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誰か、私がこの世界を好きになれる方法をご存知ありませんか?  作者: ふたーなる


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第1話 とある街、私のスローライフ

 世界は平和になった。

 しかし、人々が平和に慣れるにはまだ時間がかかるみたいだ。

 世界は、一割くらいは私のおかげで平和になった。

 しかし、人々がそれを私の功績だと認めるのは当分先みたいだ。

 そんなに認めてくれないなら、まあ仕方ない。

 

 その、一番の功労者である勇者の裏で、私だって頑張っていたのだ。影のMVPというやつだろう。

 まあ、影とはいうけどほとんどは勇者のおかげなのだ。

 影のMVPなどとかっこよく言うにしても、勇者の頑張りとの差は歴然だ。

 そんな私は、旅に出ることにした。


 世界は平和になったのだ。(3回目)


 せっかくだから、世界を見ておきたいと思った。

 もっと、この世界を好きになれたらいいなって思った。

 今まで、戦いしかしてこなかったからな。

 魔王が消えた今、私にはようやく人生と世界を満喫するチャンスが巡ってきたのだ。


 それを無駄にするわけにはいかない。

 ゆっくりと、世界を回る旅をしたい。色々なものを見て、色々なところで美味しいものを食べたい。

 そう思い立って、私は旅を始めた。

 私の忙しないスローライフは、そこから始まったのだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここは山岳地帯にある小さな村。

