第16話 勇者の物語
「おい、お前が魔王か?」
「お前が勇者か、何をしに来たんだ」
壇上の役者が、聞くに絶えない言葉を発する。
演技は、あんまりわかんないな。ていうか、あんまり顔が良くないし、演技をやりたい金持ちが勝手にやってるんじゃないか?
「私のこの伝説のデフィネストレーション剣で、お前を粉々にしてやる!!」
「やれるもんなら、やってみろ!!」
そういって、どすどすと役者が舞台の上を走っておもちゃの剣を交えている。
戦士の私からすれば、ほんとお粗末な動きだし、かっこよさもない。大振りに剣を振って、それが約束事なんだろうけど、嘘らしさをまったく消さないままぶつかるのだ。
まだ、小さい頃に見せられた寿命の短いワニの話の方がよっぽど面白かった。
それに、相変わらず勇者の旅に私は、出てこなかった。
ていうか、私がもっとアピールしておけばよかったんだわ!!
しかし、隣にいるアダムは失禁しそうなくらいブルブルと震えて感動していた。
ずっと言葉にならない「うう、」だったり、「あは、」だったりと言った声を出していた。
すると突然、舞台の袖から女が出てきた。
そして、魔王役が手を剣を振り上げたところを、自分の身を呈して受け止めたのだ。
「レイン!!」
今、レインって言ったか?イレインって言ったのか?
・・・・・。
ちょっとまて、これ本当じゃないよな?もしかして、勇者は私を残して魔王城に行ったのは、浮気していたから?
でも、さすがにあんなに一緒にいたのに浮気をするのは不可能じゃないのか、
「おい!!おい!!何をしているんだ?」
勇者役が棒読みでそんなことを言った。
ていうかさ、さっきまでの旅の場面でこんな女一度も出てこなかったぞ。
「はは、他人を庇ってなんになるというのだあ!!」
「俺は、お前を許さない!!地獄に叩き殺してやる!!」
落とさないんだ、と思いつつも私は必死に考えたのだ。
え、私勇者に浮気されてたの?
嘘でしょ、
思わず、私は隣に座っているアダムの手を握った。
「あ、いででででででででっ!!」
彼女が小さく叫ぶ。
少し強く握りすぎてしまったかもしれない。私は彼女の手から自分の手を離す。
「す、すいません、」
これは、真実なのか?
おい、どういうことだ?
レイン?そういえば、私は勇者から名前を言ってもらったことがなかった気がするな。
ただ勘違いしていただけか?
でも、普通に考えたらこの演劇に勇者本人は何も関わっていないはずだ。
適当に作りやがったな。
というわけで、物語はクライマックスだったので、そこからは勇者が魔王を倒して終わった。
そして、物語はそこで幕を閉じたのだ。
女が何者だったかわからないし、勇者は魔王を倒したあとどうなったかわからない。
隣ではアダムが「ほんと、健気な女の子でしたね」とどう考えても感情移入できない最後のぽっと出てきただけの女の子に感動していた。
「ていうか、イレインさんは最初の方寝息がうるさくて、」
「・・・え?」
「チケット?ていうんですか?入るために必要な紙を買って、椅子に座ってすぐに寝てしまったんですよ」
完全に記憶になかった。
記憶になかったということは、寝ていたんだろうな。
「あ、すいません、」
「いやまあ、全然いいですよ。ほんと、こんなの見れると思わなかったので、私感動しました!!」
まあ、良かったのか。
いや待て、私はこの脚本家に用事がある。
「あ、あの、トイレ行ってきてもいいですか?」
「といれ、・・・・ああ、いいですけど、どこなんですか?」
「あ、向こうの方です」
「向こうの方?」
「すいません、もう漏れそうなので」
そういって、私はダッシュで先程の劇場の裏口に向かった。
劇場の裏口から忍び込む。すると、楽屋のような場所で先程の演者たちがワイワイ騒いでいた。
私は楽屋らしき場所の入口で耳を澄ます。
「いや、さっきの演技良かったね」
よくねえわ、ボケが。棒読み野郎が。
「ちょっと、ここ変えたいと思うんだ」
というわけで、私は楽屋に突撃した。
「あの、すいません!!」
突撃したところで、私は勇者に言われたことを思い出して、いつもの私に戻す。
・・・
今思えば、私って結構嫌われていたのかな、
そういえばそうじゃんね。普通、好きな人に「もっとちゃんとしようよ」とか言わないもんね。
世界が崩れていくような、
彼が愛してくれていた私が、どんどんとわからなくなってくる。
あれ?
