第18話
見たことのない天井が見える。あたりを見回すと誰もいない部屋が見えた。部屋の中は質素な造りで至って普通だ、自分が寝ているベットは比較的柔らかくそこそこの値段がするものだとわかる。
しばらくぼーっとしながらあたりを見ながら考え事をしていると、部屋のドアが開き人が入ってくる。
その人物は町長だった。
「やぁ、ローレン。目が覚めたかい」
「えぇっと、町長?」
ローレンは自分がここに寝ている理由を思い出す。そう、ゴブリンが子供を連れ去り、それを追いかけて...
「あっ!あの子は...?」
「ほっほっほ、思い出したかね。君が助けた子どもは無事じゃよ、かすり傷を負っていたがそれも治療が終わっている」
「そうですか、よかった」
ローレンは心の底から安堵する。小さな子どもがゴブリンに連れて行かれたらどうなるか、想像もしたくはない。
「あれ?そういえばここは?」
「わしの家じゃよ。まぁゆっくりしていきたまえ」
「す、すいません」
「あぁよい、町の子どもを救ってくれた恩人なのだからな。さて、事の顛末を話そう」
町長はローレンが意識を失ってから後の話をまとめて話し始める。
「まず、町はずれの小川から素っ裸で4人の子どもが走ってきたんじゃ、それを見た住民が話を聞けば、1人の子どもがゴブリンに連れて行かれたと話したそうじゃ。それを聞いた住民は急いで冒険者ギルドに行って1人の冒険者を連れて、子どもたちがいた小川へと向かったんじゃよ。だがそこには誰もいなかった、足跡や痕跡も見つからずに途方に暮れているところで、君が子どもを連れて林から出てきたということじゃ」
「そうだったんですか...とにかくあの子が無事だったならよかったです」
ローレンは魔力切れの症状で怠さが押し寄せてきているが、ベットから降りて立ち上がる。
「ローレン、も少し休んでいったらどうじゃ?」
「いえ、ここにいても迷惑でしょうし、それに僕はもう大丈夫ですから」
ローレンは若干無理をしているが、どうしても動けないほどではなかった。立ち上がると窓の方から夕陽が差し込んでいて、自分が数時間寝込んでいたことを知り、申し訳ない気持ちが増した。
「そうかい、無理に引き留めはしないが...とにかく今回は子どもを助けてくれてありがとう。町長として、いや町の住民の1人としてお礼を言わせてくれ」
ローレンは頷いて、町長の横を通ってドアを開ける。町長はローレンと一緒に部屋を出て、家の外まで案内してくれた。
「ローレン、このお礼はいつか何らかの形でお返しするじゃろう」
「いえ、そんな大げさな」
「わしの面子をつぶさないで欲しいのじゃがの...」
「それは...」
「ほっほっほ、機会があれば何でもワシに頼るがよい」
ローレンは町長に会釈して、町長の家の前から立ち去った。
町の住民はローレンを見るとこそこそと話し始める。悪いことを噂しているわけではないのだろうが、あまり気分の良いことではない。
そしてローレンは自分が着ている服が変わっていることに気が付く。着心地が良く、なかなかいい服であることがわかる。おそらく町長が着せてくれたものだろう。そういえば、自分の服を子どもに着せていたことを思い出すが、安物の服だったのでまあいいか、と思いつつ家路についた。
家の近くまで来ると父のレナートが家の前で待っているのが見えた。レナートもローレンを見て軽く手を振る。おそらく今回の1件の話を町長から聞いていたのだろう、心配げな顔をしているが、どこか誇らしそうな顔をしている。
「お帰りローレン。またお手柄だったそうだな」
「やめてよ、父さん。別に当たり前のことをしただけだから」
「あぁ、だけど誰にでもできることじゃないだろ。俺はお前が息子で誇らしいよ」
「別にそんなことないって。お腹減ったんだけどご飯はまだ?」
「はっはは、恥ずかしがるなって。母さんがご飯作ってるからもうすぐだぞ」
ローレンとレナートは今日の夕食の話をしながら家に入っていった。
翌朝。ローレンはいつものように装備を身に着けて冒険者ギルドに来ていた。朝一番で来たため、家族は全員寝ていた。
ギルドに入ると、酔っぱらって酒場で寝ている者以外の冒険者は誰もいなかった。
受付カウンターにいるのは受付嬢ではなくギルドの職員が1人、クエストボードに依頼を張っている職員が2人、それ以外に人影は見られなかった。
