その⑤
「お姉ちゃんありがとう。
フェルシモの代わりだと思って大事にするね。
でも、お兄ちゃんはフェルシモに変わりないから、お姉ちゃんと一緒にいつでも遊びに来てね。」
勇は雑貨屋でアキトにちょっとだけ似ている人形を探し出して、それを買って真沙美の家まで態々届けに行ったのだ。
「うん。また来るね。」
言って真沙美に手を振り二人は家へと向かって歩いて行く。
「誰だ?フェルシモって?」
電柱の影に隠れていたメイビスは突然二人の前に出て来てそう尋ねる。
「何処に行ったのかと思えばそんな所に・・・・・。
あんたもあの子に会って行けば良かったと思うが・・・・。」
すっかり敬語が外れて普通に会話するアキト。
メイビスは彼の言葉に照れた感じで頬を赤らめ・・・・。
「小さい子供は少し苦手でな。
どう接して良いか分からん。」
そう言って彼女はモジモジしだした。
「まぁ、分からなくも無いが・・・・・オレ達軍人は普段、子供にあまり接する機会がないからな。
特にメイビス・・・・・あんたは総帥の孫、軍内部で育ったような物。大人に囲まれていては無理も無い。
だがあんたは指揮官だ。周りの状況を判断する力を備えているはずだ。あんたならきっと出来るはずだぜ。」
彼の言葉に沈黙する彼女。
「隊長の言う通りだよ。メイビスになら出来るよ。」
横で精一杯励ます勇。
「出来るかな?」
自信なさげに言う彼女に二人はにこやかな表情で頷いた。
「わたし・・・・ちょっと雑貨屋さんにまた行って来るから二人は先に戻っといて。」
アキトとメイビスは互いに顔を見合わせた。
「まだ用でもあるのか?」
アキトに言われ、彼女はう~んと少し考え・・・・。
「あそこの店に行くのが今のマイブームだから・・・・。
また面白い物置いてあるかも知れないし・・・・。」
そう言うと彼女はそのまま走って行った。
「気をつけて行って来いよ。」
アキトが勇に大声でそう叫ぶと、勇は後ろを振り向き後ろ走りをしながら両手を振り、再び前を向きそのまま走って行った。
「まるで子供を見ている感覚になるな。」
メイビスはそう呟くとアキトは彼女を振り向いた。
「やはりあんたもか・・・・・。
どうもあいつを見ていると子供と話している様な感じになるんだ。
かと思えば、たまに鋭い所もある。
何なんだろうな。あいつは・・・・・」
そんな疑問を感じつつ、二人は勇の走って行く様子を見えなくなるまで見守っていた。
勇は雑貨屋へと辿り着き表の所で座って品物を観察していた。
「勇ちゃん。あの隊長さんとそのお友達のお姉さんは一緒じゃないのかぃ?」
店の奥から出て来る店のおばさん。
「ん~・・・・・・二人がいると、ゆっくり品物が見れないから・・・・・。」
おばさんの顔を見ないでニコ二コしながら玩具の小さい家の仕掛けを眺めていた。
「まぁ、ゆっくりして行きなね。」
言っておばさんは奥へと引っ込んで行った。
学校帰りか遠くから騒ぎながら歩いて来る女子高生。
その女子達はアイス片手に楽しげに周りの迷惑を考えず、我が物顔で商店街を歩いていた。
すると突然、店と店との間の隙間の道から、小学生位の男の子が勢い良く出て来て、その人達にぶつかった。
「何すんだよ!?」
女子の話し方とは思えない様な乱暴な口調で子供服を掴み上げるのは、ショートヘアーの金髪女子である。
子供は何が何だか分からず泣きそうになっていた。
事態に気付き、勇は事の成り行きをジッと見ていた。
「いきなり出て来ると危ないだろ?あぁ?」
「あんたみたいなガキが交通事故になるんだよ。ヴァーカ!」
別の茶髪で髪の長い女子高生が子供にそう言った。
その言葉は子供を泣かすのに十分だった。
「・・・・っく・・・・っくっ・・・・・・」
泣きじゃくる子供。
「泣いてんじゃねぇよ!謝れよ。悪い事したらまず謝るのが礼儀だろ?
親に教えてもらっただろーが。」
金髪の女子高生は、子供の服を掴んだまま揺すった。
周りの人は気にしながら通るも、ただ見て見ぬふりをしてそのまま何もせず通り過ぎて行く。
・・・・・・・・誰も助けない・・・・・・・・
勇は悲しい感情が溢れ出し、立ち上がり女子高生達の方へと向かって行った。
「なんだぁ?
