第12話 プレゼント
「あの、泊めてもらえますか?」
ようやく街にたどり着いた。
昼間なのだが、やけに静かだ。それに、ここは寒いな。でも、俺の生まれた田舎もこんなもんだったか。
「ああ、えっとお二人ですか?一部屋空いてますよ」
一部屋か。
まあ、いいような悪いような、
「じゃあ、そこで」
それにしても、イレインはどこに行ったのだ?と思ったときにだいたい彼女は井戸で必死に手やら顔やらを洗っているのだ。
まあ、仕方のないことかもしれないけど、やっぱり勘弁してほしいな、と思わざるを得ない。
というわけで、俺は宿の裏に彼女を迎えに行った。すると、案の定彼女は顔を目や鼻がもげるんじゃないか、というほど強くゴシゴシと洗っていた。
「あの、部屋一緒だけどいい?」
「・・・へ、」
彼女がくるりとこちらを振り向いた。
「部屋俺と一緒だから、」
すると、彼女はすうっと目を横に泳がせながら「・・・まあ、いいけど」と言った。
意外だな。
もっと、「汚い人とは一緒の部屋は無理」とか言われると思ったのだが、
ていうか、森があんなに嫌いなのになんで彼女は俺についてきてくれたんだろうな。
まあ、俺も彼女に一目惚れしてから一緒に旅を始めるまで彼女の潔癖なんて知らなかった。
「変なことしないでよね」
そんなのは、俺のポリシーに反するからな。
キミの方からしてこようとするまで俺は手を出さないさ。
「大丈夫だって。キミこそ、吐いたばっかりなんだからちゃんと綺麗にしてくれ」
「何を言ってるの?私の口から出たものが汚いとでもいうわけ?」
「そうだよ」
「そ、そっちだって気持ち悪くなることくらいあるでしょ?」
「別に、俺は汚いと思って吐くからいいんだ」
「なによ、それ」
ていうか、自分のゲロだって汚いと思うのは当然だと思うのだが。
「まあ、いいわ。とりあえず一緒の部屋なのね」
「そうだよ。もう、気持ち悪くないんだよな?」
「ここは街なの。自然がないから、気持ち悪いわけがないわ」
そうはいっても、街だって汚いと思うのだがな。
むしろ、街の方が汚いと思うのだが、俺がおかしいのかな?
まあ、彼女とは何を話していても埒が明かない。
というわけで、俺達は宿の部屋に入った。部屋は狭かった。ベッドが二つあったけれども、部屋の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれている感じだ。
「広い部屋ね」
彼女はそんなことを言いながら、俺を部屋の隅に押しやってくる。
「狭いじゃないか。俺達と荷物とこのベッドで、こんなにぎゅうぎゅうなんだぞ!!」
「だから、あなたみたいな普通の感性しか持たない人には何もわからないわ。ほんと、ついさっきまでどこ見ても木ばっかり、道を歩いてても、山があれば土があれば小石があれば、自然にぎゅうぎゅうに囲まれて気持ち悪かったのよ!!ほんと、ここには自然がなくていいわ」
彼女は自然以外には囲まれない、ということか?
