第15話 人に優しく
工場の立ち並ぶ街を抜けると、確かに先程までとはまったく違う光景が広がっていた。
豪華な建物がずらりと続けて建っている。
白くて清潔感のある、自然の中にはない純粋な色の建物だ。
「ていうか、お名前を聞いてもいいですか?」
「私、アダムっていいます」
「私はイレインです。その、ああ、・・・女性ですよね?」
「名前ですよね。あの、親が生まれたのがどっちだとしてもいいようにってアダムって名付けてくれたんです」
どっちが生まれてもいいようになってないじゃん、と思いつつも「素敵ですね〜」と適当に合わせておいた。
「いや、この街も金持ちが来て、金持ち用に新しく作られたんですよ」
まあ、さっきからこの街のいやらしい歴史が垣間見えて仕方ない。
「ほんと、私こんな祭り一生参加できないって思ってたんですよ」
一個言うけど、私あなたに金を払って私が払ったがわなのにあなたの案内をしているわけよ。
わかっているのかい?
「まあ、いいですよ。でも、祭りってそんな大層なものでもないですよ」
この豪華な方の街では、そこら中にランプが紐のようなものに釣る提げられていて、おそらく夜でも明るくなっているのだろう。
それに、遠くから綺麗な金管楽器の音が聞こえてきた。
私がその音の鳴っている方に行くと、そこでは合奏団の演奏に合わせて豪華な服を着た人たちが踊っていた。
「あれってなんですか?」
「あれは、踊りというか、まあ踊りなんですけど」
彼女が何を聞きたくて私に質問をしてきたのかいまいちわからなかったので、私は曖昧な答えになってしまったのだが、彼女は「つまんなそうですね」と言ってきた。
ほんと、
こういうやつは自分が理解できないものを見たときに「つまんない」とか「本当に楽しいの?」とかクソみたいなことしか言わねえんだよ、クソが。
もっと、興味持てや。それに、私が金払って連れてきてあげてるんだからいちいち気分を下げるようなことを言うな。
でも、興味がないのは私も同じだったので、とりあえずアダムに「なにか、食べ物でも食べますか?」と聞いた。
すると、彼女は「いいんですか?」と言ってまたもや目を輝かせてきた。
「いいですよ。そんなに、高いのじゃなければ」
というわけで、私たちは演奏と踊りを横目に彼らと比べればだいぶお粗末な格好をしているのだけれども、あまり目立たないように通り過ぎて、こっちの街の中心にあるという噴水広場に向かった。
噴水広場には、噴水の気持ちの悪い、汚い水が飛び交っているというのに露店が色々と出ていて、そこで買った食べ物を食べるための机や椅子が沢山置かれていた。
が、座っているのはやはり上流階級と思われる人たちだけだ。
一応、私はアダムに「どこに並びたいですか?」と聞いてみた。
「え、こいつらと一緒に食べなきゃいけないんですか?」
「ま、まあ、端で食べてもいいですけど」
よくわからないこだわりだ。
そもそも、こういうのに憧れがあるからこんなところに来たんだろ?馬鹿なことを言ってるんじゃないよ。
「じゃ、じゃあ、とりあえず肉が食べたいです」
「じゃあ、あそこの赤い旗の立っているとこに並びましょう」
というわけで、久しぶりに私は列に並んだ。
前にいる貴婦人が、パタパタと扇子で顔を仰いでいる。特に暑くもないが、そういう癖なんだろう。それに、化粧の粉で顔が真っ白になっている姿は非常に好感が持てる。顔を絶対に外気に晒さない、という健気な努力が見えていい。
だが、そういうのを勇者に言ったら「俺ですらキミの言っていることのほとんどには共感できないから、あんまり人前で言わない方がいい」と言われたのだ。
ほんと、彼に今の私の姿を見せてあげたいな。
当時から、どれだけ変わったことか。
まあ、手遅れだろうという意見は一応受け止めておくけど、でも、やっぱり今でも彼のことが忘れられないからな。
横にいるアダムはキョロキョロと周りを見回している。
そして、ようやく私たちの番になったので、私は二つ注文した。
肉に直接チーズを溶かしてかけたものだ。名前は知らないけど、おいしくないわけがない。人間が自然をぐちゃぐちゃにしてんだから、たとえ美味しくなくても食べないわけにはいかないのだ。
しかし、値段もそこそこする。二つ合わせてさっきの宿代の半分くらいだ。
ため息交じりに、私は金を屋台にいたがたいはいいけどきちんとした白い服を来ているシェフに渡した。
それは木の皿に乗っているので、それをアダムにも渡した。あと、フォークも。
「なんですか、これは?」
「まあ、肉に乳製品を加工したやつをかけたもんです。とりあえず、食べてみてくださいよ」
果たして、その説明で合っているのかわからないが、とりあえず彼女は私の話など聞く前にそれをフォークで口に運んでいた。
「熱っ、でも、美味しい!!」
喜んでいるみたいだ。それならいいさ。
私も、同じくそれを口に入れる。
やはり、熱いけれども熱くないと意味がないからな。肉は、おそらく豚だろうな。
「ああ、美味しい!!いや、濃厚なチーズと肉の油が、ものすごいんですけど、油の暴力っていうか、なんかすごいっすよね。とりあえずこのチーズの塩味も強いからいいし、肉からしたたるこの油も、おいしいし、もう無限に食べられますね!!」
「・・・何を言っているんですか?」
いけないいけない、
勇者に「もっと感情豊かに食べてみたら?」と言われてから、逆に意識しすぎて癖になってしまったのだ。
「あ、すいません」
そういって、私はまたそれを口に運ぶ。
それにしても、高級品というのは量をわきまえているのですぐに終わってしまう。
「次、何か食べますか?」
「え、まだいいんですか?」
ちょっと待て、そういえばそうじゃないか。
かなりの出費だぞ?それに、この肉は貧乏人の食事の何日分になるのだろうか。
こんなの一口あ〜んって食べさせりゃ十分だったのに、無駄に買い与えてしまって。
「あ、なんか他にも演劇とか見てきますか?」
ちょっと待て、
演劇は普通に食べ歩きをするよりよっぽど高いではないか。
本心で会話をしていないから、口から出る言葉がミスり続けている。
「え、私、ずっと見てみたかったんです!!」
そういってアダムが私の手を強く握ってきた。
「・・・グスッ、さっきはずい゙ま゙ぜん゙、・・・グズっ、私、生まれたときから貧乏だし、魔王軍が攻めてくるしでろくな生活を送ったことがなかったんです。だから、前のオーナーに拾ってもらって、一生かけて恩を返そうって思ってたんですけど、すぐに亡くなってしまって、それで、でも人生でもう一回こんな親切な人に出会えるとは思ってませんでした!!」
そんな、
褒めたって何もでてこないですよ!!
「あ、てめえの話は聞いてねえんだカスが、貧乏人が!!」
あっ、
私は急いで口を抑えた。
まずい、心の声と口に出す言葉が逆になっていた。
彼女の表情を確認する。彼女はポカンとした顔で「メルカトル図法?」と言っていた。
何をどう聞き間違えたらそうなるのかわからないが、まあ良かった。
・・・
はあ、
連れてってやろう。勇者にも、私がこんなにも親切になったんだよってことを教えてあげよう。
というわけで、私はこの街のどこかにあるであろう劇場を探すことにした。




