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デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
武闘大会編

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16/17

落ちこぼれの最強ハンター

「これでも、おいは、ハンター機巧(きこう)のエースじゃ!」

ブロイルは、商業施設の一点目掛け、精霊の弓を思い切り引いた。


◆


テズヴァイス公国、副都レイライン。


一つの軽い足音と、複数の重い足音が地面を揺らす。


「逃げたぞ!追え!」

ブロイル・ヘカントは孤児である。

それ故、生きる為には何でもした。

「くそ!」

盗んででも、食べなければ死んでしまう。

抱えた黒パンを落とさないように必死に走る。


その貧民区。


ブロイルは薄汚れた空気を、肺一杯に吸い込みながら走り続けた。


しかし、栄養不足の身体に体力があるはずもなく。


「ぶはぁ!」

息が切れた時、命運も尽きた。

ブロイルは、両手両膝を地につけて、全身を使い呼吸をする。


どんなに頑張ったところで子供では、栄養不足でなくとも、本気の大人の足には敵う事はない。

直ぐに追いつかれてしまった。

「はぁ!はぁ!」


「さて、どうしてくれようか?」

追い詰めた住民達が、ブロイルを取り囲み、顔を歪(ゆが)ませて嗤(わら)う。


その時、聖塔教会の集団が、近くの街道を進んでいるのが、ブロイルの目の端に映った。


チャンスだと思った、聖塔教会は貧しい者に慈悲を与える存在。


「おっと、不味(まず)いか?」

ブロイルを囲んでいた住民達が、集団の方を向き、目立たないように動きを止める。


囲みを抜け、聖塔教会の集団に走り寄るブロイル。

「おま…!余計な事を!」

住民達はブロイルの初動を止められず、聖塔教会の集団に駆け寄る事を許してしまう。


「助け…」

助かったと思った時、肩に衝撃が走る。

「寄るな!小汚いガキが!」

司教の護衛の一人が、ブロイルの肩を押したのだ。

「え?」


教会騎士が、司教を守るように前に出る。

汚物を見るような目。

見覚えのある目、何千何万と向けられてきた。


この目が、自分を助けない事を知っている。


「貴方に神の救いがありますように」

司教はブロイルに深く礼をして、去って行ってしまった。

教会騎士の護衛がそれに付き従う。


「何だよ!神って…あんたが救ってくれればいいじゃないか!」

ブロイルの魂の叫びは、司教の耳に入ることは無かった。

「ちくしょう…!」

再びブロイルは両手両膝を地につけ呻(うめ)いた。


「可哀想に、神にすら見放されるとはな!」

住民達が嘲笑(ちょうしょう)に顔を歪(ゆが)めながら、ブロイルを取り囲む。

「馬鹿な真似をしないように、腕の一本でも折っておくか?」

「そうだな、足を折ると奴隷(どれい)としても売れねぇからな。腕なら問題ねぇだろ?」

物騒(ぶっそう)な大人の発言に、ブロイルはただ震えるしかなかった。

「あれ?コイツの耳?」

一人の住民が、ブロイルの身体的特徴に気が付いた。

「ホントだ、エルフか?」

「いんや、エルフにしちゃあ短ぇ耳だな、こいつぁ、ハーフエルフだな」

「んじゃ、あんま価値はねぇか?」

「いや、確か半端者を集めてる好事家(こうずか)がいたよな」

下卑(げび)た笑いをする住民達。

「多少の金にはなるか?」


「な〜にが、神だよ。人を救えんのは、人だけだ」

ブロイルと住民達の間に入る無精髭(ぶしょうひげ)の男。

「何だてめぇは!?」

ブロイルは、その背中を眺め(なが)る事しか出来ない。

「俺はブラズ、知ってるか?」

顎髭(あごひげ)を擦(さす)りながら、疑問を疑問で返す男。

