第1章 剥がされた仮面 2 協力という名の共犯
その予言は、翌日の物理の授業で的中した。
「おい、三条。お前、さっきから妙に落ち着きがないな」
教師の投げやりな問いかけをきっかけに、クラス中の視線が響に注がれた。いつもは空気のような存在であるはずの響が、その日はやけに浮き彫りにされる。
原因は、机の中に仕込まれていた一通の匿名の手紙だった。響の過去、かつてのハードル選手としての栄光と、それを捨てて逃げ出したという卑怯な過去をほじくり返す内容。それを処理しようと動揺した響の焦りが、周囲の嗅覚を刺激していた。
「……何でもないです」
「何でもなくないだろ。お前、中学の時は凄かったんだってな? 今のその猫背は、わざとか?」
嘲笑が響く。響の心臓が早鐘を打つ。
(落ち着け。リズムを崩すな。これはただのノイズだ。反応するな、無視しろ……!)
その時、衝撃が走った。響のシャーペンが机から落ちた。拾おうと屈んだ瞬間、フレームの緩んでいた眼鏡が床を転がり、遠くへ消えた。
「……え」
教室の空気が、まるで真空状態になったように止まった。眼鏡を外した響の顔には、かつてフィールドを駆け抜けていた少年の面影が色濃く残っていた。端正で、憂いを帯びた、そしてどこか他者を寄せ付けない凛とした空気が、剥き出しのまま教室に露呈した。
「……嘘だろ、三条ってこんなイケメンだったのかよ」
「え、何この雰囲気……急に怖いくらい綺麗じゃん」
女子たちのどよめきに混じって、男子たちの嫉妬が入り混じる。それは、彼らの「居心地の悪さ」の表れだった。誰かが「異分子」を叩こうと準備を始める、あの特有の空気だ。
そのとき、響の横に瑞希が立った。彼女は響が落とした眼鏡を拾い上げると、彼の顔の前にかざした。
「皆、そこまでよ」
瑞希の声は、氷のように冷たく、けれど教室の喧騒を強制的に停止させる力を持っていた。彼女の纏う殺気が、教室の空気を支配する。
「三条くんは、このクラスの誰よりも、皆のことを考えて行動しているわ。あなたがたが面白がって拡散しているその噂、裏でどれだけ彼が止めていたか、想像したことある?」
「は? 何言ってんだよ、こいつが?」
瑞希は響の眼鏡を優しく手渡すと、クラス全員を見渡した。
「デーモンに踊らされていることにすら気づかない哀れな人たち。……さあ、三条くん。もう隠さなくていいわ。私と一緒に、この教室の膿を出しましょう」
響は震える手で眼鏡を掛け直した。視界がクリアになる。そこには、獲物を待ち構える瑞希と、困惑しきったクラスメイトたちの顔があった。
(……最悪だ。高野、やりすぎだよ。これじゃあ、僕の平穏は完全に終わる)
だが、瑞希の瞳が言っていた。お父さんが奪われた正義を、ここで私が取り戻すのだと。
響は覚悟を決めた。かつて逃げたハードル。だが、今目の前にあるのは、自分の日常を守るための、避けて通れないハードルだ。
「……協力するよ。ただし、僕のやり方でだ」
響は立ち上がった。彼の背筋が伸びる。それは、スタートラインに立った瞬間の、あの感覚だった。
響の要素は昔は長所と言われていましたが、現代ではそれが仇になることもありますね。そんな長所を持った碇湊の短編物語、
湊、絶対絶命!よりによってなんで葵とー夏休みのイベントきも試しー
もよろしくお願いいたします。




