武器と目の時
オーシャンが次に目を覚ました時、彼女はマットの上に横たわっていた。しばし混乱したオーシャンが、自分を心配そうに覗き込むサナエたちの顔を見回す。幸い、オーシャンが知っている魔法少女たち全員が健在であった。
「全員で逃げてきたのよ」
とレジーナ。オーシャンは、ようやく自分がレジーナのガレージにいることがわかった。
「みんな必死だったんだ」
そう言うリコは顔に青あざができていた。その横で憮然としているグレンバーンも似たり寄ったりだ。リコが続ける。
「お前が倒れた後で、オレたちも魔王に攻撃したんだ。だが、わけがわからねぇ!アイツにはオレたちの攻撃が全然当たらなかったんだ!」
「きっと、みんなの認識を阻害されたんだと思います」
サナエだ。彼女の顔にも殴られた痕があった。
「みんなでお互いを攻撃しあっていたんです」
オーシャンは身を起こそうとしたが、たちまちめまいを起こした。「ダメよ!」とレジーナがすぐにオーシャンを寝かせた。
「出血しすぎたのよ。死ななかったのは奇跡だわ」
オーシャンは自分の首筋に手を当てた。誰かが(たぶん、レジーナが)止血帯を巻いてくれたらしい。
レジーナはしばらく考え、言葉を選びながら続けた。
「オーシャン、魔王を倒すのは無理よ。逃げましょう。どこか安全なところへ」
「ダメだよ」
オーシャンは横になったままだが、断固とした調子でそう答えた。
「チドリちゃ……魔王は自力でタイムマシンを直すことができる。私たちを殺害してから過去に行くつもりだろうけれど、私たちが逃げたら一人で行ってしまうかもしれない」
レジーナは口を開きかけたが、やがて沈黙した。
もしも魔王が過去の世界に行ってしまったとしたら、それはこの世界から魔王が消える事に等しい。自分たち、2024年に生きる魔法少女にとっては福音なのではないか?
レジーナはそう考えるも、それは恥ずかしい考えではないかと思った。自分たちさえ良ければ、それでいいのか?もともと、これは2024年に生きる自分たちの問題であって、2002年の魔法少女であるオーシャンたちが協力してくれたのは厚意でしかないはずだ。
レジーナはグレンへ視線を向けた。グレンバーンは魔王から逃げ続けていた魔法少女である。グレンは、すぐにレジーナの視線の意味を察した。
「……アタシは、サンの力に頼れば生き延びられると思っていた。だけど、魔王はサンの力さえ狂わせた。逃げた先に楽園は無い、わ」
つまり、今ここで決着をつけるべきだという思いは、全員にあった。
「だけど、どうすればいいの……?」
そうつぶやくレジーナの横で、リコが手を挙げた。
「何なの?」
「ずっと気になってたんだけどよぉ。魔王の認識阻害の力だっけ?サナエにだけ通じてなくね?」
「えっ」
魔法少女たちの視線が、いっせいにサナエに向けられた。ところで、当のサナエでさえ不思議そうな顔をしている。
「なぜなんだ?」
「そんなこと、ワタシにもわかりませんよぉ」
(悪魔人間だから、なのかなぁ?)
とオーシャンは考えた。あるいは、武術家としての心眼なのかもしれない。サナエは剣術の達人なのだ。
(心眼、といえば)
オーシャンはグレンに尋ねた。
「サンはどうしたの?」
「隠したわ。安全な場所に」
グレンはそう答えながら、ガレージに置いてある時計に目をやった。
「もうすぐ悪魔の時間がやってくるわ」
アケボノオーシャンも『悪魔の時間』が何かを知っている。夜になると、空が真っ赤に染まり、いたる場所から悪魔が湧いてくるのだ。この場合、悪魔の群れがオーシャンたちを有利にすることは絶対にない。
「なら、今すぐにでも魔王を倒しに行かなくちゃ……!」
「ダメですよ!オトハさん!あなたはとても戦える状況ではありません!」
サナエは思わず、アケボノオーシャンを「オトハ」と言ってしまいながら、彼女を制止した。もっとも、誰も彼も、余裕などない。
「だったら、一体誰が魔王の娘を倒すのさ!?」
そのオーシャンの問いに、一同はお互いの顔を見合わせた。揺れる視線は、やがて一点へと集中していく。サナエだ。
「えっ!?ワタシがですか!?」
「ああ」
リコは当然だとばかりにうなずいた。
「この中で唯一、魔王の認識阻害にかからなかった」
「でも……でもワタシにはもう、武器が無いんですよ〜!?」
たしかに、サナエは強化服も刀も失っていた。いささかパンチ力に欠けるのは誰が見ても明らかだ。
「アタシがアンタの武器になるわ」
グレンがサナエにそう言った。
「そのかわり、アンタはアタシの目になりなさい」
「ふぇぇ……」
慄くサナエと、やる気満々のグレンバーン。二人を交互に見ていたリコは、ポンと手を叩いた。
「それなら、オレにいい考えがあるぜ」




