第17話 潔癖
魔王城にだいぶ近づいた今日この頃、
俺は、まったく彼女との心の距離を詰められた気がしません。
「ああ、ちょっと、どうにかして!!」
前は、パワフルに逃げ回っているだけだったので、多少は可愛げみたいなのが出てきただけかもしれませんが、それでもこのままでいいのでしょうか?
もう、魔王と戦うまで時間もありませんよ?
このままで、いいんですか?
「ああああああああ!!!あっ、・・・・・やっぱり大丈夫」
またもや、彼女は魔物に追われていたのだが、結局は自分でやっつけて終わった。
俺は、そんなに自然が嫌ならもっと違う道を歩けばいいんじゃないか、と言ったが彼女は、それでは自然に負けた気がするから嫌だ、と言ったのだ。
ほんと、よくわからない。
「魔王まであとどのくらいなの?」
「わからないね。キミがもっとペースを守ってくれればもっと早く着いたんだ。走ったり歩いたりしていたら、逆に遅くなるもんだよ」
俺がそういうと彼女は「あっそ先行くわよ」と言って言葉の通り先に行ってしまう。
なんでなん?
「そういえばさ、」
だいぶ先を歩いているのに、彼女は俺に話しかけてきた。仕方ないので俺は走って彼女を追いかける。
そして、横に並ぶ。
「なんで勇者になったの?」
「ああ、理由ってこと?でも、そういうのは宮殿で働いていたキミの方が詳しいんじゃないの?」
「私、宮殿のことなんてなんにも知らないわよ」
まあ、俺も宮殿に呼ばれたときに彼女が自分の召使い以外と喋っている場面はほぼ見かけたことがなかったからな。
「それは、王様に呼ばれたんだ。俺のいた村に、ものすごい力を持った少年がいるっていう噂を聞いたから、いくらでも払うから城に来てくれって」
「そうだったの?ていうか、私はあんたのことそこまで強いって思ってないんだけど」
結構、城の中でも力比べとか腕試し的なことに私は使われてきていたと思うのだがな。
まあ、彼女の性格を考えれば交友関係も狭いのも納得だけどな。
「俺は強いよ。村にいるときから、強かったんだ。理由はわかんない。両親も普通の人だ」
「へ〜。・・・村にいたときはどうだったの?」
急にどうしたのだろうか、
まあ、別に村に居た頃の話なんていくらでも彼女に聞かせてもいいのだけれども。
「別に、村にいるときは力持ちだったから、皆に色々手伝ってほしいとか言われたり、・・・別にキミが興味を持つような話はないよ」
「ふ〜ん」
よくわからないけど、彼女は魂が抜けたみたいな顔で俺の話を聞いていた。そんな顔をされたら、話しているこちらが不安になってくる。
「え、じゃ、じゃあ、なんで城に来たの?」
「・・・・・だから、呼ばれたから」
「あ、そっか、・・・え、」
なんだろうな、
話すことが見つからなくて無理やり話題をひねり出しているようにも見えるし、何を話していいかわからなくて困って焦っているようにも見える。
「そのさ、なんでそんなに強いの?」
「あ〜、なんだろうな?たまたまとしか言いようがないけどな」
「・・・そうなの?」
確かに、俺ってなんでこんなに強いんだろうな?
あまり考えたことがなかった。俺は、生まれたときから強かったし、俺よりも強い人が城にいるのかと思ったけど、いなかった。
でも、軍隊の中で戦うっていうのは苦手だったし、命令通り動くのも苦手だ。それだと、あまり力を発揮できない。
「こないだあげたお守りって、ちゃんと持ってるよね?」
「そりゃ、キミからもらったものなんだから大事に持っているさ」
「・・・良かった」
なんだろうな、
いつもの彼女があまりにも出てこないので、俺もなんだかドキドキしてきた。
「・・・わ、私さ、あんたのこと守る・・・から、」
俺はすっかり「キミに守られるほどじゃないよ」と答えようとしていたのだが、なんとか思いとどまった。
これ、そのまま口に出していたら危なかったな。
俺は彼女のことを優しく見つめて「ありがとう」と言った。
でも、俺はもちろん彼女のことを魔王のところに連れて行くつもりはない。
この力は、俺が魔王を倒すための力なんだ。
決して、キミを守るための力ではない。それに、力があったってキミを守れるとも限らないからな。
それにしても、俺が彼女に「ありがとう」と言ってから明らかに彼女の歩く速度が上がった。
「ちょっと、待ってくれないかな?ただでさえ、キミは野宿しようとしないから俺は疲れているんだ」
「こんなところで寝たら汚れるわ。私とあんたは違うの」
「もうちょっと、他人に合わせてみてもいいんじゃないか?」
「別に、合わせる必要なんてないわ。こっちは、あんたたちの考えていることはちゃんとわかってるのに、そっちが理解不能だとか意味不明だとか思って理解しようとしないんじゃない」
まあ、そう言われてしまえばそうなのだが、
別に俺がいくら価値観を押し付けようがキミは気にしないだろ?
勘弁してくれよ。
「・・・前も言ったけどさ、俺はキミのことが好きだよ?」
「・・・いちいち言わなくていいから、」
どういう気持ちなんだろうな?
了承なのか?
「・・・好きなら、魔王となんか戦わなくてもいいんじゃないの?ていうか、私が一人で魔王なんて倒しに行ってくるわ」
「だから、キミは潔癖なんだ。魔王と戦えるはずがない」
俺がそういうと、彼女は俺の腹を思い切り殴ってきた。
「ゴホッ、」
俺は、さすがの不意打ちには耐えることが出来ずにその場に膝をついた。
「・・・汚いから、自分で立ち上がって」
ほんと、優しくしてくれよ。
まあ、俺はなんとか立ち上がる。
これでも、勇者だからな。
「・・・そんなんで勝てるわけ?」
「勝てるよ。さっきも言った通りだよ。力には、それなりの責任ていうのがつきまとうからね」
俺がそういうと、彼女はなぜか俺とは真反対を向いて「そんなの、普通すぎるわ」と言った。
「いいじゃん。俺は、キミのことは例外だけど、普通のことが好きなんだ。この世界も、俺の育った村も両親も、城に人たちだって田舎者の俺に優しくしてくれた。なんなら、キミが一番優しくなかったくらいだよ」
まあ、半分冗談のつもりで言った。気持ちとしては、まったくもってその通りなのだがな。
でも、彼女は反対を向いたまま「私が、普通になってもいいの?」と聞いてきた。
「別に、それでもいいけど、・・・どういうことなんだい?」
俺にはよくわからなかった。
普通になる。
でも、それって俺の当初の目的というか、彼女みたいな子をどうにかわからせたい、という俺の願望に直結する話じゃないか?
今更ながら俺は当初のこの旅の目標を思い出した。
でも、今思えばさっきは「それでもいいけど」みたいなことを言ってしまったが、彼女は今のままだからこそ彼女なのかもしれないな。
彼女は、依然顔を俺からそむけたままだった。
「な、なあ、俺にもキミのその可愛い顔を見せてくれよ〜」
いつもはそんな感じじゃないけれども、俺はそんなことを言ってみた。
「そ、そんなことより早く行くわよ」
そういって、今度は前を向いてまた足早に進み始めた。
よく、寝ても居ないのにそんな体力があるものだ。