このガキの知り合いか?」
「いや・・・・・こいつ知ってる。
あたし達より一つ上だけど、何か病気なんだってよ。」
「はぁ?何の病気だよ?」
「噂では知的障害とかって聞いた。」
口々に言う彼女等を睨み、勇は口を開いた。
「そんなのはどうでも良いよ。
年上の人は子供に見本となる事をしなきゃいけない。あなた達は全然見本になっていない!
その子を離して!」
勇がそう言うと、女子高生達は余計に気分を害したらしく勇を睨みつけた。
「何だぁ?知的障害の分際で何偉そうに言ってるんだ?こんなガキいらねぇよ。」
すると金髪の女子高生は子供を勇に向けて突き飛ばした。
子供は勇にしがみ付き泣きじゃくっていた。
「お前にはこれがお似合いだよ。」
女子高生の一人は笑いながら手にしていたアイスを勇の頭に投げつけ、頭から垂れ下がるアイスは地面にそのまま落ちた。
『きぁはははははっ!!!』
それを見るなり彼女等は腹を抱えながら笑い転げていた。
「可哀想~!!!
はっずかすぃ~!!」
そんな馬鹿にした態度を取り、彼女等は騒いだままその場から去って行った。
周りの視線は勇へと向けられていた。
「ほら。もう大丈夫だからね。」
泣いている子供をなだめそして彼の頭をそっと撫でた。
「お姉ちゃん・・・・・ごめんなさい・・・・・。」
勇の髪を見て、手でそのアイスを触る子供。
「謝らなくて良いよ。
わたしは平気だから・・・・。
ほら。急いでるんでしょ。行きな。」
手でそっと背中を押すと彼は礼をして走って行った。
注目される勇。
「大丈夫かい?
ごめんね。わたしも何か出来たら良かったんだけど・・・・・・恐くて・・・・・。」
奥に引っ込んだままだった雑貨屋のおばさんは濡れタオルで勇の髪を拭いた。
「うん。多分。皆こー言うのって恐いと思うから・・・・・。
おばさん。わたしそろそろ帰るね・・・・・」
「そうかぃ。気をつけて帰りなよ。
あいつ等の言った事あまり気にするんじゃないよ。」
勇はおばさんにニッコリと笑みを浮かべてその場を後にした。
家までの距離は近い、だが勇は家には帰らず公園へと足を運んだ。
勇は泣いていたからだ。誰にもその顔を見せたくは無い。今の自分を家に帰って誰かに見られれば、きっと心配する。だから彼女は公園へと向かったのだ。
公園に着くとブランコに、肩に人形だかぬいぐるみだかを二体乗せた、茶色い帽子に、白いチシャツ、そして茶色いチョッキに茶色いズボンといった茶色づくしの青年が座っていた。
彼はこっちに気付きニコっと笑みを浮かべて来るが、今の勇は誰にも会いたく無く、目線を反らしその場から逃げようとした。
風が突然吹き付けて、辺り全体の木の葉が勇の周りで舞い広がった。
気付けばその青年は勇の腕を掴み取りその場で片膝着いてしゃがみつつ勇の手に軽くキスをした。
「!????」
意味が分からず、慌てて手を彼から取り上げ、二、三歩彼女は後づ去る。
「失礼。
君が泣いていた様に見えたから。つい。」
彼は笑みを浮かべそう語る。
肩に乗っているのはぬいぐるみっぽい人形二つ。
「僕の名はアルバート・ケレス。僕の家系は代々この街で人に夢を与える為に人形師をやっている。」
・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・
「アルバート・二コル・・・・・。」
思わず口からポロリとその言葉が出、慌てて両手を口に当てた。
「その名前は、僕の家にある生意気な人形の名前だね。何故君が知っているんだぃ?」
「何で何で?」
肩の人形が喋り出した。
突然の追及に動揺した勇は、地べたにしゃがみ込み涙を流す。
「泣かないで、恐がらせるつもりは無かったんだよ。大丈夫。大丈夫だから・・・・・。」
ケレスも座り込み勇を抱きしめ背中をポンポンと叩いた。
「僕は泣き終わるまでこうしてるから・・・・・・・・」
