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《書籍化決定しました!!》バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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そして気苦労する。


「…………~っ。兄上、スロース。ギルバートが目を覚ましました。是非二人とも話がしたいと」


「ッ行こう!」


バッカンと、足音さえ聞こえない間に扉が開かれた。

ノックをしていた扉が部屋方向に開かれ、同時に兄上が満面の笑顔で顔を出す。突然の至近距離に思わず背中を反らして見れば、扉際から顔を覗かせるようにしてスロースまで両足を畳んで座っていた。私に気まずそうな笑みで一礼をするスロースだが、兄上もよく見れば怪我も全て消えている。無事治癒魔法はかけられたらしい。


「すみませんセシル王子。エリアス、ギルバート王子のことが心配だったみたいで……ずっとここで耳を澄ませていました」

治癒魔法を終えてからずっと、と。苦笑のまま言うスロースに、思わず聞き返す。

兄上とスロースが部屋を移ってから何時間経過したていたか。治癒魔法にそこまで時間がかかったわけではないことを考えると、何時間も扉の前に待機していたということになる。

しかも耳を澄ませていた、という言葉に嫌な予感がすれば「わりと聞こえていたようです」と続けられ、今度は目眩がする。王族の者があろうことか盗み聞きなど!!!

兄上の武勇伝に、確か渓谷の底に落ちて助けを求めていた遭難者を見つけて救助したという話を今思い出す。助けを求める声をどこにいても拾う兄上は神のようだと思った時期が私にあったが、……兄弟の会話を盗み聞きでは、一気に子どもの悪さに成り下がる。つまりは今も、私が呼びに来たことも部屋を出る前からわかっていたということか。


「さぁ行こうセシル、スロース」

「………仲直りはできたようだな」

「……はい。その節は本当に御心配をおかけいたしました……」

子どものように扉に向けて指を指し示す兄上を前に、私からスロースへ手を差し伸べればすぐに掴み立ち上がった。

ぼそぼそと言いながらどこか照れたように笑い、目を逸らすスロースに、本当に何もなかったのかと尋ねたくはなったが今は気付かないふりをする。少なくとも怪我だけではない、調子も普段通りに戻られている兄上は先ほどとは全く別ものだ。


三人で再びギルの寝かされている私の部屋へと向かった。

扉を叩き、それから開けばギルはベッドにも椅子にも落ち着かず、起立したまま向き直りこちらを待っていた。どうやら落ち着かなかったのはどちらも同じだったらしい。………………ギルは、兄上とそういうところが似ているのだろうか。


「ギルバート。落ち着いたようで何よりだ」

「おはようございますギルバート王子」

「エリアス兄上、そしてスロース。先ほどは数々の無礼と狼藉、心より謝罪します」

ギルバートとの無事を喜ぶ兄上と、そして挨拶をするスロースに対し単刀直入に謝罪から入るギルバートはそこで深々と頭を下げた。

いえそんなと、スロースが首を横に振り断る中、兄上はわからないように小首を傾げて返した。まさかここでまたギルの感情を逆撫でするようなことは言わないだろうかと、失礼ながら胃がキリリと痛む。兄上に限って、いやしかし兄上はあのハリーさえ怒らせるような物言いをした人だと考えると……!!


「?私まで謝る必要はないだろうギルバート。むしろなかなか楽しめた」

「?!はっ………」

信じられないと言わんばかりに頭を上げ目を見張るギルバートと同時に、スロースが「ちょっと?!」と兄上の腕を掴み引く。やはり、仰られた。

楽しむなどそんなことないだろうと、私でも思う。ギルに気を負わせない為の方便かとも思うが、それならもっと言い方を選んでいただきたい。ギルは精霊堕ちの間も、そして正気に戻った時も常に本気で兄上に挑んでいたというのに、それを楽しめたなどと言えばギルバートの実力を笑うようなものだ。

