第105話
マリーはカウンター席に座っているローレンの隣に座って、ニコニコとし始める。このくらいの歳から女性というのは何を考えているのかわからなくなるものだ。
「久しぶりだねぇ」
ローレンは意味深な笑顔で隣に座っているマリーに話し掛けてみるが、ニコニコ顔のまま頷くだけであった。
やがて、店の奥から先ほど注文を取りに来ていた女性が顔を出し、カウンター越しに話しかけてくる。
「君がローレンかい?ずいぶん若いねぇ!私はこの子の母親でラドミラって言うんだよろしくね」
「冒険者をやってる。ローレンだ、よろしく」
「うちの子を助けてくれたんだってね、礼を言わせてくれ、ありがとう」
「気にしないでいい。当然のことをしただけだよ」
「はっ!普通の人間が武器も持たずにゴブリンから子どもを救い出せるもんかい。ともかくありがとう」
礼を言われたローレンは嬉しいと感じたものの、以前出会った親子が頭を過ぎり、顔を曇らせる。
(確かに感謝されることもあるだろうけど、それが全てではない...)
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもない。もう行くよ、お代は?」
「お代なんかいい、今日は私の奢りってことにしておくよ」
「ありがとう。また来るよ」
ローレンは足早に店を出ると、いつもより早足で大通りを歩き、道を1つ外れて振り返った。
「あっ」
「マリーついて来てるのバレバレだったよ。何か用だった?」
「えーっとね、ローレンはなんであの時一瞬嬉しそうにしていたのに、そのあとすぐ後に悲しい顔になったの?」
「え?」
「何か悩んでいることがあるなら相談に乗るよ?」
小さな女の子にすら心配されてしまう自分が情けなくなるローレンだったが、マリーに話したところでわかってもらえないだろうと思い、首を横に振った。
「いや、大丈夫だよ」
ローレンはマリーの頭をポンポンと撫でる。マリーは疑いの目をローレンに向けるが、それが無駄だとわかると元来た方向へと走っていった。
ローレンが自宅に帰ってきた頃、秋の冷たい雨が降り出してくる。
雨は止むこともなく、夜が明けるまで降り続いた。
翌朝、降り続いた雨のせいもあってか、気温がかなり低くなっている。ローレンは窓の外が明るくなっているのを見ながらも、毛布から体を出す気にはなれなかった。
「まぁ、今日1日くらいいいだろ...」
ローレンは布団の中で独り言を呟くと、二度寝を始めた。
晩秋が初冬へと移り変わっていく季節。町の住民たちは冬支度で忙しくしている者も多い。
冬には雪に閉ざされるクラムでは、行商人や旅人、冒険者たちは春まで留まるか今出ていくかを迫られている。
この時期になると、通常のモンスターたちも活発に動き回ることがないため、冒険者ギルドにも大した依頼はない。良く言えば平和な季節である。
二度寝を楽しんでいたローレンは、不意に家の外が騒がしくなっているのを感じ、目を覚ました。
朝目覚めた時よりも、さらに空気が冷え込んでいる事に気が付き、まさかと思い窓のカーテンを開くと、例年よりも早い初雪が降っていた。
「兄さん起きてる~?」
不意に部屋にやって来た妹のエリーはコートにマフラー、手袋、耳当て、と完全防寒状態だった。
「今起きたところだよ」
「雪降ってるよ」
「そうだな...さみぃ」
ローレンはそう言いながらもう一度ベットへと潜り込んだ。こんな寒い場所にいられるか!俺は帰るぞ!と心の中で叫んで。
「兄さん~行こうよ~」
「どこに行くんだよ」
「雪遊びに決まってるじゃん」
「嫌だ。無理。寒い」
「ねぇねぇねぇ」
エリーは延々と布団に入ってうずくまっているローレンをゆすり続けた。
「んんん~ゴゴ」
「オキテー」
「あー、わかったよ、わかったから」
「...」
「zzz...ZZZ」
「オキテー」
至福の三度寝を決め込むつもりだったローレンも、エリーのしつこさに負け、起きて着替え始める。
「別に俺を連れて行ったっておもしろくねーぞ」
「いいの~」
「さては他に誘う友達が...」
「違う」
「あ、はい」
ローレンが三度寝せずに着替えているかを部屋の外で聞き耳を立てているエリーと話ながら、ローレンも防寒具を身に纏った。
「お待たせ」
「待った~」
ローレンとエリーは準備が終わると、さっそく雪が降る町へと繰り出していった。




