラッペラ話しまくってたでしょ?」

「ううん。面白かったし、色々聞けて楽しかったよ」

「うわー!志織、この子、いい子だよ!」

「わっ、ちょっ!」



 後ろから美花に飛びつかれて体勢を崩しそうになったところを志織に支えられ、何とか事なきを得た。

 耐えきれなかったのか美花がプッと吹き出し、私も釣られて笑った。志織は呆れたように肩をすくめたけれど、結局は私達と一緒になって笑っている。


 青い空の下、野球部のボールとバットがぶつかる金属音が辺りに響いた。




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