第5話 勇者の冒険(回想)
(勇者視点)
「見てよ、空が綺麗だよ」
俺がそういうと、彼女はいつもつまらなそうな顔をしていた。
「その、綺麗じゃない?こんなに光っててさ、星もいっぱいあって、こんなに綺麗に見えるのに手に届かないって、なんか幻想的じゃないか?」
俺が更にそういうと、彼女は更につまらなそうな顔をするのだ。
「あのさ、誰かが綺麗って言ったからそう思ってるんじゃないの?」
「じゃあさ、俺がキミのことを好きなのもそれと同じだって思ってるの?」
俺がそう聞くと、さっきまでのつまらなくてしらりと冷めていた表情が嘘だったみたいに、一気に顔が赤く染まった。
「・・・なにそれ、失礼じゃない?」
照れながらも、彼女はそんなことを言ってきた。
「キミを好きになれるのは俺くらいだと思うけどね」
彼女は、王室の警護として仕えている騎士の娘だった。日に日に強くなる魔王軍からの攻撃に備えて招集されたのは、一年前のことだ。
俺は、ひと目見たときから彼女のことが好きだった。
シンプルに綺麗だな、と思ったのもあるが、なんにしろ誰にも染まらない気の強さというか、そういうのがタイプだった。
それが、見た目にも強くにじみ出ている。鋭い目つきも、ものすごく好みだった。
「俺は、この世界が好きなんだよ」
「それもまたさ、誰かが言ってたからでしょ?」
「別に、関係ないよ。魔王からこの世界を守りたいって思ってる。それは、事実だし、何より嘘でもなんでもない俺の気持ちだよ」
「またさ、嘘だとか本当とか、くだらないわ」
彼女は吐き捨てるようにそんなことを言った。
俺は、彼女に色々なものを見せてあげたいと思った。
彼女にも、もっと世界を好きになってもらいたいと思った。それで、俺は国王に彼女と一緒に魔王を倒しに行く旅に出てもいいか、と許可をもらいに行ったのだ。
その、彼女には申し訳ないけど、彼女はものすごく自信を持っているみたいだが、彼女は決して、騎士の中でも目立った実力の持ち主ではない。
ほんと、中の中だ。
だから、王様に「もっと強いやつを連れて行かないのか?」と聞かれた。
それには「強い騎士の方には、ここで国王と王妃を守ってもらう使命がありますから」と答えた。
まあ、王を説得するのに時間はかかったけれども、俺はそれを認めてもらって、そして今、俺と彼女は魔王を倒す旅に出た。
やっぱり、一緒に旅をしていてわかったのは、彼女はかなりの潔癖で怖がりなのだ。
あと、めちゃくちゃ食べるのが好き。
彼女いわく、「大嫌いな自然を飲み干しているみたいで気持ちがいい」と言っていた。
俺にはよくわからなかったけど、唯一彼女が楽しそうにしている瞬間だからな。
正直に言わせてもらえば、彼女はあまり戦闘においては役に立っていない。まあ、俺一人で戦うよりはだいぶマシだけどな。
それに、野宿を絶対に許してくれないから厄介だ。
どんなに夜遅くても「次の村まで行く!」と言って俺の言う事を聞いてくれない。
それでも、俺は諦めたくなかった。
彼女のことが、どうしても好きだったから。
「嘘ってなんなの?意味がわからない」
「嘘をつかれたらさ、嫌だって思わないの?」
彼女の感性に関して質問をすると、決まって彼女は「嘘をつかれて嫌なのは、感性が平凡で当たり前のことにしか喜べないクソみたいな脳みそをしているからだわ」と答える。
で、今回もまったく同じことを言われた。
「私は自然が嫌いよ。人間も、うるさいから嫌いよ。でも、人間の作ったものは好きよ。だって、人間が自然を支配している証拠だもの。自然の方が嫌いだから、人間がそれを支配していることはわかると嬉しくなるわ」
相変わらずだ。
俺には、まったく共感できない感性を持っている。
「でも、こうやって森とか空を見るとさ、大きいなって思わないの?なんか、すごいなって」
「思わないわよ。ほんと、いつもいつも同じことばっかりで呆れるわ」
それは、こっちだって同じだ。
いつも、同じことしか返さないではないか。
