第14話 私と祭りを
宿の扉を開けて中に入ると、中は薄暗く、ジメジメとしていた。
そして、受付にいた私と同じくらいだと思われる女性に話しかけた。
「あの、泊まりたいんですけど」
「・・・祭りに来たんですか?」
「いや、まあ、一応」
「・・・チッ」
え?今、舌打ちされたよね?
「何日泊まるんですか?」
「一日だけ、」
「じゃあ、金は後払いだから」
怪しいな。
普通は、客に逃げられないように先払いにするのが主流なのだが、後払いさせようとするということは、ぼったくろうとしているんじゃないか?
「・・・いくらですか?」
「それはさ、あんたがいつこの宿を出るかで変わるじゃん」
「そしたら、延長料金みたいなのを払ってもいいですから、先に教えてください」
すると、またもやこの性悪女が舌打ちをして「こんくらいですよ」と言ってきた。
ふむふむ、
めちゃくちゃ高いじゃねえかよ。
「これ、ぼったくりですよね?」
「金持ちでしょ?祭りに参加するってことは?じゃあ、そのくらい払ってくださいよ。私たちがどんだけ貧しいかわかってるんですか?」
金持ち、というのはあまり否定できない。
が、なんでこの女は態度が悪いのだ。私は、勇者の恋人であり、勇者が唯一愛した女なんだぞ。
そんでもって、勇者の影で世界を救うのに貢献してきたのだ。
所詮は、こいつも自分の個人的な不満を仕事及び対人関係に持ち込む逆輸入野郎だ。
あまりにもしつこいようなら、指に一本や二本折ってやろう。
「その、私はよそから来たんですよ。王都から来たので、」
「金持ちじゃん。金払ってけや」
「いや、私は別にあなたの生活が貧乏なのとはまったく関係がないですけど、」
「とりあえず、うるさいから部屋に入ってよ」
「じゃ、じゃあ、せっかくだし色々と教えてくださいよ。この街のことを。そしたら、払ってあげますよ」
彼女から提示された宿泊料は、普通の善良な宿なら一週間くらいは泊まれる値段だった。
ひどいもんだが、正直旅の半分以上を林道を歩くことで浪費している私にとって、それに、魔王を倒すのに貢献した私にとってはそこまでの大金ではなかった。
せっかくなら、この街のことを色々知っておきたい。
勇者が守った平和なのだ。彼の好きだった世界のことは、色々と知っておきたいからな。
「先に払ってください。話すくらい別に後も先も関係ないでしょ。あとで返してとか言わないでよね」
「はいはい、」
本当なら、思い切り脳天をぶん殴ってやりたいところなのだが、私はそれをぐっとこらえて彼女に金を差し出した。
「あ〜、はいはい。んで、何が聞きたいの?祭りのことは、知らないからね」
「ここは、技術の発展がすごいって聞いたんですけど」
「あ、そういう話?あんまり知らないわよ」
「とりあえず、知ってることを教えてください」
というわけで、そこからはロビーにあった椅子に座り、彼女の話を聞くことになった。
「元々、この街は魔王軍と戦ってて、それで勇者が魔王を倒してからこの焼け野原となっていた土地を金持ちが買い占めたんです。そして、そこで色々と実験やら開発が行われて、いわゆる魔力機関っていうのが出来ました」
魔力だ、
また、馴染みのない話だ。
「私は、この街に住んでたんです。魔王軍の攻撃を受けていたときもここに住んでたんです。もう、大人でしたし。そんで、急に金持ちが来て、私は家を追い出されて、工場が立ち並んで、従業員の住む場所がどんどん建って、私はそのときはずっとこの近くの川辺に住んでたんですけど、今はようやく仕事をもらえたんで」
と、私の聞いていない自分の過去まで勝手に語りだしたのだが、まあ歴史もだいたいわかったからいい。
なるほどな。
まあ、同情に値する過去があったわけだ。
「で、この街の地図とか見ましたか?」
「あ、見てないんですけど」
「せっかくだし、見せてあげますよ」
そういって彼女は受付の机の引き出しから大きな地図を取り出した。
それを机の上に広げて、彼女はとある一点を指で指し示した。
「今、この宿はここにあって、宿場町を超えて北に行くと、もう一個別の街があるんです。まあ、同じ街なんですけど、全然違うので別の街って思ってもらったほうがいいです」
彼女が指を指した場所の上には、確かに同じ様に区画が整備されているのだが、圧倒的に道幅が広いみたいだ。地図を見る限りは。
「だから、祭りに行きたいなら、北に行ってください。労働者は貧乏人には、祭りなんて関係のない話です」
なるほど。だから、ポスターだけ貼ってあって、人の騒ぎとかが聞こえなかったわけだな。
それに、工場はお祭りの最中でも稼働しているみたいだ。
「この宿だって、あんたらみたいなケチしか泊まらないんですから」
別に、ケチだからなんだというのだ。
だって、仕事に見合った金はもらえなかったのだ。まあ、それなりの金はもらったけどな。
「別に、祭りはあんまり好きじゃないです。でも、ここらへんは工場しかないんですか?」
「そうです。あとは、食料品店みたいなのはあるけど、ろくなものが売ってないですから」
「そうなんすね」
すると、彼女の目線が私の腰に刺していた短剣に移った。
そして、「もしかして、殺し屋の方ですか?」と言ってきた。
「いや、違いますよ。別に、旅人というか」
「旅人さんでもいいですよ、この街のやつら全員殺してくださいよ〜、私、もう
限界ですよ」
勇者よ、これがあなたの守った平和ですよ。
「だって、ほんと運が良かったんです。元々のマスターが親切な人だったので。でも、そいつの娘になってから、まあ息子じゃなくてよかったな、とは思ってますけどろくな給料をもらえないし、色々設備とかも新しくしてほしいって言っても聞いてくれないですから。変な傭兵みたいなのだけ雇って金を取りにくるんですよ」
「そ、それは、大変ですね〜」
私は、あんたの不幸話には興味がない。
ほんと、どいつもこいつも自分のことばっかり喋りたがるから、クソだわ。
でも、そっちの金持ちの祭りというのは正直行ってみたいわ。
やっぱり、礼儀も品性もない庶民と一緒に祭りを楽しむっていうのは、宮殿育ちの私には結構難しいことなの。
「あ、そうですよ。そんな剣持ち歩いてるなら、このお金渡しますから、殺してきてください。とりあえず、ここらへんの工場経営者を片っ端から殺してくださいよ!!」
そういって、彼女はさっき私が渡したばかりの金を見せてきた。
それ、私のだから。
「いや、さすがにね」
「じゃ、じゃあお金をください!!苦しいんです!!貧しいんです!!私も、祭りに参加してみたいんです!!」
「祭りに参加したいんなら、いいですよ。連れて行ってあげますよ」
私は、なんとなくそんな言葉を口ずさんでいた。
すっかり、勇者と出会ってから人に優しくなってしまった私にふさわしい言葉だ。
本当なら、こんな庶民とは関わらないのが私流だったはずなのに。
私が彼女のことを誘うと、彼女は目をギラギラと輝かせてから「いいんですか?!!」と顔を近づけてきた。
「まあ、いいですよ、別に」
というわけで、私はなぜかこの女と祭りに行くことになってしまった。