いまいち、わかりかねる。
俺はとりあえず、荷物をベッドの上に乗せた。
「とりあえずさ、来月くらいには魔王城に行きたいから、早く寝て明日出発しよう。それまでは、お互い自由時間でいいから」
俺も、元の純粋な恋情を思い出すためにも一度彼女の下を離れたかった。
その、彼女に対する恋心が消えることがない、と言っても彼女に対する嫌悪感が恋心を上回る可能性はある。
「あ、そう。じゃあ、私街を見てくるわ」
「そうかい」
俺が無愛想にそう返すと、彼女は一瞬こちらを見つめたあと「じゃ、行くから」と言ってどこかに行った。
まあ、俺も街に行くつもりなんですけど、まあ定番のデートみたいなのはまた今度やればいいさ。
なんにせよ、魔王が王都に攻めてくるまで案外時間がないからな。
早めに出発したとはいえ、俺が魔王城にたどり着く頃には彼女には王都にいてもらわないと困る。
そう思うと、こうやって街で買い物をしたりするのもこれで最後になってしまうのかもしれないな。
彼女次第では。
というわけで、俺はそんなことを考えながら街に出かけた。
街には、あまり人がいない。が、市場に行くと人の割には声が飛び交っている。
まあ、武器とかも調達しておきたいな。
市場を軽く見て食料を買ったあと、俺は街の鍛冶屋に向かった。
正直、俺が勇者として王都に呼び出されてもらった王家に伝わる伝説のなんちゃら剣みたいなのに比べれば、おそらくだいぶ劣るものだが、これはこれで雑魚用に必要なのだ。
なんちゃら剣はとっておかないといけないからな。
鍛冶屋は、街の中ではトップクラスの大きな建物だった。中に入ってみると、ガチンガチンという音が耳に直接届いた。
音が鳴る度に、肩がぶるっと震えるような感じだ。
「あ、あの〜」
俺は声が届くように精一杯言った。
すると、どうやら一人受付の机の下でなにやら作業をしていたようで、急に俺の目の前にぴょんと頭が現れて「どうしましたか」と俺に聞いてきた。
「あ、あの、剣が欲しくて」
俺がそういうと、受付の男が俺の腰に刺さっている剣に目を落として「それ、見てもいいかい?」と言ってきた。
俺は、だいぶ悩んだが「まあ、いいですよ」と最終的に言っていた。
男は俺の剣を持ち、鞘から抜いてジロジロと見ていた。
「ていうかさ、これって王室の剣でしょ?この模様ね」
模様と言って剣の刃の部分を指さしたのだが、俺には何も見えなかった。おそらく、なにかが彫られているのだろう。
「・・・あれ、もしかして勇者様?」
男がそういうと、奥の方でカンカンと剣を作っていた男が顔を上げて、こちらに寄ってきた。
「あ、お頭!!これ、やばいやつっすよ!!」
これは、面倒なことになってきたのではないか?
職人らしき男が、俺の剣を見ている。
「・・・これ、ものすごい剣じゃないか、」
「お頭、この人多分勇者ですよ!!これから、魔王を倒しに行くんですか?!」
初めて知ったんだけど、俺って有名なの?
王都を出発するときも、あっけないものだったはずだぞ。王様に「行ってこい」って言われただけだったはずなんだけどな。
でも、一般市民に隠すようなことでもない気はするし、別に言っても問題ないか。
「ま、まあ、そうなんですよ」
「すげええ!!こんな剣持ってるのかよ、」
「・・・これ、俺達にくれたりしない?」
二人して俺にすり寄ってくるのはどうかと思うぞ、と思いながらも別に悪意は感じなかったので「それはさすがに」と言って軽く断った。
「まあ、これから魔王を倒しにいくんだろ?この辺は、魔王も出ないんだよ。人がいないからだろうな」
まあ、この街は確かに人が少ない。
だからこそ、魔王軍からしたら狙い目なんじゃないか、と思うのだが、おそらくシンプルに知らないとか、そんな理由だろう。
それに、人が少ないということは、あまり土地としても魅力がないのかもしれない。
「まあ、頑張ってくれというか、あんたが魔王を倒してくれるっていうなら、俺達はなんでも協力するさ。剣も欲しいなら、いくらでもやるから、必ず、魔王を倒してきてくれ!!」
職人はそう言ったあとで、「いや、言ってみたかったんだ!!ありがとな」と言っておどけていた。
まあ、言われなくても、俺と彼女がラブラブな生活を送るためにも俺は魔王を倒してきますよ。
そう、心の中で答えた。
「まあ、剣って、どういうのがいいのかい?」
「あの、雑魚用といいますか、耐久力が高いのがいいですね」
