冒険者になろう
カードは要塞都市サンゲイルの、冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
スイングドアと、板張りの床が微かに鳴る。
現在、午前中だが人で溢れかえっている。
ざわつく空気と、少しの熱気がフロアに満ちている。
「凄い人数だな…全員冒険者なのかな?」
カードは落ち着きなく辺りを見回す。
広い部屋。正面に受け付けカウンターが、横並びに五ヶ所ある。右手奥には、素材の買い取りカウンターがあり、左手には、食堂のようなものがある。
やはり、字は読める。
カードは後で、食堂のメニューをチェックしようと心に決める。
良い香りが漂っている。
取り敢えず腹が鳴る前に、正面の受付カウンターへ向かう。
カードはそのカウンターの人に、聞いてみる事にした。
「あの…ここで冒険者になれるって聞いたのですが」
「えぇ、こちらでなれますよ。試験を受け、登録すれば冒険者として活動できます」
カウンター越しに向き合う二人。
渾身の営業スマイルの女性。
目つきは鋭いが整った顔立ち。
短く切り揃えられた髪は清潔感があり、その笑顔は周りの視線を集める。
「試験?」
「そうです…」
「何だよ兄ちゃん、その年で冒険者ってか!?」
急に後ろから声を掛けられた。
声がデカい、“その年”って事は、通常はもっと若い時に登録するのだろうか。
などと考えていると。
「反応ねぇな!舐めてんのか!?」
確かに反応しなかったが、何でそうなるのか分からないカードは、振り返らず受付嬢に先を促す。
「それで?その試験と言うのは?」
「あ…あの」
受付嬢の目が泳いでいる。
「テメェ!!」
これでは話が進まないと、溜め息を吐きつつ、仕方なく振り返るカード。
男はカードより頭一つ低く、ピッチピチのタンクトップを着たモヒカン野郎だった。
「何かようですか?」
カードは顔色一つ変えずに、モヒカン野郎に問う。
「冒険者っつーのが分かってねぇな!俺はC級だぞ!」
「教えていただけると助かります」
間髪入れずに言う。教えて貰えるなら正直有難い。
「ようし!しっかり覚えやがれ!」
モヒカン野郎は、無駄に大きな音を立てながら抜剣した。
何が彼を怒らせたのかさっぱり分からないが、こう言う類は長生き出来ないタイプだと知っている。
知っている?記憶喪失なのに、こう言う事はしっかり覚えている自身に苦笑する。
その苦笑を、馬鹿にされていると勘違いしたモヒカン野郎は、更に激昂する。
「この野郎!!」
カードが背中の大剣に手を掛けた時、良く通る声が聞こえた。
「ギルドでの武器の使用は禁止されている」
「え!?」
モヒカン野郎が、瞬時に硬直する。
危なかった。内心、冷や汗を流しつつ、カードは大剣からそっと手を離し、声の主を探す。
「あの人か」
二階へ続く大階段から、赤いスーツを纏った、すらっとした長身の女性が、声を発していた。
その声は大きくはないが、ギルド全体に響き渡る。
全員が動きを止める。程よい緊張が場を支配する。
長い金髪を後ろで一つに纏め、利発に見える細い銀縁の眼鏡の下の碧眼を、モヒカン野郎に向けた。
「うえ!ギルマス!やべ!!」
二歩、後退るモヒカン野郎。
「うえ、とは何だ!おい!待て!」
ギルドマスターが呼び止めるにも関わらず、モヒカン野郎はそそくさと逃げ出した。
入口のスイングドアが、激しく揺さぶられていた。
「申し訳ないね、気の荒い奴らが多くてこちらも手を焼いている。奴には後で罰を与えるとして。ここじなゃなんだ…上で話を聞こうか」
階段を降りてきて、目線を合わせカードに話し掛ける女性。
カードは礼を言い、その女性について行く。
受付嬢をチラリと見ると、緊張が溶けたのか短く息を吐いていた。
◇
二階、ギルドマスター執務室。
広い室内、簡素だが清潔感があり、きっちりと整頓されている。
一階の雑然とした空気とは、まるっきり別物だ。
「さて、今日は冒険者登録に来たのかな?」
秘書だと勝手に勘違いしていたが、この女性がギルドマスターだった。
モヒカン野郎が言っていたギルマスとは、ギルドマスターの事だったようだ。
自己紹介しないのが、この世界では当たり前なのか。
いや、セレンとグレイは自己紹介をしていた。
と、すると、冒険者は自己紹介しないのが当たり前なのか。
「はい、そうです。あと、推薦状があるので、見てもらえますか?」
