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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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そして知りたさ。


「……だがまぁ、選ばれなかったのは仕方のないことだったと私も思う」


フ、とエリアスの力の抜けた笑みが溢れた。

傷があった場所を触れるエリアスは、そのまま痛みもない筈の肩を撫で摩る。それから不意に視線が壁にかけられた鏡に向くと、自分の恰好に今気付いたように着たばかりの服をまた脱ぎ出す。

「確かにみずぼらしいな」と言いながら、脱いだ服をそのまま床へと捨てた。エリアスの隣に座った私の靴先に少し引っかかった。

てっきり思い入れがある服なのかとも思ったけれど、そういうわけでもなかったらしい。本当にこの人は、なんでもあっけなく捨てれてしまう。


「仕方ないっていうのは、……ハリー公爵の屋敷で話したことと関係ある?」

自分には人の心がない。それが城を出た理由だと、セシル王子達にエリアスは話していた。正確には未熟程度だと思うけれど、当時自覚したエリアスが城を出るほどの理由だったことは確かだ。そんな中、全てに功績を打ち立てていたエリアスにとって精霊が宿らなかったことは、最後のきっかけになったのも想像できる。

私の言葉にエリアスは一度大きく目を開き、すぐに緩めた。「そうだな」と言いながら、直接自分の胸を押さえるように大きな手の平をあてる。


「正直、当時もあまり驚きはしなかった。周囲は儀式に問題が、王族全体の危機だなど騒ぎ立てていたが、ただ私だから選ばれなかっただけだ」

その騒ぎなら私も少し聞いたことがある。エリアスに精霊が降りなかったことで、エリアス個人の問題ではなく精霊か王族そのものに何か変化が起きていると考える上層部は多かった。

だから、セシル王子の十五歳の儀式で精霊が降りた時はすごい歓声だったらしい。エリアスが駄目ならセシル王子も精霊が降りてこないんじゃないかと心配されていたから。

それから、エリアス以外の王子達は全員精霊を得ている。当時エイの精霊を得たことで観衆を沸かせたセシル王子、そしてそれを上回る伝説級の精霊を得た王子こそがギルバート王子だ。


「精霊がどんな存在かは城にいた時に学んだ。儀式を受ける者の心に引き寄せられ、宿主の魔力を見返りに力を貸す。……引き寄せられる〝もの〟がなければ意味がない」

眉を寄せるエリアスが足を組み直す。まるで他人事のように話すエリアスに、聞いているだけで心臓がざわついた。

エリアスが「心がない」と判断したのも、やっぱり精霊が関係しているのだろう。宿主の心に相応しい精霊が引き寄せられるとされている中で、精霊が降りてこなかったとなればそう考えるのも無理もない。ただでさえ、その前からエリアスは自分の欠点を自覚していた。

精霊に選ばれなかった。そして自分には心がない。そこまで考えたエリアスが、玉座に自分から背中を向けたのも当然の流れだったのかもしれない。


「だからだろう、……弟達が皆、精霊堕ちになったと聞いた時。驚いたと同時にほんの少しだが喜びも覚えてしまった。精霊堕ちは、精霊を宿さなければなるわけもない。つまり弟達はちゃんと精霊に選ばれたのだと、それだけは嬉しかった」

口角だけじゃない目を細めた柔らかい笑みが、至近距離なのに不思議なくらい遠い。

弟達にはコンプレックスを抱かれるほどの遙か高みにいるエリアスなのに、そのエリアスはむしろ弟達の方をずっと眩しく見上げている。尊敬、いや憧れといっても良いだろう。

ここまでわかると、エリアスが初めて会った時どうしてあんな態度したのかも少し理解できる気がする。当時は気味悪い怖いとしか思えなかったものの、…………こうやってみるとやっぱり決して心がないわけじゃない。少なくとも弟達に向ける感情はちゃんと良くも悪くも人間らしい。