「まさか、ハンター機巧(きこう)の?」

「元S級傭兵の…ブラズ・ゾルダンか?」

「そうだ、俺の顔に免じて許してやってくれないか?勿論(もちろん)、代金は払う」

懐(ふところ)から銀貨を取り出し、住民達に見せるブラズ。

「か、金を払ってもらえんなら…問題ねぇよ」

一気にトーンダウンする住民達。

「こちらも、ハンター機巧(きこう)と争うつもりはない」

ハンター機巧(きこう)とは、この国の安全を守る集団的。

それに、荒くれ者も多く在籍している。

争わないのが身の為だと、貧民区の住民達は知っている。

「それは良かった」

ブラズは人好きのする笑みを浮かべ、銀貨を弾いた。


「あぁ、それと…」

「なんだい?旦那」

「その好事家(こうずか)って奴の名前、教えてくんない?」

「え?そんなの聞いて…」

「知ってんのか、知らねぇのか、どっちだ」

ブラズの纏(まと)う空気が変わる。

それは、獲物を狙うハンターの眼だった。

「ひっ…!」

「わ、わかった、教える、教えるから!」

住民達が慌てふためき、代表一人がブラズに近付き、耳打ちをした。

「なる程、貴重な情報ありがとよ」

「だ、旦那!この事は…!」

「分かってるって、誰にも言わないさ」と、もう一枚銀貨を弾いた。


最初の雰囲気とは変わって、猛禽類(もうきんるい)のような眼で住民達を射貫(いぬ)いた。

「じゃな、今後ともハンター機巧(きこう)をよろしくっ!」

軽く手を振り、ブラズとブロイルはその場を立ち去った。


その後、件(くだん)の好事家(こうずか)は行方不明になったと噂される事になる。


◇


その時、ブロイルを助けたのが、ハンター機巧(きこう)のトップ、ブラズ・ゾルダンだった。


結局、ブロイルはブラズについてきた。


「ここがアジトだ」

「………」


「ちな、月18万だ」

「何が?」

「家賃だ…」

「へ?」


アジトと言うより、公民館のような佇(たたず)まいだ。

引き戸を開け中に入った時、長い廊下の奥から、ドタドタと走ってくる人影が見えた。

「おう、戻ったぞ!」

軽く手を上げるブラズ。

「ちょっと、総長!また、拾ってきたんですか!?」

チラリとブロイルを見て、長髪丸眼鏡(めがね)の成年が、向き直り声を裏返させブラズを糾弾(きゅうだん)する。

「またって何だよ?まだ…全部で20人くらいだろ?」

「58人です!」

「………細けぇなぁ、いいじゃねぇか」

「細かくないです!誰が金の勘定(かんじょう)してると…」

二人の言い合いは続く。


「………?」

ブロイルは置いてけぼりの状態だが、口も挟(はさ)めない、終わるまで待つしかなかった。


◇


ハンター機巧(きこう)とは、危険な魔獣や魔物を討伐する団体だ。

冒険者と違うのは、ほぼ無償(むしょう)で行なっているところである。

その収入源は、国からの補助と、募金によるものだった。

決して裕福な団体ではない。


それでも、事あるごとにブラズは、恵まれない子供を、この公民館風のアジトに連れてくる。


足りない資金は、自らどこからか取ってきた依頼をこなし、補填(ほてん)していた。


ブラズの実力は、現在の冒険者ランクS級相当だ。

ブラズは冒険者登録をしていないため、正確なランクではないが、大傭兵時代を生き抜いた猛者(もさ)だと言う。


◇


「お前、その方言、どこの生まれだ?」

突然放たれたブラズの疑問。

「おいの…生まれ…」

ブロイルは悲しい顔をして下を向く。


「あぁ、すまんすまん!忘れてくれ」

慌てて発言を撤回(てっかい)するブラズ。

何て事を聞いてしまったのかと、空を仰ぎ己を恥(は)じるブラズ。


ハーフエルフは、半端者として蔑(さげ)まれている。

それは、世界共通の認識だ。

人でもない、エルフでもない。

