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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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24 魔法使いの冷や汗


「お怪我は?!」


地面を目前に一瞬の停止直後、着地した私はすぐにギルバート王子へと振り返った。私よりも遙かにエリアスとセシル王子の方は俊敏だった。ギルバート王子に駆け寄った二人から、自分も含めて怪我はないとギルバート王子の無事も返される。

無事に胸を撫で下ろしながら私も駆け寄った時には、ギルバート王子は放心している様子だった。着地の体勢に倒れたまま目を丸く開いて、口もぽかんと開かれて固まっている。地面に着地した衝撃よりも、ご自分がどういう状況なのかを理解できていないのだろう。

不死鳥の精霊も、青い焔の姿ではあるけれど今はギルバート王子の肩の上で優雅に羽ばたいている。一年前と同じ、戦闘以外の定位置だ。

「ギル」とセシル王子が肩を掴んで何度も呼びながら揺さぶって、ようやく目の焦点が合ったように見えた。


「セシル……。…………俺は、……ここは……?」

「!良かった、私がわかるのか。ここはマルスの町の、森の中だ。お前は精霊堕ちになっていたんだが、スロー……彼女が、精霊魔法で浄化してくれた」

まだ放心した表情のまま口を動かすギルバート王子に、ほっと笑んだセシル王子がゆっくりとした口調で私を紹介してくれた。「スピカ」と呼ばれ、私は訂正よりも先に頭を下げる。

やっぱりギルバート王子も精霊堕ちの間の記憶はないようだ。間に入ってくれるセシル王子がいるお陰で、前回よりも円滑に事情を話せそうなだけ幸先も良い。「お久しぶりです」と私から改めてセシル王子にしたのと同じ挨拶をして、そしてすぐだった。………ギルバート王子の金の眼差しが、ゆるやかにエリアスへと向けられた。

セシル王子が呼びかけてから、私が挨拶するまでずっと口を閉じていたエリアスだけど、圧倒的な存在感まで消せるわけでもない。ギルバート王子に見られ、にこやかに手を振るエリアスから気まずさは感じられないけれど私の方が思わず息を止めてしまう。「エリアス、兄上」と、そう力の抜けた声で呼びかけるギルバート王子から




背筋が凍る殺気が滲み出した。




「ッッ何しにきた……!!!」

やっぱり。と。口の中を飲み込んだ。さっきまでの呆けた顔から一気に表情筋全てに力を込めるギルバート王子が、ガラついた喉で低く響かせる。顔をのぞき込める位置にいた私は、殺気に押されるように飛び退いてしまう。

自分に向けられたものじゃないと頭ではわかっても、まるで自分に剣先を向けられたようだった。セシル王子も顔色を変えてギルバート王子の肩を掴み直すけれど、もうギルバート王子の眼光はセシル王子にも向いていない。自分の手が届く距離で片膝をついているエリアスへと刺すように向けられる。


「何しに来たも何も、決まっているだろう。お前が精霊堕ちになったと聞き、会いに来た」

「ッ誰が頼んだ!誰がッ助けてくれと宣った?!今更になって白々しい……!!」

「待てギル!私もお前も一年も精霊堕ちだったんだ!それをスロースが……」

激情を露わにするギルバート王子に、エリアスはきょとんと眉を上げる。その当然と言わんばかりの言い方もギルバート王子の殺気を更に鋭くさせる。ギリッと歯を食い縛る音が私にまで届いた。

セシル王子の手を振りほどき思わずといった様子で立ち上がろうとしたギルバート王子だけど、完全に立つ前にフラついた。倒れそうになるギルバート王子にエリアスが手を掴もうと伸ばしたけれど、一瞬で払い叩かれた。