ギルバートもそう感じたのだろう、わなわなと下ろした手に震える拳が握られていく。また表情が険しく張り詰めていく中、兄上は気付いていないのか呑気にスロースへと顔を向けた。腕を引っ張られた理由にも察しておられない。


「エリアス!どう楽しめたのか、何が楽しいと思ったのかちゃんと具体的に言って!」

「!ああ、ギルバートの魔法が美しかった。何度目の当たりにしても薄れない感動など久々だ。もし私が死んだ時は是非あの炎で火葬が良い」

「は????」

……スロースにも、正直そこを注意するのかと思った矢先の兄上の発言だった。

私も驚いたが、それ以上にギルの目が丸い。眼球がこぼれ落ちてしまうのではないかと心配になるくらいの丸い目に、表情の強ばりも解れたのは幸いだと思おう。私にその丸い目を顔ごと向けてくるギルに、……私も頷かざるを得ない。

そう、これが本来の兄上だ。私も今のは少し意味が飲み込めないが、兄上の正直な感想であることだけは疑いようがない。スロースも頭を押さえたまま重そうにフラついた。


「……エリアス兄上。先ほどのスロースの発言は覚えている。精霊を譲渡することはできない、と。ただ、それでも一つ、……聞きたいことがある」

なんだ、と。兄上からは快諾だった。

ギルが意を決したように再び眉間を狭める中、兄上の表情は変わらない。腕を組んだまま、真っ直ぐと伸びた姿勢で向き直った。スロースも心配そうに見つめる中、ギルは手を動かす。そして不死鳥の精霊を示すように自分の肩を掴んだ。

「……貴方は、私の精霊を欲しいとは思わないのか。己が不死鳥に選ばれていたらと、そんなにこの精霊の炎に魅入られたのならば一度でも頭に過ぎっ」



「私を選ばなかった精霊に用はない」



ぞっっっと、一瞬で部屋全体が凍ったかのように寒気に襲われた。

兄上が当然のように告げた言葉に反し、急激に空気が重くなる。直接顔を向けられていない私さえ、兄上の笑顔から目が離せなくなった。普段と変わらない表情で笑んでいる兄上の目だけが、恐ろしく冷たい。

ギルバートからも、そしてセシルからも言葉が出ず沈黙が揺蕩った。

止まった時間の中で兄上だけが自由に動く首を左右に捻る。


「この期に及んでお前を裏切り鞍替えするような精霊であれば、むしろ願い下げだ。お前の精霊だからこそ強く、お前の炎だから美しかったのだから」

未だに、何年もその背を追っていた筈の兄上の考えは私にも全ては理解できない。

ただ、兄上は本気でそう思っておられるのだということは、そのはっきりと通った声でわかる。一瞬、本気で精霊に対し好意どころか妬んでいるのかとも思ったが、直後には締め付けられた空気は一気に緩んだ。呼吸が通る感覚を覚えながら、視線を上げる。


同じように固まっていたのだろうギルも肩ごと上下させ呼吸を整えていた。

さらには、信じられないことに不死鳥までもが兄上に恐れ慄いているように見える。バサンバサンと両翼を広げはためかせ、自分を大きく示しているかのようだった。精霊が人間に対してこんな警戒を見せることなどあるのか。これも精霊堕ちを経て、不死鳥も何かしら変化を遂げてなのか。


「……ならば、もし次の戦場があったら俺も連れて行くか?」

「いや行かない」

パキリと、不意を突かれたところで小枝が折れるような音が聞こえた気がした。

呟くように尋ねるギルの声は落ち着いていた。だが、兄上の間髪入れない明るい声が、まさかの再びギルを拒絶する。

何故、と私も今度は喉にでかかったがそれ以上にギルの表情を見た途端、胃に激痛が走った。また精霊堕ちになるのではないかと思うほど、無に近い表情に凍り付いている。

ギルの実力は、兄上も今夜確かに見た筈だ。実際それで窮地に追いやられたほどなのに、何故ここで急にギルを拒むようなことを言うのか。精霊を褒めているのかギルを褒めているのか、それとも逆に拒んでいるのかもわからない。

「ん??」と兄上は返事のないギルに首を傾ける。何故そこでわからないのか。ギルを拒絶した兄上本人がこの場で最も不思議そうな顔をする中、そこでぺちんっとスロースの手が兄上の肩を叩いた。


「違いますギルバート王子。この人はただ、恐ろしく貴方方ご兄弟に関して過保護なだけなんです」


過保護???????

