第19話
ローレン、レナ、イヴァンの3人は町から離れた草原を歩いていた。
これから向かうダンジョンは数週間前に発見されたダンジョンで発見者とギルドが協議して決めた名前が秘境の花園だ。
「ローレン、そもそもダンジョンって何か知っているか?」
イヴァンがローレンに問いかける。
「モンスターが出る洞窟ですかね?」
「大雑把に言えばそうだな。洞窟以外にも建造物がダンジョンになってるものもあるし、開放型って言って閉鎖されていない空間がダンジョンになったりするものもあるんだ」
「へぇ、詳しいんですね」
「まぁな、冒険者になったからにはこういう知識は大事なんだよ。そして今から向かうのは開放型のダンジョンで秘境の花園って場所さ」
「なるほど、花園って言うくらいだから花が咲いてるんですかね」
お花畑なダンジョンとはまったくメルヘンチックなもんだなとは思ったが。
「そうね、詳しい情報はまだ上がってきてないから行ってみないとわからないけど、他にはあまり例がないダンジョンなのよ。森がダンジョン化したり岩場がダンジョン化したりってのは確認されてるんだけどね」
「レナさんも詳しいですね。いつも情報をどこで仕入れてるんですか?」
「そうねぇ、ギルドで冒険者たちの話を聞いたり、情報交換するのが多いかな」
「俺もだいたい同じだな。あとはギルドが出している情報もなるべく頻繁にチェックしてる」
3人はそんな会話をしながらダンジョンへと向かう。道中ゴブリンからの襲撃もあったが、まさに瞬殺といったところか。遠距離からの攻撃ができる3人がいるこのパーティーは火力面で考えればかなり優秀であることは間違いない。
出発から10時間ほどで目的のダンジョンが見えてくる、広大な面に広がる一面の花畑。黄、赤、橙、桃色、白、数えたらキリがないような種類の花が咲き乱れている。
「まだ2キロ以上離れてるのに...物凄く広い花畑ですね」
「そうね、人為的に植えられたわけでもないのに、こんなにも密集して様々な種類の花が咲いているのは異様ね」
秘境の花園。実際はそこまで秘境というわけでもないが、つい最近まで見つからなかったという事実がある通り、もっとも近い町で10時間の距離だ。だいたい30~40キロほどの距離だ。現代的な尺度で見ればそこまで遠くないと思うかもしれないが、モンスターが闊歩する世界で30キロを移動するのは容易ではない。そしてすべての村や町、都市を行き来するのに使われない場所にあったことも今まで見つからなかった原因だろう。
ダンジョンに近付くとその全貌が見えてくる。丘に囲まれた半盆地一帯が花畑になっていて、起伏が多く存在している。ところどころには水溜りがある、もしかしたら湧水かもしれないが。
「ここが...ダンジョン?」
「モンスターが見えないな。本当にダンジョンなのか?」
「冒険者ギルド本部がダンジョンと認めたからにはダンジョンであることはそうでしょうけど」
ローレンたちが花畑と草原地帯の境目で話していると、近くにキャンプを見つける。
「キャンプがありますね。とりあえず行ってみましょうか」
「そうね、他の冒険者がいるのかしら」
3人はキャンプに近付いていく。花畑から外れた場所にある小さな水溜りの付近に建てられたキャンプには数人の人間がいるのがわかった。
ローレンはキャンプにいる人間に声をかけた。
「すいません」
「ん?誰だい?」
「クラムで冒険者をやっているものなんですが」
「おお!やっときたか!」
初老の男が冒険者だと聞くと、食いつくように返してくる。男は若干白髪交じりで髭をふんだんに蓄えていて、学者が着るような一般的なローブを着ている。
「えぇっと...?」
「なんだ?ギルドから話を聞いてなかったのか?」
「ローレン、さっきの話聞いてなかったの?この人達がダンジョンを調べるためにギルドから派遣されている学者たちよ」
「お嬢さんの言う通り、わしはギルド本部から派遣されたダンジョン学者のマテウス、他の者はワシの助手」
キャンプには助手と言われた人が3人いる、全員が武装してはいるもののそこまで高度な戦闘技術を持っていないように見える。その中には女性も1人いて、冒険者の中に同性がいて若干ではあるが嬉しそうにしている。
「君たちにはダンジョン探索の手伝いをしてもらうことになっている。よろしく頼むぞ」
「ダンジョン探索、主にどんなことをするんですか?」
「そうだな、探索というよりは調査の手伝いになる。ダンジョン内の植生やモンスターの解析などが多いが、このダンジョンは創世期、つまり未完成でモンスターが少ない。だから植物サンプルの採取が主な仕事になる」
ダンジョンの探索という依頼ではあったがダンジョン内の植生の調査が主な仕事になるようだ。
「とにかく今日はもう時間も遅いからな。探索は明日からだ。テントは私達が持ってきたものを使うといい。いつも予備のテントを持ってきているからな」
ローレンたちは自前のテントがあるが、今回は依頼主である学者の好意に甘えることにした。自分たちが持っているテントが簡易的なテントで、学者たちのテントは本格的なものだったからというのもあるが...
キャンプはすでに出来上がっていて、6つのテントが円状に並んでいて、中央には石で囲んである焚火がある。さらに近場の水溜りはどうやら湧水のようで、飲料水としても適しているようだ。近くに馬車があるのを見ればこの充実さが不自然でないことがわかるだろう。
話しているうちに日が傾き、ゆっくりと太陽の色が変わっていく。あと1時間と少しで辺りは暗くなり始めるだろう。
ローレンたちは夕食の準備を始めている助手たちを手伝いながらマテウスの話を聞く。
「ダンジョンというのはどこかに必ず核があるんだ。それが魔力的な作用によって、周りの環境に影響を及ぼす。これが主なダンジョンの仕組みなんだ。そもそもダンジョンがある場所になんらかの...」
マテウスの話を聞いているものは誰もいない、ローレンも最初の数分は聞いていたのだが、途中から飽きて夕食の準備に集中している。そうとも知らずにマテウスは独りで延々とダンジョン講座を開いていた。
「つまりダンジョン内の鉱物には魔力が長い間浸透することに寄って、なんらかの特殊な鉱石になることがわしの見解で...」
なおも永遠と講座を開いているが既に夕食は完成間近だ。すると助手の1人がマテウスに声をかける。
「マテウスさん、夕食ができますよ」
「なに?もうそんな時間か。ははは、ダンジョンについて語るとどうも時間を忘れてしまうようだ。この続きはまた今度しよう」
助手たちはもう慣れているようで、マテウスの話を適当に流しつつ焚火を囲んで夕食を取り始めた。
夕食はローレンたちが持ってきた食料と学者一行の持ってきた食料を半分ずつ(若干学者たちの食料が多いが)で作られた、鍋で煮込まれた干し肉のスープと乾パンだ。
夕食を食べ終えると仕事の内容を話し合う。キャンプの護衛も雇われたローレンたちの仕事だ。
「そうね、じゃあ、3時間ごとに1人ずつ見張りましょう。1人2回することになるけどいいわよね?」
「「了解」」