自分から倒れる方を選んだギルバート王子は、再び地面にうしろから倒れ手をついた。


「今更兄ぶるな!!貴様の無責任さがどれだけ俺達に!!国の人間に害悪だったか知りもしない分際でッ!!」

後ろ手に地面についた手で、小石を掴み投げつけた。避けると思った筈も一瞬で、そのまま小石がエリアスの額にぶつかった。

それでも表情も変えないエリアスは、口角を上げた笑顔だ。……嫌な胸騒ぎで、気持ち悪くなる。まるで心臓をやすりで撫でられているような感覚に身が強ばった。

いっそ精霊堕ちになっていたギルバート王子に対しての方が笑顔を浮かべていたエリアスだけど、今は決してがっかりしているわけでも、そしてギルバート王子の言葉が響いていないわけでもないと思う。


「セシル!!何故お前までこの男の味方をする?!王子としての任を捨て!!俺達に重荷だけを置き捨てて去ったような腰抜けに!!!」

「ッ違う!ギル!!聞いてくれ!兄上は逃げたわけではな」

ボワァッと、あと少しでセシル王子の指先が焦げた。

ギルバート王子に、精霊が焔の渦を巻いて潜り込む。肩の上で羽ばたいていただけの不死鳥が一瞬でギルバート王子の肩から腕へと潜り込んでいった。精霊堕ちの時とは違う、一年前と同じ戦闘方法だ。腕に焔を巻いたギルバート王子がその手を翳す。右腕を中心に、帯状に不死鳥型の焔が蒼白の色でエリアスへと飛びかかった。

戦闘態勢になったギルバート王子からセシル王子が飛び退くのと、ほぼ同時の現象だった。


エリアスなら避けれると思うと同時に、まずいとわかる。「避けて!!」と中途半端な呼吸で叫べば、不死鳥の焔の余波だけで喉が焼かれるように熱された。喉を押さえながら、焔を横に飛び退き避けたエリアスに安堵する。

だけどそれでギルバート王子の攻撃も収まらない。歯を食い縛った口のまま、再び焔を放つ。まだ、自分の焔が蒼白なのに気付く余裕もないギルバート王子は決していつもの冷静さは無い。だけど、今のギルバート王子は〝精霊堕ち〟ではないことも間違いない。自分の意志で、エリアスに何度も何度も命を奪うような攻撃を放っている。


「ッ俺を嗤いに来たか!!!また!!この期に及んで俺を見下すか!!!?」

「そのようなことをするわけがないだろう。ただ、お前が精霊堕ちになったと聞き、スロースと」

「兄ぶるなと言っているだろう!!思い上がるな!貴様と俺は対等ではないッ!!!」

腕から焔を、一撃で魔獣を貫通するような焔を放つギルバート王子に、エリアスは堪えながらも良くも悪くも避けるだけだ。

次々と草木が燃えては灰になったところで焔が消え、新たに芽吹き出す。不死鳥の力がなければ、もうとっくに火の海になるような規模の焔が何度も何度も繰り返される。大木も、大岩も焔が包み、灰にする。避けるエリアスも決して上空には跳ねなかった。身動きのできない空中で直撃したら死ぬと彼も判断した証拠だ。

「ギルやめろ!!」とセシル王子が駆け込めば、一瞬で焔の壁を築かれ阻まれた。セシル王子も精霊の水で必死に鎮火するけれど、その時にはもう逃げるエリアスを追ってギルバート王子も離れた後だった。


「ッ渡すものか渡すものか渡すものか貴様には何一つ!!!!」

ボワァッ!ボワアァ!!ボワァ!!と何度も火炎放射と呼んでも足りない大規模な焔が放たれる。エリアスの脚力で走り抜けていなければとっくに灰になっている。

エリアスの身体能力ならきっと避けるだけじゃない、反撃もできる。それでもしないのは、ギルバート王子に攻撃すること自体が危険だと知っているからだ。山賊のように殺しても落胆で済む相手じゃない。エリアスにとっては貴重な大事だと思える存在である弟だ。

やめてください!と、私からも叫んだけど今度はギルバート王子の怒号に潰され届かない。私には全く意識も向いていない彼に攻撃魔法を構えたけれ、どれを放つべきか正しいものが思いつかない。

私が応戦すれば規模も被害も大き過ぎる。ギルバート王子の精霊みたいに森を再生するような魔法は私に使えない。ギルバート王子にとっても町の人にとっても思い入れのある森を、山賊の時みたいになぎ倒すわけにはいかない。

そう考えている間にも、遠目にも嫌なものが捉えられてしまう。ギルバート王子の半身がじわじわとまた燃えだしていた。髪や肌の色も本来からくすんでみえれば間違いない、精霊堕ちに戻りかけてる!!