ギルドマスターは、銀縁眼鏡の下の目を細める。
「推薦状とは珍しい。拝見しよう」
僕は長テーブルに、手を伸ばして推薦状を置く。
ギルドマスターは、身を乗り出して推薦状を手に取る。
推薦状を確認して慌て出すギルマス。
何やら動きが挙動不審気味だ。
「は?これは…何で?え?」
推薦状の内容を聞いて、僕も驚いた。
セレンは聖女。
聖女って響きは、何だか分からないが救世主的な人物だと勝手に想像する。
凄い人だった。
グレイは黒騎士の副長、こちらも凄い人だ。
黒騎士とは、この国の近衛騎士の扱いらしい。
一つ咳払いし、空気を強引に元に戻すギルドマスター。
「事情は分かりました。後は魔力検知と武力検査を受けてもらいます。これは登録する全員に義務付けされていますので」
「検知と検査…それはどうやって?」
首を傾げるカード。
「難しい事はないですよ。一先ず魔力検知を済ませましょうか」
笑顔を見せ、立ち上がるギルドマスター。
魔力検知は周知の状態で行わなければならないらしく、先程の受付カウンターへと向かう。
ギルドマスター同席の為、モヒカン野郎みたいな奴に、絡まれるような事はないだろうとの事。
◇
先程の受付嬢のカウンターへ戻って来た。
「では、この石板に手を置いてください」
カウンターに置かれていたのは、B5サイズの黒光りする、厚みのある石板だった。
「これに手を置くと、最初に量が測られ、次に属性が現れます」
石板から発せられる光量により、魔力量が分かるらしい。
その後、光に色が現れ、色の種類により属性が分かるとの事だった。
意外とざっくりしている。
簡単で良かったと、胸を撫で下ろすカード。
「分かりました」
カードは石板に手を置いた。
「おぉ…」
何やら周りに人が集まって来た。
「そんな…」
「マジかよ!」
「嘘だろ…」
色々な声が聞こえてくるが、どういう感情なのかはカードには分からない。
物凄い光で、目を開けてられない程になった。
ギルド全体を光が呑み込んだ。
「これは…?」
光が収まると同時に色付き始める。
「なんだと?虹色?」
周りから声が上がり、ざわざわと広がって行く。
「どうなんですか?コレ大丈夫なやつですか?」
僕は不安になり、受付嬢に聞いてみる。
「魔力量は、このギルドに登録されている冒険者の中で…一位…」
「いや、一位どころじゃない…規格外の魔力量だ」
ギルドマスターが、碧眼を見開く。
「属性は?」
「全属性…」
「は?」
「全ての属性の適正があります」
受付嬢からは、表情が消えている。
光の色は、青は水、赤は火、緑は風、茶は土という事らしい。
その他の属性はこの検知では分からないらしい。
「当ギルド始まって以来の、オールカラー…」
ギルドマスターは、銀縁眼鏡を外し、目頭を揉んでいる。
「ふむ、良く分かりませんが、悪くはないと言う事ですね?」
「悪くないというか、最高なのですが…」
「あまり実感はありませんね。僕は今は魔法使えませんし」
何だ使えないのかと、周りから落胆の声が聞こえる。
「ま…まぁ良いでしょう。次は武力検査です…が…」
周りを見回すギルドマスター。
何故か、物凄い勢いで目をそらすギャラリー。
その中で、果敢にも手を挙げる女性がいた。
「私がやろうか?」
銀の軽鎧を着た女性が名乗り出た。
「あぁ、フラウか、君なら任せられる。よろしく頼むよ」
ギルドマスターの太鼓判、この子と戦えばいいという事みたいだ。
◇
武力検査の為、屋外の練兵場へと移動する。
ギルド併設の運動場のような所。
冒険者ギルドは、広大な土地を擁している。
その隅に武舞台があり、闘技場のようになっている。
武舞台は一辺30mの正方形、高さは2m。
場外の幅は3m。その外側に客席がある。
そこでの模擬戦と言う事らしい。
「わたしはB級冒険者フラウだ。好きな得物を使うと良い」
上から目線で言う先輩面のフラウ。
「カードと言います。では、こちらで」
カードは軽く頭を下げ、練兵場の端に立て掛けられていた木剣を手に取る。
「背中の大剣ではなくていいのか?」
「これが当たると、真っ二つになってしまうので、危ないじゃないですか」
実際、ネームドモンスターといものを、一刀両断した経験がある。
「ほう、いい度胸だ。当たる気でいるとはな。問題ない、その大剣を使え」
指を突きつけ、尊大に言うフラウ。
客席がざわめく。