彼の体は温かかった。そして何故か安心した。
・・・・・・・この人は悪い人じゃない・・・・・・・
勇はそう感じた。
「わたしの名は、大宮勇」
ようやく落ち着きケレスから間を取り、彼女は自己紹介をした。
「その人形喋るの?」
肩に乗っている女性風の人形の頭に勇は触れてみた。
「当り前よ。だってわたし生きてるんだもの。」
そう喋り出した人形を見て、勇は困惑した。
「あぁ・・・・ごめん・・・・つい職業柄やっちゃうのさ。腹話術って知ってるかぃ?」
首を横にブンブン振る勇。
それに対してガクッと肩を落とす彼。
「この二体は僕が声を出してやってるんだよ。今日も仕事終えて暇だったから、さっきまでここで子供達に無償で腹話術を披露してたのさ。
やはり人間、夢とロマンを持たなきゃつまんないからね。」
勇はようやく理解したらしくケレスに向かって笑みを浮かべた。
「そうだったんだ・・・・・わたしはてっきり人形に変えられた人間の心の叫びかと・・・・」
再び慌てて口に手をあてる彼女。
「面白い事を言うね。
人間が人形になったら一大事だよ。」
言われ二人は同時に笑った。
「そうだ。
今度僕の家においで。変わった人形見せてあげるよ。」
・・・・・・アルバート・二コル・・・・・・・
一瞬その名前が過り戸惑うが勇はコクっと頷いた。
「ほら、名刺渡しとくから。」
名刺ケースから名刺を一枚取り出すと、勇にそれを手渡した。
「ありがとう。
今日は初対面の人なのにいきなり泣きついてごめん・・・・・・。
色々あったから色々悲しくなったから・・・・でもケレスは優しい人だって分かったから嬉しかったよ。
わたしそろそろ帰るね。」
「あぁ。またね。
プリティレディ。」
そして、二人はその場で別れた。
「勇・・・・・
お前、聞いたぞ。雑貨屋のおばさんに・・・・・。
色々言われたんだって?」
夜、弘樹は仕事から戻るなり勇の部屋へと入り込み心配そうにそう言った。
・・・・・・おばさんに口止めしとくの忘れてた・・・・・・
今更だが勇は、しまったぁ!!と感じた。
「お前は知的障害なんかじゃない。ただお前は五年程、意識が無くて寝たきりになっていただけだ。
今からでもその五年分は補える。だから気にするな!
次、誰かが何か言ってきたら兄ちゃんがやっつけてやるからな!」
言うと弘樹は勇の体を抱きしめた。
勇は兄の背中に手を回す。
・・・・・・ごめんね。わたしもっと強くなるから。心配されない様にもっと強くなるから・・・・・・・
勇は心で兄、弘樹にそう思ったのである。
「こほんっ・・・・。」
開けっ放しの部屋の外から二人の様子を見るアキト。
「え~・・・・っと・・・・・・その・・・・・何だ・・・・・
・・・・・じゃ!」
アキトは言葉につまり、そのまま何も見なかった事にしてその場から立ち去ろうと自分の部屋に足を向けた。
「おい!なんか今、勘違いして行っただろ?
って言うか今オレ達の話し聞いてたな?おい!ちょっと待て!!」
弘樹はそのままアキトを追いかけて行った。
その様子を見て勇は苦笑した。
アキトは自分の部屋へと戻るが弘樹は部屋の中までついて来た。
「おぃ!さっきの話しは忘れろ!
あいつに感じる全ての疑問を本人に絶対に聞くな。両親の事を追究するのも禁止だ。」
恐い顔をした弘樹はアキトにそう言うが、アキトは溜息をついた。
「世の中、分からない程恐ろしい事は無い。」
アキトの呟きに意味が分からないと言った表情をする弘樹。
「何も知らずに人を傷つける場合があるって事だ。
知らないより知ってる方がそれを回避出来る可能性が高い。」
アキトの言いたい事が分かったのか弘樹は困惑の表情を浮かべた。
「勇の事を教えろって言うのか?」
「ああ。」
弘樹に言われアキトはそう頷く。
それに対して暫し黙り込み考え込んだ後、彼は諦めたのか今まで全身に入っていた力を一気に抜いた。
「部外者が口を出すな!
