第106話
クラムの町に初雪が降った翌日。町は白銀に染まり、町の住民たちは除雪作業に追われている。
例年よりも1~2週間早く降った初雪によって、商人や冒険者たちは大忙しだったようだ。
商人は荷物をまとめる作業を急ぎ、護衛として冒険者たちを探し、雪の降らない地域までのルートを選定したりととにかく人手が足りていないようだった。
ローレンはそんな大忙しなクラムの町の中をギルドに向かって歩いた。
ギルドには商人が護衛依頼を出すために来ていたり、条件の良い護衛依頼を探す冒険者たちで賑わっていた。
ローレンは護衛依頼を受けるわけでもないため、いつも通りにクエストボードに貼り付けられている依頼を片っ端から眺めていく。
いつもは見ない、樵からの護衛依頼を見つける。内容は薪集めの護衛で報酬は安かったが、他に受けることができる依頼がなかったため、依頼書を剥がしてカウンターへと持っていく。
「ローレンさん、こんにちは。もう休暇は終わりですか?」
受付嬢のジーンはいつも通りの笑顔でローレンに話しかける。周りの冒険者はそれを見て殺気の籠った目線を送るが、ジーンもローレンも気が付くことはなかった。
「ああ、冬の間に体をなまらせたくないしね」
「樵の護衛ですか、まあ今町の付近で受けられる依頼はこれくらいですしね。樵の方達は既に西の森の小屋にいるそうなので今から向かってください」
「わかった」
ローレンは依頼を受けるとさっそくギルドから出て西の森へと向かった。
クラムから西に出て数分、森が見えてくる。クラムから近いこともあってモンスターはほとんど出没しない。稀にゴブリンなどが出るが、数匹なら樵達だけでも追い払うことができる。
その樵達が護衛依頼を出しているということは、おそらく森の奥へと行く必要があるのだろう。
森の中へ入ってすぐ、樵達が仕事場として使っている小屋が見えてくる。
森から切り出した丸太を薪や木材に加工するために使われているらしい。
ローレンは小屋の周辺で道具の整備や薪割をしている樵達に話しかける。
「護衛依頼を出したのはあなたたちか?」
「そうじゃー。あんたが今回の冒険者かー、ずいぶんちっこいのー」
「これでもランクはFだから安心してくれ」
「Fかー、わっけぇのにやり手なんじゃなー」
語尾が無駄に伸びている老樵はローレンが護衛の冒険者だとわかると、他の樵達を集合させる。
「冒険者が来てくれたー、これから森の深いところへ向かうからのー、全員はぐれんようについてくることー」
「あいよー」
老樵が一声かけると6人ほどの樵達が集まり、移動し始める。
ローレンは先頭にいる老樵の近くを歩き、一団の護衛を始めた。
「なあ樵の爺さん、依頼を受けておいてなんだが、森の奥まで行く必要があるのか?」
「そらーあるに決まっとるー。森の浅いところはまだ木が育ち切ってないんじゃー。だからこうしてわざわざ森の奥まで行くんじゃー」
「そうか...」
樵達は森の中をぐんぐんと進んで行った。
「こんなに早く雪が降るとは思っていなかったからのー。薪の在庫が全然足りていないんじゃー」
「あー、そうなのか」
「どちらにしろ冒険者を雇って森の奥で伐採作業しないとならんかったんじゃがのー」
「さらに雪まで降って来て急ぐ必要があったのか」
小屋から20分ほどで今日の現場へと辿り着いた。
木を伐採している間の護衛を任されたローレンは、倒れてくる木に押しつぶされないように気を付けながらも辺りを警戒していた。
森の中を何度か往復して丸太を集め、樵達は薪割の作業を開始した。
もうその頃には日が傾き始めており、森の中も暗くなっていた。
「冒険者さんやー、今日はご苦労さん」
「あぁ、じゃあこれにサインを」
「あいよー」
老樵に依頼達成のサインをもらい依頼は終了した。
「また明日も依頼を出すからー、良かったら頼むよー」
「あぁ、わかった」
ローレンは薪割作業を続けている樵達に軽く手を振って、一足先にクラムの町へと戻っていった。
「薪の在庫が少なくなってるんで助かりましたー」
ギルドで依頼の達成を報告すると、ジーンから感謝の言葉が述べられる。
「他に受けてくれる人が少なかったんですよね。他の冒険者たちは町を出る商人の護衛依頼をクエストボードの前でずっと待っているだけなんですもん」
「まぁまぁ。別に悪気があってやってるわけじゃないんだし」
ジーンはクエストボードの前で条件の良い商人の護衛依頼をずっと待っていた冒険者たちに悪態をつく。
クエストボードの前にいた冒険者たちにも聞こえていたらしく、冒険者たちは不機嫌な表情を露わにしながらギルドから出ていった。
「まったく...選り好みし過ぎなんですよ!最近の冒険者はローレンさんを見習うべきですよ。どんな依頼でも文句も言わずに受けるし、困っている人を助ける冒険者の鑑ですよ!」
「ハッハッハ...それは言い過ぎだよ。それに困っている人を助けるとか言いつつ金はきっちり受け取ってるし、薪の在庫が少ないってのも知らなかったし、知っていたとしても町に住んでる俺からすれば薪が高騰しないようにするっているメリットもあるわけだしね...基本的には損得勘定で依頼を受けてるんだよ」
「それでも、選り好みして依頼を受けない冒険者なんかよりずっとマシです!」
「わかったわかった。それより依頼の処理を頼むよ」
「あっ、すいません。こちらが報酬です」
「ありがとう。たぶんまた明日も同じ依頼を受けるから」
「はい、わかりました」
「じゃあね」
ローレンは若干不機嫌なジーンとの話を早々に切り上げてギルドを出た。
日が短くなったこともあり、さっきまで明るかったクラムの町は既に日が沈んでいる。北風が肌に当たり体温を急激に奪い去る。
ローレンは初雪が残る帰り道を急いで歩いた。