「だから、………セシルが精霊堕ちに囚われた時にも言うつもりだった。セシルがたとえどう己を卑下しようとも、精霊に選ばれた時点で私よりも遙かに王となる素質を持つ、偉大な人間であることは変わり無いのだと」

静かに、どこか哀しそうな複雑な表情で微笑むエリアスに、本当にそれは最初に言えていればと思う。

社交は上手くても、この人はもったいなところで酷く、不器用だ。誰もが憧れ羨み尊敬するエリアスにそんなことを言われれば、どれだけの希望になっただろう。


「落胆は、した?……精霊を得られなかった時」

「!そう、だな。……。……特に、精霊の魔法は使ってみたかった」

てっきり魔法に目を輝かせるのも精霊を得られなかったことの反動だろうかと思ったけれど、この言い方だと興味は精霊を得る前からだろうか。

好きなものもあって、身内を大事にできる気持ちがある分、人間くさいところはちゃんとある。これを自覚できなかったのは、…………きっとこういう話をする相手がいなかったからだ。。

一番年の近い兄弟だったセシル王子でも、エリアスに相談されるどころかまともに雑談をすることもなく殆どが遠目の憧れと功績の又聞きだ。エリアスは十五歳になる前から快挙的偉業を成し遂げているし、…………正直、精霊を得られなかったにも関わらず全く立場を悪くした話を聞かなかったことから考えても、随分と期待以上に崇め奉られていた可能性が高い。

エリアスも社交界でも上手くやっていた話から、きっと王族の理想像を四方八方に向けて演じてきたのだろう。そんな人が素直に十代らしい相談ができるとは思えない。


「魔法は良い。どんなものでも魅入られる。一生見ていたいくらいの気分になる。セシルの水魔法も、ギルバートの火魔法も、……あんなにも美しく、怖いくらいに胸が騒ぐ」

溜息交じりの声から、空っぽの手のひらに視線を落としては握りしめるエリアスは細い声だった。

自分の胸が絞められる感覚に、思わず私が胸を押さえつける。…………ちょっとは理解できる。お師匠様の魔法は何度見ても飽きなかったし目に焼き付いている。セシル王子とギルバート王子の魔法だって、一年前味方として傍にいた時は何度も魅入った。

ふざけることを知らないこの人は、きっとギルバート王子の焔にも本気で魅入られていた。憧れ続けたものが、結局兄弟の中で自分だけが使えないなんて妬んでも仕方ないくらいなのに、そうならないところは尊敬もする。


「武芸や学問、社交にはある程度は恵まれたが、どちらかを選べるなら私は精霊が欲しかった。私ができるものはどれもつまらないものばかりだ」

「……それはセシル王子達に言ったら絶対駄目だから。あの人達はむしろー………!あ」

合致がいった。無神経な言葉を使うのは修正すべきと思いながらも、ようやく。

パチン、と頭の中でパズルが合わさったような感覚に両手を叩く。視線を空からエリアスへと向ければ、きょとんと丸い目で返された。

少し間の抜けたエリアスへ、つい人差し指を向けてしまう。


「真似してた?」


「?真似………?」

首を捻るエリアスに、自覚はない。

エリアスに出会った時、他の王子達とは全く違うと思った。態度や馴れ馴れしさも普通じゃなくて、他の王子達とは違ってそれこそ〝ゲームのキャラクター〟のような作られた異質感だった。その原因がようやく腑に落ちる。

セシル王子もギルバート王子達も皆、各々に才能を持ちながらエリアスを尊敬し、そしてコンプレックス……劣等感を持っていた。それはエリアスが表向きは精霊以外全てが素晴らしい伝説級の功績を残した歴代最高の王子だったから。

そして彼らが劣等感を抱いた果てにほぼ統一してぶつかった壁は「結局エリアス兄上にはなれない」だった。本来なら主人公……ゲームの偽物スピカである私と恋をする中で、偉大なエリアス王子の影に囚われず王子として成長していく。

