第4話 魔王の残党
翌日、深夜に目が覚めた私はあまり眠ることができなかった。
私が目を覚ましたのは真っ昼間だった。
そういえば、今日の内に風呂に入っておきたい。でも、そんなことをしていれば結局今日も泊まることになりそうだな。
はあ、仕方ない。
私は起き上がって一番に、街の風呂場に向かった。
昼間だったけれども、意外と人がいた。
たまに、このような蒸し暑い地域だとサウナしかなかったり、汚い糞とか死体とか、そういうのが流れているような川で体を洗わなくてはいけない場所があったりしたが、ここはそうでなくて良かった。
風呂に入って2日分の汚れを落として、私は結局屋台を巡った。
私が来て三日目になるわけだが、だいぶ人の数がまばらになってきたし、一昨日はあった屋台がいくつか無くなっていた。
それでも、残っている屋台にはそこそこの長さの列ができていたので、私はまた魚の串焼きを売っている屋台に並んだ。
すると、並んでいる途中に「キャーッ」という悲鳴が聞こえてきた。
広場に居た人たちがざわざわとし始めた。
すると、
見覚えのある連中が広場に流れ込んできた。
「お前ら、ずっとうるさいんじゃボケが!!」
魔王軍の残党の、魔神だった。いつも浮いていて、魔法を使う厄介な敵だった。
しかし、魔王がいなくなったのでものすごく弱体化し、今となっては名前にそぐわない恥ずかしいレベルの弱さの敵だ。
だが、普通の人ではとてもじゃないけど歯が立たないだろう。
しかし、この列を離れるのか、
並び直すなんて、絶対に嫌だ!!
頼むから、誰か戦える人来て!!
私は、手を合わせてそう願った。
「おい、人間ども!!魔王を倒したくらいで、こんな、毎年うるさくしやがって最悪だわ!!こっちは、もっと静かに暮らしてたいのに我慢の限界じゃボケが!!」
すると、魔神の後ろにぞろぞろとゴブリンたちが現れた。
魔王がいなくなってから、めっきり人里に降りてこなくなった魔物たちだが、そんな森の奥までこの喧騒は届いていたというのか。
それは、さすがに同情せざるを得ない。
人間というのは勝手な生き物だ。しかし、それを生み出した責任は自然にあるだろうに。
文句を言っている内はなんにもならないさ。
すると、広場にいた人々が散り散りになって逃げ始めた。
私は辺りをぐるぐると見回す。
「あ、ラッキー!!」
私の前に並んでいた人たちもちょうどいなくなった。
私はドシドシと歩いて、屋台の中にいて逃げ遅れたおじさんに金を投げつけて「一番大きいのください」と言った。
おじさんは驚きつつも、私の肝の座り方を評価してくれたのか、私が頼んだ分だけでなく、もう一匹サービスしてくれた。
「おい、お前、俺達が来てるのに何をしてるんだよ!!」
魔神が私の方を指さしてきた。
「助かったわ。私には時間が無いの!!」
ほんと、世界中を旅する、というスローライフを送るためにはもっと時間を節約しなければならない。
「って、おい、お前状況がわかってるのか!!こっちは、もう夜中ずっとうるさくて寝れなかったんだ!」
「こっちは、夜中うるさくても、・・・あん、・・・ねえああねえああ」
私は喋りながら魚にかぶりついた。
ほんと、塩がいい感じに効いていていいわ。川の魚だからこそ蛋白な味が塩といい感じにマッチしていて、
「おい、あいつを殺せ!!」
そういって、魔神がゴブリンたちに命令した。
はあ、
「ちょっと、邪魔しないでよ!」
私は、魚を優しくかじって、串から抜いた。そして、品が悪いとは思いつつも魚を手で口の中に押し込んだ。
そして、その串でこちらに飛びかかってきたゴブリンの目を突いた。
「ギャッ!?」
そして、その串を引き抜いて違うゴブリンにも同じように突き刺した。
「お、え、何者なんだよ、」
魔神は、かなり驚いているみたいだった。
「あんた、魔王軍なのに私の顔を知らないわけ?」
そういいつつ、私は次々とゴブリンたちに串を刺した。しかし、さすがに串では途中で折れてしまう。
私は懐から短剣を取り出した。
「私は、勇者の恋人よ!」
魔神はポカンとしていた。
はあ、
はいはい。どうせ誰も知りませんよね。私だって、勇者が「これ、俺の彼女なんだぜ」って皆に自慢してくれるもんだと思ってたけど、彼は真面目だったからそんなことはしてくれなかったの!!
