第20話 スキルは十段階
「次はスキルについて教えてくれ」
「そんなことも知らないの?」
「知っている仕組みと同じか確認したい」
リリネは怪しみながらも説明してくれた。
この世界には数え切れないほどのスキルが存在する。
剣術、魔法、感知、生産、生活、種族、固有。新しい技術や現象が認められれば、新たなスキルが生まれることさえある。
そして、すべてのスキルには理論上ⅠからⅩまでの十段階が存在する。
「Ⅰが萌芽、Ⅱが習熟、Ⅲが熟練。一般人はⅠかⅡ。冒険者でもⅢまで到達すれば一流と呼ばれるわ」
「Ⅳ以上は?」
「Ⅳが達人、Ⅴが英雄。Ⅵは人の限界を越えた超越者。Ⅶ以降は伝説や神話の中の話ね」
「Ⅹまであるのに?」
「存在すると定義されているだけ。生活スキルにもⅩはあるけど、到達者がいるとは限らないの。例えば〈料理Ⅹ〉なら、味だけで人の争いを終わらせるとか言われてるわ」
「〈添い寝Ⅹ〉は?」
「なんで最初にそれを聞くのよ!」
昨日覚えたとは言えなかった。
「集団を眠らせたり、悪夢を消したりするんじゃないか?」
「知らないわよ。持ってないもの」
どうやら、すべての技能が十段階まで育つという設定は確定らしい。
銀狼化のような種族技能も、強制隷属のような禁忌技能も例外ではない。ただし、高段階へ進めることと、進むべきかは別の問題だ。
「ユーマは、いくつスキルを持ってるの?」
「今持っている分なら……」
スキル一覧を開いて数える。
野外歩行、痕跡観察、水質観察、食材判別、投擲、回避、棍棒術、危機察知、簡易解体、火起こし、応急手当、魂約関連、魔力感知。
「三十四個」
「は?」
リリネが転びそうになった。
「初期スキルも、細かいものも含めて三十四」
「聞き間違いじゃないの? 三つか二つ?」
「三十四だ」
「普通は生涯で十個前後よ! 多才な冒険者でも二十あれば多いの! どうして二日で三十四個も持ってるのよ!」
「〈万象適応〉という固有スキルがある」
リリネが勢いよく俺の口を塞いだ。
小さな手だが力は強い。
「固有スキルを簡単に他人へ話すんじゃない!」
「リリネが聞いたんだろ」
「それでも濁しなさい! 悪用しようとする貴族や研究者に知られたら、一生閉じ込められるわよ」
思っていた以上に危険な情報らしい。
「リリネは悪用しないのか?」
「命を助けてもらった相手を売るほど落ちぶれてないわ」
即答だった。
「なら、信じる」
「どうしてあっさり信じるのよ!」
「セレスも嫌がってない」
セレスはリリネに対して警戒より興味を感じている。昨夜を一緒に過ごしたことで、敵ではないと判断したらしい。
「スライム基準で人を信用しないで!」
『せれす、わかる』
「本人は分かるって言ってる」
「会話に参加できないのが悔しい……」
リリネはしばらく悩んだ後、俺の胸元へ指を突きつけた。
「いい? その固有スキルと、短期間で増えた技能は秘密。人前では昔から覚えていたことにしなさい」
「分かった」
「召喚亜空間のこともよ。空間系スキルは希少なんだから」
「庭園は見せてないはずだけど」
「魔力感知で分かるわ。昨日、スライムを不自然な位置へ出したでしょう」
魔法の制御は苦手でも、魔力を見る能力は高いらしい。
「リリネの魔力も秘密にした方がいいんじゃないか?」
「私のは見れば分かるから、隠しようがないの」
それだけ言い、リリネは前を向いた。
事情を聞くべきではない雰囲気だった。
昼過ぎ、森を抜けて細い街道へ出る。
道標には、俺の知らない文字が刻まれていた。だが意識を集中すると、意味が少しずつ理解できる。
《〈アルセリア共通語読解Ⅰ〉を習得しました》
「ラティアまで、南へ二日」
「本当に何でも覚えるのね……」
道標の上には王国の紋章があった。
一人の人間を、左右から二本の大樹が囲んでいる。
「変わった紋章だな」
「アルセリア建国王が、二本の聖樹に守られた伝承を表してるそうよ」
リリネも、それ以上は知らないらしい。
俺たちはラティアまで一時的に行動を共にすると決めた。
俺にはこの世界の案内役が必要で、リリネは足が治るまで護衛を必要としている。
「念のため言っておくけど、私が仲間になったわけじゃないから」
「分かってる。町までの臨時パーティーだ」
「そう。それならいいの」
なぜか少しだけ不満そうだった。
街道を歩き始めて間もなく、セレスが俺の肩から飛び降りた。
道端の茂みへ近づき、紫色の布切れを身体へ取り込む。
『ゆーま』
「どうした?」
『ち、におい』
布には乾ききっていない血が付着していた。
茂みの奥へ、何かを引きずった跡が続いている。
リリネが杖を握り直した。
「これは、魔物に襲われた跡じゃない」
「どうして分かる?」
「布の切り口が刃物よ。それに、この足跡……人間が複数いる」
森の奥から、金属が触れ合う小さな音が聞こえた。
誰かがまだ、この近くにいる。
次回「血痕の先の檻」。森に残された争いの跡を追い、悠真たちは囚われた何者かを見つけます。