すると、職人は奥の方から剣を取り出してきた。見た目は、普通の剣となんら変わらない。まあ、それで十分だろう。
「まあ、普通の鋼の剣だ。量産型だから、惜しまず使ってくれ。まあまあ長持ちする」
「ありがとうございます」
すると、受付の男が「その、俺もお渡ししたいものがあるんですけど」と言って受付の台の下をゴソゴソと漁ると、下から何か木でできた小さな像?のようなものを取り出した。
「これ、ここらへんで崇められてるフクロウの神様の像というか、お守りです。持っていってください」
手のひらサイズだが、よくみるとかなり精巧に作られている。翼の模様もかなりしっかりと書き込まれていた。
「いいんですか、こんなのもらっちゃって?」
「いいですよ。やっぱり、魔王を倒してきてもらいたいですからね」
「そうだな。さっきのあれは冗談にしても、遠くで魔王と戦って人が死んでるって聞いて気分がいいわけじゃねえからな。頼んだぞ」
てなわけで、剣とお守りだけでなく、二人からエールをもらい、俺は鍛冶屋をあとにした。
そして、一周街をぐるっと回ったあと、俺は宿に戻った。
部屋に入ると、意外にも彼女が自分のベッドに大人しく座って待っていた。
そして、俺の顔を見て「顔は洗ったの?」と聞いてきた。
「そりゃ、キミと長くいればそのくらいはわかるようになるよ」
「あ、そう」
「申し訳ないけど、色々と買ってきてて、邪魔になるかもしれないが、」
そういって、俺は部屋の端っこに買ってきた剣といつも持ち歩いている王家に伝わる剣を置いた。
それにしても、なんて狭いんだ。こんなに近いと若干気まずいのだが、それ以外に場所もないので、俺は自分のベッドの上に座った。
二つのベッドはかなり密着しているので、彼女との距離も必然的に近くなる。
すると突然、彼女が俺の肩をつんつんとつついたのだ。
俺は狭い中、くるっと振り返った。
すると、彼女がなにかを差し出してきた。
「・・・あのさ、これ買ってきたの」
「・・・なにこれ?」
俺は、彼女から何かを受け取った。
近くで見るけれども、まったく何なのかわからない。木でできていることだけはわかるのだが、なんか丸いのの下に四角いのがくっついていてザラザラとしている。
「これさ、市場で買ってきたんだ。お守りだっていうから、」
「あ、そうなの?・・・ありがとう」
俺はどうも、素直にお礼を言うことができなかった。
というか、俺は彼女のことを好きだ好きだ言っておきながら、何も買ってこなかったではないか、
クソ、
でも、彼女がそんなことをするとは微塵も思わなかったな。
手からダラダラと汗が垂れている。
あ、ちょっと待てよ、
俺、鍛冶屋でお守りもらったな。
この、丸いのと四角いのが合わさった物がなんなのかわからないけど、返すものがあるぞ!!
というわけで、俺は急いでポケットにいれてあったお守りを取り出した。
そして、彼女の手を握った。
温かい。それに、結構細いな。見た目とか性格とは裏腹に、弱々しい手だった。
「あ、あのさ、これ、俺もキミに渡したいと思って、」
俺は彼女の手にそのお守りを掴ませて、そして彼女の手から自分の手を離してから「見てみてよ」と言った。
「・・・虫とかじゃないよね、違うよね!!違うんだよね」
彼女は、初めておしとやかな乙女として怖がった。
だが、俺ってそんな認識だったの?今まで、ムカついたけど意地悪なんてしてこなかったよ。
「違うって。見てみてよ」
「・・・なにこれ、・・・もしかして、手作り?」
どこをどうみてそんなことを言ったかわからないけど、俺は「そうだよ」と答えた。
「って、」
あれ?
今、俺「そうだよ」って言った?
え、なんで?
言い間違えたか、
「・・・グスンっ、あ゙り゙がどう゛」
「え、ああ、・・・え、ごめんなんかしたかな?それが、フクロウだからかい?」
わからないけど、
彼女は突然泣き出した。
俺は、ただでさえ部屋が狭くて距離が近いのだけれども、彼女に近づいて背中を撫でた。
「手、洗ってあるよね?」
相変わらず、そんなことばかり。
それに、どちらかというとキミの手の方が汚そうだから、そっちの方が心配なんだよ。
「洗ってあるよ」
「・・・私、一生大事にするからっ!!私のために、作ってくれたんだもんね」
そういって、彼女は何度も鼻をすすった。
俺は、無理やり口角を上げながら「あ、ああ」と言うことしかできなかった。
が、まあ別にいいか。
とりあえず、彼女からもらった謎のお守りを俺はポケットに大事にしまった。




