整理しよう
テズヴァイス公国、首都サンゲイルのスタンピード侵攻を退けたカード達は、復興の手伝いをしていた。
町を覆う大壁は幾つもの穴が空き、公園の時計塔も倒壊してしまっている。
半分はカードがやらかしたものだ。
後ろめたさも手伝ってか、カード達は復興作業に精力的に参加している。
「さて、壁の修復は目処は付いたかな?」
辺りを見回す灰髪、灰眼の長身の青年カード。
冒険者、住民、黒騎士等、総出で復興作業を行っていた。
思っていたより活気がある、心配はいらないようだ。
「そうだな」
「うん」
長身の茶髪、金眼の虎人のサエラと、短身の青銀髪、紅眼のスカイフェンリルのカイルも同意する。
「じゃ、一息付いたら探そうか?」
「探す?」
二人同時に首を傾げる。
「商業施設で、僕たちを助けてくれた狙撃手を探そうと思ってさ」
商業施設で遭遇したオーガキングとの戦闘中に、オーガキングの動きを一瞬止めてくれた謎の狙撃。
カードは、その狙撃手を見つけたいのだ。
「そんな奴もいたな」
「なんで?」
カイルは興味なさ気に横を向き、サエラは疑問にもう一度首を傾げる。
「仲間になってもらおうと思って」
カードは頬を掻きながらそう答える。
「パーティに入れると?まぁ、確かに遠距離攻撃が出来る人材は有難いがな」
カードのパーティは全員、前衛のゴリ押しパーティだ。
戦略の幅が広がるという面で、遠距離攻撃役は欲しい人材である。
アビスとこちら側を繋ぐ、扉の破壊をアビス対策本部のレンに頼まれたカード。
アビス対策本部の思惑は分からないが、未知の領域での戦闘を考えると戦力増強は急務と言えた。
◇
狙撃手を探す前に、暫く遠征するため、首都サンゲイルを離れる旨を、冒険者ギルドのギルドマスターに告げた。
冒険者ギルドを出た所で、ある人物が待ち構えていた。
「何か用ですか?」
カードはその人物の正面に立ち、用件を聞く。
アビス対策本部の、レンの護衛についていた教会騎士だった。
「貴方を裁きます」
真っ直ぐな目で、唐突に衝撃発言をする教会騎士。
「それは、神の意志ですか?」
カードは臆することなく聞く。
「私の意志です」
淡々と答える教会騎士。
「しょうがないなぁ、じゃ、広い所でやろうか」
あっさり受け入れるカード。
「え?いいのですか?」
思わぬ答えに狼狽える協会騎士。
「え?やらないの?」
「…やります」
「主に喧嘩を売るとは、死にたいのか?」
「阿保なんだ」
サエラとカイルは今日も平常運転だ。
◇
町の北東にある大きな公園の一角。
周りに何もない広場を選んだ。
現在、午前九時を回ったところ、都合が良い事に人通りはほぼ無い。
「裁くって、決闘ですよね?」
「そうだ」
「まぁ、僕も自分の力量を知りたかったし、ちょうど良かったかもね」
カードは背中の鞘から、黒の大剣を抜いた。
「舐められたものだな」
そう言うと騎士騎士は、腰の長剣を抜いた。
「周りに被害があると不味いから、スキルなしでいいですか?」
「構わん」
カードの提案をあっさり呑む教会騎士。
余程、腕に自身があるのだろう。
「じゃ、はじめるのじゃ~!」
カイルの温い開始の合図と同時に走りよる二人。
一瞬で両者の距離がゼロになる。
剣同士がぶつかり合い、鍔迫り合いで火花が飛ぶ。
「くっ!」
力負けした教会騎士は、一度後ろに跳び距離をとる。
教会騎士は突きの体勢でカードに突進する。
すると、カードは防御を捨てて、腕を大きく開いて待ち受ける。
「何の真似だ!」
「いいからそのまま」
カードは全く焦る素振りもない。
「お前がそのつもりなら、貫くのみ!」
思い切りカードの胸に剣が突き刺さる。
いや、刺さらない。
「何だと!?」
カードの胸には傷ひとつ付かなかった。
「ふむ、今の攻撃で減ったHPは0.01%ほどか」
自身のステータスを、看破スキルで確認するカード。
「そんな…私の攻撃が効かないだと?」
目を見開く協会騎士。
「効いてますよ?しっかり9600程ダメージ喰らってます」
「は?」
「僕、人よりHP多いんで」
