↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
記憶のない奴隷編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

ダンジョンへ行こう

ワーエルとの戦闘の翌日、カードは冒険者ギルドに呼び出されていた。


スイングドアを鳴らし、受付ではなく、正面の階段を上る。

いつもの受付嬢は、何とも言えない表情で、カードの背中を見送る。


サンゲイルの冒険者ギルドで、屈強なS級冒険者に詰問(きつもん)されるカード。


冒険者ギルド、二階、ギルドマスター執務室(しつむしつ)。


長テーブルを囲むように座る五人。


「何故、貴殿(きでん)は剣聖のスキルが使える?」

ザンガのカードへの、質問タイムが始まった。

「あはは、昔、本で読んだことがあって…」

自身の苦しい言い訳に、胸中で苦笑するカード。

「なんと、読んだだけでか!そいつはすげえな!」

豪快に笑うザンガ。カードの言う事を一切疑わない。もしかして、いい奴なのだろうか。


現在、この執務室にいるのは、ギルマス、セレン、ザンガ、フラウ、そしてカードの五人。

一人いなくてもいい人物がいるが、そこは考えないようにする。


「出来るわけがないだろうが」

フラウがザンガを鼻で笑う。その嘲笑(ちょうしょう)はカードにも向けられていた。

「自分の物差しで物事を図(はか)るなよ。B級の姉ちゃん」

横目でチラリと、フラウを見るザンガ。

「ぐっ…」

自身の力不足を言われては、返す言葉もなかった。

血が滲(にじ)む程、拳を握り締めるフラウ。


S級の言葉はそれほど重い。

いや、フラウ自身が勝手に重いと感じている。


ワーエルのような、冒険者を狙う冒険者の事を《赤札》と呼ぶらしい。

カードに負わされた傷は、聖女に回復してもらい、即日、監獄に送られた。


切り落とされた腕は、再生出来なかったようだが。


「まぁいい、スキルの詮索はマナー違反でもあるからな、この位にしとくか」

ザンガはスキルの追及を諦めたようだ。


次の議題は、カードの持つ黒い大剣。

「貴殿のその黒い大剣、それは呪われているな」

鞘に入った大剣を見つめるザンガ。

「さぁ、僕には分かりません。今まで何ともなかったし」

眼を伏せるカード。

「前に一度、カオスドラゴンと対峙(たいじ)したことがある。カード殿の黒い大剣は、その時感じた雰囲気と似たものを放っている」

ザンガが記憶を呼び起こしながら話す。

「何でですかね?平原で目覚める前の記憶がないので、そこはなんとも…」


嘘は言っていない。


カードの記憶喪失の件は、皆に共有されているようで、特にその事についての反応はなかった。


「まさか、ザンガ殿は、カオスドラゴンを倒したと?」

勘違いしたギルマスが驚嘆する。

退治ではなく対峙である。


「んな訳あるか!一人であんな化物倒せねぇよ!運よく逃げられただけだ」

唾(つば)を飛ばし否定するザンガ。

「私が見るに、その剣に呪いに近しいものは感じますが、何かが違うように思います。すみません曖昧(あいまい)な表現で…」

何故かセレンが謝る。

「あぁ、構わねえよ、オレも似たものを感じるだけだからな」

ザンガはそれを気にしない。


カードとフラウは口を挟(はさ)めない。


「ワーエルがああなった以上、何かがあるのだろうが、カード殿からその剣を取り上げるのは、違うと思う」

ギルマスが自身の見解を示した。

「私もそう思います。ただ、今回のようにならぬよう、誰にも触らせないように管理して頂ければと。勿論(もちろん)盗んだ人が悪いのは当たり前なのですけど…」

そう聖女は締め括(しめくく)った。

「分かりました」

一言だけで簡潔に済ますカード。


そして、ネームドモンスターのグリフォン、レディマゼンダの報告。


「コアがあるのと、冒険者達の証言から、事実である事は分かるのだが…」

ギルマスは渋面(じゅうめん)を作る。