「あの新人、琥珀姫になんてことを…」
「ヤバいんじゃないか…ボコボコにされるぞ」
そんな声を華麗にスルーするカード。
この武舞台には、結界が張られており、死にはしないらしい。
物理攻撃を半減してくれるみたいだ。
ギルドには、治療院もある為、どんな状態でも、生きてさえすれば回復は出来ると言う事だった。
客席には更に強力な結界が張られており、どんな魔法も霧散させると言う。
いくら振っても当たらない、当たっても死なない、ならばこの黒い大剣で勝負してもいいかと考えるカード。
「分かりました。では、遠慮なく」
カードは木剣を置き、背から黒の大剣を抜いた。
「はじめ!!」
ギルドマスターの号令で模擬戦が始まる。
ギルドマスターはその場を離れ、観客席に移動した。
一先ず、数合打ち合う。
フラウは素早いが力はない。
カードはこのまま押し切れそうだと感じる。
「ふん、中々の剣の腕じゃないか」
フラウは口角を上げる。
一度、後ろに飛び距離を取る。
「では、これでどうだ。ファイアボール!」
フラウの右掌から赤い球体が放たれる。
「ふん!」
カードは大剣を片手で持ち、もう片方の拳で真っ直ぐファイアボールを打ちつける。
破裂音が鳴り、一瞬辺りを赤く染める。
拳に弾かれたファイアボールは、フラウの顔の横を通り、後ろの客席に飛び込む。
その手前で障壁に阻まれ魔力は霧散した。
ギャラリーは、当たらないのを分かっていても避けてしまう。
フラウは驚き、一瞬硬直する。
「結界は正常に機能しているようですね」
魔法が霧散した様子を見て安心するカード。
フラウの髪が一部焦げて、嫌な匂いを発していた。
「な…に?」
「魔法を素手で打ち返すだと?」
「何だアイツは…」
「くっ…!次!喰らえ!エアブレード!」
次に掌から放たれたのは、緑色の斬撃。
「うお、姐さん二属性持ちか!」
「ダブルって、惚れ直すわ姐さん!!」
何故かギャラリーが親切に説明をしてくれる。
二属性持ちはダブルと言うらしい。
姐さん?
「そこそこ速いな」
打ち返せなさそうなので、カードは右腕で防御する。
「バカなのか!避けろ!!」
フラウが何やら叫んでいるが、間に合わない。
斬撃は、カードの右腕に当たり消失する。
「は?」
右腕のシャツが少し破けてしまった。
「なる程、服が破けるから避けろと」
「そんなバカな、無傷なんて…」
「下手すりゃ腕が落ちるやつだぞ…」
「こうなりゃ、喰らえ!ファイアストーム!!」
やけくそ気味に、魔法を連発するフラウ。
両掌から、炎風が竜巻の如く噴き出る。
「あのバカ!複合魔法まで使うか!?」
ギルマスは懐から、あるアイテムを取り出し、上に投げる。
結界や防壁も無敵な訳ではない。
投げられたアイテムは一瞬光り、客席に新たな膜を構築した。
結界構築アイテム。
ギルドマスターは、結界に結界を重ね、客席を護ったのだ。
激しい炎風はカードを呑み込む。
誰もが終わったと思った時。
「ふん!」と、気合を入れ、大剣を水平に振り抜くカード。
一振りで、炎風を掻き消した。
「なんだ…あいつ」
「こんな奴、見たことがねぇよ…」
「こうなりゃ、固有スキルだ!」
フラウは、左右の人差し指と中指を伸ばし、額に付ける。
何だか格好悪い。
「喰らえ!固有スキル、サンビーム!」
額から光線が放たれる、超高温の光線。
山吹色の光線、琥珀姫の名の由来だ。
「あのバカ女ー!」
慌てて再び懐からアイテムを取り出し、更に結界強化するギルドマスター。
武舞台の表面が沸騰し、カードに迫る超光熱の光線。
「ふん!」
カードは、大剣を下から上に振り抜く。
ガラスが割れるような音が、練兵場全体に響き渡る。
サンビームも、大剣で天に向かい弾き飛ばした。
光線は天高く飛んでいき、雲をも散らす。
晴天の陽光が練兵場を照らしだした。
「光って打てるんだな」
「そうだな…空がキレイだな…」
客席は静かになった。
先程のガラスが割れるような音は、カードの一振りで、結界が破壊される音だった。
五重の結界が、衝撃波だけで砕けたのだ。
ギルドマスターは失念していた。
彼女は推薦状に書いてあった事を思い出した。
ネームドモンスターのスチールウルフを、一撃で真っ二つにしたと、確かに書いてあった。
スチールウルフとは、魔獣の中でも抜群に防御力が高い個体。
それ程の硬いものを、一撃で粉砕できる攻撃力を持っているということを。
