依頼を受けよう
「アレ?なんでこんな?」
確か、ギルドで受けた依頼は、パルウルフ、小型の狼型魔獣の討伐だったはず。
「デカい魔獣しかいないけど…」
コレは違う、断じて違う、体高5mはありそうだし、羽生えてるし。
◇
3時間程前。
要塞都市サンゲイル、冒険者ギルド。
昼前は意外と空いていて、閑散としている。
受付カウンターへ向かうと、いつもの受付嬢がいた。
目つきはキツイが、美人と言って良い。
いや、かなりの美人である。
何人かがアタックし、散っていったとの噂はそこかしこで聞こえる。
「僕の受けられる依頼って、どんなものがありますか?」
お金の心配はないのだが、目立ちたくないのが本心なので、一先ず仕事をしてみようと思った。
気付いた事がある。
大金貨は、そのままでは使えない。
お釣りを用意出来る店がないからだ。
大金貨は両替すると大変な事になる。
枚数が、えげつなくなる。
そんな目立つ事はしたくない。
そう、働かないほうが目立つのだ。
すでに女性B級冒険者を、ボコボコにしてしまい、悪目立ちしてしまってはいるのだが。
つまり、使える手持ちの金はゼロ。
グレイさんに手配して貰った宿は、後三日で出なければならない。
早急に金を稼ぐ必要がある。
記憶の事はその後だ。
「君はC級だから、その掲示板の左から三番目のやつがそれよ。まぁ四番目のも受けられるけど、安全なのは三番目かな?」
指を差しながら教えてくれる受付嬢。
周りの冒険者が羨ましそうに見ている。
それ程、この受付嬢は人気なのだろうか。
カードに付きっきりになっている為、他の冒険者は違うカウンターで依頼の報告書やらをしている。視線が痛い。
「なる程、ありがとう、見てみるよ」
受付嬢にひらひら手を振り、掲示板へ向かう。
「可愛い新人冒険者さんね」
受付嬢が、カードを値踏みする体勢に入る。
カウンターに前のめりになる。
受付嬢スコープ発動。
身長、体型は完璧。顔はそこそこ。
優しい声。綺麗な灰髪と灰眼。
その上、黒騎士副長と聖女セレンのお墨付き。
超優良物件だ。受付嬢の目が光る。
「これは、見逃せないわね」
「なんか、寒気が…風邪かな?いや、気のせいだ。集中集中」
カードは頭を振り、余計な考えを振り落とす。
依頼掲示板を、腕を組み、眉間にシワを作り睨みつける。
採集依頼、お使い依頼、荷運び依頼等々。
暇な時間帯だけあって、依頼は残り物しかない。
「もうちょっと、楽しそうな…ものは…」
次々と依頼を確認していく。
「おっ、コレは?」
一枚の依頼書が目に留まる。
四番目の掲示板だった。
「魔獣の討伐依頼か、コレにするか」
魔獣討伐依頼、パルウルフ十体。
達成難易度C。
その依頼書を剥がし、受付嬢の待つカウンターへ持って行く。
前のめりになっていた受付嬢は、慌てて元の体勢に戻す。
「コレにするよ」
カードは依頼書を受付嬢に手渡す。
「どれどれ…うーん、通常はパーティを組んで臨むものだけど、カード君だし大丈夫かなぁ」
そのカード君だしってなんなん?と、顔には出さず、心の中でだけツッコむ。
まぁ、女性B級冒険者をボコボコにして、悪目立ちしてしまったのは、自分のミスと言えるので、しょうがない部分もあるけど。
暫く大人しくしていれば、皆の熱も冷めるだろう、きっとそうだ、そうだと良いな。
カードは希望的観測へと逃げ込んだ。
受付嬢は、依頼書を透明なケースに入れ、黒いB5サイズの石板の下の穴に、それを差し込む。
「この上に、冒険者証を置いてください」
僕は言われた通りに、冒険者証(仮)を石板の上に置く。
短い高めの電子音が二度鳴る。
受領された合図だった。
失敗した場合は、低い濁った音が一回だけ鳴るらしい。
