表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《書籍化決定しました!!》バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/39

22 魔法使いの一息。


「よし、湖だ。ここなら見通しも良い。もしギルバートに奇襲されてもすぐ対応できる」

「エリアス……、本当にこの森初めて?」


満足げに笑うエリアスを前に、言わずにはいられなかった。

森に入ってからエリアスがずっと迷うことなく一直線に突き進む背中に付いていっただけなのに、あっさりと湖に到着してしまった。ゲームで湖の存在を知っていた私でさえ、道程はわからなかったのに。

本人曰く「水の音と匂いが」と言っていたけれど、川ならばまだしもただ静かに揺蕩っている湖はとても静かなもので、周囲の草木の香りでどうにも水の匂いは全く私は気付けなかった。

しかも何が怖いって、この湖がゲームでは確か「町でも一部の者しか知らない特別な湖」で、ギルバート王子でさえ魔獣捜索中にたまたま見つけたという設定のものだということだ。

正直、この湖を探すよりもギルバート王子を見つける方が早いとさえ思っていた。結構な距離を歩いた感覚が全身の筋肉疲労の感覚でわかる。私よりは体力がある筈のセシル王子でさえ、今は息が切れている。


「兄上は……っ……砂漠地帯に潜む魔獣さえ、……初日で発見し討伐された経歴をお持ちだ……っ」

「おお、懐かしいな。あれは捜索よりも死骸を持ち帰る方が大変で、結局外殻と頭だけ持ち帰り、中身は全員で食った」

わはは、と笑うエリアスは、情緒はさておき記憶力は良い。

もともと討伐目的で死骸は討伐証拠の為に必要だったからとはいえ、そこで食べる発想に入ったのは間違いなくエリアスだ。魔獣は食料として忌み嫌う人も多いけれど、砂漠で食料にも限りがあったところでの栄養補給としてはまぁ間違いない。

息も絶え絶えに今は胃ではなく横腹を押さえるセシル王子に、笑いながらエリアスは手を差し伸べるとそのまま引っ張る形で湖の前に座らせた。水が飲めるかも、迷わずご自分で飲んでから「よし大丈夫だ」と確認するエリアスは、今は王子というよりもなかなか野生児染みている。

こちらは村での生活というよりも、その討伐任務とかで身につけたものだろう。そう考えれば、あの村での生活自体はエリアスもそこまで慣れない環境というわけではなかったと考えられる。……この人にとっては、人と毎日笑い合う何気ない平凡な日々が最も疲労だっただけで。


「にしても良い森だな。食料になる植物も生き物も充分いた上に、こうやって飲み水にも困らない。お前達も今のうち飲んでおけ」

「あの、兄上…………私は精霊がいるので、……飲み水なら……」

「!そういえば。すまない、すっかり忘れていた」

セシル王子を気遣うように水を勧めたものの、ちょうどいま弟の右肩をふよふよする精霊の存在をすっかり忘れていたエリアスを見ると、なんだか兄弟というよりも親戚ぐらいの距離感だなと思う。

エリアスもエリアスなりに、なんとも弟相手にはなにかしてやりたい欲と不器用さが極まっている。さらにはセシル王子もせっかくエリアスが安全確認してくれた湖の水を素直に飲むべきか、でも安全性で信頼のある精霊の水を選ぶかでちょっと迷うように視線を彷徨わせているのがまたこの二人の関係だ。

エリアスも情緒面が育ってない部分があるとはわかったものの、エリアスとセシル王子との関係も八年前から止まっている気がする。

眉を垂らすセシル王子に、私も隣に並んで腰を下ろした。


「セシル王子、エリアスに遠慮するだけ無駄です。私にもお水を頂けますか?エリアスにも」

「!あ、ああ……。スロース、君は本っ当に強くなったな……」

前世の記憶と、お師匠に見放されていなかったとわかったお陰ですとはどっちも言えない。

私が両手を器にしてみせれば、エリアスも片膝をついて自分も同じように手を構えた。セシル王子の魔法を見れるのが嬉しいと言わんばかりに二色の目の奥をきらきらさせているのが至近距離でわかった。


もうここに来るまでも何度が水を補給してくれたとはいえ、まだぎこちない動きでセシル王子は軽い指の動きで精霊に命じる。途端に、肩の上に浮かんでいた人魚がくるりと弧を描いた。私達の手の上からぷくりと膨らむように水が生じ、丸みを帯びたまま浮き止まる。一年前はそのままぽしゃんと手の平に落ちたのだけど、今はその形状を保ったままだ。掬わず球状の水に手を添えるような形で直接口を付ければ普通に飲めた。これもエイから姿がレベルアップした影響だろうか。


「……うん、美味い。本当にすごいなセシル、城でも遠征や野営任務で活躍しただろう?」

「ッ……いっいえいえ、私は本当に書類仕事が主でして……。水不足の地ならともかく、そういうのはギル達に……」

私よりも躊躇なく、水というよりゼリーでも食べるように齧りついたエリアスが、ゴクンと喉を鳴らした直後にセシル王子へ前のめりに顔を近づけた。セシル王子も水を飲んでいる途中だったから若干噎せていたけれど、それでもエリアスに褒められたことに嬉しそうに頬を掻いた。

セシル王子は水を生み出す魔法が使えるし、確かに野営でも活躍しただろう。だけど、セシル王子自身が書類仕事の方を好んでいたし、……残りは書類仕事が嫌いなご兄弟ばかりだった。王子として護身格闘術や剣術は身につけていたものの、外での公務は弟王子達にお任せしていた。ギルバート王子もその一人だ。

