第14話 制御不能の炎
少女が俺に気づき、鋭く叫んだ。
「そいつらは私が倒す! 巻き込まれたくなかったら逃げなさい!」
強気な言葉とは裏腹に、杖を持つ腕が震えている。
足元には壊れた魔導具らしき金属片。左足首を痛めているのか、体重をかけられていない。
フォレストウルフが一斉に動いた。
「燃え尽きなさい! 〈フレイムランス〉!」
杖の先へ巨大な炎が集まる。
集まりすぎだ。
ゲームで魔法職を使った経験はほとんどない。それでも、術者が驚いた顔をしていることだけは分かった。
「ちょっと、待って! なんでこんな威力に――」
炎の槍が膨張する。
狼ではなく、周囲一帯を吹き飛ばしかねない。
「セレス、地面へ!」
俺は少女へ駆け寄った。
「来るなって言ったでしょう!」
「その魔法、本当に制御できてるのか!」
「できて――」
炎が破裂した。
俺は少女を抱えて地面へ伏せる。
セレスが収納していた水を放出し、俺たちの上へ薄い膜を作った。
轟音。
熱風が背中を通過する。
水膜が一瞬で蒸発し、セレスの悲鳴が魂約を通じて響いた。
「セレス!」
『あつい!』
「庭園へ帰還を申請できるか?」
『ゆーまと、いる!』
拒否された。
その選択を無理に変える権利はない。
爆風が収まる。
耳鳴りがひどい。
口の中には土が入り、熱を吸った空気を吸うたび喉が痛んだ。
俺は腕の下にいる少女の状態を確認する。
息はある。意識も失っていない。ただ、突然抱え込まれたことへの驚きで固まっていた。
「どこか焼けたか?」
「私の魔法で、私が焼けるわけないでしょう」
強がっているが、左手の指先が赤くなっている。完全に耐性があるわけではないらしい。
「だったら次は、俺たちを焼かないようにしてくれ」
「助けてなんて頼んでないわ」
「頼まれなければ放っておけるほど器用じゃないんだ」
「それで自分が死んだら、ただの馬鹿よ」
「今のところ生きてる」
「そのスライムは火傷してるじゃない!」
少女の言葉に責める響きはなかった。
自分の魔法でセレスを傷つけたことを、本気で気にしている。
『だいじょうぶ』
セレスが震えながら身体を持ち上げる。
「大丈夫だと言ってる。でも次はない」
「スライムの言葉が分かるの?」
「契約してるからな」
少女の目が一瞬だけ大きくなる。
だが詳しく聞く前に、煙の向こうから唸り声が上がった。
少女を庇った俺の背中は熱で痛んだが、致命傷ではない。セレスも身体の表面を白く濁らせているものの、動けている。
少女は俺の腕の下で目を見開いていた。
「どうして……」
「話は後だ。まだ終わってない」
直撃を避けたフォレストウルフたちが、煙の向こうから姿を現す。
三匹は炎を受けて退いた。だが残り三匹と群れの長は健在だ。
俺は少女を立たせ、落ちていた外套を拾って肩へかける。
「立てるか?」
「誰に向かって言ってるの。これくらい……っ」
強がって立とうとし、左足の痛みで顔を歪める。
「無理だな」
「無理じゃない!」
「だったら、次の魔法は小さくできるか?」
少女が黙った。
できないらしい。
「俺とセレスが時間を稼ぐ。あんたは魔力を抑えることだけ考えてくれ」
「セレスって、そのスライム?」
「俺の相棒だ」
少女は俺とセレスを見比べる。
「正気? ただのスライムでしょう」
「ただのスライムに、さっき命を助けられたばかりだ」
俺は尖った枝を構えた。
フォレストウルフ・リーダーが低く唸る。
少女が背後で杖を握り直した。
「……リリネ」
「え?」
「私の名前よ。あんた、じゃ呼びにくいでしょう」
「俺はユーマ。こっちはセレスだ」
『せれす!』
「喋った!?」
「驚くのも後だ。来るぞ!」
三匹の狼が左右へ散る。
群れの長は動かず、こちらの隙を窺っていた。
俺、セレス、そして魔力を制御できない魔法使い。
即席にもほどがある三人で、フォレストウルフの群れと戦うことになった。
次回「三人だけの群れ戦」。悠真、セレス、そして炎の少女。即席の三人が魔物の群れへ挑みます。