フラウも負けじと、ミスリルソードでカードに迫る。
カードもフラウへと迫る。
一瞬で二人の距離はなくなる。
「はや…!」
フラウは堪らず、防御の構えに移行する。
「ふん!」
カードの一振りで、ミスリルソードは破壊される。
金属の砕ける乾いた音が鳴る。
フラウは後ろに飛ぶが、カードの追い足が速い。
カードが踏み込んで、突きの体勢に構える。フラウに止めを刺そうとした時に、ギルドマスターに止められる。
「そ、そこまで!!」
カードの剣はフラウの鼻先で止まった。
「ひっ!」
「何で?死なないのでは?」
首を傾げるカードは不満顔だ。
「全ての結界は破壊された。殺しは不味い…不味い…合格だ、そうだ!合格だ!剣をしまえ!直ぐしまえ!!今直ぐしまえぇ!!!」
ギルドマスターの顔面は、蒼白くなっている。
フラウも顔面蒼白。
武力検査も合格した。
「その剣の弁証とかは?」
フラウは首を横にぶんぶんと振る。
「それは良かった」
お金はあるが、払わないで済むならその方が良い。
「明日、もう一度ここへ来てくれ。正式な手続きをしよう」
早口に捲し立てるギルドマスター。
「分かりました」
カードは居心地の悪い場所を、さっさと立ち去った。
練兵場の一連の出来事を、影から見ていた人物がいる。
「気に食わねぇな、あの新人」
この悪意の視線に、カードが気づく事はなかった。
◇
冒険者証(仮)の発行がされた。
「おめでとうございます」
満面の笑みの受付嬢。
「ありがとうございます」
カードも微笑み返した。
正式な冒険者証は、三営業日以内に発行されるらしい。
グレイが手配してくれた宿に戻る。
食事をして、受付で鍵を貰い、最上階の端の部屋に入る。
鍵を掛け、ジャケットをハンガーに掛け、チェストに大剣を立て掛け、ベッドに横になり、天井を見る。
「…この光景…見たことが」
これは、単なる夢か、はたまたデジャヴか。
落ちて行く。
落ちて行く。
※追憶発動条件、天井を見る。
◆
死の森、魔王城。
見上げる天井には、美しい壁画が描かれている。
なる程、城と呼ばれるだけの事はある。
魔王城と言う名でなければ、なお良かったのだが。
謁見の間へと足を踏み入れる暗殺者。
ムーディーな室内照明が設置されている。
「我を倒しに来たのが、勇者ではなく暗殺者とはな」
魔王は心底楽しそうに嗤う。
5mはあろう巨体を、玉座に体重を預けて座る魔王。
「しかも、一対一の勝負とか、騎士でもあるまいし」
「いんや、一応騎士だった事もあんのよ。貴族殺しで追放されたけどな」
「面白い話だが、今はそれどころではなかろう?」
「そうだったよ」
暗殺者は舌を出す。
死闘の末、魔王を倒す暗殺者。
「見事だ、勇者よ」
「勇者じゃねぇって、暗殺者な!」
「そうだったな…なる程美しいものだな」
魔王はひび割れた目で、暗殺者の腕を見る。
「だろ?ミスリルの義手と血が混ざると、紫色に見えるんだよ」
暗殺者は義手を掲げる。
「それで…オーキッドか、美しいものだな」
魔王の血は赤かった。
暗殺者の血の色も赤。
「見事であった。暗殺者、オーキッドロイよ、面白い話…先に聞いておけば良かった…な」
魔王の全身は蜘蛛の巣状にひび割れて、その後粉々になった。
塵となり宙に舞う。
ステンドグラスから差し込む光が、魔王だった破片を美しく照らす。
「平和を守る者の手ってのは、大抵汚れてるもんだ…」
薄く笑った満身創痍の暗殺者は、その場に前のめりに倒れた。
『暗殺者の記憶を一部取り戻しました』
機械的な声がカードの頭に響く。
『記憶レベル3/1000、スキルを一つ解放します』
スキル∶隠蔽
ステータスを任意に書き換えられる。
自身より高い看破スキルを使用されると、隠蔽は解かれる。
◆
カードが目を覚ました時、既に日は昇っていた。
ステータス一部公開。
セレン・レイ・ラプキンス
ヒト・女・19歳
156cm・45kg
緑髪・銀眼
ジョブ:聖女[ユニーク職]
HP1760・MP3920
固有スキル:光刃
範囲攻撃
消費MP1000
装備
・光輪のメイス
・司祭のローブ(自動MP回復小)
・蒼のペンダント
アイテム
・???
・???
アクティブスキル
・???
パッシブスキル
・光衣(防御アップ大)
・???
聖魔法
・浄化
・回復
・聖光
光魔法
・レイ
聖光魔法
・極光
称号:準聖女・王家
特徴:長髪・大きな目・細身




