第2話 勇者の祭り
街は賑わっていた。騒がしい明かりに騒がしいガキの声に、なによりこの騒がしいまでの暑さ。
山を降りただけで、こんなにも気温が違うのか。湿気が高くて、余計に暑く感じる。
信じられないな。
街に立ち並ぶ家の作りは、意外にも山の上と同じようなログハウスだった。 ただ、家がやけに高い場所に作られている。おそらく、風通しを良くするためだろうな。
ここは、このゴエックロという国ではかなり栄えている街らしい。
ほんと、誰のおかげで栄えられていると思っているのだろうか。 まあ、いい。
どうやら、この街では、人類を魔王から救った勇者を称える祭りをやっているらしい。街は賑わっている。私は着ていたコートを脱いで背負っていたカバンに詰め込もうとしたが、多すぎて入らなかった。
仕方がないので、腰に巻き付けたりして私は街を散策した。
それにしても、賑わっているな。祭りはもう始まっており、今月いっぱいは続くらしい。
今月は始まったばかりだ。まだまだ長い、というわけだ。
それにしても、ここはあまり勇者と縁のない地域だと思うのだがな。
まあ、勇者は人類共通の英雄なのだ。
私は試しに、通りを歩いていた老夫婦に勇者について尋ねることにした。
「あの、すいません。私、旅の者なんですけど」
旅の者と自称するのが誇らしいことなのかイタいことなのかわからないが、事実なのだから無難にこう名乗るしかない。
「ああ、そうなんですか!ちょうど、今はお祭りの季節ですから楽しんでいってください!」
おばあさんは私の方を見て、嬉しそうに笑いながらそう言った。
「いやあ、勇者様は英雄ですからな。この街も、魔王軍に攻撃されて、何年も困っていたものですから」
「あ、あの、勇者様のことってお二人は見たことあるんですか?」
「いやあ、一度は見てみたかったけどね。勇者様って、今どこにいるかわからないじゃない」
「そ、その、勇者様の仲間のことって聞いてますか?」
私は老夫婦にぐいっと詰め寄った。
二人は困った顔で「勇者の仲間?知りませんね」と言った。
「その、勇者の影で、女の子がめちゃくちゃ頑張ったっていう、」
「でも、勇者は魔王の城に一人で乗り込んで魔王を倒してきたんだろ?」
まあそうだけど、
でも、それだけじゃないでしょ?確かに、魔王と戦える人間は勇者以外にいなかったよ。
私だって、本当は魔王と戦ってボコボコにしてやりたかったけど、残念ながら力が足りなかったわけ。
だから、私にしかできない仕事っていうやつをやったのよ。
ね?いっつも、伝説に残るのは勇者ばっかり。
はあ、
「まあ、そうですよね〜、あはは〜」
とりあえず、そうやってごまかすことにした。
「屋台とか、美味しいものが食べれる場所ってどこらへんですかね?」
まあ、本来の目的はそれだったじゃないか。
私の功績が知られていないことくらい、どうだっていいことだ。水に流そう。
「ああ、でも、ここらへんは昆虫食が盛んだから、あんまり旅人さんの口には合わないと思うんけど、食べてみればいいよ。屋台は街の中央広場集まってるよ。その、そこの真ん中に勇者の銅像があるんだ」
そういって、おじいさんが指を指した。
「ありがとうございます」
老夫婦とはそこでお別れとなった。
昆虫食か、
まあ、案外美味しいかもしれないしな。
というわけで、私は街の中央広場に向かった。
中央に向かうにつれて人の数は多くなった。これこそ、平和というやつだろうな。
ここ数年で人口もだいぶ増えた、と聞いた。魔王軍による攻撃もなくなったのだ。そりゃ、人も増えるってもんだろう。
そして、中央広場にたどり着いた。
確かに、広場の中心には勇者の銅像があった。私も、よく覚えている。それに、今までに訪れた色々な街で見た勇者の銅像とまったく同じものだ。
