一番槍の時
サンとチドリが対話をする時間と相前後し、オトハたちも人質救出作戦を練っていた。まず一番先に水族館へ入るのは、中村サナエである。
「じょ、冗談じゃ……!」
そう言ってサナエは怖気づく。さらにグレンも反対した。
「ダメよ、サナエなんかじゃ!アタシが一番に入ってサンを助けるわ!」
「いい?二人ともよく聞いて」
オトハが説明をする。
「さっきから言っているけれど、水族館の間取りを知っているのは、おギンちゃん、つまり中村サナエしかいないんだ。何もわからないグレンが入ったら、奇襲を受けて終わりだよ」
「ですけど、ワタシだって奇襲されるじゃないですかヤダー!」
「おギンちゃんなら、少しは耐えられるでしょ」
グレンは首をひねった。
「耐えられる?どういうこと?」
「そっか、こっちの世界のグレンは知らないんだね。それじゃあ、おギンちゃん、アレをやって」
オトハにそう言われたサナエは気弱そうな表情のまま、ブラックカラーのスーパーバイク、マサムネリベリオンにまたがった。
「うぅ〜一番乗りは気が進みませんが……大変身!」
サナエがそう叫ぶと、リベリオンがまとうカウルやエアロパーツが、まるで甲冑のようにサナエの全身を包んでいった。オトハにとっては2002年の世界でおなじみの、スイギンスパーダ、そのブラックモデルである。
「これは、すごいわね!」
真っ先にそう反応したのは、魔法少女のエンジニアであるレジーナだ。
「あの、うふふ、それほどでも」
照れるサナエ改めスイギンスパーダの背面で、オトハは両手を前に突きだして構えた。
「アケボノギロチン!」
「ぎゃっ!?」
オトハがぱっと両手を開き、結界で作られた巨大な刃をスパーダに当てたのだ。スパーダは悲鳴をあげたが、結界の刃は砕け散り、スパーダを包む装甲は傷もついていない。
「びっくりさせないでくださいよ!も〜!」
「見ての通り、この中で誰よりも防御力が高いのはおギンちゃんだよ。だから彼女に先行してもらう。いいね?」
当のおギンことスイギンスパーダを除いて、異論はなかった。オトハは同じように、各メンバーの役割を決めていった。
「よし!じゃあ、作戦を開始しよう!変身!」
オトハはアケボノオーシャンへ変身し、レジーナと共に水族館の裏へ移動する。
グレンと、背中に大きな箱を背負ったリコも二人一組になって移動を開始した。
「大丈夫だ。お前の子はちゃんと助けだしてやるからよぉ」
「ええ、ありがとう」
やがて一人、サナエだけが残された。カウルが外れ、ネイキッドスタイルになったリベリオンから、サナエは刀を取り、腰に帯びた。
「うぅ……なんでワタシだけ単独行動なんですかぁ〜?」
そうスパーダがごちると、耳に付けた無線機からオーシャンの声が聞こえてきた。この無線機は、メンバー全員が装備しており、いつでもお互いに連絡をとりあえるようになっている。
『大丈夫だよ、おギンちゃん。おギンちゃんは、すごく強いんだから、自信をもって。それに何かあれば、すぐに助けに行くから』
「ふぇ〜」
そう言うアケボノオーシャンたちの仕事は、水族館の電力を遮断することだ。チドリが水槽に悪魔を飼っていることは、サナエからの証言ですでに知っている。電力を遮断すれば、チドリが行動を起こして、サンから離れるだろうと見越しているのだ。
『受電設備に着いた』
無線からオーシャンの声が響いた。
『これから水族館を停電させるよ…………よし!行って、おギンちゃん!』
「は、はい!」
オーシャンの合図を受け、スイギンスパーダが水族館に入っていった。残念ながら、派手なエンジン音を響かせてしまうマサムネリベリオンは入口で待機だ。
当然ながら、水族館が停電したことはチドリも気づいた。水槽を維持するには、当然ながら電力が必要である。
「ここにいて」
チドリはサンにそう言うと、水族館の何処かに向かって移動を始めた。スパーダにとって、忍び込む良いチャンスである。
「えっと……たしかワタシはこっちからこう行って……」
スパーダは指折り数えるように自身の記憶をたどり、水族館の内部を移動していく。とはいえ、水族館の間取りを知っているからといって、サンの居場所までわかっているわけではない。
(鬼が出るか蛇が出るか……)
しかし蛇より鬼よりもっと恐ろしいのがトコヤミサイレンスである。彼女と鉢合わせしない事を祈りながら、スパーダは慎重にサンを探した。
とその時である。停電して消えていたはずの電灯が、急に明るく光った。どうやら電力が戻ったらしい。
「オーシャンさん、何かありました?停電が直ったみたいですが……?」
『停電が直った?』
そのアケボノオーシャンは、水族館の裏手にある受電設備にいるはずだ。もしもトコヤミサイレンスが停電を直しに行ったなら、彼女と鉢合わせになっているはずである。
『いや、間違いなく、こっちは電力を遮断しているよ。ん?いや、待てよ……?』
オーシャンは何か考えているようだ。その間、スパーダは遠くでドアが開閉する音を聞いた気がした。
『わかった』
「何がですか?」
『その水族館には、きっと自家発電装置が付いているんだ。だから水族館の電気がついたんだね』
「あ〜なんだ、そういう事ですか〜」
スパーダはそう言うと、やがてある事実に気がつく。
「あ……ということは、チドリさんは水族館の中にいる……?」
『……おギンちゃん、気をつけて』
が、時すでに遅かった。スパーダは見つけてしまったのだ。本郷チドリ、すなわちトコヤミサイレンスを。彼女は両手に持ったチェーンソーのエンジンスターターを口にくわえて強く引っ張った。
「ああー!?出たー!?」
悲鳴をあげるスパーダに向かって、チェーンソーの出力を全開にし、トコヤミが飛びかかる。スパーダは咄嗟に、真剣白刃取りの要領でチェーンソーの刃を防ごうとした。スパーダの両手から滝のように火花が飛び散る。
「チドリさん!!待ってください!!話せばわかる!!わかります!!」
だが当のトコヤミは聞く耳を持たない。さらに両手に力を込めてチェーンソーをスイギンスパーダの頭へと押しつけた。
「あばばばばばばばば!?」
スパーダの頭部装甲が激しく振動し、中のサナエもめまいを起こした。だが、やがてトコヤミはチェーンソーをスパーダから離した。
「……硬い頭だね」
ズタズタになったのは、チェーンソーの方であった。鋼鉄の刃でさえ、スパーダの装甲は抜けなかった。
「そっちがその気なら……チドリさん!ごめんなさい!」
スパーダは腰の刀の柄を握り締め、横一閃に抜き打ちを放った。スイギンスパーダの抜き打ちは目にも止まらぬ速さである。トコヤミには、刃の動きがまったく見えなかった。だが、スパーダとトコヤミは、同時にある事実に気がついた。
「あっ!?無い!?この刀!刀身が無いですよ〜!?」
スパーダが手にしているのは柄だけだったのだ。だが次の瞬間、スパーダが持つ柄の部分から光が伸びた。光は長さ70cmほどで止まった。まるで、それは光の剣である。
「わあ!?ビームソードになったぁ!?」
トコヤミは、すぐに距離を離した。スパーダの剣技も、光の剣そのものも、十分に脅威であると認識したからだ。
「チドリさん、すみませんが……」
スパーダは光の剣を正眼に構えた。
「ワタシはあなたを倒します!」