それは、この町の安全に直接関わる事案だから。


「グリフォンが現れるなんて、何年ぶりだよ?しかもネームドときた」

何故か嬉しそうに言うザンガ。

「平原ではなく、死の森に現れたのが10年前の事です」

事実を述べるセレン、今まで平原にグリフォンが現れた記録はない。

グリフォン自体、希少種(きしょうしゅ)なのだから、見かける事すら稀(まれ)である。


そう言えば、セレン達は何故、あの森にいたのだろう。


「そう言えばセレン様達は、何故、あの森にいたのですか?」

カードは直球で聞いてみた。


小さく息を吐いて話し出すセレン。

銀眼がカードへ向けられる。


「死の森に、悪魔の痕跡(こんせき)があるとの報告を受けて、調査をしていました」

「悪魔…調査?」


「魔王城も調べましたが、収穫はありませんでした」

沈痛(ちんつう)な表情で俯(うつむ)くセレン。

死の森、悪魔、魔王城と立て続けに怖いワードが出て来た。

今、それを聞く勇気はカードにはない。


収穫が無く、仲間も失ってはさぞ痛恨であったろうと思う。


「カード様に、悪魔の事を説明しましょうか」

気丈にも顔を上げるセレン。

「お願いします」

カードも背筋を伸ばす。


悪魔は全部で72柱存在する事。

それを操る者がいる事。

現在、確認できている悪魔が5柱である事。

以上の事を説明してくれた。


「人類は、その悪魔達との戦争状態にあります」

「なる程」

一応の流れは理解出来た。

疑問はあるが、ここで色々聞いてしまうと、頭がこんがらがる恐れがある為、カードは口にはしない。


「そんなに沢山悪魔がいるなんて、たの…ヤバいよな!」

ザンガは今、“楽しい”と言おうとしたのか。

慌てて言い直したように見える。

周りの全員が、ザンガをジト目で見る。

はははと、頬を掻くザンガ。

カードはこの男を、一種のバトルジャンキーだと判断する。

戦闘に飢(う)えている。それも、強敵との。

カードは何故か寒気を感じ身震いする。


「では、次に遭遇(そうぐう)したら、倒して良いんですね?」

カードは聖女に確認を取る。

「は?」

場の空気が固まる。フラウが目を見開いて驚いている。

「ダメですか?」

首を傾げるカード。皆が固まっている意味が分からないのだ。

「わはは!面白い兄ちゃんだな!」

ザンガは腹を抱えて笑っている。

「出来るなら、討伐してもらって構いません」

セレンは言い切る。出来るなら、と。

「出来る訳がないでしょ!?」

フラウはテーブルに手をつき、声を張って立ち上がる。

押された椅子が倒れそうになる。


出来る。


カードにはそれが出来る。と言うか、一柱すでに仲間になっている。


「自分が出来ないからって、他人も出来ないって決めつけんのは良くねぇぜ。B級の姉ちゃん」

ザンガが冷たい目で、フラウを一瞥(いちべつ)する。

それだけで、フラウは言葉を失い、再び席に着かされる。

俯(うつむ)き、再び震える拳を握る。


「案外、軽く倒しちまうんじゃねぇか。ネームドを単独撃破できるくらいだからよ」

ザンガは、がははと笑う。


「単独…だと?」

その事実を知らなかったフラウは、驚きを隠せない。


「そうです。それも二体です」

ギルマスが補足する。

「レディマゼンダが二体目…?そんな事が…コイツは昨日、冒険者になったばかり…なのに…?」

フラウは、テーブルの一点を見つめ何やらぶつぶつ言っている。


セレンに目で先を促すザンガ。

フラウを放っておいて、話を戻すセレン。


「では、カード様とザンガ様は、悪魔を発見次第、討伐して下さい。他の方々は報告だけお願いします」

そう締め括(くく)る聖女セレン。ギルマスも頷(うなづ)き肯定する。


「様づけでオレを呼ぶなよ、聖女様。今度、時間があったら酒でも呑もうや、ネームド退治の兄ちゃん!」

一瞬セレンを睨(にら)み、椅子を鳴らし立ち上がるザンガ。

セレンは華麗に殺気を受け流す。

「はい、その時はお願いします」

