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鎮魂歌は世界の端まで響き渡る   作者: 綾織 茅


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第一章~ 村のしきたり 2






 先にお風呂へと言われ、断る隙も与えられずお風呂を手早く済ませた私は、おばあちゃんに髪もきちんと乾かしてから広間に来るようにと言われてしまった。


 洗面所に着くと、ドライヤーのスイッチを入れ、ゴーっと吹き出し口から出てくる温風を頭に当てる。



 ……失敗、しちゃった。



 和服姿のおばあちゃんは髪こそ白いけれど、年を経た今でも十分綺麗だった。そして、とても厳しそうな人でもあった。初対面に近い状態で与えた印象は良くはないだろう。


 ハァと溜息をつきつつも手を動かし、これ以上呆れられないように急いだ。


 あと少しで全て乾かしきるという時に後ろから声がかけられた。



「朝妃、おはようございます」

「あ、おはようございます」

「あとどれくらいかかりますか? 食事の用意ができたのですが」

「もう終わります!」



 最後の一仕上げでブラシで髪をすくと、ドライヤーのスイッチを切って片付けた。それから廊下で待っていてくれた拓真さんと一緒におばあちゃんが待つ広間へと足を運んだ。


 広間の襖を開けると、おばあちゃんが床の間を背にして用意された膳の前に座っていた。その前に向かい合うようにして二人分の膳が用意されている。拓真さんに促されるままおばあちゃんの左前の膳に腰を下ろした。


 おばあちゃんは私が口を開くのを待っているかのように黙ったまま微動だにしない。



「あ、あの。昨日はご挨拶できなくてごめんなさい。これからよろしくお願いします」



 手をついて頭を下げると、おばあちゃんが立ち上がってこちらへやってくる足音がした。そのまま頭は下げたままでいると、肩にそっと手が当てられた。



「よく、よくぞ帰ってきてくれたね。二人一緒になんて、神様も本当に酷なことをなさる。……ここには私も拓真もいるから、安心をし」

「おばあちゃん……あ、あれ?」



 怒られるんじゃないかと構えていただけに、拍子抜けしたのと、予想外におばあちゃんの声が優しくて温かくて。気づいたら涙が頬を伝っていた。気づいてしまったらもう止まらないとばかりに幾筋も流れ落ちていく。慌てて拭おうとしたらおばあちゃんの手が私の手を取って手繰り寄せられた。拓真さんも背中をさすってくれている。


 ここは、温かい。どうしようもないほど。


 一度しか来ていないというから仕方ないのかもしれないけれど、記憶がないのが信じられないくらい。どうして一度しか連れてきてくれなかったのかお父さん達の本心は今となっては分からないけれど、それもおいおいおばあちゃん達に聞いていけば片鱗はつかめるかもしれない。



「さぁ、涙が止まったら朝餉(あさげ)にするとしようかね。お腹が空いてたまらないよ」

「……はいっ」



 おばあちゃんが立ち上がり、自分の席へと戻った。拓真さんが差し出してくれたタオルで顔の涙をぬぐい、いただきますと手を合わせて掴んだ箸を皿に運んだ。



「今日はどう過ごす予定なんだい?」

「えっと、午前中は部屋にある荷物を片付けて、午後はここら辺を散歩してみようかなって」

「そうかい。根を詰めない程度にするんだよ」

「はい」

「あとね、先に言っておくけれど、村奥に林があるんだよ。その林の中に神社があるんだけれど、その神社には近づいちゃいけないからね」

「神社?」

「そう。いいかい? この村にはいくつかしきたりがある。その内の一つが林の中にある神社に一定の日を除いて近寄ってはならないというものだよ。一定の日なんて言ってはいるけれど、日頃から近寄らないことにこしたことはないからね。詳しくは拓真に後で聞いておくれ」



 おばあちゃんは何度も私に念押ししてきた。


 近寄らないように。絶対に、何があっても。近寄ってしまえば良くないことが起こるから。


 そう小さな子供に言い聞かせるように何度も。


 しきたりというものに今まで触れたことがなかった私は少し面食らってしまったけれど、それを無視して行く理由もない。なにより優しいおばあちゃんや拓真さんに心配をかけるわけにはいかない。


 うん、うんと聞き分け良く頷いて返すと、おばあちゃんは安心したらしく、また箸を進め始めた。


 それからは私が今までどんな風に過ごしてきたかの話をねだってきた。そんなに目新しい子供時代を過ごしてきたわけじゃないけど、おばあちゃんは私の話をとても面白そうに聞いてくれた。横で食後のお茶の準備をする拓真さんもだ。



「この辺りはお昼になると音楽が流れるんです。あと、夕方も。その音楽が流れたらお昼にするので、それまで自由に過ごしていてください」

「はい」

「私も部屋に戻って本を読んでくるとしようかね」



 食後のお茶も飲み終えたおばあちゃんが広間を出て部屋に戻ってしまうと、広い広間に私と拓真さんの二人っきりになった。



「拓真さん、ご飯とっても美味しかったです。お昼から私も料理手伝うので呼んでください」

「大丈夫ですよ。私が食事係なので、また他のお手伝いをお願いしますから」

「分かりました。でも、大変な時は言ってくださいね」

「えぇ。その時は、お願いします」



 膳を片付けるのはお手伝いをして、部屋へと戻った。本当は洗い物を手伝おうと思ったんだけれど、丁重にお断りされてしまった。



 不器用な姪だとどこかで思われてしまったのかな? お父さんが何か言ってたのかも。


 ……あ。



 不思議なことに、お父さんやお母さんを思い出してももう辛いだけじゃなくなっていた。それは間違いなく温かく迎え入れてくれたおばあちゃんと拓真さんのおかげだ。


 手前にあった段ボールには身の回りの小物と書かれている。その中を開けると、一番上に親子三人で家の前で撮った写真が入った写真立てが入っていた。それを文机の上に立てかけ、目の前に座る。



 お父さん、お母さん、私、ここで頑張るよ。



 二人の笑顔はもう見れないけれど、記憶の中の二人はいつも笑顔を私に向けている。その記憶がある限り、そして新たに家族となったおばあちゃんと拓真さんがいてくれる限り大丈夫だ。


 ……そう、思えた。




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