ローレンはクエストボードに行き、作業中の職員の邪魔にならないようにクエストを探す。
『オークの討伐』『ゴブリンの巣の殲滅』『新ダンジョンの探索』の3つがでかでかと張り出されていた。これは特殊な依頼でパーティー単位でのクエストになっている。このような依頼を受けるために臨時にパーティーを組むこともよくある。
ローレンはクエストボードに貼られたそれらの依頼の詳細を確認している。すると後ろから声がかけられる。
「ロレーン!今日は早いね!」
「レナさん、おはようございます、レナさんも早いですね」
「冒険者は早起きしてなんぼよ。あらいい依頼があるじゃない」
レナはローレンが見ていたクエストを見て言う。確かにこのような依頼は報酬が高額であるのは確かだが、ハイリスクハイリターンであることは言うまでもない。
「でもこれはパーティーじゃないと」
「わかってるわよ!だからローレンと私で組めばいいじゃない!」
「えぇっと、2人だけですか?」
「2人でも3人でもパーティーはパーティーでしょ?」
「そ、そりゃそうですけど...」
困惑しているローレンにまたも声がかかる。
「ようローレン、それにレナも」
「イヴァンさん。おはようございます」
「あらイヴァンも早いわね」
ローレンに魔法を教えたイヴァンだ、レナとも知り合いらしい。イヴァンもクエストボード見ていい依頼があるじゃないかと言い出す。
「そうよね、じゃあ3人で組みましょうよ」
「そうだな、3人ならどの依頼もこなせる範囲だろ」
ローレンは迷う。確かにイヴァンとレナ、ローレンがいればこの3つの依頼のうちどれでも達成できる実力はあるのだが、この3人は全員が後衛タイプなのだ。
「でも、前衛がいないですよ?」
「大丈夫よ、要は近づかせなければいいわけでしょ?」
「アウトレンジ戦法ですか。確かにそれなら...」
「話は決まったな。じゃあパーティー登録しに行こうぜ」
ローレンたちは受付カウンターにいる職員にパーティー登録を頼む。パーティーは臨時でも通常のパーティーと同じ扱いを受ける。
手続きは3人が冒険者カードを出して、それぞれが用紙に名前を書き込み終了だ。
そのままクエストボードに戻り、受けるクエストを決める。『新ダンジョンの探索』が最も報酬が高い、次に『ゴブリンの巣の殲滅』、最後に『オーク討伐』だ。
「うーん、ローレンはどのクエストがいいと思う?」
「気になるのはダンジョンの探索ですかね。どれもランクGからですし」
「そうね~。イヴァンは?」
「ん~ダンジョンの探索は気になるな」
「じゃあ『新ダンジョンの探索』ね」
レナはその依頼書を剥がして受付に行く。先ほどいたギルド職員はいなくなっており、出勤してきた受付嬢と交代したところだった。
ギルドを出た3人は道具屋へ行く。ダンジョンの場所はクラムから半日の場所にあり、最低でも1度は野営する必要があったのだ。
「いらっしゃい。何が必要だい?」
開店したばかりの店に入ると、若い店主が接客に来る。
「そうね、まずはテントかしらね。2つ必要ね」
「それと余裕をもって3日分の食料だな」
「テントと携帯食料ですね。少々お待ちを」
店主はカウンターの奥へと商品を取りに行った。その間に店頭に並んでいる商品を見ていく。
冒険者や行商人が旅をするときに使うキャンプセットやランプ、頑丈なロープなどが並んでいる。
ローレンがそれを眺めていると、店主がテント2つとそこそこの量の食料を持ってくる。
「お待たせしました。テントが2つと携帯食料3日分です」
「バックパックも1つつけてくれ」
「はい、こちらの大きさがよろしいかと」
「いくらになる?」
「全部で銀貨4枚です」
ローレンはそこそこ安いな、とも思ったが、そこまで良質なテントでもないし、携帯食料はカチカチの干し肉や乾燥果物なのを見て納得した。
今回はイヴァンが買い上げる。クエストの報酬からその分を貰うということに決まった。
3人はそこそこの軽装備でダンジョンへ向かった。ローレンは家によって3日ほど留守にすると言い残した。母は心配そうな顔をしていたが、最後には頑張ってきなさいと言ってもらえた。
ローレン、レナ、イヴァンの3人は新ダンジョン、『秘境の花園』へ向かった。




