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《書籍化決定しました!!》バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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29 魔法使いの作戦


夕方の町を照らす炎の固まりに、町の人々は気付かない。

地上からでは星かと勘違いするほどの上空にいる彼を、人だと認識できる者などその正体を知らなければ思い浮かばない。絶えず炎を纏い上空に上昇維持する人間を、人と認識することの方が一般人には難しい。


高濃度の炎により絶えず巻き起こる上昇気流の上で、ギルバートは静かにただ目を凝らす。

自分の光である程度町は照らされようと、砂塵のような大きさにしか人を捉えられない。そして建物の中まで透視できるわけでもない。いくら精霊の力を得ようとも、目も耳も嗅覚も人間のままだ。

かろうじて捉えられるのは、小さな粒同士によるいざこざの動きや喚き声程度だった。いくら目を凝らし何時間空中にいようとも、特定の人物を見つけることなどできるわけもない。

しかし、今のギルバートは標的が建物内に隠れている可能性も、小さな点を見分ける方法もそこまでの思考が及ばない。思考する力がもはや無い。

過去には王位に相応しい継承者と持て囃され、大勢の優秀な部下を率いて魔獣討伐を繰り返し果たした優秀な王子であろうとも、今は主人格の身体を使う精霊が本体の精霊堕ちだ。


人とは異なる絶大な力を持つ精霊は、計略をするほどの知能は持たない。あくまで思考が主人格だった宿主に影響されるだけで、その思考力まで引き継げるわけではない。ただ、自分が得た魔力の傀儡の望むまま身体が動き、実行する。

彼らの望みは人として生きることでも実体を持つことでもなく、ただ魔力を絶えず補給されることだ。その方法が本来の主従関係であり、たとえ立場が逆転しようとも動機は代わらない。精霊の思考能力のもと生きた触媒に成り果てた人間、それこそが精霊堕ちだ。


今もただエリアスを追う為に町に降りたものの、彼を見つける手段までは思考が及ばない。

町ごと根絶やしに燃やせば良いとまではわかるものの、それは身体の方が許さない。精霊の宿主であるギルバートは、森の永久的な平穏とそして集落の治安を守り抜くことを今も望んでいる。

自分の炎では自然物を再生することはできても、生き物や建築物を蘇らせることはできない。町を燃やさず、その上でエリアスを見つける方法を考えようという思考も及ばない。

ただふわふわと上空に浮かび、今まで〝不和〟を発見した時のように地上を眺め続けることしかできない。


「町にエリアスはいませんよギルバート王子」


不意に、自分よりさらに〝上〟からかけられた声に、ギルバートは顔ごと視線を上げる。見れば、自分に靴底を向けて見下ろす少女にそこで初めて気が付いた。

灰と茶混じりの髪を持つ少女も、今は誰なのかはっきりと考えられない。彼にとって、それほどに重要な相手でも、深い関係でもなかったその他大勢の一人に心は揺らされない。

彼女の言葉を理解はできても、それについて思考しない。それでもすかさずの炎を発さなかったのは〝エリアス〟という単語に引き付けられたからだ。

しかし、自分よりも上空にふんぞり返る彼女には若干の不快感は湧いた。精霊堕ちが深まったことで、全身に纏う焔と共に今までは得なかったギルバートの感情の影響に不死鳥自身もまだ慣れ得ない。


「エリアスに会いたければもっとこちらに」

そう強い眼差しで告げた彼女は、そこで空を蹴るようにしてさらに上空へと飛び立った。

エリアス、エリアスとその名に吸い寄せられるようにギルバートも彼女を追う。もともと遙か上空にいた二人は、さらに上へ上へと空気の薄い場所まで垂直に上がっていった。

彼女に追いつこうと、そして自分こそが空を征そうとギルバートが速度を上げれば上げるほど、彼女もまた速度を上げる。膨大な魔力を持つ魔法使いが、不死鳥に競り負けまいと全身全霊をかけて更に上へ上へと浮上しする。

氷のように冷たい空気を切り、酸素の薄い先へと更に進み、雲を何層も突き抜けそして


ボトリッと、急降下した。


突然落下した女性に、不死鳥もすぐには反応しなかった。落ちたとはわかっても、今は自分がようやく目障りな飛行物を追い抜いたという認識と僅かな達成感が勝つ。

彼女を追い抜くことばかりに集中していた不死鳥は、そもそも彼女を何故追っていたかも一瞬忘失した。人間の身体がここから落ちれば死ぬことも、彼女がエリアスの居場所を案内してくれる筈だったことも、彼女が死ねばエリアスの居場所がわからなくなることも


暴風魔法(ミュルスキュ)ッ!」


自分の遙か下降に位置した彼女が、反転したまま杖を振るう。

町の空の、遙か限界まで上昇したその上空へと向けて暴風が放たれた。魔法使いの出力過度の魔法でも影響を及ばない上空での魔法は、遙か下降にある地上の町では建物を酷く揺らす程度で済んだ。

しかし直撃を受ける不死鳥は堪らない。身体を覆う炎すら吹き消さんばかりの突風に身体を包まれ揉まれ、いくら炎を纏おうとも逃げられない。風に掴まれたまま横殴りに何度も何度も見えない膜に投げつけられては剥がされまた遊び投げられる。


ギルバートの身体で呼吸することすら困難な精霊は、途中からは炎の勢いも薙いでいた。上か下かもわからないまま振り回され、そして渦に閉じ込められたまま森へと突き落とされる。地上から眺めた町人は流れ星のように錯覚した。