 人口も少なく、今日はこんなにも日が照っているというのに息が凍るほど寒い。

 私は体を縮めて服の隙間から暖かい空気が逃げないようにする。


「ああ、ざむ゙い゙」


 私はおっさんみたいな声を出して喘いだ。

 何度も手をこすり合わせる。

 日差しが当たっている部分は温かい気もするのだが、寒い気もする。


 標高も高いらしい。街は見えないし、ほんとよくこんなところで生活しているな、と素直に尊敬する。

 魔王なんかよりも、よっぽど手強いだろう。でも、魔王は人類全体の存続をおびやかしていたわけだからな。


 あんまり思い出したくはない。

 当時は過酷だった。

 まあ、一旦昔のことは忘れて歩こう。視界には、村が映っている。そこには、信じられないけど上半身裸のムキムキのおっさんが斧で木を切っている姿が見えた。


 一瞬魔王が生き返ったのか、と身構えたが普通のおっさんだった。

 いや、普通ではないな。

 こんなに、私は寒いというのに。


 しかし、村の広場的な場所にいる数人の住民の服装はだいぶライトなものだった。

 私は、コートを3枚も4枚も重ね着しているというのに。


「ハア、ハア、あと少し」


 寒いところは食べ物が美味しい。

 その自らの経験に基づく理論だけを基に、ここまで歩いてきたのだ。

 でも、今まで色々な場所を旅してこの法則にだいたい間違いがないことはわかった。


 あと少しだ。


 それにしても、一歩一歩が重いし、寒いし、だるい。

 すると、まだ少し遠いが、こちらに気がついた女性と目が合った。そして、彼女が手を振りながら私の方に駆け寄ってきてくれた。

 ああ、女神だわ。

 私は、もう歩きたくなかったのでその場に止まって手を振った。


「あ、あ゙の゙、助けてくださ〜い」


 そう情けない声で叫んだ。

 すると、彼女はなにやらパクパクと口を動かしているみたいだ。

 私は耳を澄ました。


「あれ、おはよう。久しぶりじゃない?」


 何を話しているんだ、と思って彼女の方を見たら、私と彼女との間にもう一人別の女がいた。

 彼女はどうやらこちらに来てくれたわけではなかったようだ。家から出てきたばかりの女性と話していた。


 クソが、

 こっちは旅人だぞ。優しくしろよ。

 色々と旅を続けてきたけど、今のところあまりこの世界を好きになれそうではないな。


 まあ、いつか好きになれるように頑張るよ。

 私は気を取り直して歩き出す。


「あ゙あ゙、しんどい、」


 しんどいけれども、それでも、なんとか歩いて、それでさっき私のことを無視した女めがけて「お〜い」と声を飛ばした。

 彼女は、家から出てきたばかりの友達らしき人物と話していたみたいだったが、今度こそこちらに気がついたのか完全に目が合った。

 私はどうにか彼女のもとへたどり着いた。


「あの、旅の者なんですけど、入れてもらえませんか?」


 ああ、寒い。よく外で世間話ができるよな。信じられねえよ。

 私がそんなことを思っていると無視した女の方が「ああ、いいですよ。どうぞどうぞ」と私のことを受け入れてくれた。


 で、彼女の友達っぽい女も「旅人さんですか。大変だったでしょ?とりあえず、家に入ってください」と言って私のことを家に上げてくれた。

 友人と思われる女の家はウッドハウスで、以前に行ったことのある寒冷地帯のそれと酷似していた。


 が、こんな標高の高いところに木があるとは思えない。が、他の家も皆同じような見た目のウッドハウスだ。

 家の密集度はそれほど高くなく、家の数自体も少なそうだった。

 まあ、無駄に低いところから木を運んできているんだろうな。だから、こんな寒い中でも上裸で居られるくらい頭が縮んでしまっているのだろう。


 仕方のないことだ。


 というわけで、家の中はといえば、まあ外から見れば簡単に想像できる程度の面白みのない家だった。

 これなら、壁を全部取っ払って中身だけで置いておいても変わらない、とアドバイスしてあげようと思った。


「あの、居間に行ってください。火を焚べてあるので」


「あ、あ゙ざっず」


 そういって、私は小走りで居間に向かった。

 居間には、暖炉があって暖かかった。そこで、私は背負っていた荷物を下ろして何重にも羽織っていたコートを脱いだ。


「あの、そこに腰掛けてもらっていいですよ」


「あ、ありがとうございます」


 そういって、私は暖炉の目の前にあって燃えそうで非常に心配な椅子に座った。

 おそらく、骨格が木でできているのだが、その骨格を動物の毛皮で包んだ不思議な椅子だった。

 これは、今までの寒い地域でも見たことがないな。

 私は椅子に座って遠慮なく暖炉に手を伸ばした。


「旅人さんは、どこから来たんですか?」


 さっき家の主じゃない、つまり最初に私と目が合ったと思った女が反対側の椅子に座って話しかけてきた。


「まあ、王都の方から」


「ええ!!王都って、めちゃくちゃ遠くじゃないですか!!」


「その、なんか色々疲れたんで旅でもしようかなって思ったんですよ」


 彼女は口を手で抑えてから「そうなんですか」と言ってきた。

 そして、友人の方は「お腹とか空いてませんか?」と


 おっと、待ってました。


 そうですよ。


 私は子供みたいに「めちゃくちゃ空きました」と答えた。

 すると、二人は笑ってから「すぐに用意しますね」と言って友人の方が居間から出ていった。


「でも、疲れる気持ちもわかりますよ。村にいると、仕事ばっかりだし、こんな高いところにいても何も揃いませんから。ときどき、仕事とかほっぽりだして旅に出かけたくなったりしますよね」


 お前のと規模感を並べるんじゃねえよ、と心の中で毒づいたあと「そうですよね」と適当な相槌を打った。


「でも、皆さんそんな服で寒くないんですか?」


私がそう聞くと、彼女は不思議そうな顔で「今日は晴れてるんで温かいですよ。まあ、ここに住んでいればこのくらいはだいぶ温かい方なんですよ。冬は、外にいるだけで鼻の穴が凍ったりしますからね」と言った。


 適当に旅をしているとはいえ、まだ温かい方の時期に来れて良かったかもしれない。寒冷全盛の時期に来ていたらそれこそ、死んでいただろう。

 そして、私と彼女が色々と雑談をしていると、何やらいい匂いがしてきた。


「ちょっと、待っててください」


 そういって、彼女は部屋を出ていった。

 私は、もう一度暖炉に手を伸ばして温まりながら料理が運ばれてくるのを待った。


「ちょっと、寒いですけどこっちに来てもらってもいいですか?」


 部屋の外からそう聞こえてきた。本来なら「客人を動かせるな」と文句の一つや二つ言ってもいいのだが、私には不満に対処するための最善かつ最高かつ最効率的な方法を知っているのだ。


 そう、


 つまり、


 我慢するということ。


「あ、行きますね」


 そういって、私は荷物を背負って脱いであったコートを腕やら脇に挟んで移動した。

 彼女たちの声が聞こえたほうに行くと、より匂いが強まってきた。

 しかし、寒さで麻痺しているのかいまいち何の匂いなのかはわからなかった。

 ただ、直接空腹のレバーをガコンと引いてくるような、そんな匂いだ。


 一応もう一度言っておくが、具体的に「こういう匂い」っていうのはよくわからないのだ。というか、そういうのが苦手なんだ。その、言葉にするのが。言語化っていうの?