「受領しました、今から三日以内に、この都市の北側に生息するパルウルフを十体討伐して下さい。討伐証明部位は牙です。知っているとは思いますが、失敗するとペナルティが科されます。ご了承下さい」
事務的に、淀みなく説明を終えた受付嬢。
「は~い、了解で〜す!」
カードは元気に返事をして、冒険者証(仮)を懐に戻す。
カードはスイングドアを軽快に鳴らし、ギルドの外へ出て行った。
「軽いのよねぇ、一応D級の魔獣なんだけどなぁ…」
カウンターに肘をつき、掌に顎を乗せる受付嬢。
魔獣、魔物にもランクがある。
F級〜S級まで存在し、B級以上は災害級とも言われている。
因みに、S級が現れると、小さな国なら即日滅びると言われている。
D級の魔獣となると、通常三人以上のパーティで挑むものだ。
未来の旦那の背中を、心配そうに見送る受付嬢だった。
◇
カードは、要塞都市サンゲイルの北の平原へやってきた。
時刻は午後、太陽は傾き掛けている。
振り注ぐ陽光で、少し動くと汗ばむ程だ。
深呼吸をすると、実に気持ちが良い。
草花も元気に揺れている。
「そこそこ人がいるなぁ」
あちこちで、冒険者が魔獣との戦闘をしている。
戦闘音のせいで、爽やかな空気が台無しだ。
増えすぎる魔獣の討伐依頼は常にある。
食い扶持に困らないのはいいのだが、油断すれば、下級の魔獣でも命を落とすこともある。
どんな場面でも魔獣と相対したら、少しの油断もしてはいけない。
「え?」
冒険者達が突然、カードの方に向かって走ってくる。
何やら叫んでいるが、皆で同時に言っているので、聞き取れない。
パルウルフも冒険者を追い抜きながら、カードの方に向かって走ってくる。
「なんか分からないけど、パルウルフきた!」
依頼の目標が自らやってきた。これは好機。
黒の大剣を背中の鞘から抜き、構えたカードの脇を猛スピードで走り去る。
他の魔獣も同じ方向に逃げていく。
「え?」
振り返り、その集団を呆然と見送っていると、後ろから嫌な気を感じた。
灯油のような臭いがする。
日が雲に隠される。影が濃くなる。
冒頭に戻る。
もう一度振り返る。
「アレ?なんでこんな?」
巨大な魔獣が、カードを睨んでいる。
上半身と前脚が鷲、下半身が獅子。
背中からは羽が生えている。
巨大な魔獣と向き合うカード。
下から見上げると、視線が合った。
風が吹き抜け草原が波打つ。互いに動かない。
そうだ、看破スキルで視られるだろうか。
視えた。
ネームドモンスター∶レディマゼンダ(火)
指定討伐ランク∶A
種族∶グリフォン
体高5m、体重20t
HP36,260 MP26,940
固有スキル∶???
魔獣スキル∶???
特記事項、ハルファスの部下。
「ハルファス?まぁ、何とかなるか」
以前、死の森でネームドモンスターを倒した事がある。
確か、スチールウルフと言う名で、一撃で倒せた。
スチールウルフのステータスは確認してないが、当たれば一撃で終わるだろうと、楽観視するカード。
レディマゼンダが、天に向かい一度咆哮する。
カードを獲物と認識したようだ。
嘴を開けると熱風が漏れ出る。
周囲の温度が上がり、緊張が高まる。
黒の大剣を上段に構え、レディマゼンダへ向かって走り出す。
爪で攻撃しようとしてきたので、地面を滑り、レディマゼンダの腹の下を抜けて避ける。
空振りした足は、地面を穿ち大地を振動させる。
後ろに回り込み、大剣を横薙ぎに振るうが、空に逃げられてしまう。
「面倒だな」
飛ぶ相手との戦闘は始めてだ。
レディマゼンダは、降りてくる気配はない。
カードの実力を、見定めているかのようだ。
「よし!」
カードは黒の大剣を、レディマゼンダへ向かい投げた。
「そい!」
予測してなかったのか、レディマゼンダの回避が遅れ、黒の大剣は右の羽を斬り裂く。