少し前に、銅像の大量生産が流行ったと言っていたしな。
これも、その大量生産によって作られた銅像なのだろう。
そして、中央広場には美味しそうな匂いがプンプンと漂っていた。
銅像を丸く囲むように屋台が立ち並んでいて、そこにはものすごい長い列が続いていた。
これは、並んでいても時間を浪費するだけだ。私は先に街の散策でもしていた方が良さそうだな。
それに、宿だって見つけておいた方がいい。
私はとりあえず、宿を探すことにした。
すると突然、「お姉さ〜ん」と声をかけられた。
私はくるっと後ろを振り向く。そこにいたのは、私より少し若そうな酔っ払いの男だった。二人もいる。
「あんま見ない顔だよね、一緒に飲もうよ」
「なんですか?」
「可愛いじゃん!!ねえ、遊ぼうよ!!」
クソが、殺してやるからな。
私は無視して宿を探しに行こうとしたのだが、この酔っぱらいはどうせションベン臭い手で私の純粋無垢かつ純情可憐な右腕を掴んできやがった。
ので、私は男の腕を思い切り左手で殴った。
「痛っ!!!」
男はその場に倒れ込む。ほんと、こいつらみたいなのは魔王に殺してもらうべきだったんだわ。
「おいおい、大丈夫かよ」
もう一人の男が、倒れた男に駆け寄った。
「お姉さん、痛いよ〜〜」
そういって、倒れた男がウェンウェンと泣き出した。
はあ、情けないわ。
情けないとは何事よ。
「多分、折れているから医者に行ったほうがいいわよ」
そうして、私はこの酔っぱらいたちをあとにして宿を探しにいった。
ちなみに、酔っぱらいたちは私に折られた腕など気にせずにナンパを繰り返して、翌日目が覚めてから病院に行ったらしい。
まあ、どうでもいい話だ。
宿は、満室になっている場所が多かったが、街の外れの方にようやく空いている宿を見つけることができたので、私はそこに泊まることにした。
しかし、まだ夕方だ。
祭りだって、ここからが楽しくなるところだろう。
私は荷物を置いて、中央広場に戻った。
すると、意外にも屋台からは人が捌けていた。それでも、まだ並んでいる人は多い。
とりあえず、私は一番人の並んでいない場所に並んだ。
一応、昆虫料理でないことを祈りながら並んだ。段々と列が短くなって、ようやく何の料理なのかわかったが、とりあえず昆虫ではなさそうだ。
魚が、串刺しになっている。
そして、それを焼いて売っているようだ。
なるほど。
それは、美味しそうだ。私はポケットの中から財布を取り出した。魔王を倒したからな(倒すのにほんのちょっと協力した)。金は十分ある。
そして、ようやくゲットすることができた。
串刺しにされた魚は、色々と種類があったが、一番大きいのをもらってきた。
私の顔くらいの大きさがある。なかなかのものだ。私は魚の腹に思いっきりかぶりつく。
「ああ、美味しい」
人混みのゴミ音にまぎれて、私の声は聞こえていないだろう。
ほんと、美味しいものを食べるのはいいわ。
それに、焼き魚だから寄生虫の心配もない。ただ、見た目の大きさの割には結構小骨が多かった。しかし、小骨くらいはなんの問題もない、ということでバリバリと食べ進めた。
私が魚を食べていると、遠くの方からなにやら賑やかな音が聞こえてきた。
私は背伸びして、音の聞こえる方の状況を見ると、どうやら通りで住民が踊っているみたいだった。
おそらく、ここらへん独自の太鼓やら笛の音が聞こえてきた。あまり聞き慣れない音だが、無駄に響き渡る音色を持っているみたいだ。
正直、私はあまりこういうのが好きではない。
その踊りにつられたのか、ちょうど屋台が先程よりも更に空きはじめた。
これは、絶好のチャンスでしかない。
私は、人々が踊りに夢中になっている隙に、屋台を巡って腹いっぱいになるまでたらふく食べ続けた。