カードも立ち上がり、頭を下げる。

ザンガは振り返らず、片手を上げ部屋を出て行った。


◇


「はぁ…何だか、疲れたな」

やっとの事で解放されたカードは、初心者ダンジョンにやって来ていた。


サンゲイルの町中に、初心者ダンジョンはある。

大変、珍しい事だった。

通常、スタンピードを恐れ、ダンジョンの近くに町を作る事はない。


このダンジョンは浅く、全5層からなり、強力な魔獣も出現しない。


魔獣洪水とも言われる、スタンピードは現在、このダンジョンでは一度も起こっていない。


その為、初心者ダンジョンと呼ばれている。

通常、最下層にいるはずの、ボスすら存在しないのだ。


「ここが…ダンジョンかぁ」

入口に圧倒されるカード。

巨大な洞窟のような入口。

横幅も縦幅も異常に大きい。

それを見上げ、カードは暫し呆けている。


入口付近には、食料を売っている店や、地図を売っている店。武具屋などもある。

なかなか賑わっている。


「ダンジョンは初めてか?」

覇気(はき)のない女性が、突然カードに話し掛けてきた。


「はい、一人でも大丈夫ですかね?」

丁度いいから聞いてみる。

「初心者用だからな、問題ないよ」


水色の髪を、後ろで一つに纏(まと)めている女性。

目つきは鋭く、背も高い。


「あそこ、受付だから」

ぶっきらぼうに指を差す女性。

「ありがとうございます」

頭を下げ、受付に向かうカードの背を見ながら、意味ありげに鼻を鳴らす女性だった。


「こんにちは!!」

受付の人の大きい声に、カードはちょっと引く。

「こ、こんにちは…」

引き攣(ひきつ)った笑いを浮かべるカード。

兎に角(とにかく)元気な受付に、大声で挨拶(あいさつ)され、困惑を隠せない。

「ここへどうぞ!!」

B5サイズの黒い石板に、手を置くように指示される。

冒険者ギルドにあったものと、似た物だと思われる。


これで、ステータスを確認する。

言われるがままに、手を置くカード。

「これは…?」

兎に角(とにかく)元気な受付は、カードのステータスを凝視(ぎょうし)して固まっている。


「どうしました?」

「HPとMPが有りえない位高くて!属性が全属性!?それとジョブが…」

早口で喋(しゃべ)り出す、兎に角(とにかく)元気な受付。

「待った待った!言わなくていいから!それで入れるの?」

失念していた、ステータスを隠蔽(いんぺい)し忘れたカード。

次からは気を付けようと固く誓う。

「は、入れます。問題なく…その石板に冒険者証を置いてください…」

兎に角(とにかく)元気な受付の、元気がないようだ。

脂汗を流し、顔色も青く見える。

「はい」

カードは気にせず、冒険者証(仮)を石板の上に置く。

短い電子音が鳴る。

入場許可がおりた証だ。


「ステータスの事は内密にお願いします!」

しっかり釘を刺すカード。

「はい!個人情報は漏(も)らしません!」

直ぐに元気を取り戻す受付。

先程、声に出しまくっていたじゃないか。

とは、敢(あ)えて言わずに視線だけを受付に向ける。

その後、無言でダンジョンへと向かうカードだった。

「お気を付けて、いってらっしゃいませ!!」


◇


「これが…ダンジョン」

初心者ダンジョン入場。


少し湿り気のある空気、それ程淀んではいない。

なる程、初心者ダンジョンの名の通り、簡単な作りらしい。

狭(せま)く薄暗い通路、先に明るい広い部屋。

その繰り返しだった。


何かがおかしい。

「魔物や魔獣が一切いない」

二階層に降りた時に気が付いた。


初心者用だからなのだろうか。

それでは、ダンジョンではなく、ただの洞窟だと思うのだが。


一先ず、二階層の最初の部屋を探索する。

隅から隅まで歩いてみる。

そして、四角い部屋の最後の隅で、何かを踏む。

一箇所、床に出っ張りがあったのだ。

それを踏み込んでしまった。


「あ!これって…!」

足元の地面が突如消える、罠で真下に落ちるカード。

「やっぱ、罠だぁ!」

