その③
日がまだ出たばかりの早朝に、彼等三人は湖の砂浜に降り立った。
ここは昔、普通の畑だったらしい。だが突然光が落ちて、この地に窪みが出来、湖になったとか・・・・・。
しかもそこに人形になっていた彼、アキトが落ちていたと言うのだから、これはアキトにとって有力な手がかりとしか言い様がないだろう。
「お弁当、ママが作ってくれたんだよ。」
浜辺にレジャーシートを引きながら楽しそうに話す真沙美。
竹で織られた大きなケースをパカッと開いて見せると、そこにはサンドイッチが綺麗に並べられていた。
「上手だねお母さん。」
「でしょー?わたしは中にチーズ入ってるのが好きなんだ。シーチキンと一緒のが一番美味しいよ。
ママね。お姉ちゃん達の分まで作ってくれたから後で一緒に食べようね。」
「うん。ありがとう。」
二人の会話を聞きながらアキトは水に手を入れた。
・・・・・・・・さて、どう調べるかが問題か・・・。
たかが人形一つ落ちて来ただけで、こうも大きな湖にはならんだろう。
これだけの威力だ、光ってのはまず魔法か何かだと考えても良いだろうな。
どう言った経緯でそうなったのか理解しがたい事だらけだがこの湖の底を調べなければ先には進めない気がする・・・・・。
「今から湖全体に結界を張る。」
突然そんな事を言われ戸惑う二人。
『結界って何?』
二人はほぼ同時にアキトに聞いた。
「そう言うと思ったからな・・・・。
昨日から見ていて、あんた等の世界では、剣おろか術も使えない。そうだろ?」
彼に聞かれて頷く二人。そして彼は続けて・・・・。
「そんな魔法と言う物を見た事が無い連中に見られでもしろ。大騒ぎだろ?」
何となく言いたい事が分かった勇は両手をポンっと叩くと・・・・。
「人に見られない様にするんだね?」
「はい。正解!
で、今から外の人達が入って来れない様に魔法を使用する。」
「おぉぉっ。見たい!」
魔法と言う言葉を聞き目をキラキラさせ、そう言う真沙美。
「わたしも見たい!」
今度は勇までもが目を輝かせていた。
二人から期待の眼差しを受けてアキトは、任せろと言った感じで笑ってみせた。
彼は宙に凄い速さで宙だと言うのに消える事の無い術式を描き、それに向けて両手を押し当てた。
すると一瞬凄い青白い光が両手にある術式を中心にして出現し、それはアキトの考えに合わせる様に、湖全体を囲んだ。
「!??」
目を丸くさせてただ驚く二人。
「今のが結界?凄い光ったよね?」
「よね~・・・・。
でも光っただけで普通だよ?透明だもん。」
二人は興奮した感じでアキトに詰め寄った。
「透明で無いと意味ないだろ?結界なんだから・・・・・。何かあったら逆に怪しまれる。
これは誰も入らせない結界・・・・・・。
さて・・・・もう一つ術を掛けてやらないとな。」
言うと彼は今度は手で印を結び結界がある所に押し付けた。
パリンっ!
何かが割れる音が一瞬聞こえるが見た感じ何もなっていなかった。
「今度は何?」
「何々?」
楽しそうにアキトに聞く二人。
「結界の表面に時間を停止させる術を張った。湖で起きている事を誰にも見られない様にだ。
だから、さっさと済ませなきゃな。
こー言うのってただ騙してるだけだから、ここの湖を熟知している人には直ぐにばれる。」
首を傾げる勇。
「霧って手もあると思うけど・・・・・。隊長は霧出せないの?」
・・・・・・あっ・・・・・・・・
ど素人の彼女に言われて沈黙するアキト。
・・・・・しまった。こぉ言う場合は結界の外に霧を撒くって言うのが効果的なんだった・・・・・・
脳裏に、メイビス軍事指揮官の馬鹿にした様な顔が過る。
溜息をつくアキト。
「時術解除。」
手で結界に触れてそう言うと再び何かが割れる音が聞こえた。
そして彼は勇の頭を撫でた。
「ああっ。そうだな。お前の言う通りだ。
今は明け方だしな。霧が一番正しい。」
言うと彼は彼女に笑みを浮かべた。
・・・・・年齢の割には幼いと思ったがそうでも無いのかもな・・・・・・
彼はそんな事を思いつつ結界に向けて手で印を結ぶ。
「ウイング・ミスト!」
口でそう言うとアキトの手から凄まじい霧が出現し、それは辺り全体を囲んだ。
「うわっ・・・・真っ白・・・・・何も見えないね・・・・。」
嬉しそうに話す真沙美。
「さて。今からが本番だ。
昨日は潜ってやろうかと思ったがそれでは時間がかかり過ぎる。よってここは水を割る。今の二つの術はこの為に張った物だからな。」
『え?』
彼の言葉に驚く二人。
「まぁ見てろ。」
「全て物の生を司りし水よ。今一度我に力を与えよ。」
言い終わると彼は両手で、何も無い左右を同時に押し始めた。
すると湖は二つに分かれ道を作り上げた。
「フェルシモ凄い凄い!まるで聖書の中に出て来るモーセみたい。」
モーセと言う人物を知らない彼は真沙美の話しに首を傾げた。
「お前等はどうする?一緒に来るか?」
勢いよく首を縦に振る二人。
「当り前だよ。冒険大好きだもん。」
「うん。わたしもわたしも。
それにフェルシモ一緒に遊ぶって昨日お約束したでしょ?」
口々に言う二人に呆れるアキト。
「ったく。お前等は恐いって言葉を知らんのか?」
アキトの言葉に目を輝かせる二人。
「まぁ良いや。
一人より三人もいりゃ何か見つかるだろ。
ついて来い。」
そしてアキトは二つに分けた湖の道を歩き出し、その後から勇達はついて来た。
つるっ!