 ていうかさ、そもそも食べ物の味を言葉で表現するのって必要なのかな?その「濃厚でクリーミーで」とか一緒に食べている人が言っても「黙れ。静かに食わせろ」としか思わないのが私だ。

 静かに、ゆっくりと食べさせてくれ。感想を聞きに来たんじゃない。それに、食事中に喋るなんて、はしたないし行儀が悪い。


 私は荷物を部屋の端っこに置いて椅子にちょこんと座った。

 それで、私が椅子に座って足をプランプランとさせて待っていると、何やらスープのようなものが届いた。

 寒いときにはもってこいだな。


「どうぞ、熱いから気をつけてくださいね」


 すっかり三人で食べるのかと思っていたが、彼女たちは私にスープの入った器を差し出した後、私の向かい側の椅子に座った。

 わざわざ、私のためだけに作ってくれたみたいだ。

 彼女たちに見られながら食べるのは若干気まずいが、私は「いただきます」と小さくつぶやいて、器を持ち上げた。


 しかし、中に入っている具材はどれも見慣れぬものばかりだ。赤い汁に、野菜は根菜のようなものが多かった。それと、このもちもちとしたものは、・・・高山地帯だし芋で作った餅とかそこらへんだろうな。

 それと、肉、・・・羊とかそこらへんか?

 あんまりわからなかったが私はとりあえず器に口をつけてスープを一口飲んだ。


「ああ、美味しい!」


 私がそういうと二人は「良かった!」と言ってパチパチと小さな拍手をして喜んでいた。


「あの、なんていうんですかね。しょっぱくて、そんで、なんていうんですかね、すっきりとした感じというか、しょっぱいけど酸っぱさもあって。それで、すうっとする感じ?鼻から抜けるみたいな、そんな感じです。これって、なんですか?」


「その、ここらへんで取れる岩塩を入れただけで、あとはその中に入ってる野菜とかの汁ですかね」


「美味しいですよ」


 そういって、私はスプーンで具をすくいながら残りもすべて飲み干してしまった。


「ありがとうございます。ごちそうさまです」


「それなら良かったです」


 なんていうか、

 こう、自然を飲み干している瞬間みたいなのがいいんだよな。

 いっつも、生きてる動物も植物も臭いし汚いし嫌いなのだ。


 自然の景色を見て「なんか、雄大でいいよね」とかいう連中の気が知れない。

 こうやって、自然を鍋に煮詰めて飲み込む、これこそ至高の優越感じゃないか。

 自然を支配している優越感こそ、食事の醍醐味だ。


「まあ、ゆっくりしていってください」


「いや、大丈夫ですよ。世界は広いですから、あんまり長居する暇もなくて、」


 スローライフとはいえど、私は世界の色々なところを見て回りたい。

 スローライフを送るためには、一分一秒時間が惜しい。


「そうなんですか」


「すいません。急にお邪魔しちゃって。あ、何か手伝ってほしいこととかあったらやっていきますよ」


 だいたいこう言えば「いやあ、大丈夫ですよ」と言ってもらえる。ということで今回も予想通りのリアクションが返ってきたので、そのまま帰ることにした。


「次は、どこに行くんですか?」


「まあ、そうですね。温かいところがいいですかね」


 そういって、私は軽く笑った。


「それでしたら、ここらへんは寒いですけど、山を降りれば結構温かいですよ」


 すると、家主の方が「そういえば、そこで勇者が世界を救った記念の祭りがそろそろ開かれるとか」と言った。


 勇者か。

 大変だったな、あのときは。

 懐かしい。

 もう、そんなにも時間が経っていたのか。


「そうなんですね」


「美味しいものも沢山食べられると思いますよ」


「じゃあ、そこにでも行きますかね。ありがとうございます」


 というわけで、私は二人に手を振って村をあとにした。

 私は人類を救ったんだ。まあ、誰も知らないけど。

 家に泊めてもらうことくらいではまったく釣り合わないってものだ。


 それにしても、外は非常に寒い。

 相変わらず、上裸のおっさんが薪割りをしていた。

 見てるこっちが寒くなってくる。勘弁してほしいものだ。

 私は、そんな男を薄目に山を降りた。

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