ギルバート王子は魔獣を相手にしたご活躍が凄まじかった。捜索は人並みに時間がかかっていたけれど、魔獣と相対すれば負けることも押されることもなかった。その功績も全ては恐れをしらないギルバート王子の勇敢さと行動力、そして



最高位精霊〝不死鳥〟の功績でもある。



羽一本一本が炎で構成された深紅の不死鳥は、存在そのものが芸術だった。私も、ギルバート王子の周囲にいる誰もが目を奪われた。

そしてギルバート王子の命令さえあれば、一瞬で魔獣を炭に変える火力を持っていた。文字通り、草木一本残らない焼け野原だ。さらにはギルバート王子の不死鳥は炎を放つだけでなく、焼け野原にした地の〝再生〟までできていた。

たとえ最初が不毛の地であろうとも、一度不死鳥の炎を浴びれば草木が生い茂り肥沃な大地として蘇る。それこそ砂漠地帯さえ、ギルバート王子の不死鳥の炎によれば魔獣を倒すだけではなく緑を芽吹かせることもできる。……まぁ、だから逆に死骸を残すことに失敗することは多かったそうだけれど。

火力が強すぎるせいで、範囲を間違えると全て消し炭だから骨も残らない。威力が強過ぎるが故に、対人の戦闘には被害が大きすぎて不向きだった。私も魔法が出力下手だったから、そういうところが親近感も湧いた。

更には伝説級と呼ばれる最高位の精霊は、宿主への影響力も強かった。ギルバート王子の魔力を貰わなくても単身で強力な魔力を宿している不死鳥は、その調整の為にギルバート王子の身体を借りて炎を放つ。何も知らない第三者には、ギルバート王子の身体が燃えながら炎を放っているように見えていた。

……精霊堕ちになる前から、宿主に影響を与えるほどの精霊。その不死鳥様が今、一年も経過したらどれほどの



ボワッッッ!!



声を漏らす、間もなかった。

唐突に腹から引っ張り込まれたと思った瞬間、足下まで浮いた。次の瞬間にはセシル王子と肩を並べて二メートルは離れた茂みに着地し、私達が水を飲んでいた場所は轟々と燃えていた。

瞬間移動でもしたかのような錯覚に口が開いたままになる中、首ごと回して背後に振り返る。私とセシル王子の胴回りを掴んだままのエリアスが回避した構えのまま、獣のように見開いた眼光を炎へと向けていた。その目の光りに、……一瞬現状も忘れて寒気が走った。


爆発音もなく、ただ炎そのものが投げ込まれたかのように音がなかった。

この攻撃を、私は知っている。ギルバート王子の魔獣退治に同行した時だ。そして今、草木が燃え尽きた後も轟々と火種も必要とせず燃え続けている炎は魔法の炎以外あり得ない。

「ギル」と、セシル王子が呟いた。攻撃が放たれたのだろう方向を探し、顔ごと見回す中エリアスは今も顔の向きも目の向きも変わらない。私達三人を軽々と飲み込める大きさの炎へ、あと少しで全員を炭にしていた炎へと向けるその目の色に私は何度も疑う。


足音が、聞こえる。ガサッガサッと草木を踏み落ちた枝を踏み折る音は、隠そうとする気配もなかった。炎の向こうから聞こえる音は、私達が回避したのと反対方向だった。

その影へと道を開けるように、炎も消える。焼け野原になった土からは早々に緑が芽吹き始める中、炎に隠された陰の姿が太陽に照らされ露わになる。


「ギルバート王子……」

精霊堕ち特有の暗ずんだ肌の色と髪色。漆黒の黒髪に、国王譲りの黄金色につり上がった眼光のギルバート王子は、セシル王子のように殻にこもることはなく、やはり意志を持ってこちらに歩み寄っていた。ただ、その意志が〝どちら〟のものかは考えるまでもない。

不死鳥を身に宿すこと自体は、ギルバート王子の場合は珍しくない。ただし、その影響具合は異常なほど広範囲になっていた。一年前は腕から肩までの範囲に炎を纏っていたギルバート王子が、今は半身が炎そのもの……〝不死鳥〟に、犯されていた。更にはその不死鳥も、放たれた炎もギルバート王子と同じく変質している。煌煌と輝く深紅の炎ではなく



禍々しい蒼白の炎だ。



「…………綺麗だ」

ぽつりと。振り返ればエリアスの姿勢は炎のあった位置からようやくギルバート王子へと向いていた。二色の両目は変わらず、そして口角は上がっていた。聞き間違いじゃない、そして覚えた寒気もまた勘違いではなかった。

蒼白の炎を宿した精霊に半身を犯されたギルバート王子は、遠目でもそして近くで見ても人には見えない。町の人が「守り神」と呼んだ理由を理解する。やっぱり不死鳥相手の精霊堕ちは、侵食具合もセシル王子の比じゃない。既に半分も呑まれている。

人ではない、完全なる焔の化身そのものだった。右腕を軽く広げるだけで、不死鳥の翼そのものに見える。



「なんて美しいんだギルバート……!」


あまりにも人と掛け離れた姿になった弟を前に、エリアスは目を爛々と輝かせ、満面の笑みで賞賛を叫ぶ。

流石のセシル王子も「兄上?!」とひっくり返った声で振り向いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