第4章 愛なき組織との対決 3 二人だけの革命
「さあ、瑞希。最後の仕上げだ」
響は立ち上がった。二人は、工作員たちが潜む廃ビルへと歩き出す。もはや隠れる必要はない。彼らの支配は、この街から完全に消え去ろうとしていた。
「復讐は、もういいの?」響が瑞希に尋ねる。
「……ええ。お父さんの無念を晴らすことは大事。でも、それ以上に……響とこうして笑って明日を迎えられることの方が、ずっと大事だって気づいたから」
二人が廃ビルの入り口に立つと、そこには狼狽した工作員たちの姿があった。警察のパトカーのサイレンが、遠くから近づいてくる。
「どうして……どうしてだ! 俺たちは完璧なシナリオを描いていたはずだ!」
リーダーが喚く。響は静かに、彼らの前まで歩み寄った。かつて中学時代、響を馬鹿にした連中が見せたあの醜い逆上と、何も変わらない。
「シナリオ? そんなものは最初からなかったんだよ」響は冷ややかに言った。「君たちは『人を傷つければ、自分は強くなれる』という、空っぽの幻想を信じていただけだ。愛する者の温もりを知らない君たちに、僕たちの強さは理解できない」
「……愛だと? ふざけるな!」
「理解できなくていい。君たちが壊そうとしたものは、君たち自身が一生かけても手に入れられないものだから」
瑞希が前に出る。彼女の瞳には、もはや憎しみではなく、澄み渡った未来が見えていた。
「私たちは、あなたたちを倒しに来たんじゃない。あなたたちが汚したこの街の、日常を取り戻しに来たのよ」
警察が突入してきた。工作員たちは、抵抗する気力を失い、次々と地面に膝をついていく。響と瑞希は、その光景を背に、廃ビルを去った。
彼らの革命は、巨大な軍隊を倒すような派手なものではなかった。ただ、誰もが当たり前に持っていた「温かい日常」を、悪意から守り抜くという、ささやかな、けれど途方もない戦いだった。
「終わったね」響が呟く。
「ええ。終わったわ」瑞希が微笑む。
街の明かりが、彼らを照らす。
二人の影は、かつてのように重なり合い、けれど今度は、しっかりと地に足をつけていた。
響は眼鏡を外した。フレームの奥にある、確かな意志が、星空の下で輝く。
かつてハードルを跳ぶことに失敗した少年は、もういない。今の彼は、人生というコースに仕掛けられた悪意というハードルを、二度と転ぶことなく、愛する人たちと共に越えていくことができる――そんな確信が、胸の中に静かに灯っていた。
二人は並んで歩き出す。明日からは、また普通の高校生として。しかし、心の中には、泥沼に咲く蓮の花のような、強く、美しい絆を抱きしめて。
「……なあ、瑞希。明日の昼休み、屋上でお弁当食べないか?」
「ええ、もちろん。今度は、私が手作りのおかずを作ってくるわ」
二人の会話は、春の風のように優しく、夜の静寂の中に溶けていった。
影の観測者たちの戦いは、ここで一応の幕を閉じる。だが、彼らが守り抜いた日常は、これから先も、ずっと続いていく。
泥沼があれば、そこには必ず花が咲く。
二人の静かで確かな戦いの先には、彼ら自身が選んだ、かけがえのない幸福が待っていた。
響と瑞希が言っている、
泥沼に蓮の花を咲かせる
という言葉ですが。蓮の花は本当に泥沼や泥池からきれいな花を咲かせます。
いじめや集団いじめに遭ったら一度は絶望感を味わうことになると思います。
でも、そんな絶望ー苦い泥沼ーのような体験から、蓮の花、何かを作ったり、真理が分かったり、今までの認識が間違っていたりなど、ただ泥沼で苦しむだけでなく、何かをつかみ取れると思います。
それが、
ー泥沼に咲く蓮の花ー
です。
逆境になってもめげないでください。
逆境になると、本当の友人や信頼できる人が分かります。
まあ、本当に1人になる場合もあるでしょうが。
そんな時は自分がやりたかったことに熱中したら良いですよ。




