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デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
記憶のない奴隷編

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8/16

ボスを倒そう

最下層に到着。

と言うか、一つ下の階が最下層だった。


階段の目の前に、巨大な金属製の両開きの扉があった。

「ちょっと待ってて、中を確認するから」

「わかった…」

《察知》で扉付近に、魔獣が居ないことを確認

する。

向こう側に、生物反応はない。

もう少し範囲を広げる。

「いないな。開けるよ、サエラ」

サエラは無言で頷く。

扉を押す。力はさほど必要としなかった。

耳障りな金属音を撒き散らしながら、扉はゆっくりと開いていく。


一歩、中に入る。空気が少しひんやりする。

薄暗くて奥までは見えない。

両脇には燭台(しょくだい)があり、ロウソクが左右対称に並んでいる。

油臭い空気。足元はタイル。部屋は長方形、幅は10m程。


一番手前の、両脇のロウソクに火が灯った。

少し奥が見えるようになる。


入口の金属製の扉が、不快な音を立てて閉まった。

振動により、天井からホコリが落ちてきた。

少し空気が淀む。サエラは表情を引き締める。

「まぁ、そうだよな。ボス部屋だし」


閉じ込められた事に焦りはない。

自分でも分からない余裕が、何故かカードにはあった。


数秒置きに、手前から奥に順番に、ロウソクが灯っていった。


「中々、趣があるな」

腕を組み頷くカード。

「阿呆か!油断するな!」

カードの態度に噛み付くサエラ。

「あ…ゴメンゴメン」


最奥の玉座に青色のフェンリルが鎮座している。

「玉座にフェンリルって…」

「…意味不明」

取り巻きには、黒狼十体。


「あれがボスだな」

「…うん」

サエラは、両拳の青緑色のナックルを打ち合わせ、火花を散らす。

「戦闘開始だ!」

カードが先に、音もなく加速する。

サエラは腰を落とし、一拍遅れて走り出す。


カードは奥の敵、青色のフェンリルを目指す。


サエラは手前の魔獣を標的にする。

拳を前に突き出す。

「ロックシュート!」

サエラの拳から、岩の塊が飛び出る。

直径30cm程の岩が、黒狼を二体撃ち抜く。

二体は絶命した。


残り八体。


「ほう、土魔法か。便利なもんだな」

横目にそれを見ながら、カードは黒い大剣を振り、フェンリルへの道を切り開く。

当たらなくとも良い。黒狼が道を空けてくれさえすれば。


カードは、ボスのフェンリルと相対する。

近くで見ると毛の色が、ただの青でない事が分かった。

青みがかった銀色であった。


ネームドグリフォンと比べれば、さほど大きくはない。とは言え、農耕馬の倍ほどの大きさはある。

玉座から飛び降りたフェンリルは、一つ咆哮する。

飛びかかってくると読んで、先手を仕掛けるカード。

「断罪(パニッシュ)!」

上から下への斬撃。

巨大な斬撃波が、フェンリルに向かって飛ぶ。

フェンリルは横に跳びそれを避ける。

玉座と奥の壁を破壊し、フェンリルは部屋の左側に追いやられた。

「よし!速度アップ《極》」

パッシブスキルをオンにして速度を上げ、一瞬でフェンリルの目の前に移動するカード。

フェンリルは反応出来ない。

カードは黒の大剣を振り上げる。

「力はアップ《極》」

フェンリルは、自身が傷つけられる事を恐れずに、カードに噛みつこうとする。

いい判断だ、懐に入れば、剣では致命傷を与えられない。大きければ大きい剣ほど、身体を密着させれば、ダメージは減る。


両者の攻撃が錯綜(さくそう)し、互いに皮膚を裂き合う。皮一枚の軽症である。


肉薄する両者。視線が合う。

大剣を逆手に持ち替えて、思い切り振り下ろす。


フェンリルに止めを刺す時にデジャヴ発動。

「おっ…まじか…このタイミングっ?この光景って」

力が抜ける。

カードの意識は、一瞬で刈り取られ、うつ伏せに倒れた。

フェンリルはカードを見下し一旦間を取る。ゆっくりと顎を開けた。

サエラがまたも、遠くから叫んでいる。


※追憶発動条件、フェンリルを至近距離で見る。


◆


フルグア機国、マルハバの砂漠の塔。

昼は灼熱、夜は極寒。

砂漠は人間が住むには過酷な場所だ。


塔には絶えず、砂が叩きつけられている。


そんな極寒の夜に、砂漠の塔へ侵入する影六つ。

「親分、ホントにこんな所にお宝があるんですかい?」

「当然だ、高い金を払って情報を買ったんだ。間違いねぇ」

「へへ、これで大金持ちだぁ!」

下卑た笑い声が塔に響いた。


最上階で、宝を守る銀のフェンリル。

『何者だ?』

