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万象テイマーの異世界ログイン  作者: 翠碧ノ人


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第24話 強制命令を断ち切れ

弓弦が鳴る。


 リリネが短く杖を振った。


「〈フレイムシールド〉!」


 薄い炎の壁が矢を包み、柄だけを燃やす。


 勢いを失った鏃が俺の手前へ落ちた。


「長くは保たないわよ!」


「十分だ!」


 俺はフェリナへ走る。


「来るな!」


 彼女の警告と同時に、剣が横薙ぎに振られた。


 足を止めない。


 剣術の経験はない。それでも、攻撃へ移る直前にどこへ力が入るかは、フォレストウルフとの戦いで学んだ。


 腰が沈む。


 肩が開く。


 刃の軌道が、薄い線となって意識へ浮かぶ。


《〈危機察知Ⅰ〉〈動作観察Ⅰ〉〈回避Ⅰ〉の連携を確認しました》


《複数技能の同時運用を理解しました》


《〈技能連鎖Ⅰ〉を習得しました》


《技能連鎖――〈予備動作看破Ⅱ〉を一時発動します》


 世界が少しだけ遅くなった。


 俺は刃の下へ潜り、フェリナの懐へ入る。


 手を伸ばす。


 指先が黒い首輪へ触れた。


 冷たいはずの金属が、焼けた炭のように熱い。


《隷属術式への接触を確認しました》


《所有権を持たない術式への干渉は拒絶されます》


 赤い光が指へ食い込み、腕まで痺れが走る。


「離れろ……お前まで、巻き込まれる」


 フェリナが苦痛に歪んだ顔で言う。


「一つだけ聞く。あんたは、あいつらの命令に従いたいのか?」


「従うものか!」


「俺と一時的に魂をつなげば、首輪へ対抗できるかもしれない」


「魂を……?」


「主従契約じゃない。命令権もいらない。あんたが嫌だと言う意思を、首輪へ届けるために力を貸してほしい」


 金色の目が俺を見る。


 疑い。苦痛。焦り。


 それでも、その奥に消えていない意志がある。


「失敗すれば?」


「別の方法を考える」


「死ぬかもしれない、とは言わないのだな」


「死なせないためにやるんだ」


 フェリナは一瞬だけ目を伏せた。


 次に顔を上げたとき、震えていた剣先が止まっている。


「……信じる。私の意志を、お前に預ける」


《フェリナ・ルーガから一時魂約への同意を確認しました》


《魂約テイマーⅠを発動します》


 俺とフェリナの間に、淡い銀色の糸が生まれた。


 流れ込んできたのは、言葉ではない感情だった。


 故郷へ帰りたい。


 守れなかった仲間へ謝りたい。


 誰かの命令で、二度と剣を振りたくない。


 感情とともに、記憶の欠片が流れ込む。


 月明かりを受けて輝く雪原。いくつもの銀色の尻尾。笑いながら剣を打ち合わせる獣人たち。


 次の瞬間には、煙と怒号。倒れた仲間へ駆け寄ろうとした背中へ、眠り毒の矢が刺さる。目を覚ましたときには鉄格子の中で、首にこの輪があった。


 フェリナは自分が捕まったことより、仲間を置いてきたことを悔やんでいる。


 強くあろうとしているが、恐怖がないわけではない。


 痛い。苦しい。ここで死にたくない。


 それでも、俺を殺して生き残ることだけは受け入れられない。


 彼女の拒絶は、首輪が押しつける命令よりずっと強かった。


 その意志を、俺の魂を通して首輪へ押し返す。


「これは契約じゃない」


 赤黒い術式と、銀色の光がぶつかる。


「相手の同意もないものを、契約と呼ぶな!」


《魂約対象の明確な拒絶を確認しました》


《隷属術式の命令経路へ干渉します》


《〈契約看破Ⅰ〉を習得しました》


《〈術式干渉Ⅰ〉を習得しました》


 視界に、複雑に絡んだ赤い糸が見える。


 苦痛、恐怖、命令、服従。


 首輪はフェリナの魂を直接操っているのではない。痛みで身体の自由を奪い、命令された動作を上から重ねている。


 なら、切るべき糸は一つ。


 俺は支配環へつながる命令経路だけをつかむ。


「返せ」


 銀色の糸を引く。


「この人の身体を、この人へ返せ!」


 乾いた音がした。


 セレスの身体に取り込まれていた支配環へ、一本の亀裂が走る。


 首輪の赤い光が消えた。


 フェリナの剣が、俺の肩へ触れる寸前で止まる。


「止まった……?」


 リリネの声が聞こえた。


《強制命令を一時遮断しました》


《注意:首輪本体の隷属術式は残存しています》


 完全に解放できたわけではない。


 それでも、今だけは彼女の身体が彼女自身へ戻った。


 フェリナは一度大きく息を吸う。


 耳が立ち、力なく垂れていた銀色の尻尾が持ち上がる。


 そして彼女は、自分の意志で剣を握り直した。


「貴様ら」


 金色の瞳が、奴隷商人たちを射抜く。


「今度は、私の意志で剣を振るわせてもらう」

次回「銀狼の反撃」。自分の身体を取り戻したフェリナが、奴隷商人たちへ怒りの剣を向けます。


救出編はここから本番です。続きを読みたいと思っていただけたら、ブックマークや★評価で応援していただけると執筆の励みになります。

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