第12話 スライムは弱くない
次に目覚めたとき、庭園の空は同じ明るさだった。
一瞬しか眠っていないように感じたが、ステータス上では七時間が経過している。
現世と時間の流れは同じらしい。
毒状態は消え、生命力も八割まで回復していた。
セレスは泉の中で、魚のように身体を伸ばして泳いでいる。
「元気になったな」
『げんき!』
昨日より念話が明瞭だ。
状態を確認する。
《セレス》
《種族:未成熟ブルースライム/詳細不明》
《レベル:2》
《技能:体当たりⅠ/弱酸Ⅰ/吸収Ⅰ/形状変化Ⅰ/毒吸収Ⅰ》
弱いと言われるスライムだが、使えそうな技能は多い。
問題は、本人が使い方を理解していないことだった。
「少し練習してみるか?」
『れんしゅう?』
泉の横へ小石を並べる。
まず体当たり。セレスは勢いよく跳んだが、小石の手前へ落ちた。
二度目は方向がずれ、俺の足へぶつかった。
三度目でようやく命中したものの、小石は少し動いただけだった。
『よわい……』
「体当たりだけならな。他の技能と組み合わせてみよう」
セレスの長所は柔らかい身体だ。
正面から弾き飛ばす必要はない。相手へ張りつき、視界や足を塞ぐ方が役に立つ。
俺は細い枝を地面へ立て、魔物の脚に見立てた。
「ぶつかるんじゃなく、巻きつけるか?」
意図を魂約で伝える。
セレスは身体を薄く伸ばし、枝へ絡みついた。
そのまま根元へ重さをかけると、枝が倒れる。
『できた!』
「次は酸を少しだけ。枝を溶かしすぎないように」
何度か失敗した後、セレスは接触した一点だけへ弱酸を集められるようになった。
《契約対象が技能の応用方法を習得しました》
《〈眷属指導Ⅰ〉を習得しました》
《セレスが〈拘束Ⅰ〉を習得しました》
練習を終え、現世へ戻ることにする。
俺は背後の扉へ手をかけた。管理者である俺は接続地点へ戻れるが、セレスには別の表示が出ている。
《契約住民セレスが現世への同行を希望しています》
《召喚しますか?》
「なるほど。セレスは勝手には出られないのか」
『いっしょ、いく』
「召喚に同意するか?」
『する!』
俺だけが扉を抜ける。
森の空洞へ戻ると扉が消え、胸の奥に庭園の位置だけが残った。
「召喚、セレス」
足元へ青い魔法陣が現れる。
魔力が一気に三割ほど減り、光の中からセレスが飛び出した。
『ゆーま!』
「一晩ぶりなんだけどな」
召喚は便利だが、何度も使える消費ではない。距離も今は十メートル程度。さらに敵の結界や、セレス本人の拒否で失敗する可能性がある。
万能の避難場所でも、無限に使える転移でもなかった。
空洞を出て、小川沿いを進む。
食料を探していると、一匹のホーンラビットが水を飲んでいた。
昨日の恐怖が蘇る。
向こうも俺たちに気づき、角を向けた。
「逃げられそうにない。セレス、昨日の練習を試すぞ」
『いっしょ!』
実戦で召喚位置を変える練習も必要だ。
セレスが庭園への帰還を申請し、俺が承認する。青い身体が光へ変わり、現世から姿を消した。
ホーンラビットが突進する。
俺は軌道を読み、横へ跳ぶ。同時にセレスを相手の着地点へ召喚した。
青い身体が脚へ巻きつく。
ホーンラビットが姿勢を崩し、地面へ転がった。
俺は石を投げ、頭ではなく角の根元へ当てる。角が地面へ刺さり、動きが止まる。
セレスが首元へ弱酸を集中させた。
俺が尖った枝で急所を突く。
昨日とは比べものにならないほど、短い戦いだった。
《ホーンラビットを討伐しました》
《ユーマのレベルが3へ上昇しました》
《セレスのレベルが3へ上昇しました》
《連携行動を確認しました》
《〈召喚連携Ⅰ〉を習得しました》
『かった!』
「ああ。二人で勝った」
跳ねて喜ぶセレスを、両手で受け止める。
スライムは弱い。
少なくとも、単純な攻撃力だけを比べれば間違っていない。
けれど弱いことと、役に立たないことは同じではない。
「俺たちなら、何とかやっていけそうだな」
その直後だった。
森の奥で、地面を揺らすほどの爆発が起きた。
赤い火柱が木々の向こうへ立ち昇る。
少し遅れて、少女のものらしい叫び声が聞こえた。
次回「森を焼く魔法使い」。爆炎と叫び声を追った先で、悠真たちは制御不能の魔法使いに遭遇します。
本日は第15話まで連続投稿中です。爆炎の先で待つ新たな出会いへ、ぜひこのままお進みください。




