第8話 説得
昨日は、私を泊めてくれた女性が色々と優しくしてくれたので家の中でも十分ゆっくりと休むことができた。
というわけで、今日も私の起床時刻は真っ昼間だった。
結局、周りがうるさかろうが静かだろうがあまり変わらなかったのだ。
まあ、それでも2日ほど寝ずに歩いたからな。十分寝ることが出来てよかった。
朝起きてさっそく居間に向かった。居間には、退屈そうに椅子を二つ並べて寝転んでいる彼女の姿があった。
そういえば、名前を聞いていない。
「あ、おはようございます」
すると、彼女は起き上がってくるっとこちらを向いて「あ、すいません、お見苦しいところを見せてしまって」と言って立ち上がった。
「いや、大丈夫ですよ。こっちこそ、半日も寝てしまって申し訳ないです」
「大丈夫ですよ。どうせ、一日中暇ですから」
「あの、今更ですけどお名前を聞いてもいいですか?」
「あっ、そういえばそうですね。私、ブレンダって言います」
「私は、イレインって言います」
皆にも自己紹介がまだだったな。私の名前はイレインだ。よろしく。国で一番の騎士の娘だ。そして、魔王を倒した影の功労者でもある。あと、勇者の恋人。他には、幼い頃学園のクラスの学級長とかやったりしてた。あとは、・・・そういえば、幼い頃に健康診断で何も悪いところがなかったから、いつも元気で賞みたいなのをもらったことがある。
クラスの半分くらいがもらっていたが、私はそれをもらった直後に父が病死した、という意味ではその称号をもらった中でもかなり稀有な存在のはずだ。
まあ、そのくらいだな。よろしく。
「ああ、よろしくお願いします。・・・お腹とか空いてませんか?買いだめてあったものが、使い切れそうにないなって心配だったんですよ」
昨日は、パンをもらったくらいだった。
確かに、今私は猛烈にお腹が空いている。
が、それよりも今はやるべきことがあるのだ。
「あの、退屈なんですよね?」
ブレンダは「まあ、そうですけど」と若干遠慮気味に頷いた。
「だって、このままだとこの悪習が何年も続いてしまうことになりますよ」
私がブレンダにそう尋ねると彼女は「でも、首長が気難しい人ですから、それにどうせすぐ死にますから。あんな老人」と答えた。
まあ、なかなかのことを言うなあと思いつつも、この感じなら大体の住民はブレンダと同じ気持ちなのだろう。
であれば、
やることは簡単だ。
皆が、私の勇者撃退に貢献した、ということを認めてくれないし知ってもくれないなら、いい。
でも、おそらくここでその気難しいジジイを説得できれば私は、この街の英雄になれる!!
勇者の祭りじゃなくて、これで私の祭りを開くことができるはずだ!!
いやあ、実に運が良かったな。
「あの、私、その首長の方を説得してきますよ!!」
「え、でもあの人は若い人の意見なんて聞くつもりはないです。それに、旅人なんだから余計聞き入れてもらえないですよ」
「いや、私にいい考えがあるんで」
私はそういって、ニヤリと笑った。
そして、一応彼女にパンを食べさせてもらってから外に出た。
やはり、外は吹き抜ける風の音が聞けるだけで、他にはまったく物音がしない。人々は皆家に籠もっているのだろう。
私が案内してもらうはずなのだが、ブレンダは私の影に隠れて私についてくる、という形になっていた。
まあ、いい。
「そ、そんな怖がらなくても大丈夫ですよ」
「でも、これが周りの人にバレたらどうなることか」
それでいったら、昨日の私にセクハラしてきたおっさんはもっとまずいだろうな。
まあ、いい。
別に、この街の人間関係を壊したいわけではない。
変に、いけるかなと思って男性の家に泊まろうとした私にも非はある。
それでいったら、勇者は真面目だったな。
「大丈夫ですよ、とりあえず案内してもらえると」
というわけで、彼女に案内してもらって首長の住んでいるという家にたどり着いた。
それにしても、首長だというのにずいぶん小さな家に住んでいるな。
一階建てで、泊めさせてもらってブレンダの家とさほど変わりない外観をしている。
ゆいいつ違うといえば、ポストが三つ横に並んで立っている、というだけだ。
なんでだよ、
「あ、あの、ここですけど、やっぱりやめた方がいいですって」
「大丈夫です!!それに、ここからは私一人でやってきますから、」
「え、でも、それはそれで他の人にバレたらまずいですっ」
めんどくせえな。
今から、あんたらのためにやってやるんだから黙って言うことを聞いてろよ。
「大丈夫です。老人なんて、簡単に丸め込めますから、それに、それなら後ろで見ていてください」
私はそういって、家の扉をコンコン、とノックした。
すると、家の中からドタドタという騒がしい音が聞こえてきた。
「あ、あ、あ、あ、」
後ろから周期的な声が聞こえてくる。
そんなに、怖いのか?所詮はジジイだ。棺桶半身浴野郎だろ?