短く唸り、落ちてきたレディマゼンダの頬を殴り、グロッキーにした所、後ろへ回り込み両腕で首を締め上げる。
一気に絞り、首の骨を折る。
骨の折れる嫌な感触が、全身を突き抜ける。
「うわぁ…気持ち悪い感じ」
レディマゼンダは動きを止めた。
「あれ?」
倒したレディマゼンダは、瞬時に光の粒子となり消えていった。
通常の魔獣は消える事はない。
スチールウルフも消えなかった。
宙を舞うレディマゼンダの残滓。
キラキラしているそれを、眺めるだけのカード。
突然の静寂。
風の音だけが聞こえる。
代わりに残ったのが、紅黒く鈍く光る球体。
レディマゼンダのコアだった。
そのコアの周りを、歩き回っている鳩がいた。
「ん?いつの間に?」
「ワタシのレディマゼンダが…倒された?」
大きさは一般的な土鳩と同じ位。
「ほう、喋る鳩か」
しゃがみ込み、じっと観察するカード。
「ふむ」
「は!何だお前は!?」
レディマゼンダのコアに集中していて、カードが接近している事に気付けなかった鳩。
そう言えば、レディマゼンダのステータスを見た時に、ハルファスの部下とあったが。
「さすがに違うかぁ…」
苦笑して頬を掻くカード。
「お前は何だと聞いている!」
鳩がしわがれた声で叫ぶ。
「よし、持って帰ろう!」
両手で鳩をしっかりと掴む。
「何だ!やめろ!ワタシはハルファスだぞ!これでも序列38位の悪魔なのだぞ!」
ハルファスだった。
悪魔だった。
「人間などと一緒に行けるものか!ワタシ達悪魔には誓約があり…」
誓約…そう言えば、スキル欄に解呪と解除があったと思い出すカード。
「よし!解呪からの解除!」
立て続けに二つのスキルを発動した。
鳩が淡く光る。
「は!?誓約が…解約された?」
意外と簡単に解約できた。
「これで一緒に行けるな。よしよし」
満足そうに頷くカードだった。
ハルファスは、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。
カードと目が合う。
「分かった!一緒に行こう!」
そう、擦り込みである。
悪魔としてではなく、始めて鳥として人の目を見てしまった。故の擦り込み。
カードは、ハルファスに親と認識された。
カードは、ネームドのレディマゼンダの事をハルファスに聞いた。
人を襲うつもりで、放った訳では無いとの事だった。
魔界から逃げ出した、レディマゼンダを探しに来た所にカードと遭遇した。
「まぁ、実害がないから許すけど、もっとしっかり管理してね」
「かしこまった!父よ!」
「父?まぁ…いいか」
ハルファスは、ご機嫌にカードの肩に乗るのだった。
通常の魔獣は、死後肉体が残り、魔界の魔獣は肉体が消えると言う。
一度、平原を見渡してみる。
「パルウルフは…いないかぁ。一度戻ろう」
レディマゼンダを恐れ、逃げ出したようだ。
大剣を回収したカードは、平穏を取り戻した平原を離れた。
◇
要塞都市サンゲイル、冒険者ギルド。
いつもの受付カウンター。
そこに大剣を立て掛けて、呼び鈴を鳴らし受付嬢を待つ。
やってきた受付嬢に、事実の全てを報告したカード。
「はい?」
ハルファスは、町の外に待機してもらった。
一応、悪魔らしいので、知ってる人がいてパニックになったら困ると言う理由で。
まぁ、見た目ただの鳩なんだけれども。
「ネームドを一人で?」
受付嬢は目を見開いて、口をパクパクしている。
「はい、何か?依頼は失敗ですかね?パルウルフいなかなったし」
「…A級を一人で」
受付嬢は|小刻みこきざ》みに震えている。
「はい、あの…依頼の成否は?」
二度目の確認。
「少しお待ちおぉ!!」
声を裏返らせて、受付嬢は走り去った。
「何なんだ…?」