「多いとか言うレベルではないだろう!バグレベルじゃないか!?」
声を荒げて叫ぶ教会騎士。
「まぁ、そうですよね」と頬を掻くカード。
「まさか…ユニーク職なのか?」
この世界にはステータスが存在する。
レベルや細かい数値は表示されず、HPとMPだけが表示される。
数字以外では、ジョブ、アクティブスキル、パッシブスキル、装備等々が表示される。
その中のジョブというのは、スキルなどを司る根本のようなもの。
一次職、二次職、三次職、その次ぎがユニーク職となる。
ユニーク職は、一種類ずつしか存在しないジョブである。
つまりは、同じジョブの人はいないと言う事。
「いえ、何か、LGってなってますね」
「LG?何だそれは…いや、どこかで聞いたことがあるような…」
決闘を忘れ顎に手をやり、遠い記憶を探ろうとする教会騎士。
「それより、続けますか?」
「…続けられる訳がないだろう。九千万以上のHPを削れる気がしない。無理だ」
匙を投げる騎士騎士は、長剣を納める。
「それは良かった」
カードも黒の大剣を納める。
「良いことなどあるか!」
教会騎士は怒りに震えている。
「どうしたいのさ?君は」
困り顔のカードと、後ろで笑いを堪えるサエラとカイル。
「私はレン様に…レン様と…ええい!今は引いてやる!いつか…その…あの…覚えてろよ!!」
上手く言葉を伝えられない教会騎士は、全力で走り去った。
「何だったんだ?」
三人は同時に首を傾げた。
◇
「聖女様」
「名前で呼んでって、いつも言ってるじゃない」
「そう言う訳にまいりません」
聖塔教会のローブを羽織った、初老の男性が聖女セレンの後ろから声をかけ、恭しく頭を下げる。
「それで、中央議会の幹部様が、私に何の用ですか?」
緑髪を揺らしながら振り返るセレン。
二人が今いる場所は、城砦オロバスの四つの塔の南に位置する、オーガスの塔。
その屋上。
「聖女様が魔王城で発見された、《巨神の欠片》の解析が完了しました」
「分かりました、案内してちょうだい」即答のセレン。
「畏まりました」
胸に手を当て頭を下げる男性。
「魔王が生きていれば、詳しい事を聞けたのにね」
少し悲しげに言うセレン。
「先代の勇者様が討伐したとされてますが、その遺体は発見されていません。何処かで生きながらえている可能性はあります」
「ま、今は憶測より、目の前の結果ね」
「そう言う事になりますね」
議員らしい言い方を崩さない男に、苦笑するセレンだった。
◇
「さて、“石”が反応してるのは、ここか」
ある紋章の入った、ローブのフードを目深に被った男が、要塞都市の長大な外壁を見上げた。
「中に入るには…」
遥か彼方に門らしきものを見つけ、深く溜め息を吐く男。
「どれだけデカイんだよ…あそこまで何キロあるんだ?」
憂鬱になりながらも、とぼとぼと歩きだす男だった。
◇
スタンピードの事件でも、城砦オロバスは無傷で済んだ。
それは、住民より堀の中を優先したためである。
跳ね橋を上げ、断絶したのだ。
それにより、住民からは多少の反発はあったが、カード達の活躍により死者が出なかった事もあり、終息に向かっている。
◇
「カードと言う冒険者が、悪魔に命令して巨大化されたと?」
「その通りです隊長」
城砦オロバスの西の塔、サンドラの塔の執務室。
中に居るのは二人。
黒騎士隊長と、副長のグレイ。
「その目的は?」
「この町を守る為です」
「と、言うと?」
「カード殿はこの町に留まり続ける訳ではないので」
人類は悪魔との戦争中である。
そして、悪魔は軍団を持つ。
一柱につき数十単位で指揮を取るらしい。
ハルファスを巨人化させた本当の意味。
それは。
ハルファスの序列は38位、それ以下の悪魔が攻め込んでくる確率は減るだろう。
そして、それより上の悪魔は、簡単には動かないだろうと思うとのこと。
悪魔にだって立場はあるだろう。立場が上に行けばいくほど、枷が増え動き辛くなるはず。
それは人も悪魔も変わらない。
その為に、ハルファスを巨人化させ、町全体に周知させたのだ。
