第2章 泥沼の現実 1 崩れる復讐心
その日の放課後、響と瑞希は図書館の裏手に行った。そこは、街全体を俯瞰できる、二人にとっての密かな拠点となっていた。しかし、瑞希の様子はいつもと違った。彼女は手元の端末を眺めながら、指先を細かく震わせている。
「高野?」
「……デーモンが、動いたわ。クラスの担任教師を使って、三条くんの家庭に『虚偽の不祥事報告』を送りつけた。父親の職場に、根も葉もない噂を流したのよ」
響は眼鏡を外すと、親指で眉間を強く押さえた。怒りではない。それは、自分の「守るべき場所」が蹂躙されたことへの、静かな、しかし深い悲しみだった。
デーモンという組織は、組織が狙ったターゲットやアンチデーモンを必ず、悪者に仕立てるようなデマを流す。
デーモンという組織が嫌っているだけなのに、悪者と仕立てると、住民や生徒たちは、罪悪感にかられることなく、悪者成敗の名のもとで、いじめや嫌がらせができるからだ。
そうやって、デーモンという組織は、瑞希の父親のような大勢の善人たちを社会的に抹殺したり、命まで奪ったりしていた。
「……あいつら、本当に加減というものを知らないな」
「笑っているわ、彼ら。私たちが絶望する姿を、モニター越しに娯楽として眺めているのよ」
瑞希は壁に拳を叩きつけた。彼女の瞳から、それまで宿っていた「氷のような冷徹さ」が剥がれ落ちる。溢れ出したのは、純粋な痛みだった。
「響くん、私は……お父さんを奪われて、ずっと復讐のことばかり考えていた。デーモンを壊滅させれば、すべてが終わるって。でも、目の前で響くんの日常が壊されそうになって……私、自分が何をしたいのか分からなくなってきた」
(響くん…?あの高野が俺を名前で呼ぶなんて……)
響にはいつも冷静沈着でタフに見えた瑞希の脆さを見た気がした。
瑞希は膝を抱え込んだ。普段の強気な彼女からは想像もつかない、無防備な姿だった。
「私、ただの復讐鬼になりたかったわけじゃないのに。……私だって、本当は誰かと笑って話していたいだけなのに」
響は、その背中をじっと見つめた。かつて自分も感じた痛みだ。正義感に突き動かされ、結果として周囲を傷つけ、自分自身を檻に閉じ込めたあの中学時代。あの時の自分も、瑞希と同じように「自分は何のために傷ついているのか」と夜な夜な問いかけていた。
響はゆっくりと歩み寄り、瑞希の隣に腰を下ろした。
「瑞希。復讐心は、悪くない。それは、君がそれだけお父さんを愛していたという証拠だから」
響も瑞希を同志のように更に思い瑞希と名前で呼んでみた。
「……でも、このままじゃ私は、デーモンと同じ『悪意の塊』になってしまう」
「ならないさ」響は断言した。
「瑞希がその痛みを抱えている限りは。本当に恐ろしいのは、痛みを感じなくなった連中だ。人の優しさを知る者は、たとえ泥沼にいても、いつかまた光の方を向ける」
8月6日の今日は広島に原爆を落とされた日です。
あれから81年戦争のない平和は一応続いていますが、日本国内ではいじめという卑怯な戦争が深刻です。
この物語のデーモンの手口は、都市伝説と言われていた集団ストーカーの手口です。集団ストーカーも都市伝説ではなく、認知され始めたかも知れないですが。
今は一応平和なのに、日本国内で、卑怯な戦争、集団いじめ、いじめ、集団ストーカーをしていたら、大きな戦争を引き寄せることになると思いますよ。
気に入らない人は誰だっているのかも知れないですが、生きている以上、みんな生きる権利はあります。
青い海のナギー潮のゆりかごー
26 盆踊りー堤防の風と、遠い空の向こうー
航太と櫂の戦争を絡めた物語です。
こちらもよろしくお願いいたします。




