第18話 私は二十四歳です!
「成人して七年?」
「ミニア族は十七歳で成人するの。身体が小さいままなのも、顔立ちが若く見えるのも種族の特徴。平均寿命だって人間より長いんだから」
「知らなかった。悪かったよ」
素直に謝ると、リリネは少しだけ勢いを失った。
「……分かればいいのよ。人間の町だと、初対面のたびに子供扱いされるから嫌いなの」
怒りには積み重なった理由があったらしい。
小柄な身体だけを見て判断したのは俺も同じだ。
俺は素直に反省した。
右手の甲を突きつけられる。
そこには淡い星形の紋様が浮かんでいた。
「これはミニア族の成人紋! 子供には現れないの!」
「種族が違ったのか」
「見れば分かるでしょう!」
「この世界に来て二日目だから分かるわけが――」
口にしてから、失言に気づいた。
「二日目?」
リリネの紅い目が細くなる。
「森へ来て二日目って意味だ」
「怪しい」
「とにかく、二十四歳なのは分かった。俺は二十だから、リリネの方が年上だ」
「そう。四つも年上なの。今後は敬いなさい」
先ほどまでの怒りが消え、リリネは得意げに胸を張った。
外套の留め具がまた軋む。
「それ、直した方がいいんじゃないか?」
「どこを見て言ってるのよ!」
「留め具だ!」
もう一度燃やされそうになった。
俺はリリネを背負い、セレスを肩へ乗せて移動する。
魔力使いは見た目より重い――と言えば怒られそうなので黙っていたが、胸が背中へ当たるたび妙に意識してしまう。
リリネも同じらしく、最初は身体を離そうとしていた。だが落ちないよう腕へ力を入れると、今度は柔らかな感触が強くなる。
「……変なこと考えてないでしょうね」
「安全な場所を探すことしか考えてない」
「ならいいけど」
本当のことを言えば、また殴られる。
日没直前、岩壁が屋根のように張り出した場所を発見した。
奥行きは浅いが、背後と片側を岩に守られている。入口へ火を置けば、獣も近づきにくい。
リリネの道具を借りて火を起こし、乾パンと残っていたホーンラビットの肉でスープを作る。
「味が薄いわ」
「塩がないんだ。食べられるだけありがたいだろ」
文句を言いながら、リリネは二杯食べた。
食後、問題になったのは寝床だった。
岩陰は狭く、横になれる場所は一人半分ほどしかない。リリネの防寒布は爆発で端が焦げ、俺には毛皮しかない。
「俺が入口で見張る。リリネは奥で寝てくれ」
「怪我人を寒い場所へ置いたら、私の寝覚めが悪いでしょう」
「年上だから気を遣ってるのか?」
「そうよ。感謝しなさい」
結局、二人で防寒布を使うことになった。
リリネが奥、俺が入口側。セレスはいつものように俺の胸へ乗る。
身体を横にすると、リリネの胸が腕へ押しつけられた。
「狭いな」
「言わないで。私だって分かってるから」
「もう少し奥へ行けないか?」
「岩があるの!」
互いに背中を向けようとすると、今度は防寒布から肩が出る。
仕方なく元へ戻る。
セレスが俺とリリネの間へ薄く広がった。
『ここ、せれす』
「セレスも狭いのか?」
『ゆーまのとなり』
いつもの場所を取られたのが不満らしい。
《複数人での体温維持行動を確認しました》
《〈添い寝Ⅰ〉を習得しました》
「こんなスキルまであるのか……」
「何を覚えたの?」
「言わない方がいいと思う」
「余計に気になるでしょう!」
しばらく騒いだ後、疲労には勝てず目を閉じた。
リリネは隣の男を警戒して眠れなかったらしい。
だが俺は、彼女の胸が触れていることを意識する間もなく眠りに落ちた。
「……本当に寝たの?」
呆れたような声が、夢の向こうで聞こえた。
昨日まで一人で震えていた夜に、今は二人分の寝息と小さな相棒の温もりがある。その変化へ気づくより早く、意識は深い眠りへ沈んでいった。
明日は、もう少し素直に礼を言おう。
次回「異世界の常識」。リリネから語られるレベル、魔法、契約の知識が、ゲームとの決定的な違いを示します。
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