もし、悪魔が攻めてきたら、カードを呼べばいい。
どこにいても、感知出来るように、カードはハルファスをテイムしておいた。
テイム中の生物とは、どんなに離れていても意思の疎通が出来るのだ。
「と、言う事です」
「なる程、そこまで考えての事なのだな」
「その通りです」
「黒騎士に欲しいな」
「それは叶いますまい。彼を縛る事は不可能です」
「どうして?」
「彼は力より、記憶を探していらっしゃる。情報を探す為、各地を飛び回るでしょう」
「う~ん、まぁ、一旦保留だな」
「では、次の報告を」
「あぁ…」
二人だけの報告会は続く。
◇
商業施設で、カード達を助けた狙撃手の捜索を開始した。
先ずは、十二階建ての商業施設の最上階から、狙撃が可能な場所を探ってみる。
「どう?分かりそう?」
360度見渡せるガラス張りのフロアで、カイルが矢が飛んできた方向を分析する。
「うむ、恐らく…南東のあそこだな」
カイルが町の一ヵ所を指差す。
「え?」
彼女が指し示したのは、堅牢な城砦だった。
「城砦オロバス…!」
◇
城砦オロバスは、平時には堀の跳ね橋が下げられており、誰でも通行可能である。
「ここの北の塔、トゥーレの等が狙撃場所か」
「そう」
「ここって…」
トゥーレの塔の入口の看板に書かれていたのは。
「ハンター協会?」
カードの記憶にハンター協会の名はない。
扉は開かれている。
ここも入れそうなので、躊躇なく侵入する。
「サエラ、分かりそう?」
「たぶん」
「便利な能力じゃな」
犬のように鼻をひくつかせながら、ずんずん進んでいくサエラ。
その後ろをカードとカイルがついて歩く。
塔の三階にまで上がってきた。
道中、誰ともすれ違わなかった。
「ここ」
「ハンター協会、理事室?」
試しにノックをしてみる。
「どうぞ」
許しが出たので、ドアを開ける。
「失礼します」
「何の用か…な?」
「見つけた!」
サエラがカードの後ろから指を差した。
「何なんだ君たちは?」
それには答えずカードが質問を返す。
「君があの時、狙撃してくれた人?」
「お?何でわかった!?」
「匂い、臭い…」
サエラが鼻を摘まむ。
「臭い!?」
「ほう、中々やるじゃないか。うちに欲しい人材だ」
「逆だ」
「逆?」
「其奴を貰いたい」
仁王立ちで腕を組み、そう吐き捨てるカイル。
「は?」
「言い方が良くないよ…」
ポツリと言うカード。
「コイツはブロイルって言う名だ。そして、うちのエースを易々渡す気はないよ」
ハンター協会理事の目が鋭く光る。
「ごもっともで…」
当たり前だろう、いきなりやってきて、その人うちに下さいなんて、通るはずはない。
「でも、君達に付いていれば良い修行にはなりそうかな?」
「お、おやじ!?」
思わぬ発言に動揺するブロイル。
「おやじは止めろって」
無精髭を擦りながら、溜め息を履く理事長。
「どうすれば良いですか?」
「話が早くて助かるよ。今、俺と戦って欲しい」
「模擬戦ですか?」
「いやぁ、殺しあいだよ」
ハンター協会理事の、ブラズ・ゾルダンの目が光った。
「まぁ、いいですよ」
「いいんかい!?」
「この人に僕は殺せないんで」
「ほう、言うじゃないか。これでも俺は元傭兵、個人ランクS級なんだがな」
「それは関係ないかな?」
「わかった、場所を移そう」
ブラズの眼が鋭く光った。
◇
城砦オロバスの中庭に移動した。
中庭と言っても異常に広い空間だ。
体育館五個分は優にありそうだ。
「ここには結界が張られていて、中庭の外には出ないようになっている。思い切りやってくれ」
「大丈夫ですか?以前、ギルドの練兵場で、僕の一振りで五重の結界が破壊されたんですけど」
「マジか…」
ドン引きするブロイル。
「問題ない、ここの結界は隕石が落ちてきても、びくともしないように出来ている」
「それは良かった、じゃ」
カードは背中から黒の大剣を抜く。
ブラズは先端に小剣が装備されたクロスボウを構える。
「始めるのじゃ!」
カイルの合図と同時にカードが仕掛ける。
「断罪!」
巨大な斬撃がブラズを襲う。