空いた穴に、叫びながら下へと落ちて行くカード。


長い長い落下時間。


数分後に漸(ようや)く地面が見えた。

「よっと!下に剣山みたいのが無くて良かった」

身体を反転させ、音もなく着地するカード。

剣山がなくとも、一般的な人ならば、即死を免れない高所からの落下。

何事もなかったかのように、カードは着地をきめた。

「ここは、何階層なんだろう?」

と、呟(つぶや)いても、特にどこかに表記がある訳でも、誰かが教えてくれる訳でもない。


「音がする…戦闘している?」

何者かが戦闘している音が耳に入ってきた。金属同士がぶつかるような音。ただ事ではない様子だ。


「行ってみよう」

そこへ急ぐカード。音のする方までは一本道で迷いようがない。


目に入ってきたのは、少女一人が魔獣と闘っている場面だった。


「間に合った?この!」

黒の大剣を背中から瞬時に引き抜き、少女に襲いかかる魔獣に叩き付ける。

銀閃が数度舞い、アリ型の魔獣数体をを瞬時に倒し、倒れる少女を受け止めるカード。

「もう、助からない…ほっておけ」

乾いた金眼が虚空(こくう)を彷徨う。

死にかけの少女は、生きる事をすでに諦(あきら)めている。


カードはその眼を、どこかで見たことがあるような気がする。思い出せないが。


生命が指の隙間(すきま)から、するする、するするとこぼれ落ちる。

何か出来る事はないのか。

考えろ、考えろ。

「あ!」


そう言えば、カードは伝説級のアイテムを持っている事を思い出した。

腰のポーチからそれを取り出す。

「これを飲んで」

薄紅色(うすべにいろ)の液体が入った瓶を、少女に手渡す。


「これ…?」

ひび割れた唇(くちびる)から、まともな音ではない掠れた声が漏(も)れる。

「いいから早く!」

意を決して、一気に飲み干す少女。

身体中から、蒸気が噴(ふ)き出て、見る見る傷が塞(ふさ)がっていく。

ボサボサだった髪にも艶(つや)が現れる。

「やっぱ…エリクサー?」

数秒すると、少女は全快していた。


少女を見ると、茶髪に金眼。

長い髪を無造作に後ろに流し、ボロボロの革鎧、武器は両手に装着した、青緑色のナックルだけだった。


とても、一人で攻略するような装備ではない。


「一体何が…」


その時、部屋の外から、ズルズルと何かを引き摺る(ひきずる)音が聞こえてきた。

「何だ?全く次から次と…」


少女を庇(かば)い前に出るカード。

「エッジワーム!」

少女から発せられたのは、近づいて来た魔獣の名前だった。


引き摺る(ひきずる)音は、エッジワームが蠢(うごめ)く音だった。


巨大なイモムシの魔獣。表面から無数の毛が生えていて、その毛が全て刃になっている。


刃の毛が擦(こす)れ、互いに当たる音が不快極まりない。


「下がっ…て…え?…やば…この光景って」

「おい!」

膝(ひざ)から崩れ落ち、その後前のめりに倒れるカード。

「お前!どうし…」

少女の声が遠ざかる。


※追憶発動条件、金属と金属がぶつかる音を間近で聞く。


◆


剣戟(けんげき)の音が聞こえる。

テズヴァイス公国、中央東部にある島、ターマスの闘技場。


一人が勝ち名乗りを受ける。

疎(まば)らな拍手が起こる。


以前は活気があった闘技場も、今では閑散(かんさん)としている。

当時の活気が戻る気配はない。


次の試合のアナウンスが流れる。


選手控室。

「私が勝ったら、その少年を預かるぞ」

鋭い視線で、椅子に座った闘技場の王者を見下ろす剣聖。

「構わねえよ、そんなガキの一人や二人」

下を向き、吐き捨てる王者。

「………」


隅で膝を抱える少年は、ある船の事故の生き残りだった。

酷(ひど)い事故で、生き残りは一人だけ。

闘技場の王者は、その救護活動に参加し、一人生き残った少年を引き取り育てていた。


◇


『始め!!』

審判の声がスピーカーから放たれ、試合の開始を宣言する。


勝負は数瞬(すうしゅん)で決まった。

「参った…っ!」