こけて尻もちをつく勇。
「痛!
あ~・・・・泥だらけ・・・・。」
後ろのスカートを見ると泥んこになっていた。
「おぃ・・・・・。大丈夫か?気をつけろよ。全体的に滑りやすくなってるからな。」
アキトの言葉に頷く勇。
「あぁ!!!」
真沙美が突然大声を出して水の壁に近づき何かを拾った。
「見て見て。お魚が落ちてたよ。」
真沙美はビチビチ跳ねている魚を不器用な手つきで持って二人に見せた。
「本当だな。生きが良い魚だ。
今なら魚、拾い放題だぞ。」
アキトは楽しそうに前方で跳ねている沢山の魚を指差した。
「面白い!!!」
「面白いね~。」
勇と真沙美のテンションは更に上がり、先々と歩いて行った。
「おい!お前等、気をつけろって言ってるだろ?慎重に歩け!」
彼は慎重さの欠片も無い二人を見て溜息をもらした。
暫く歩くとアキトは止まった。
・・・・・・・・・ここ等がこの湖の真ん中辺りか・・・・・・・・・。
「お前等!
今からここ等一帯を調査する。
だから何か変な物があればオレに直、教えて欲しい。」
言われ二人は互いに顔を見合わせ面白そうに笑みを浮かべ・・・・。
「真沙美ちゃん!競争だよ!」
「うん!
お姉ちゃんには絶対負けないから。」
そして二人は中腰になりながら泥の中を手探りで調べ始めた。
二人の様子を見て面白い奴等と笑うアキト。
そして彼も二人に続き調べ始めるのだった。
それから数分が経過した後、勇はそっとアキトの元に何かを持って来た。
彼女が手にするのは魔法陣の入った何かの欠片。
「これ怪しいと思って・・・・。」
アキトは黙ったまま彼女からそれを受け取り泥を綺麗に落とす。
「七芒星か・・・・」
アキトの呟きに勇は首を傾げた。
「七と言う数字は昔から完全と言う意味を持つと言われている。この世界で完全な者はただ一人、神しかいない。星は天を現す物。つまりこれは神聖術の魔法を刻んだ何かの欠片だろう。」
言われてもチンプンカンプンな顔の勇。
二人の様子が気になり真沙美はアキト達むの元へとやって来た。
「大体の見当はついたな・・・・。」
アキトはそう言うと二人に向けて笑みを浮かべた。
「二人ともありがとな。」
彼は勇達の頭を撫でた。
「もう終わり?」
つまらなそうな顔をする真沙美。
「そうだよ。もうちょっと探したら何か出て来るかも・・・・。」
不満そうな顔をする勇。
「そう言うなって・・・・。
そろそろ戻んねぇと、霧や結界があったとしても流石に人に気付かれるだろ?気付かれたら大騒ぎになる。」
言われ彼の言葉に納得する二人。
「じゃ。フェルシモは鬼ね。」
・・・・・は?・・・・
突然真沙美にそんな事を言われ沈黙するアキト。
「わたし達、逃げるから二十数えたら来てね。
走ると危ないから、走ったら罰として、その場で止まった状態でそこで十秒数えなおして追いかけて来てね。」
・・・・・・おいおいおい・・・・それってオレが走ってる所監視しながら逃げる気か?・・・・・・・・
真沙美の子供らしい鬼ごっこの設定に苦笑するアキト。
「面白そうだね・・・・・。それなら楽しく遊びながら帰れるね・・・・」
真沙美の遊びに楽しげに参戦する勇。
・・・・・・え゛~・・・・・・・・お前もか・・・・・・。
まぁ、子どもは遊びのプロだからな、つきあってやるか・・・・・・
一瞬、彼の頭に面倒臭いと言う言葉が浮かんだが二人の様子を見ている内にそれは一瞬で消えた。
「じゃ、行くぞ!二十・十九・・・・・」
『きゃぁぁぁっ!いきなり!?』
アキトの言葉に二人は顔一杯に笑みを浮かべて、来た道を走り始めた。
浜辺で倒れ込み二人は荒い息をついていた。
二人が倒れている間にアキトは術を全て解除して、レジャーシートの上に座った。
「フェルシモ・・・・走ってたよ?
めっちゃ走ってた。
でも、わたしに見られてちゃんと十秒数えてたよ。」
真沙美はそう言って起き上がりアキトの元へと駆け寄って背中におぶさった。
「おぃ。
何やってんだ?」
予想外の行動に驚く彼。
「負けたから悔しいの!
何でフェルシモは疲れて無いの?何で?」
彼女の問いかけに照れているのかほっぺを指で掻きながら・・・・・。
「軍人だから一応それなりの訓練は積んでるしな。」
「ぐんじん?」
アキトの背中から下りて考え込む真沙美。
「まぁ、国を守る為の組織だ。」
やはり分からないのか更に首を傾げた。
「正義の味方だから色々修行してるんだよ。」
勇は起き上がり、アキトの元へと来てそう言った。
「そうなんだ!!だからフェルシモは悪い魔法使いと戦ってたんだね。」
テンションが更に上がり真沙美はケースからサンドイッチを出してアキトと勇に手渡した。
「これ、食べたらもっと強くなるよ。」
アキト達は暫しサンドイッチを見て真沙美へと視線を移し笑みを浮かべた。
「ありがとな。」
「美味しそうだね。」
そして二人はそれを食べた。
「ご飯食べてからまた遊ぼ。」
言うと真沙美もサンドイッチを手に取り食べ出した。