そしてエリアスもまた、囚われているとしたらそれは人の心の有無じゃない。


『極小規模な集落の為に尽くしてみれば少しくらい人に情でも湧くかと思った』


「村を出るまで、ずっと。村の人の真似をして振る舞ってた??」

「…………」

見事に、完璧に、と。その言葉が頭に続けて浮かんだけれど、そこは飲み込んだ。だけど、無言で返すエリアスで返答には充分だった。

村にいた時に村人には好かれていたエリアスが、ちょっとだけ不思議だった。少なくとも私は初対面で第一印象も良くなかった。村の平和を守ってくれる強くて親切な美男子というだけで好かれる理由にはなるだろうけれど、それでもあの懐かれようは不思議だった。

少なくともエリアスが私に威圧してきた時は村の人達も驚いていたどころかドン引いていた。


社交界では王子らしく、けれど村では笑顔も疲れたと話したエリアスが、村に馴染もうと、…………心がある人間らしく言動だけでも振る舞おうとした結果、モデルになるのは当然村の人たちしかいない。

あの村は小さく、村外の人の出入りももともと少ない山奥だった。初対面の人間なんてほぼいない閉じた集落でのやり取りを真似したのなら、あの馴れ馴れしさも納得できる。よくよく考えれば、社交界で女性の扱いに慣れていた人が、あんなに簡単に女性に触れるなんておかしい。

エリアスは城を出てからずっと村の人達の生活を真似していたのだとしたら。


「教わったことはすぐに習得できてたもんね?エリアス王子」

「……ははっ。鋭いなスロース」

苦笑を漏らすエリアスに、今度は私の方が嗄れた笑いが溢れた。

小さな村で自分を見つめ直すという意味では良い案だと聞いた時は思ったけれど、今は撤回する。学習能力の高すぎるエリアスに、きっとあの村は合っていなかった。

エリアス……と、溜息をはきながら気付けば彼の膝の上に置かれていた手にポンと自分の手を重ねる。まるで子どもでも相手にしている気分だ。

社交界では誰もに喜ばれるように振る舞っていたこの人が、村に馴染むこと自体は難しくなかったのだろう。どこまでも〝振る舞う〟だけはお上手な癖を発揮してしまったことが、きっとこの人の欠点の一つだ。


「何故わかった?」

「うーん……優秀な長男にどこかしら意識し続けていた王子を四人知ってるからかな……?」

王子達にとって憧れでコンプレックスで劣等感。彼らは自分の振る舞いや考え方に間違いなく自分の中のエリアス像がいた。

それは嬉しい、と仄かに笑うエリアスに一人頭を抱えたくなる。王子達が憧れのエリアスを真似たように、エリアスもまた何かを真似することで自分の理想像を埋めようとした。

少しずつ、だけど確かな足取りで彼のことがわかってくる。二色の目と合わせ、私は一呼吸置いてから言葉を決める。

人と関わる時点でいくらか演じるのも偽るのも処世術だし、あくまで自分の一面だ。それ自体は悪くない、普通のことだ。けれどエリアスの場合、きっとそれも完璧にやり過ぎた。

空っぽの自分でただ相手に合わせて言動と表情を選び続けるだけじゃ、そこに自分の意志はない。自分の意志じゃないものに他者が喜んでも怒っても何を言っても大した感想は抱かない。

心が動くことは、難しい。



「……本当に、これからだね」



人の心が、情緒が。彼はその育て方を間違えた。…………たったそれだけだ。

八年もの長い時間を無駄に費やしてしまったと思えば皮肉にも思えるけれど、きっと伸びしろはある。少なくともセシル王子やギルバート王子達の前ではちゃんと人らしい。

これから彼らと関わるうちにエリアスも今以上にそういう気持ちを理解することはできるだろう。そう考えれば呆れと同時に、安堵も芽生えた。ゲームですらエリアスルートを知らない私にとって、ほんの少しだけエリアスの今後に希望を持てる。


口元が緩む感覚を覚えながら、彼にとってこの期間が弟達の救出以上の価値があればと心から思えた。


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