王者の剣は、宙をくるくる舞い、場外に刺さった。

剣聖は意匠(いしょう)の美しい剣を、音もなく鞘に収めた。


『勝負あり!!』

先程の試合よりは、少し多い拍手。


「俺は師匠には向いてない。アイツを強くしてやれない…」

突然そんな事を言い出し、項垂(うなだ)れる王者。


「強くならないと、いけないのか?」

首を傾げる剣聖。

「強くなきゃ、また、同じ事が繰り返される」

更に俯(うつむ)く王者。

「同じ事?」


興味を失くした観客は、剣聖と王者が武舞台に残っているにも関わらず、席を立ち帰途につく。


「船の事故の怪我だけじゃねえ。旧(ふる)い傷も体中にある…」

「虐待(ぎゃくたい)を受けていたのか…」

「………」

王者は答えない。それは無言の肯定だった。


「俺は教える事に向いてねぇ」

「だから、わざと負けたのか?」

「勘違いすんなよ。全力でやっても勝てなかったさ」と薄く笑う。

敗北宣言、これで王者は王者ではなくなった。


「不器用な男だなお前は…」

大きな溜息を吐(つ)く剣聖。

「俺の愛は歪(いびつ)なんだよ!分かれこの野郎!」

叫んだ後、再び顔を伏せる元王者だった。


『剣聖の記憶を一部取り戻しました』


『記憶レベル6/1000スキルを一つ解放します』


スキル∶察知

周囲の生物の居場所が分かる。

範囲は消費MP次第。

察知出来ない生物もいる。

特殊な空間では作動しない。


◆


「遅い!」

カードが意識を取り戻した事を背中で察知する少女は、不満を叫ぶ。

金眼はずっとエッジワームを捉えたまま。

先程落とした、黒い大剣を持ち上げるカード。

「ごめん」


少女は再び、ボロボロになっていた。

エッジワームは入口付近から、動いていない。

カードが眠っている間、守ってくれていたようだ。

「ありがとう。後は僕が」

身体から力を抜き、大人しく下がる少女。

「コレを」

再び、薄紅色(うすべにいろ)の液体の入った瓶(びん)を渡すカード。

「二本もあったか!…お前、何者?」

「いいから」

「深い傷ない、コレいらない」

長い茶髪を振り、拒絶(きょぜつ)する少女。

「じゃ、コッチを」

カードはポーチから青色の液体が入った瓶(びん)を渡す。

「ハイポーション…?」

今度は受け取る少女、それを一気に飲み干す。

見る見る傷が癒(い)えていく。


黒い大剣を構えるカード。

「その剣っ!?」

少女は金眼を見開く。

「珍しいでしょ?黒い剣って」

「………」

「直ぐに終わらすから」


目覚めたカードは、エッジワームを剣聖のスキル断罪(パニッシュ)で瞬殺した。


舞い散る魔獣の破片と体液、砕けた壁や地面。

少女の目には、その出来事はスローモーションのように見えていた。

魔獣の身体が地面に落ちる音と同時に、スローモーションは解除される。


一拍後、轟音と爆風が駆け抜けた。


「何者?」

「ははは、何者なんだろうねぇ…」

「………」

二度目の“何者”を呟く少女は、カードをセーフハウスへと誘導する。

「話する、セーフハウス行く」

身軽に歩き出す少女。

「待って」

少女は待たない。

しょうがなく付いて行くカードだった。


セーフハウスとは、ダンジョン内の魔物や魔獣が、侵入出来ないエリアの事を言う。

理由は分からないが、ダンジョンにはこう言う場所が必ず存在する。


セーフハウスに到着。

「助かった、礼言う」

「まぁ、お互い様になったけどね。僕はカード、君の名は?」

「サエラ」

短く一言。


「さっきの何?」

サエラの金眼が、真っ直ぐカードの灰眼を見つめる。

さっきのは、とは、気を失った事だろう。

「え〜っと、デジャヴに伴(ともな)う副作用…的な?」

「自分でも分からない?…阿呆か?」

「いやぁ、僕は記憶を失っててね」

少女は金眼を見開く。

「記憶ないのにダンジョン潜る。阿呆か?」

カードは深く深く溜め息を吐(つ)く。


「その阿呆にも、分かるように説明してくれるかな?ここは初心者ダンジョンではないの?」