止めようと駆け寄れば、私は阻まれなかった。セシル王子ほどまだ言葉が届くほどの関係じゃないからだ。焔を纏い出すギルバート王子の背中に、すぐに浄化魔法をかけ直すべく杖を構える。

「ギルバート王子!!落ち着いてください!!また精霊堕」





()()()()()()()()()()分際で!!!!!!」





一瞬、時か止まったように見えた。

まるでその怒号を合図にしたように、ギルバート王子の全身が再び精霊堕ちの肌と蒼白の焔二色に隔てられ、そして駆け抜けていたエリアスが足を止めてしまった。表情が、笑顔でもなく固まっている。ギルバート王子の炎に見惚れてる顔じゃない。

不死鳥と一体となったギルバート王子の焔は右腕からの規模を上回る。半身どころでもなくなった。精霊堕ちの、悪化だ。ギルバート王子の背の衣服を掴み、引っ張ったのにビクともしない。王子として、そして魔獣と戦う為に鍛えたギルバート王子とただの魔法使い見習いだった私じゃ不意もつけない。できることなんて限りがある。

もともとセシル王子の時よりも侵食は進んでいた身体が、半身から今は全身が燃えるように焔が溢れ、攻撃の炎が建物規模に膨れ出す。一瞬、最終段階かと疑うほどの炎の規模で、かろうじてギルバート王子の肉体はまだここにある。

私はその背をぶつように杖を握った手を振るう。


「ッッ浄化魔法!!」

セシル王子の時と違う。正気でも攻撃意思があるギルバート王子は浄化魔法だけでは止められない。それでも、一瞬だけは思考と魔法がリセットされる。

浄化の光が収まった時にも、ギルバート王子の攻撃態勢は一ミリも変わっていなかった。鋭い眼光を燃やし、全身の炎が右腕を中心に纏う箇所を変えただけだ。それでも浄化魔法が効いたということはやっぱり最終段階までは進んでいなかった。

目眩しの間にエリアスが逃げてくれていればと思ったけれど、彼も硬直したままだ。そしてギルバート王子もまた熱が冷めていない。いま自分が精霊堕ちになりかけたことにも絶対気付いていない!右腕を翳す炎には、一度切り直したはずの精霊がまた宿ってる。


「俺達兄弟のことを思うならこのまま灰になれッッ!!!」


まずい。わかる、私でもわかる。エリアスが避けないと。

背中を引いても叩いても意味はなかった。一か八か氷魔法を使うにも、今は環境が悪い。炎に囲まれすぎて氷魔法の展開そのものが難しい。

飛び込み、その翳した右腕そのものに全体重で掴み掛かる。人ひとりの体重に腕が照準より下がり、そして今度こそギルバート王子が私を認知した。

「なにをッ……」と腹立たしげな声よりも、腕に纏う炎が叫び出したいほど熱い。

焦げる匂いが服じゃない、自分の皮膚だとヂリヂリと槍で抉られるような痛みでわかる。しかも掴んだ腕だけに留まらず、じわじわと火事の中にいるように火が更に迫る。私を退かそうと反対の腕で引っ張ろうとしていた力が抜け、代わりに火力が増している。「退け」の言葉も消えたギルバート王子は、今顔を上げれば間違いない精霊堕ちだ。もう、また戻ってしまった。