まあ、そういうところも好き、というか、
なんか、気の強い女の子が、
・・・・・
正直にいうと、興奮するんだよ。俺は、生まれたときから強くて勇者になれるって言われて生きてきたから、こんなにも俺のいうことに耳を傾けない手強い人は初めてなんだ。
興奮するんだ。
まあ、そんなこと直接彼女には言わないさ。
でも、強気な彼女のことはやっぱり好きだし、誰にも染まらない感じもやっぱり好きだ。
「大きいな〜、とかすごいな〜、って誰でも感じ取れることじゃない?ゴブリンでもわかるわ。そんなことを考えて、何が楽しいのよ?まだ、昨日のうんこの色について話してた方がマシよ」
そんなこと、女性なんだから言わないでくれ、と思うのはごく一般の感性なんだろう。
そんなことを指摘しても、彼女に「つまらない」と一蹴されることは目に見えているので俺は何も言わなかった。
「じゃあ、キミのことが好きだって思うのも平凡なことなの?」
そういうと、やっぱり彼女は照れる。
そして、ボカボカと俺のことを殴ってくる。
「・・・ずるいっ!!恥ずかしいんだから」
「キミも、俺のことが好き?」
「そ、それはさ、だってそんなに言われたら気にするもんだもん」
そういって、ムッと頬をふくらませる。
そっちこそ、俺みたいなわかりやすい英雄を好きな癖に、
「じゃあ、魔王を倒したら結婚しようよ」
しかし、俺がそういうことを言うと、さっきまで真っ赤だった顔が一気に青白く、というよりは灰色に薄くなっていって「黙れボケクソが」と言うのだ。
そこまで言わなくていいじゃないか、と思う。
「ほんと、誰かが言ったことのあるようなことしか言わないのはクソだわ。もっとひねった言葉は出せないわけ?」
そんなに、平凡な感性って悪いことか?
まあ、本気で反論するほどではないな。
「なんでさ、俺についてきてくれたの?」
「そりゃ、あんただけじゃ心配だもん。それに、絶対に魔王を倒すのはあんたじゃなくて私だわ」
彼女は、魔王と対峙したときに、俺の邪魔をしてきそうだから怖い。
今まで魔王軍と戦ってきた。幹部と呼ばれる連中は、かなり強かった。
地元でも、騎士の中でも負け知らずの俺と互角の勝負をする、ということは、魔王はもっと強いということだ。
だから、どうにか俺が魔王と戦う前までには彼女のことを落としたい。
これが、今の俺の夢なわけだ。
もちろん、この世界を守りたい、という気持ちはある。でも、どこか彼女に対してムキになっていて、自然の良さとかを押し付けているようにも感じるのだ。
「とりあえず、とっとと帰りましょう。このまま2日くらい歩けば村にたどり着くわ」
そういって、彼女は俺を置いてそそくさと歩き出した。
「ちょ、俺眠いよ」
「はあ?こんな場所で寝るつもりなの?私、不潔な人とは一緒に冒険できないから」
彼女は俺の方なんかまったく見ずに、そんなことを言った。
「一緒に寝ようよ〜」
「だから、汚い人とは寝れないから」
「結構、落ち葉を敷くだけでも心地よく寝れるものだよ」
「お、・・・オエッ、」
どうやら、想像するだけでも苦痛だったみたいだ。
仕方なく、俺は彼女の背中を優しくさすって彼女のえづきと止めさせた。
「ああ、・・・オエッ」
彼女は、そんな感じでとても歩けそうな状態ではなかったのに、森の中にいるのがすごく嫌だったらしく、フラフラとしながら歩き始めた。
しかし、少し進んだところで今度は虫が飛んできたらしく「ギャーッ!!!!!」とものすごい音量で叫んで、走っていってしまった。
俺は、仕方なく彼女を追いかける。
彼女は、少し進んだところで道に倒れ込んでいた。
「・・・し、死んでる」
彼女は完全に白目を剥いて気絶していた。
「ハア、やっぱりよくなかったな」
いくら好きとはいえ、ここまで世話をするハメになるとは思っていなかった。
俺は、一応ここで寝せると彼女にしつこく怒られそうだったので、彼女のことをお姫様抱っこで抱えて次の村に向かって寝ずに足を進めた。