昨日の練兵場の一件を見ていた四人が、ギルドの柱の影から、カードの様子を伺っている。
「兄貴、ホントにやるんですか?」
「あいつ、かなり強いですよ?」
「馬鹿野郎!あいつが強いのは、あの大剣のおかげだ!アレが手に入りゃ、オレ様も直ぐにA級冒険者になれらぁ」
ぐへへと笑う小汚い男。
「そうなんですかね…」
半信半疑の子分たち。
「行くぞ!」
「「「へ、へい!」」」
「あれ?」
その時、カードは立て掛けてあった大剣がないことに気がついた。
見回すと、カードの大剣を重そうに引きずっている四人組が見えた。
「ほぉ、盗人と言うやつか」
重そうにしてるし、直ぐに追いつけるだろう。
「う…この光景って…やば」
※追憶発動条件、自身の愛剣を手放す。
意識が遠ざかる。
◆
「良くやった。これからお前が剣聖だ」
「ありがとうございます」
美しい意匠の剣を、弟子に受け渡す前剣聖。
互いに笑い合い握手を交わす。
ローレア王国、南の島、カイン山中腹。
真冬の岩山、雪が絶えず降り続いている。
「これが最後の手合わせだ」
二人の目つきが、真剣なそれに変わる。
「…お願いします」
新剣聖は、受け継いだ剣を抜き。
白装束の前剣聖は腰に下げていた、二本の剣を抜いた。
「いくぞ!」
「いつでも」
前剣聖が剣を舞わせる。
「固有スキル∶秘技・雪月花、一ノ型、冬の雪」
降り続く牡丹雪が、動きを止め宙に留まる。
世界が白く染まる。
前剣聖が剣を振ると、青い和装の新剣聖に向かって牡丹雪が殺到する。
「一刀両断!」
数十の牡丹雪が、新剣聖のスキルの一太刀で全て破裂し消える。
景色が元の色が戻る。
「やるじゃないか、次!ニノ型、秋の月!」
前剣聖の二本の剣から、鋭利な三日月が新剣聖に迫る。
二人の周りが、薄い黄色に輝く。
「乱れ咲き!」
新剣聖の無数の斬撃が、前剣聖の放った三日月を粉々にする。
景色が元の色が戻る。
「尽く通常スキルで迎撃されるとはな、次!三ノ型、春の花!」
笑みを作る前剣聖の後ろに、巨大な桜の木が現れる。
周囲が薄紅色に染まる。
その桜から、一斉に花が散る。
その数、数千。
全ての花弁は鋭い刃と化す。
時が止まったような感覚。
色が失われ、モノクロの世界になる。
花弁は一斉に新剣聖へと迫る。
それが到達する直前に、一度目を閉じた新剣聖はスキルを発動する。
「固有スキル、断罪」
目を見開き、意匠の美しい大剣を、力一杯振り下ろす。
巨大な斬撃が、全てを断ち斬る。
「!」
師匠の前剣聖の左腕、後ろの幻影の桜、山の稜線が轟音と共に散る。
大災害と言っていいだろう衝撃が、猛威を振るった。
山の谷間へ消えて行く前剣聖。
「さよなら、師匠」
新剣聖は剣を納める。
雪は止み、日が差し込んできていた。
『剣聖の記憶を一部取り戻しました』
『記憶レベル4/1000、5/1000、スキルを二つ解放します』
スキル∶断罪
範囲内の全てのものを断ち斬る。
縦一列。
消費MP2000、クールタイム60秒。
パッシブスキル∶力アップ《極》
※剣聖のスキンを獲得しました
◆
今回で三回目の追憶。毎回、時代が違うようだ。
目を覚ますカードだが、直ぐに状況は理解出来ない。
カウンターに突っ伏していた。
周りを確認する為、首を左右に振る。
ここは、要塞都市サンゲイルの、冒険者ギルド。
「そうだった。そう言えば…剣を盗まれて…」
少しずつ思い出してきた。
ギルドの二階から降りてきた屈強な男が、カードの目に止まった。
「おう!ワーエルじゃねぇか、何やってんだよ!」
大きな声がギルドを震わせる。
居合わせた人々は、動きを止め様子を伺う。
必死に黒い大剣を引きずる、ワーエルと呼んだ男を視界に捕らえた屈強な男。
素肌に革の鎧を纏っている。
