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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱
魔法使いと第三王子

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21/24

20 魔法使いの案内


「この町にギルバートはいるのか?」


ハリー公爵に援助を受け、私達が大急ぎで向かったのは城下から遠く離れた町だった。エリアスは当然のこと、セシル王子もこの町は知っていたもののギルバート王子とはあまり結びつかない様子で周囲を見回している。


「マルスか……。聖霊堕ちのきっかけであるメルツの村ではなくて良いのか?」

「はい。ギルバート王子はこちらにおられる筈です」

道中で、ギルバート王子の聖霊堕ち経緯も二人に説明した。

ギルバート王子の居場所はゲームのバッドエンドのモノローグで無事把握できたものの、そんなことをお二人に言えるわけもない。そしてセシル王子とギルバート王子だけで判断するのも甘すぎるとは思うものの、聖霊堕ちになった人が意識無意識関わらず惹きつけられる場所には共通点があることにも気付いた。


「セシル王子がハリー公爵のもとに訪れたように、聖霊堕ちは因果よりも安穏する場所に引き寄せられるのだと思われます。ここにはギルバート王子が初めての討伐任務に訪れた森があり、いつかまた足を運んでみたいと仰っていました」

正確には「未来永劫守られるべき場所」だと話していた。……ゲームでは。

ギルバート王子とそこまで親しくなれず終わった私が聞かせてもらえたのは、あくまで討伐任務の話と「久々にまた行きたいものだ」と溢した程度だ。詳細はゲームで攻略した方の記憶の方で知った。

セシル王子もギルバート王子の初任務には覚えがあったらしく「そういえば」と記憶を巡らせるように視線を宙に浮かせた。


ギルバート王子が十五歳になって初めて国王に命じられた公務は、この森に発生したという魔獣の討伐だった。

魔獣は数こそ少ないものの、生命力と繁殖力の強さから未だに絶滅には追いやれない最優先駆除生物に指定されている。各地でも討伐隊が組まれている中、最強と呼ばれているのが国家討伐隊だ。

確か、ギルバート王子が同行した討伐は一角狼だった。野生動物を次々と襲うだけでなく人間にも被害を出し、町の討伐隊では歯が立たなかった。

一角狼を討伐したギルバート王子はその森の美しさに魅了され、一日滞在を伸ばしたほどだった。美しい森と湖、そして野生動物達もギルバート王子の精霊に惹かれて集まり、城でいつも張り詰めていた心を解いてくれた。〝木漏れ日の森〟と町の人々に親しまれ、ギルバート王子にとって心の拠り所でもある、その森が今



〝危険区域〟として柵が立てられていた。



「魔獣でも出たか??」

看板の前で首を捻るエリアスに、なんとも口の中が苦くなる。多分、魔獣じゃない。

セシル王子は流石もう察したのか、強張った表情で私と目が合った。

ギルバート王子を探すべく森に直行したものの、町も森の周りも恐ろしく閑散としていた。本来、美形のエリアスとセシル王子が歩けば間違いなく目立つし話しかけられる可能性もあると思ったのに、そもそも人を見る数が少なかった。外にいるのは畑を耕している人くらいで、殆どの人が必要以上出歩かない様子だった。

危険区域の立て札も経年劣化があまりしていないことから、恐らくはここ一年の間に立てられたものだろう。森の入り口だけでなくその周辺も囲うように等間隔に柵や立て札が地面に打たれている。


「……スロース。一度、町の住民に話を聞いた方が良い」

早くも胃に手を添えながら眉の間を狭めるセシル王子の言葉に、私も心から同意した。

エリアスだけが「何故だ??」と今にも柵を越えようと足を上げていたけれど、私とセシル王子が一緒に引き返せば、何度も森に振り返りながらもこちらに付いてきてくれた。

取り敢えず家をノックするよりも、畑を耕しているおじさんを見つけ話しかける。身長の高いエリアスにびっくりしたのか目を丸くして警戒気味に逃げ腰になったけれど、セシル王子が「お仕事中すみません」率先して前に出てくれた。セシル王子だとやっぱり安心感がある。社交力なら第四王子だけど、話し合いの場数は私ともエリアスとも段違いだ。


「木漏れ日の森に入りたかったのですが、柵と看板で引き返しまして。何かご存知のことがあれば教えて頂けるとありがたいです」

「あー、いや、いやいや!あそこは入らん方が良い。守り神様が鎮まるまで暫くそっとしておかんと」

守り神??と、これには首を捻ってしまう。森のことは知っていたけれど、守り神なんて初耳だ。ゲームでもそんな設定語られていない。セシル王子もぱちくりと瞬きを繰り返す中、おじさんは困り顔のまま森の方向と、そして町全体を指で指し示した。

「一年ほど前〝大精霊〟の形をした山神様が現れるようになってなぁ……」



確・定・事・項



その言葉が、私とそして間違いなくセシル王子の頭に過った。その証拠にセシル王子の血色が悪くなっている。私も顔色は同じだろう。

ただ、セシル王子の場合は右手がギリギリと胃部を掴み押さえつけだした。キリキリキリと音が聞こえてくるようだ。人前だから姿勢は綺麗なままだけど、胃を押さえつける手には肩まで力が入っているのがわかる。

