第3話:救済の代償
アリアは震える足で立ち上がり、背後にいた子供たちへと振り返った。彼女たちが無事かどうか、それだけが今の彼女を繋ぎ止める唯一の希望だった。
「大丈夫? もう怖い人たちはいないわ……」
努めて優しく、かつての聖女だった頃のように微笑みかける。
しかし、助け出したはずの子供たちは、アリアを見て怯えたように身をすくませた。兄妹の瞳には、明らかな拒絶と恐怖が宿っている。
「……お姉さん......怖い」
兄の方が、震える声でそう呟いた。
アリアの心臓が、氷を押し付けられたように冷え切った。魔法を使った時間はわずかだが、命そのものを魔力として放出した代償は、単なる年齢の加算以上の変貌をアリアに与えていた。
彼女の笑顔はいびつになり、瞳の奥には深い影が差し、その佇まいはかつての高潔な聖女とは似ても似つかない、禍々しい魔女のそれへと変質していたのだ。
「私は……。私は……」
アリアが縋るように手を伸ばすと、女性や子供たちは悲鳴を上げて逃げ散った。
泥水の中に、一人取り残される。
「……ふふ、あははは……っ!」
アリアは、冷たい雨に打たれながら狂ったように笑った。王宮から追放され、インフラとしての魔力を奪われ、そして今度は命を削り取られていく構造に気が触れた。
「いいわ。上等じゃない……」
彼女は泥だらけの端末を、砕けんばかりの力で握りしめた。
「若さ、命、全部あげる。その代わり、この不条理なシステムを作った連中に……私と同じだけの、絶望的な報いを届けてやるわ」
復讐の決意を固めたアリアの背後に、さらなる影が迫っていた。遠くで響く馬の蹄の音、そしてスラムを包囲するように展開される新たな魔力の気配。
「魔力源の特定を急げ。王太子殿下のご命令だ。……あのような異常な魔力の波形、ただの聖女崩れに放てるはずがない」
王宮が放った刺客たちが動き出していた。アリアの存在は、今やシステムのバグとして、国全体から排除の対象と見なされようとしていた。