革鎧の下の筋肉が、隙間からはみ出して来そうな程に主張している。
「何で!てめぇがここにいる!?ザンガ!!」
大剣を運ぶのを一旦中止し、振り返るワーエル。
ワーエルと、ザンガと呼ばれた男は顔見知りのようだ。
ギルド全体がざわめいている。
「おい、あれって?」
「クラン、黒い衣のリーダーだ!」
「S級冒険者のザンガだ!」
S級とは、全ての冒険者の頂点。
「確か、ユニーク職の戦帝だよな?」
筋肉男ザンガは凄い人らしい。
ユニーク職とは、全てのジョブの頂点。
この男、有名人のようだ。
「何でって…そりゃ、依頼が無事に終わったから、ギルマスに報告に来たんじゃねぇか。どーでもいいが、ワーエルよ、俺がいないと思っての暴挙か?あぁ!?」
ザンガと呼ばれた男は、屈強なだけでなく、ガラも悪かった。
「ふざけるなよ!S級魔獣の討伐が、一日二日で終わるわけねぇじゃねぇかよ!」
ツバを飛ばして、一般論を叫ぶワーエル。
「ふざけてるのはどっちだか?お前、忘れてんじゃねぇのか?俺はS級冒険者だぜ。一日二日でどうにかなるんだよ」
一般論を捻じ伏せるザンガ。
「そ…んな、ぐ、ガぁゴ…アアアア!!!」
ワーエルが突如苦しみ出す。
「ワーエルさん?」
「グガァ!」
ワーエルは腕を振り回して、仲間達を弾き飛ばした。
「うわぁ!!」
飛んで行った仲間は、三人ともギルドの壁に打ち付けられ、意識を失くした。
「全員、緊急避難だ!ギルドから離れろ!」
ザンガの号令。空気が、ビリビリと振動する。
そう言うとザンガは、カードの大剣に劣らない程の大きさの大剣を、背中から抜いた。
訓練が行き届いているのか、淀みなく避難を完了させるギルド職員。
「避難完了しました!」
「了解!あんたらも、全員外へ出ておけ!」
「分かりました」
「貴殿も下がっていろ、巻き添えを喰うぞ。あの剣には呪いが付与されている。恐らく、カオスドラゴンの呪いだ」
カードはザンガの隣に並んでいた。
目を細め、ワーエルの持つ大剣を睨みつけるザンガ。
「アレ、僕の剣なんで。呪い?僕には何も起きないですけど?」
首を傾げるカード。
「何だと?いや、来るぞ!」
「おっと」
ワーエルは大剣を振り回している。
剣術も何もない。ただ、振り回しているだけ。
「防御強化!」
ザンガは自身の防御力を上げ、カードの前に守るように立つ、そして、ワーエルの斬撃を受け流す。
「グるアぁ!」
「おらぁ!」
そして、体勢が崩れた所に前蹴りを放ち、ワーエルをスイングドア付近まで押し返す。
「よっと!」
速さアップ《極》を発動し、ワーエルの後ろに回ったカードは、あっさりと大剣を奪い返す。
「グガグぁるぁ!」
涎を垂れ流すワーエルの目は、赤く染まっていた。
「大人しくしてくれ」
カードはワーエルと向き合うと、先程手に入れたスキルを発動する。
「断罪!」
上から下へ大剣を振り下ろす。
「殺すな!」
ザンガの叫びに直ぐ様反応するカード。
しかし、スキルは途中では止まらない。
少し、横にズレただけ。
断罪の斬撃は、ワーエルの横を通り過ぎた。
舞うワーエルの左腕、向かいの建物をも両断した。
舞い上がる粉塵。
巻き上がる風。
重たい濡れたものが、地面に落ちる音。
建物が崩れる轟音。
掻き消される人々の叫び。
そして…静寂。
カードは黒の大剣を背中の鞘に納める。
「やってしまった…」
ザンガが絶句している。
ギガントブレードの出番はなかった。
向かいの建物は崩れ続け、粉塵は収まる気配もない。
「何事かと思ったら、貴方でしたか」
粉塵の中から現れたのは、長い緑髪の美しい女性。胸元には蒼い光。
灰眼と銀眼が見つめ合う。
カードの前に現れたのは、先日ぶりの聖女だった。
セレンは以前の白装束ではなく、町娘の様な装いであった。