まさかスロースまで意味のわからないことを言うことに、私とギルの方が首を捻った。更にはエリアス兄上まで不思議そうに「過保護??」と声に出して聞き返した。

その問いかけに、スロースはキッと釣り上げた目で兄上を睨む。途端に兄上もまさか焦燥かのように顎を反らした。ギルの不死鳥すら恐怖させた眼光が弱々しく垂れていく。


「エリアス。どうして連れて行きたくないのかちゃんと理由を言って。私もエリアスに言われるまでわからなかったでしょ?私もさっきエリアスに理由を言ったよね??」

「お……弟をわざわざ戦場に連れて行きたいわけないあるまい?……城下や社交界や森ならまだしも、戦場などの何が良い?」

まるで、子どもを叱るような口調で詰めるスロースに、兄上が声まで予想以上に弱々しい。しかもまさか、半歩もあの兄上が後退した。

さらには兄上の言い分に、………………なんともまた耳を疑う。

確かにギルバートの当時の功績や戦歴をいくら話したところで、兄上は当事者ではない。しかし、あれほどまでに強さを見せつけたギルに、そんな理由で断ったのか。

確かに戦場は人間相手でも魔獣相手でも残酷で厳しい場所だが、それこそ当時王妃候補だったという理由で女性のスロースも同行したことがある。

それを、よりによって不死鳥の精霊を宿したギルバートに対して思われたのか。


「良い?エリアス。ギルバート王子は既に戦場は慣れているし、貴方が去る前の子どもでもない。ギルバート王子一人で魔獣討伐に軍を率いていったことが何度もあるとも言ったでしょ?」

「そう、だったな。……!ならばギルバート、お前の行く戦場にならばいくらでも同行しよう」

それならばどうだ?と、何か妙案が思いついたように仰る兄上に、……一体どう変わったのだろうと少し思う。

連れて行く立場が変わっただけで、戦場にギルと兄上が共に行くことは変わらない。それでも兄上にとって違うのは、その表情から明らかだった。

戦場に無敗を誇るからこそ一人で充分だと、つまりはギルの戦場なら自分が出れば解決できるという自信の表れか。それとも、ただギルを連れて行く場所に戦場という〝出掛け先〟は望ましくなかったというだけの意味なのか。

スロースの「こういう人なんです」と手で兄上を示しながらギルバートに告げる姿は、妙に間の抜けた光景だった。ギルバートも口が開いたまま閉じず、………不意に俯き、肩を震わせた。


「っ…………ふっ……ふ、はははっ……ハッ……。…………くだらないっ……」

途中で堪えきれないように口を片手で覆うギルは、間違い無く笑っていた。深く俯いたまま表情は見えないが、漏れ聞こえるのはギルには珍しい本気の笑い声だ。

そのギルに兄上も両眉を上げる中、スロースはむしろ同調するように無言のまま二度深く頷いた。

ハハハッと笑い声を自分の手で抑え続けるギルは、肩だけでなく数秒間背中全体まで酷く震わせ、最後に飲み込んだ。

顔を上げれば、そこには随分と毒気の抜けた表情があった。


「………俺は、戦場でも人使いは荒いと評判だぞ」

「!それは楽しそうだな」


苦しそうに目尻に堪った涙粒を指で拭い払いながら言うギルが、初めて兄上に笑顔を見せた。

その笑顔に一掃表情を輝かせる兄上が是非と言わんばかりに手を差し伸べる。

その手をギルバートは少し凝視し、……握り返した。


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