地面へ衝突の寸前、業火を放ち衝撃を和らげたものの、凡人であれば潰れるどころか跡形も残らない威力での墜落だった。

地面には大きなクレーターを残し、周囲の木々もなぎ倒したギルバートは仰向けのまますぐには動けなかった。周囲を目だけで見回し、自分を墜落させた女性がどこにいるかと標的を探す。その間も炎が地面から残骸へと及んでは消え、不死鳥の炎が新たな緑が再生させる。


「……何度見ても見飽きないな、ギルバート」

パンッパンッと称賛の拍手と共に掛けられた嬉々とした声に、ギルバートは飛び起きた。

さっきまでただ上空を注視していた為、すぐそこに立っていた存在に気付かなかった。認識した瞬間、再び全身に炎を纏う。


ボワァアッ!!と青白く急激に発火したギルバートは、立ち上がるよりも先に腕を振るい青白い炎を放った。

ほんの一瞬での攻撃も、しかしエリアスはひと跳ねで跳び避ける。「おぉっ」と簡単の声を漏らすエリアスが、つい数時間前には負っていた筈の重傷が消えていることもギルバートは気にしない。

いち早く攻撃を当てようと、避けられてもすぐ再び炎を放ち撃つ。しかしエリアスが飛び退き着地する前を狙っても、空中ですら難無く避けられてしまった。

身体をひねらせ、近くにある木々や岩を掴んでは、強引に身体の位置を変えてエリアスは炎を回避する。


「さぁ!こっちだ。こっちへ来いギルバート」

楽しげに呼ぶ声が、森林を薙ぎ燃やし飛行するギルバートにさえ追いつけない速度で駆け抜ける。

精霊堕ちになったギルバートの身体を支配する精霊は、ただ彼の強い意志に影響されエリアスを追討する。罠の可能性など考えもしない。

遮蔽物など無いかのように木々や丘や大岩に飛び移るエリアスに対し、遮蔽物を燃やしては視界が炎で必然的に妨げられるギルバートの方が不利だった。追いかける方向に湖があるとも気付かない。


「嬉しいぞギルバート。お前がこんなに熱烈に追ってきてくれる日など八年前は想像もしなかった」

ハハッと今度は心からの笑い声がエリアスからつい漏れた。

村に住んでから子どもが「追いかけっこ」をしているのを見るまで、そういう遊びがあることすら知らなかった。

一族も家も捨て去った自分には一生縁が無いとさえ思っていたのに、こうして形だけでも疑似的なものができるのは楽しく思えてしまう。

着地しては次へとはね跳ぶ直後、足場だったものが燃やされる。それも遊びかのように笑い声を漏らずエリアスは心まで跳ねた。

とうとう湖に辿り着いてしまえば、目的達成に反して残念とさえ思う。


「ギル!!」

湖で待ち構えていたセシルが声を張る。

攻撃したくない相手の呼びかけと登場に、微弱にギルバートの動きが炎の腕ごと留まった。ほんの二秒未満の隙も、ギルバートには大きい。セシルとともに先回りしていたスロースが、再び上空で杖を振るう。


「浄化魔法!!」

標的であり餌であるエリアスと、攻撃を防ぐセシルの存在に続いて畳み掛ける追撃に、今度は掠った。しかしそれだけだ。

ギルバートの方が速く、浄化の光を認識した瞬間ギルバートの本能よりも精霊の本能が上回り森の遙か上空へと垂直に飛び上がる。微かに足下を浄化の光が掠ったが、それも精霊堕ちへ影響には及ばない。


作戦通りギルバートを被害の抑えられる湖にまで誘い込むまでは成功したものの、浄化魔法は叶わなかったことにスロースは空中で歯噛みする。

第二波、第三波も浄化魔法を続けたが、それも完全に攻撃を認識された後では避けられるのもあっという間だった。

不死鳥の飛行と、更には今度こそ炎も放たれればスロースも回避に集中するしかなくなる。


「ッすみません!!一発も……!!」

「スロース!!良いから一度退くんだ!!兄上に任せろッ!」

「ギルバート!!こっちだ!私はここにいるぞッ!!」

浄化魔法を放つスロースを攻撃対象に選んだギルバートから一度注意を逸らすべく、セシルもエリアスも声を張る。

浄化魔法を当てる為にはまず隙を作らなければならない。非攻撃対象のセシルと攻撃対象のエリアスでギルバートの注意を引き付け、その間にスロースが浄化魔法を狙う。それが最もギルバートを逃がさず、そして被害を最小限にできる方法だった。


そして、同時に長引けば長引くほどエリアス一人に危険が及ぶ方法でもある。


軽い声駈けでもすんなりと、蒼白く燃えるギルバートはエリアスへと身体ごと振り返った。

今の第一目的は森でも治安でもなく、エリアスただ一人へと注がれる。追いかけるまでもなく炎が放たれ、一瞬で湖の周囲が燃え広がった。エリアスよりも先に足場を奪うかのように草原の地面も木々も燃え出せば、あくまで生身のエリアスも流石に足場に迷う。

まだ燃えていない僅かな部分を選び飛び移るが、その度に炎の帯が空で狙う。せめて攻撃を止めようとセシルが声を張るが、あちこちに飛び移るエリアスと飛行能力を持つギルバートでは二人の間に立つことも容易ではない。


結局はまた自分は声を張る以外は見ているしか戦力になれないことに、セシルが苦しげに拳を握り、それでも両足に力を込め追いかける。長年運動不足の身体が酷く悲鳴を上げたが構わない。

「ッセシル王子!!」とスロースの呼び声に振り返れば、彼女は自分よりも更にエリアスとギルバートから離れた位置だった。人外の速さで追討を続ける二人に接近する為にも、一度スロースに飛行魔法で協力してもらうかとセシルが思考したその瞬間。


「────────────────────!!」


彼女からの渾身の声と共に放たれた発言、そして強い眼差しにセシルは耳を疑った。


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