一人で魔王を倒しに行ってしまったわけ。私は、最後までついていくつもりだったのに、最後の最後は王都に取り残されたわけ。
「知らねえよ!!」
そういって、魔神は私に向かって魔法を撃ってきた。
それにしても、魔王がいたころは魔神の魔法なんて喰らったら即死していただろうな。しかし、魔王から力をもらえなくなった彼らは大幅に弱体化したのだ。
私はその魔法を剣で切り裂く。その隙に、どんどんゴブリンが押し寄せてくるが、それも切り裂いていく。
最初にどれほどいたかわからないが、いつの間にかゴブリンたちは全滅して、魔神と私だけが広場に残っていた。
「あんたたち、うるさいんだったらもっと奥まで行けばいいじゃない。うるさいところにいるそっちが悪いんだわ」
「お、俺達だって魔王のいたところを守る使命があるんだよ!!それなのに、そもそもこんなところまで街を広げやがって、森を切り拓いて、」
「そっちが移動しないのが悪いんでしょ?こんなに、あんたの部下が死んだのよ」
「・・・そ、それは、・・・どうせ死ぬしかなかったからだよ」
魔神は、突然しゅんとしてそんなことを言い始めた。
「魔王が負けたんだ。もう、どうしようもない。次に魔王になれるような才能が生まれるまでどのくらいかかると思う?」
「・・・知らないわよ。それに、こっちだって勇者が生まれるまでに時間はかかるの」
「・・・はあ、もう帰るよ。来年はもっと静かにしてくれよ。悪かったさ。でも、俺達は魔王のことを忘れないでいたいと思うんだ」
そういって、魔神は浮くのをやめてトボトボと帰っていった。
まあ、こいつにトドメを刺しても良かったのだが、さすがに可哀想に見えたのでやめた。
それにしても、私の周りには大量のゴブリンの死体が転がっているのだが、
私はぐるぐると周りを見回した。そして、さっきの魚の串焼きの屋台にいたおじさんが見ていてくれたんじゃないか、と期待していたが、屋台には誰もいなかった。
仕方がないので、私はその場に立って残っていた魚を食べながら誰か来ないか、と待っていたのだが、
数分経っても誰も来ない。
そして、ようやく誰か来たかと思えば、私の血まみれの姿を見て「キャーッ!!!」と叫んで逃げていってしまった。
ほんと、私ってなんでこんなにも報われないのかしら。
私は、仕方がないので、ゴブリンの死体を山積みにして、服についていた血が目立たないように裏返しにして着て、宿に戻った。
宿に戻って受付にいくと、おじさんがウトウトとしていたので、私はツンツンと彼の肩をつついて起こした。
おじさんはバッと起き上がってから「・・・あれ、もう帰るの?」と私に聞いてきた。
「ありがとうございました。楽しかったです。あと、私勇者の恋人なんです」
おじさんは一瞬悩んだような顔をしてから、「・・・あ〜、そうなんだ」と答えた。
まあ、勇者を好きになる女性は世界中に沢山いるんだろうな。勝手に自称しているイタい女、と思われたんだろう。
せっかく、さっきもゴブリンを退治した、というのに。
「じゃあ、ありがとうございました」
そういって急いで宿をあとにした。