エリアスから大精霊話よりもセシル王子に治癒魔法を耳へ囁かれたけれど、今町の真ん中でしかもこの町人の前で魔法を使うわけにもいかず、首を横に振るう。


続く話だと、きっかけは一年ほど前の盗賊らしい。

この前の山賊みたいな山の中に根城をどんと構えていた賊ではなく、行き掛かりに突如として集落を襲ってきた。そこで町人曰く〝山神様〟が現れ、退治してくれた。それから夜な夜な森から現れては、悪人退治みたいなことをしてくれる。……ものの、もともと町そのものはわりと平穏なことの方が多かった。

たまに現れる悪人退治は、賊だけでなく泥棒、強姦……そして酒飲み同士の単なる大喧嘩にまで現れるようになった。大喧嘩の方は大精霊様乱入の時点で大慌てで逃げたから退治されずに済んだけど、それから町は軽犯罪どころか揉め事にも、大声を出すことにも外に出ることにも怯えるようになった。


その時目撃された姿こそまさに〝大精霊様〟。


そして町の異変はそれだけに留まらず、この森にも異変が起きた。単なる平和な森だったのに、森に入ってくる人間が昼夜問わず襲われるようになったらしい。こちらは今のところ転ぶ程度の軽傷者だけで、死者はいない。ただ、その代わり何人も警告を聞く者が出た。


『踏み入るな』


間違い無くこの森を護り続けてくれていた〝守り神様〟に違いないと。

きっと町を盗賊が襲ったことをきっかけに、守り神様を怒らせ過敏にしてしまった。町にはどう関与することもできない以上、今はこの怒りが静まるのを待つしかない。……うん。


「ギルバート王子ですね……」

「どこがだ??」

全てがです、と。セシル王子と見事に声が重なったのは、話を聞き終え畑から距離を置いた後のことだった。それまでエリアスの相手ばかりだったからか、常識人セシル王子が揃ってから心強い。


森の入り口まで戻ってきた私達は改めて警告の看板と森を交互に見比べる。

どちらもギルバート王子のやらかしに尾鰭がついた結果だ。日中は森に籠って、夜な夜な町に降りて暴れていらっしゃる。大精霊と呼ばれるような姿情報も、ギルバート王子の精霊と共通点が多い。精霊堕ちの影響でセシル王子と同じように精霊の姿が変質していると考えれば納得もいく。おじさんの前では言えなかったものの、ほぼ間違いなくギルバート王子の仕業だ。

バッドエンドのモノローグでも……


『─ それから、とある町に大精霊が現れるという噂が囁かれるようになった。その姿は苛烈で、そして美しいものだったという。……あの、陽だまりの森の町だ』


「きっとギルバート王子はその森を最後の拠り所に選んだのだろう」「私は、彼の拠り所になることはできなかった」と、そう締め括られた。

「それから」が何年後のことかはわからない。セシル王子と同じくまだ城下にそんな噂流れてきたこともない。……ただ、つまりこのまま放っておけば、この先も永遠にギルバート王子はこの森に居続ける。〝大精霊〟という名も皮肉にも的を射ている。


「スロース、君もギルの精霊が変貌した姿は知らないのだろう?」

「はい。私が最後にお会いした時にはまだ変わる前でした」

セシル王子の確認に頷きつつ、柵を越えようと足を踏み出せば靴先を嫌な空気が纏った。

そのままでも敵に回ったら充分恐ろしい精霊が、精霊堕ちになればどんな姿になるのか想像するだけでも身震いがする。私の浄化魔法は効果があっても、浄化魔法を放つ前に消し屑にされては意味がない。

森に入る前から、杖を構える手に力が入る。セシル王子も肩の上に表出させた自分の精霊を目で確かめ、また胃を押さえていた。


「どうした二人とも?先に行くぞ??」

ぴんと張り詰めた緊張感の中、エリアスだけがもう柵の向こうで立っていた。

「兄上?!」と今気付いたようにセシル王子が声を上げる中、エリアスは躊躇うどころか寧ろ前のめりだ。

「楽しそうですね」と思わず感想がそのまま私は言葉に出れば「ああ!」と元気な肯定が返ってきた。弟が森の中で人外扱いされているのに何故なんて、そんなの聞くだけ無駄だと今はわかる。弟の現状よりもエリアスにとって今楽しみなのは。



「ギルバートに会えるのだ、早く行こうではないか!」



「……スロース。兄上は私の時もあんなに燥いでおられたのか?」

「いえ。ですが、ハリー公爵の右手を握り潰す勢いで食い下がっておられました」

ハリーに?!と、胃痛を一瞬だけ忘れたようにセシル王子から叫び声が上がる。

最強の精霊と精霊堕ちした王子。それでもこの安心感があるのは、一応はエリアスのお陰なのだろうと思いながら、私は意を決して柵の向こうに足を踏み入れた。


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