・・・・・と言いたい所だが、あいつはお前の事を結構気に入っている。
・・・・・・・本当にそれが最善の策と言うのなら・・・・・・良いだろう。
この街で変な噂を耳にするより正確な内容を教えておいた方が良いのかも知れないしな。」
アキトの部屋の開けっ放しの入口の壁にもたれ、メイビスは聞く気満々でそこにいた。
「あいつは未熟児で生まれて来たんだ。」
アキトの部屋のベッドの上に腰をおろし、弘樹は話し出す。
「だから人より身体が小さい。
今は普通だが、昔は体が弱く、動くと熱を出して外にも出れなかった。
それを見ていた両親は何とかして勇を外の世界を見せてやらなければと考え、牧場へと三人で向かったんだ。
オレは友達と旅行の約束があってそっちの方に行ってたから一緒に行けなかったが・・・・・・
だが・・・・勇達はその帰りしなトラックと正面衝突して、勇は頭を強く打ち意識不明。両親は重体でそれぞれ病院で一週間も経たず亡くなってしまった。
それが勇の五歳の時だ。」
弘樹は悲しそうな顔をしてアキトにそう言った。
「それから、勇は五年もの間ずっと眠り続けていた。
だけど十歳の時、突然勇は目を覚ましたんだ。」
弘樹は少し笑った様に見えた。
「奇跡に違いないと確信した。
・・・・・・・それからと言う物の、あいつは元気に育ち今に至るってわけだ。
しかし、あいつは事故当時の記憶をしっかり持っている。
自分が牧場に行く事を拒否していたら状況が変わっていたんじないかと、自分を責める所もある。
だから、あいつの前では両親の話しはするな。」
・・・・・・・成程・・・・・・・・オレ達が感じていた幼さはそこから来る物だったんだな・・・・・
弘樹はベッドから立ち上がり入口の方へと向かい出す。
「以上だ。
分かったなら勇に話す時は言葉を選んで話せ
それが嫌ならここの家から出て行く事だ。」
そう強い口調で言うと彼は部屋から出てった。
「トラックってのはどんな物かよく分からないが・・・・あの子、色々大変な事情を持ってたみたいだな。」
壁にもたれ掛けていたメイビスは難しそうな顔をしながらアキトの元に歩み寄りそう話した。
「そうだな・・・・・。五年も眠ってたなんてな。
だけどな。今のオレ等はあいつと全然変わらねぇじゃないか。」
理解したのか頷くメイビス。
「そうだな。わたし達はここの世界の事を知らないし両親もここにはいない。だからここの世界の住民として暮らすと言うのなら、今から学ばなければならない事は山ほどある。一緒に足りない所を補っていけば良い話しだ。」
彼女の言葉にアキトは頷いた。
「隊長~・・・・・これ・・・・・教えようか迷ったんだけど・・・・。やっぱり重要な手がかりだと思うから・・・・・」
そう言うとアキト達のいる部屋に、勇はいきなり入って来た。
話しが話しだけに突然入って来られ少々驚く二人。
勇は彼にケレスに貰った名刺を手渡した。
「何だ?これ?」
アキトの持つ名刺を興味深そうにメイビスも覗き込むが二人して首を傾げた。
「名前と住所入ってるよ。」
主語が無く更に首を傾げる二人。
勇も首を傾げるが、気付いたのか両手をポンッと叩いて見せた。
「アルバート・ケレスの名刺。
この人二コルの事知ってるよ。」
『!???』
重大発言に絶句する二人。
「はぁ?どぉ言う事だ?」
追及され困惑する勇。
「よ・・・よく分かんないけど、ケレスも人形の仕事してたよ。
それに二コルの事も知ってる感じだった。
行ってみる?」
勇に聞かれ二人は顔を見合せて・・・・・・。
「でかしたぞ勇!!
お前をオレの優秀な隊員一号に任命する。」
アキトはそう言うと勇の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「アキトの部下となると、わたしの部下も同然だな。」
メイビスは勇を後ろから抱き締めた。
二人を見て勇の心に、言い様の無い嬉しさが込み上げ、彼女はちょっぴり照れ臭そうにしていた。
「じゃあ、明日に備えて、ちょっと早いがわたしはそろそろ寝る。」
言うと、新しくメイビス専用として弘樹に貰った部屋に彼女は帰って行った。
「オレ達も寝る準備でもするか・・・・。」
アキトに言われ勇は頷くが、ちょっと複雑な表情を浮かべていたので、アキトは彼女の頭に手を置いた。
「大丈夫だ。そのケレスって言う奴は良い奴なんだろ?関係の無い奴には手は出さねぇから気にするな。」
そう話すと勇はアキトに笑みを浮かべた。
「ありがとう。隊長大好き!」
嬉しそうな顔で部屋をクルクル回ると、アキトにお辞儀をして部屋から出て行った。
アキトは馴染みの無い言葉を聞き、何となくこそばゆい感じがした。