「なかなかだ」
半歩動いて避けるブラズ。
「え?」
カードの視界が反転する。
ブラズの前に、無防備に仰向けに転がってしまった。
カードは、何をされたかも分からなかった。
「チェックメイト」
ブラズはカードの額に、思い切り小剣を振り下ろした。
ブロイルが息をのむ。
「ほんまもんの、殺しあいかよ…」
「は?」
しかし。
刺した小剣の方が砕け散った。
「強度が足りないようですね。新しい武器に変えてもいいですよ?」
無傷のまま立ち上がるカード。
「頑丈過ぎんだろ!?」
「頑丈と言うか、HPが多いだけですけど」
「因みにいかほど?」
「九千万ちょっとですけど?」
さらっと言うカード。
「そんな出鱈目な数字、聞いたことねぇよ!」
声を粗げるブラズ。
「そうですか?続けますか?」
黒の大剣を構え直すカード。
「今のでどれくらい減ったんだよ?」
「六千ほどですね」
「…無理だろ、削り切る自信がねぇ…」
即答で敗北宣言をするブラズだった。
「つまり?」
「お前の勝ちでいい。ったく、何て奴だよ…」
ガシガシと頭を掻くブラズ。
「連れてけ…いや、ブロイルを連れていって下さい」
そう言ってブラズは、頭を深く下げるのだった。
「おやじ…」
◇
「そいで、これからの予定はどうなっとんかの?」
「取り敢えず、アビス対策本部から依頼された扉に向かおうと思う」
「いきなり大仕事じゃの…」
「心配いらんじゃろ」
「ん、カードの強さは見たでしょ?」
「おう」
「カイルは伝説のスカイフェンリル」
サエラはカイルの紹介をする。
「は?」
「そして、そのサエラは金眼の虎人じゃ」
今度はカイルがサエラの紹介をする。
「はぁ?凡人はおいだけかの?」
目を丸くすブロイル。
「どこが凡人じゃ、赤眼のハーフエルフが良く言うわ」
「何のことじゃ?」
「知らんのか?まぁ、その内分かるじゃろ」
「教えてくれ!」
「…断る」
「なんでじゃ!教えてくれぇ!」
「嫌じゃ」
「頼む…」
「本当に知らんのなら、尚更、我の口からは言えん。意地悪で言っている訳じゃない。心配しなくとも時がくれば分かる」
「…何かよう分からんが、分かった」
憮然の表情のブロイル。
「年長のカイルがこう言ってるんだ。信じて待とう」
「年長?まぁ、分かったわ、ところでカイルは何歳なんじゃ?」
「女性に年齢を聞くとは、死にたいのか?」
カイルは腕を組み殺気を放つ。
「すまん、すまん!田舎の出身じゃで、そう言うのには疎いんじゃ!許してくれぇ」
「まぁ、良い。許してやる、我は寛大だからな。覚えておけ子童、我は今年、82歳になる」
「は…82歳?」
「フェンリルは長命だからの、我はまだまだピチピチの若者じゃ」
「ほうなんか…ほうか…」
ブラズより年上だが、そう言うしかないブロイルだった。
◇
カードはジョブ奴隷の意味が分からない。
誰かに仕えている訳でもない。
その内分かるのだろうか。
今のところ支障はない。
「そう言えば、固有スキルを使った事がないな…」
カードは自身の固有スキル、《解放》を使った事がない。
効果も分からない。
「我のは攻撃スキルだから分かりやすいが、主のは少し特殊らしいな」
「意味分からないから、使うの怖いけど…」
「無理に使う必要はないじゃろ?」
「そうだね」
「後は、スキルと一緒に手に入れたスキンだね」
「まんま、見た目を変えるものだろうよ」
カイルは鼻を鳴らす。
「まぁ、そうじゃろうな」
ブロイルも同意する。
サエラはその辺でふらふらしている。
「これも後々試していくかな」
「今は試さんのか?」
「うん、使わなくても問題ないからね」
「主の好きにすればいい」
「そうだね」
置いてきたハルファスは、首都の守護を任せている。
何かあった時は、連絡が来る手筈だ。
追憶を経験する度に、何故スキルを得るのか。
分からない事は山積みだ。
それでも、何とかやっていけてる。
カードは一人じゃない。
それが心強い。
大丈夫。
大丈夫。
「さて、出発しようか?」
カードは自分の記憶を求めて、新たな一歩を踏み出した。