半端者で存在意義もない。

そう思われている。


しかし、ブラズはそう思わない。思った事もないのだ。


だからこそ、先程の発言が出てしまったのだ。


「悪かったな」

深く頭を下げるブラズ。

「そんな!頭を上げて下さい!あんたは恩人だ、気にしないで!…いつか、いつか話します。きっと」

「あぁ、無理しなくていいからな、話したくなったら話してくれ」

「はい」


◇


ブロイルには才能がある。ブラズはそう信じている。

「ほら、やっぱ、思った通りだ」


数日後のアジト地下の演習場。


「おいが…当てたんか?」

ブロイルの放った矢は、遠くに置かれた的の中心に、吸い込まれるように刺さった。


「そうだ!ど真ん中だ!すげえぞ!」

的を指さし小躍(こおど)りする、ブロイルより喜ぶブラズだった。


これより暫(しばら)く後、ブロイルは落ちこぼれと言われるようになる。


それはまた、別の話。


手が震えるようになり、まともに撃てなくなった。


仲間を守れなかった。

死なせてしまったから。


◇


「心配するな、お前は強い!」

「おいが…強い?」

自身の両手を見つめるブロイル。

「そうだ、俺がそれを証明してやる」

ブラズの目を真っ直ぐ見返す。

ブロイルは生まれて始めて、心に火が灯った。

「お前を、ハンター機巧(きこう)最強のハンターにしてやる!」


ブラズとの修行が始まる。


「まずやることは…」

「…はい!」

「弓を置こう!」

「は?」

「コレを持て!」

ブラズに手渡された物を、反射的に握ってしまうブロイル。

「え?短剣?じゃけど、おいのジョブはホークアイで…」

「転職しよう!とりま、シーフからだな」

笑顔でサムズアップをして、そう告げるブラズ。

「三次職から…一次職に?」

ホークアイは三次職、シーフは一次職。

ステータスも大幅ダウンする為、普通はそんな事をする人はいない。

開いた口が」塞《ふさ》がらないブロイル。

「考えがあるんだよ。俺を信じられるか?」

真っ直ぐにブロイルの眼を見るブラズ。

「わかりました!」

この人は良い人だ。自分を騙すはずはない。

そう信じて強く頷(うなづ)くブロイル。

「よし!」

笑顔で頷(うなづ)き返すブラズだった。


ホークアイから、シーフ[一次職]、暗殺者[二次職]、ダークフェンサー[三次職]、ガンスリンガー[三次職]。

と、言う順にマスターしていく方針だ。


「使える武器やスキルを増やすんだ」

弓、短剣、長剣、銃。

「そして、ジョブ専用のスキルを増やす」

盗む、気配遮断(けはいしゃだん)、闇装備可、必中、そして、元々持ってるスコープ。

スキルをレベルMAXまで上げれば、転職しても失われる事はなくなる。

戦いの幅が広がるのだ。


「これなら、大抵の事を一人で切り抜けられる」

「なる程」

シーフをマスターして、暗殺者に転職した時に、やっと話してくれた事だ。

ブラズは本当に、ブロイルの事を真剣に考えていたのだ。


修行の成果はしっかり出ている。

ブロイルが自信を持てればいいのだが、簡単にはそういかないだろうとも分かっているブラズ。

今後に期待だ。


未だに成長途中の、三次職のダークフェンサー。

通常ダークフェンサーの武器は片手剣だが、今は手に馴染(なじ)んだ弓にしている。


「まだまだ、これからだ!」


◆


ブロイルのハンターとしての任務は、商業施設の魔獣を殲滅(せんめつ)し、住民を守る事。


しかし、他のパーティが救出に向かっているとの報告を本部から受ける。

ならば、それの補助に専念しようと考えるブロイル。


「この距離なら外さない。おいの距離じゃ!」

ブロイルは、渾身の矢を放った。

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