「ここ初心者ダンジョン、間違いない」

「でも…ここは」

明らかに様子が違う。

「ここ、初心者ダンジョンの裏」

かぶせ気味に言う、サエラと名乗った少女。

「裏?」

「どのダンジョンにも裏、存在する」

「なる程」

「裏の難易度、表の何倍も高い」

「ふむ、だから魔獣が強かったのか」

初心者が遭遇(そうぐう)すれば、助かる確率は少ない程、先程戦闘した魔獣は強かった。


「君の事を聞かせてくれる?」

戦闘奴隷(せんとうどれい)として、あるパーティで働かされていたと語るサエラ。


「戦闘奴隷…」

まぁ、そのままの意味なのだろう。


「アレ?でも、どうやってそのパーティは脱出したの?」

最もな疑問である。

「脱出アイテムある」

「君を置いていく理由がないよね?」

首を傾げるカード。

「人数制限ある…」

サエラは下を向く。

「つまりは、ピンチになったら、元々置いていくつもりだったと?」

無言で頷(うなづ)くサエラ。


サエラの事を置いて脱出したパーティ。

つまりは囮(おとり)と言う事だ。

「それは…許せないね」

カードの声が低くなる。

この世界で目覚めて、始めて怒りを憶えるカード。


「その首輪が…」

サエラの細い首に巻かれている、不自然な程無骨な首輪。

「そう、隷属(れいぞく)の首輪」

「じゃ、外そうか?」

「無理、これは契約(けいやく)。無理矢理外せば心臓が止まる」

「大丈夫、簡単に外せるよ」

言い切るカード。

「え?」

隷属(れいぞく)の首輪を看破(かんぱ)で確認した所、物理的に壊すと、罠が発動するタイプ。

魔法やスキルならば、解除が出来ると言う事が分かった。


「よし、解呪からの解除」

カードの手が淡く光る。

「は?」

あっさりと、隷属(れいぞく)の首輪は外れる。

割れて地面に落ちた隷属の首輪は、思ったよりも軽い音がした。


「まだ、僕の事を信用出来ないかも知れない。それでも僕ら似た者同士かもね」

「似た者?」

看破(かんぱ)スキルは、自身のステータスを相手に見せる事ができる。

「見てみて」

ステータスを表示し、A4サイズのそれをサエラの方へ向ける。

ズルいやり方だとは思うけど、これで少しは警戒が融(と)けるのなら、個人情報を晒(さら)す意味はある。


「は?ジョブ…奴隷…?」

「そ、奴隷仲間だね。って、サエラは元奴隷か」

そう言って軽やかに笑うカード。

「名前…カード、覚えた」


サエラの金眼に、少しだけ光が戻った。


「じゃ、脱出しようか」

「先に進む」

二人は反対の方向を向く。

「あれ?え?上に行くんじゃ?」

戻るより、攻略したほうが早いとの事だった。

「ボス倒すと、転移陣(てんいじん)でる」

「転移陣…?」

「それに乗る。地上戻れる」

「なる程、じゃ、行こうか」

「………」

「何?」

「さっき会ったばかりの奴の言う事、素直に聞く。阿呆か?」

「またそれ!?」

うんざりした声を上げるカード。

サエラはカードに見えないように、微(かす)かに微笑(ほほえ)み、先を歩き出した。

ステータス一部公開。

サエラ

虎人・女・19歳

173cm・63kg

茶髪・金眼


ジョブ:ウォーリア[一次職]


HP1920・MP2360


固有スキル:絶対防御《アルティメットシールド》

全ての攻撃を防ぐ(20秒間)

消費MP500・クールタイム90秒


装備

・星の手甲(メテオナックル)

・革の鎧

・冒険者の服


アイテム

・汚れた紙切れ


アクティブスキル

・乱れ撃ち

・溜め打ち

・貫通突き


パッシブスキル

・速さアップ(中)

・???


土魔法

・ロックシュート

・土壁(アースウォール)

・???


称号:虎王の娘・復讐者・受け継ぎし者


特徴:長髪・細身・長身・吊り目・カタコト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。