「あの、脚本家の方に話を聞きたくて」
すると、脚本家らしきちょび髭の男が「・・・イレインか?」と私に聞いてきた。
私はちょび髭の顔をしっかりと見つめる。
「・・・王子、ですか」
実に、見覚えのある顔だ。私の主である、第十二王子のハルクベスだった。
昔は、ぽっちゃりした勘違い野郎だったけれども、今は痩せていて、薄緑色のメガネをかけている気持ちの悪い男になっていた。髪も、芸術家の被る白いロールを巻いたかつらを被っているみたいだ。
「・・・キミ、こういうの好きだったの?」
「いや、勇者の話っていうから見に来たんですけど」
私がそういうと、勇者役が「座長、知り合いですか?」と尋ねていた。
「いや、元々部下だったというか、」
「ていうか、王子こそなんでこんなところにいるんですか?」
すると、王子は鼻の下を掻いてから「その、俺には全然王位継承の権利がなかったから、こっちの道に進もうと思ったんだ」と言った。
まあ、なるほど。
この街では、発展した技術を駆使してこういう芸術も発展しているみたいだからな。
確かに、第12王子だったのだ。私も、当時は何の疑問も持ってなかったと言うか、自分の強さをかなり過大評価していたからランダムなんだろうな、と思っていたが、騎士が1000人くらいいる中で第12王子を任されるというのは、ものすごく不名誉なことだなのだ。
「・・・あ、そうですよ、なんですか、さっきの物語?それに、最後に出てきたのって私ですか?」
「いや、まあそのつもりではあるんだけど、そのな、作劇上、もっと盛り上がりが欲しかったんだ!!お前が死んでないのはもちろん知っている。それと、あまりキミの名前を晒しても良くないと思って名前は変えておいたんだ」
私なら良かった。さすがに、あんなに一途な彼が浮気をするわけがない。
「ていうか、お前がいるなら早い。ちょっと、家に来てくれよ」
「・・・狙ってるんですか?」
「お前殺すぞ、俺にも選ぶ権利はあるし、お前とは一晩だって無理だ。お前のことが好きなのは、あの勇者とかいう物好きな田舎者だけだ」
またまた、強がっちゃって。
私はこんなに美しいんだし、今となってはおしとやかさまで身につけたんだ。
「俺は、旅の途中の話を聞きたい。お前が宮殿の騎士を辞めるって言ったときは、まだ俺は王子だったからな」
「・・・え、私の話を書いてもらえるってことですか?」
「俺も、もっとリアルを追求したいんだ」
リアルを追求したい、という至極普通かつ平凡かつ無味無臭な探究心はどうでもいいが、私の物語を書いてくれるとなれば話は別だ。
私は、私の名を冠した祭りを開かれたい。
この前のひねくれジジイには、たまたま愛してくれる人がいたからよかったものの、私にはもういないのだ。ならば、それ以外に私の物語に魅力を感じて、私を愛してくれる人が必要だ。
「え、っじゃ、じゃあ、いいですか?あ、そういえば一人付き添いの人がいるんですけど、」
「・・・ていうか、お前そんな喋り方だったか?」
他の役者たちは、私たちが勝手に話しているので帰ってしまったみたいだ。
「いや、まあ、違いましたけど」
これは、勇者に矯正された喋り方だからな。
「まあ、なんでもいい。俺は、前よりも金持ちになったんだ」
しかし、これは思わぬ出会いだな。
彼の下で働いている頃は、別に毎日になんの刺激もなかったし、将軍である父親から「もっと訓練をしろ」と言われてとりあえずトイレにずっと籠る、みたいなのをやっていて一日潰していただけだったしな。
それに、私があまりにもモテるから友達がいなくて、
そういえば、勇者くらいだったな、私にときどき話しかけてきてくれたのは。
「え、じゃあお願いします。もう一人も連れてきますから」
私は楽屋を出て、アダムを待たせている場所まで戻った。