最上階に辿り着いた男達に、話し掛けるフェンリル。

「何者って、こんな所、盗賊くらいしか来ないだろ?」

『盗賊が何の用だ?』

「お宝を頂きに」

『奥に台座はあるが、何も有りはしない』

「なん…だと?」

「親分?」

「クソが!あの情報屋、ぶっ殺してやる!」

『騙されたようだな、では去るがいい』

「ただで帰れるか!宝がないなら、お前の毛皮をもらおうか」

盗賊達は、曲刀を一斉に抜いた。

『愚かな』


「うわっ!」

盗賊の一人が肩に何かを喰らって、後ろに倒れる。

「何だ!?」

台座の後ろから、弓矢で攻撃を受けたのだ。

「ここから出ていけ」

細身の長身の男が、弓を構えたまま盗賊に語りかける。

「何だてめぇは!?」

「砂漠の民」

「…嘘をつくな、砂漠の民は百年前に滅んでるはずだ」

「…ここには宝はない。去れと言っている」

「そこに上等な銀色の毛皮があるじゃねえかよ!」

肩を撃たれた一人が立ち上がる。


六対二ではさすがに分が悪い。


「おらぁ!」

砂漠の民と名乗った男は、もう一度矢を放った後、それを投げ捨て、短剣を構える。


乱戦になってしまった。

そうなると、フェンリルの機動力は生かせない。

一人一人対処するしかなくなる。

砂漠の民の男の、フォローに回る余裕はなかった。


数分で戦闘は終了し、盗賊達は逃げていった。


盗賊を追い返し、重傷を負う男。

「やれやれ、全く…なんで、こんな何もない塔を…」


宝はなく、台座だけが残る砂漠の塔の最上階。

そこに攻め入られたのだ。

宝がない事に逆上した盗賊は、フェンリルと男を襲った。

何とか撃退する事はできた。


『何故、殺さなかった?』

「砂漠の民の教えだよ。僕はそれを破るつもりはない」

『結果、自身が死ぬとしてもか?』

「…そうだよ」

男は笑った。


「僕はもうすぐ死ぬ…でも、君は自由…だ」

男は腹を押さえているが、血が止まる気配はない。


一目見て分かる程の致命傷であった。


『自由?我は…どうすれば?主が居なくては、何も出来ない』

「簡単だ…ここを離れればいい…世界は…広い…」

必死に笑顔を作る男。最早、笑顔になってはいないが。

主と呼ばれた男は、前のめりに倒れ、動かなくなった。

床に血が広がり続ける。


暫くそれを見ていたフェンリルだが、何をしたらいいか分からない。

それは変わらない。


諦めて、主を巻き込むように座るフェンリル。

主が死に、フェンリルは眠る。


何年、何十年たっただろうか。

既に主は骨と化して、それすらも朽ちかけていた。


風化し遺跡のようになった砂漠の塔。

その階段を登り、フェンリルの前へ現れる女性。

「おっ!」


フェンリルは億劫そうに首を上げる。


『ここには何もないぞ』

「君がいる」

女性はビシッと、フェンリルを指さした。


『そう言う意味ではない。ここには宝などないぞ』


「宝なんていらないよ。一緒に行こう!」

片手を差し出す女性。

唐突な女性の提案に、目を白黒させるフェンリル。

『一緒に行った所で、こんな腑抜けたフェンリルなど、役に立つまい』

「やってみなきゃ、わからないじゃない?」

片目を瞑り、フェンリルに微笑みかける女性。


「…わかった。やってみよう。我も飽きていた所だ」

フェンリルは、何十年か振りに立ち上がった。

思ったよりも、身体は軽かった。

主だったものは、脆くも崩れ去った。

白い砂のように流れ落ちる。


さらさら、さらさらと。


フェンリルの額に手を置く女性。

『待ち疲れた。暫く貴女の中で休ませて欲しい』

「うん。そうすると良いよ」

フェンリルが淡い光に包まれると、蒼い球体となり、女性の胸に吸い込まれて行った。


「人はね…死ぬんだよ。今まで一人で良く頑張ったね」


寂しい思いはここに置いていこう。

それの為の、空の台座のようだった。


思い出は、宝にもなるし、時には鋭い刃にもなる。


『マスターテイマーの記憶を一部取り戻しました』


『記憶レベル7/1000、スキルを一つ解放します』


スキル∶テイム

自分より弱い個体を、服従させる事が出来る


※マスターテイマーのスキンを獲得しました


◆


目の覚めたカードの眼前に、スカイフェンリルとサエラがいた。

「近い!どういう状況?」

『昔の主と似た香りが、お前からした』


鼻をカードの顔に寄せるスカイフェンリル。

カードはそれを避けない。

最早、殺気等の攻勢は感じられなかったから。


「それだけで?」

『そうだ』

「サエラは、フェンリルが何かしないか、見張ってた」


それだけで、それだからこそ、もう止まれない。

自身で気付いてはいなかったが、それ程に待ち焦がれていたのだ。

連れ出してくれる存在を。

手を引いてくれる相手を。


『我を連れて行ってはくれないか?』