わかっていた。何の解決も対策もせずに浄化魔法を使おうと、意味はない。

だからセシル王子の時だってハリー公爵と話し合った。ギルバート王子だってすぐに精霊堕ちに戻るのは目に見えていたことだ。掴む腕の痛みよりも頬から足までの熱の方が増している感覚に、火力に反して全身から冷たい汗がどっと溢れた。精霊堕ちなら私相手じゃ躊躇わない。エリアスより先に私が先に消し炭に


「ッスロース!!!」


ジュワァアッと、雨音のような音と同時に白い霧のようなものに包まれる。続けて急な浮遊感に心臓がひっくり返った。

あんなに掴んでいた筈の手がギルバート王子からも強制的に剥がされ、魔法も使っていないのに足元が浮いて風を切る。瞬きを忘れた目で、精霊堕ちのギルバート王子が瞬く間のうちに遠く小さくなっていくのを見た。放たれた巨大な炎は、もう誰もいない場所に放たれていた。

声は、セシル王子の声だった。だけど振り返れば私を抱え逃げているのはエリアスだ。セシル王子はと見回せば、エリアスの反対の腕にちゃんと抱えられていた。さっきまでセシル王子がいた場所では人魚の精霊がギルバート王子に放水しては白い霧に変えられていた。攻撃にはならなくても目眩しにはなっている。精霊は宿主から少しくらいなら離れても活動できるからこその遠隔攻撃だ。

だけど、ただの目眩しで動きを止めてくれるギルバート王子、もとい今は精霊でもなかった。小さくなっていく影なのに、目がこちらを向いていると、見えない銃弾のようにはっきりと視線を感じた。そして消火しきれないほどの巨大な炎が今度こそ


「……来ない」


「セシルだ。セシルがいるから攻撃されないのだろう」

不発のまま沈黙が続く森の向こうを見続ける。身構えていた分、ギルバート王子の姿が見えなくなるまでの間も短く感じた。

セシル王子、という言葉にそこで私も気づく。精霊堕ち中も、セシル王子だけは攻撃されることがなかった。つまり今、意図せずセシル王子が壁になって私達への攻撃を防いでくれている。

ほっと息が漏れ、脱力する。これは精霊堕ち中だからこそ逃げられたと言うべきか。きっとギルバート王子ならセシル王子を攻撃せずともまだ追ってきた。


「ッ兄上!血が!!」

ハッと息を飲む音とセシル王子の声にエリアスへ振り向いて、今気付く。私を抱えている側の肩が焼け、尋常じゃない血が溢れている。わかった瞬間、私を抱える腕まで滴っていることにも気付いて一瞬思考が止まった。血は見慣れてもまさか血塗れの腕に抱えられるのは慣れていない。

私だ。さっき私を助けた時に庇って炎を受けたんだと確信する。

「止血!!」と思わず叫ぶ私に、セシル王子が「治癒魔法は?!」と叫ぶけど、こんな状況ですかさずには使えるほど精霊魔法は便利じゃない!!


「エリアス止まってッ!!早く止血しないと!!」

「大丈夫だ。この量なら死なない。それに怪我ならスロースお前も」

「いずれは死にますよ兄上!!!!」

なんでもないように断行するエリアスに今度はセシル王子が声を張り上げた。感受性云々の前に人間としての感覚もおかしい!!

飛行魔法で一気に距離を離せれば良かったけど、今空飛んでもまた撃ち落とされる。私達を離してくれる様子もないエリアスに、今できるこそは負担をこれ以上与えないように身動ぎせず待つしかない。エリアスが負傷した以上、まずは退却して止血が第一優先だ。

だらだらと夏の汗みたいに血が滲んでエリアスの服を染めていく中、見てるだけで何度も息を止める。エリアスなら大丈夫だと頭で考えても、どうしても倒れてしまう瞬間を想像してしまう。

いつもは余計なことでも話すエリアスが走り抜ける間一言も喋らなかったのがそれだけ無理をしていたのか、それとも



『精霊に選ばれなかった分際で!!!!!!』



ギルバート王子の言葉のせいかは、森の出口に辿り着くまでわからなかった。


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