「明日もしかしたら死ぬかもしれない」じゃなくて、「明日もしかしたら死なないかもしれない」っていう気持ちで生きているネガティブジジイだろ、どうせ。
すると、ものすごい勢いで扉が開いた。
すると、中から出てきたのは、立派なヒゲと白髪を携えた私よりも頭一つ大きい大男だった。
後ろでブレンダが「ひいっ」という短い悲鳴をあげている。
こんなに体はデカいのに、器はちいさいっつって、
・・・
はあ、いいわ。こういうのは勇者に言われて我慢するようにしているじゃないの。まあ、心の中にとどめておいて。
「おい、・・・誰だ?・・・お、お前ブレンダか?これだから、最近の若いやつは」
「あの、私は旅人です。ブレンダさんには無理やりついてきてもらったので許してあげてください」
「おい、規則が守れないのか?それに、失礼だろっ、年上には敬意を払わんかい!!」
なるほど、
まあだいたいわかった。
「敬意は十分払ってますよ。おつりを返してほしいくらいです」
「おい、何を言っているんだ!!」
そういいながら、ポキポキと首を鳴らしている。
「ちょっと、お話したいことがあるんですけど、お宅にあがらせてもらってもよろしいでしょうか?」
「規則を守れん奴とは話せない。それと、ブレンダ。お前はこの街から出ていけ!!」
後ろから「え、ちょっと、いや、だって」という焦る声が聞こえてくる。
「お話しましょうよ。本当は、私みたいに若くて可愛い女の子と話したくてたまらないんでしょ?」
しかし、ジジイは「お前も、旅人だからってこの街にいる限りは規則に従ってもらう!若いやつが気に食わん!」というだけだった。
仕方ない、
まあ、体も大きいし筋肉も結構ありそうだしな。
私は両足を大きく広げ、そして右肘を引いた。
右拳の上に左手を被せ、そしてすうっと息を吸い込んだ。
「おい、お前!何をしているんだ!!」
私は、右手に力を込める。
そして、そのまま右手を思い切り振りかぶってジジイのみぞおちめがけて拳を放り込んだ。
私の拳は、綺麗にジジイの腹に食い込んだ。
ジジイは声も出せずに、そのまま膝から崩れ落ちた。
すると、後ろからさっきとは打って変わって「やったか?」とブレンダが落ち着いた様子で聞いてきた。
こいつもこいつで、なんなんだよ。
私は、倒れ込んだジジイの横腹をつま先でつんつんとつついた。
反応はない。
「え、イレインさんやってくれたんですね。ありがとうございます!!これで私はこの街に住めるんですね!!!」
私が代わりに殺してくれたと思っている、ということか?
「いや、別に、それに死んではないですよ」
「そんな、殺してなんて物騒なこと頼んでないじゃないですか」
「は、はあ、」
よくわからなかった。まあ、喜んでいるみたいだけど。
すると、家の中から
若い女性、娘か?
二十歳くらいだろうな。
なにやら女性がとことことやってきて、「え、」と言ってその場に立ち尽くしていた。
あ、
「いや、大丈夫です。ちゃんと生きてますよ!!手加減しましたから」
私は彼女の方に近づいていって、そう説明をした。
「え、・・・あれ、ブレンダと、どなたでしょうか?」
「あ、旅人です。その、首長さんとお話したいことがあって、」
「あ、えっと、そうなんですか。じゃあ、・・・どうぞ」
よくわからんけど、多分この人もさっきのジジイが気に入らない人なんだろう。
もしくは、親族なりにこのジジイが嫌われていることを理解しつつも止められない、みたいなポジションの人なんだろうな。
「あ、あの〜、申し訳ないですけど夫を運ぶのを手伝ってもらってもいいですか?」
「あ、・・・あああ、・・・ん?・・・えっと、・・・おっと、おっと、おっと、・・・・え、・・・・あ、ん〜〜〜、えっと、あ!!!」
え?
夫?