懇願するスカイフェンリルは、優しい目をしてた。

頭を垂れたスカイフェンリルの紅眼が、カードの灰眼を見上げる。


「ひとつ、確認させて」

真剣な表情で、スカイフェンリルの目を見つめるカード。

『何だ?』

「君はこのダンジョンのボスだよね?ボスがいなくなってもここは大丈夫?」


通常ダンジョンは、ボスがコアとなっているので、それが消えるとダンジョンも消滅する。


因みに、表の初心者ダンジョンは、ドラゴンコアを安置しているので、何を倒しても消滅する事はない。


『そうだ、我がボスだ。しかし、ここは裏、エクストラダンジョンだ。我が消えてもここは維持される』

「良かった、じゃ…テイムするよ」

さくっと了承するカード。

『頼む』


カードが手をかざすと、スカイフェンリルの身体が光に包まれる。


光が消えると、軽く短い電子音が、カードの頭の中に鳴る。

テイム成功の証だった。


『名を与えてはくれないか?』

「名前…名前か…」

カードは顎に手をやり暫し考える。


「よし、カイルってのはどう?」

『カイル…カイル…良い響きだ。気に入った』

スカイフェンリルは、今度は、青い光に包まれる。

青い光が消えた後、その場に現れたのは、背の低い女性だった。

何も纏っていない状態の。

「見るな!」

サエラがカードの目を手で隠す。

「服着ろ!」と、カイルを怒鳴りつけるサエラ。


「えと…どう言う?」

「人型でいる方が、魔力消費が抑えられるから、楽なのだ」

腰に手をやり、堂々と仁王立ちするカイル。

「そ、そうなんだ。あの…服とかって?」

「問題ない。この部屋に隠してある」

「早くしろ!」

サエラが叫ぶ。

「偉そうな奴だな…はぁ、分かった分かった」

部屋の角の壁を開け、中から荷物を取り出すカイル。

素早く服を装着する。

「よし、良いぞ主」


サエラは後ろのカイルの姿を確認してから、カードの目隠しを外す。

カードは、服を着たカイルと目が合う。


青みがかった銀色の長髪に紅い目。

サエラは女性として身長が高く、カイルは女性としても身長が低い。


看破でステータスを比べると、HPとMPで想像するしかないが、圧倒的にカイルの方が強そうだ。


「帰ろうか」

「うん」

「従おう」


カイルをテイムした瞬間に、玉座の裏に転移陣が現れていた。


淡く光続ける円。

三人でそれに乗る。


三人は光に包まれ、ダンジョンから姿を消した。


ダンジョンから転移する時、カードの目に、一瞬水色の何かが見えた気がした。


初心者ダンジョンの入口に三人が現れた。

「ほう、こうなるんだ」

「うん、不思議な感覚」

「直ぐに慣れるぞ」


真っ直ぐ受け付けに行く。

「入る時、一人でしたよね!?」

声を裏返させる、兎に角(とにかく)元気な受付。

入る時一人だったのに、出て来たら三人。

確かにおかしい。普通では考えられない。


しかし。


「それよりも…」

カードはダンジョンの罠の事を、兎に角(とにかく)元気な受付に話した。

「何ですって!?」

罠を、誰が何のために、どうやって仕掛けたのかは、何も分からなかった。


この報告は、ダンジョン管理協会からギルドへ伝わるらしく、こちら側で何か手続きをする必要はないそうだ。

正直助かった。面倒事でしかなかったから。



サエラの元パーティは、他に仕掛けられている一方通行の魔法陣で、裏ダンジョンへ飛ばされたらしい。

カードの踏んだ罠とは別物の、ダンジョン産のものだった。

その魔法陣の場所は、情報屋で買ったと思われる。


きっと、彼らを探しても、もうこの国にはいないだろう。

《冒険者法》によれば、奴隷であってもダンジョンに置き去りにする事は、違法とされている。


万が一そのパーティが特定された場合、確実に罪に問われる。

それを見越して、既に国外に逃げていると考えられた。


「さて、これからどうしようか?」

ステータス一部公開。

カイル

フェンリル・女・82歳

140cm・40kg

青銀髪・紅眼


ジョブ:なし


HP12960・MP28530


固有スキル:青炎(スカイフレイム)

広範囲攻撃(火)

消費MP1000・クールタイム120秒


装備

・狼王の爪(フェンリルファング)

・短剣

・狼族の服


アイテム

・毛束


アクティブスキル

・疾風斬

・みじん斬り

・王威(範囲スタン)

・???


パッシブスキル

・狼王の毛皮(防御アップ特大)

・???


風魔法

・ロックシュート

・エアキャノン

・かまいたち

・竜巻

・???


称号:狼王の子孫・無信心・伝説の存在・受け継ぎし者


特徴:長髪・細身・小柄・丸目

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