炎と剣の時
トンボの悪魔と戦っていた風見リコも異変に気がついた。今にも倒れそうなサナエ、そして、それをグレンが不思議そうに見つめている。
「どうしたんだ!?」
リコが瞬間移動し、倒れつつあったサナエを支えた。目に光がない。
「し、死んじまったんじゃ……!?」
リコはサナエの呼吸を確認した。息をしている。つまり気を失っただけらしい。だが、どう見ても一つの結論を導くしかない。
「合体が失敗したのか!?なんでだよ!?」
リコは二人を凝視していたわけではないが、それでも傍目に見る限り、サナエとグレンは完璧なマジカルタッチを決めたように確信していた。そうだとすれば、失敗の原因は別に考えられる。合体指輪そのものの不具合だ。
「ああ!なんてこった!オレが提案したんだ!試作品の合体指輪を使えばいいって!」
リコは今さらながら、そう後悔する。だが奇妙なのはグレンの態度だ。先ほどから、サナエを介抱するわけでもなく、ただ不思議そうにジッと見つめているだけだ。リコが、そんなグレンを怒鳴る。
「何をボーッとしているんだよ!サナエがおかしいんだよ!手を貸して……」
ここでリコの言葉が途切れた。グレンのすぐ背後に、黒い魔王が迫っている。
「グレン!危ない!」
魔王はグレンの脳天目がけて腕を叩きつけた。が、グレンは避けない。まるで後ろにも目がついているように、魔王の攻撃を、両腕をクロスさせながら頭上で受け止めた。背面十字受けである。
グレンの足元が、魔王の体重を受けて沈み込む。と、次の瞬間、グレンは十字に組んだ腕で魔王の腕を擦るように捌いた。急に体の支えを失った魔王がたたらを踏む。
「えいやあああっ!!」
バランスを崩した魔王に、グレンは渾身の足刀蹴りを放った。瓦礫の山に吹き飛ばされたのは、今度は魔王チドリの方だった。
「すげぇ……!」
リコが、サナエを介抱するのも忘れてそうつぶやいた。
「すげぇぞ!グレン!なんか知らないが、お前は強くなっているみたいだぜ!」
「ええ!そうですとも!」
「……え?」
グレンは、こんな口調だったっけ?とリコは思った。リコは、得意そうに胸を張るグレンと、気を失ったサナエ、交互に見た。そして、悟った。
「まさか……合体は成功したのか!?なんか、こう……二人の体が混ざるような合体を想像してたが……違ったんだな!グレンの体に、サナエの魂が入ったんだ!」
「えへん!えへん!」
グレンwithサナエが、偉そうに咳払いをする。二人で一人になった魔法少女は顎を撫でながら考えた。
「合体したアタシは以前とはちがうわけですからねえ。新しい名前が必要だわねえ」
「は?」
リコが閉口する。
「二人で一人の魔法少女だから……グレンダブル?ううん、グレンエースというのもいいですねえ……」
「お、おいおい……」
リコが呆れて視線を外すと、魔王が立ち上がったところだった。当然、このふざけた事をペチャクチャと喋る合体魔法少女に向かってくる。
「決めた!グレンバーンとスイギンスパーダが合体したアタシですからねえ!グレンエスパーダ!という名前にしましょう!」
エスパーダがそう言った瞬間、彼女の右半身の毛髪と衣装が、真紅から銀色に変わった。
「アタシは炎と剣の化身ですねえ!!」
そう叫びながら魔王へ振り向いたエスパーダは、次の瞬間には魔王の前蹴りを受け、彼方へと吹き飛ばされた。
「おいおいおいおい!やられてんじゃあねーか!」
「…………」
リコから見るエスパーダは、仰向けに倒れ、徐々に暗くなっていく空を、呆然と見上げているように見える。しかし、すぐにエスパーダは跳ね起きた。
「ぜんぜん効きませんねえ!」
エスパーダの体の各所には、いつの間にか、プロテクターのような物が生成されていた。炎の結界を身にまとっているのだ。
「それだけじゃあ、ありませんねえ!」
エスパーダが右手で握り拳を作り、それを逆袈裟に振り下ろした。すると、炎の結界で生成された日本刀らしきものが出現した。
「なるほど!サナエは剣術をするんだったな!やっぱりグレンとサナエで相乗効果がでているんだ!」
そうリコは分析したが、同時に焦りも覚えた。合体時間は、短い場合、3分間も保たないという話だったはずだ。
「やれ!魔王を倒すんだよ!時間切れになる前に!」
そう叫ぶリコに、いつの間にか巨大トンボが群がっていた。拳を構えるリコの寸前で、トンボの悪魔が突如バーベキューになる。エスパーダの剣が伸びたのだ。
「チッチッチッ!そう慌てるもんじゃあないわよ、風見リコ!」
エスパーダはそう言って余裕綽々だ。
「グレンエスパーダになったアタシは超無敵ですからねえ!大船に乗ったつもりで見ていてくださいよ!おりゃああっ!」
エスパーダが魔王に襲いかかった。魔王が突き出す拳をプロテクターで受け流し、その隙をついて懐に飛びこむ。
「胴!!」
エスパーダはすれ違いざまに、炎の剣を魔王の腹部に叩き込んだ。さすがに、両断とはいかなかった。しかし、エスパーダは確かな手応えを感じていた。
「簡単!簡単!」
エスパーダは炎の剣を、五月雨のように魔王に浴びせた。魔王は対抗しようとしたが、彼女の攻撃は躱されるか、結界のプロテクターに阻まれた。炎の剣が魔王の体に当たるたびに、その黒い表皮が少しずつ砕けていった。
「やったわね!」
魔王を圧倒するエスパーダの様子は、レジーナたちも把握していた。エスパーダは、ややグレンとサナエの両方の悪い部分(例えば、調子に乗りやすい)が出てはいるが、その実力は本物だ。
「これなら魔王を倒せる!」
「……どうかな?」
希望に目を輝かせるレジーナとは対照的に、アケボノオーシャンは、トンボのサナギに目を向けながら警戒していた。
「なんだか嫌な予感がする」
エスパーダはそんなオーシャンの心配をよそに、とうとう魔王に膝をつかせたところだ。エスパーダは少しの間、呼吸を整え、やがて炎の剣を大上段に構える。
「さあ!これでトドメです!必殺!超強火大空斬り!!」
炎の剣が火力を増して、魔王の頭上に振り下ろされた。
「正義は勝つ!」
魔王の体が頭頂部から一気に両断された……かのように見えた。




