お仕置きをしよう
商業施設を解放し、公園の魔獣も排除に成功した。
カード達がフラウの救援に向かおうとした時、ハルファスからの報告を受け、そこへ向かっている。
スタンピードを起こした者に、心当たりがあると言うハルファス。
「きっと、アイツだ」
しゃがれた声でそう言う鳩の悪魔。
「と、言うと?」
三人と一羽は走りながら話をしている。
「アンドレアルフス、序列65位の悪魔ですね」
「お前より下だな」
ハルファスは序列38位。
「そうです。ワタシでも倒せますし、父なら素手でも勝てる相手ですがね…」
思案する鳩。
「ん?どうした」
「まぁ、大丈夫だとは思いますが、アイツは一人じゃありませんから。気をつけるに越したことはないので」
一人ではない。カードはその意味が良く分からないが、ひとまず心に留めておく事にする。
「わかった、助かるよ。ハルファス」
城砦オロバス北側で、ある鳥を発見する。
「孔雀?」
「そうです。その孔雀がアンドレアルフスです」
北東の塔に逃げ込むアンドレアルフスを目視。
「あれって?」
次々と魔獣が、塔に飲み込まれていくように入って行く。
公園の端に立っている小さい塔。
今は、時計塔として機能している。
そこへ逃げ込まれた。
「この、役立たずが!」
塔の上から、ナーガを蹴飛ばして、次々と窓から下へ落とすアンドレアルフス。
「…この光景って」
※追憶発動条件、魔獣が傷つけられている所を見る。
◆
山賊に狩られそうになるペガサスを、間一髪助ける事に成功するダークナイト。
嘶くペガサスと山賊の間に、滑り込んだダークナイト。
「なんだ、てめぇは!?」
漆黒の艶消しのフルプレートメイルを纏った騎士に食って掛かる、山賊の頭領と見られる髭面の男。
「言う必要性を感じないのだが」
「ふん!お高くとまりやがって」
鼻を鳴らした頭領は、僅かに手を挙げた。
「何!?」
ダークナイトの鎧の隙間に、短刀が突き刺さっていた。
「念には念を…って言うだろ?」
薄汚い笑いを浮かべる頭領。
「くっ…!」
ダークナイトは膝をついた。
「山賊が頭使わねぇなんてのは、一昔前の話だぜ。用心深く、時には金を惜しまないのさ」
「何を…!?」
「忍を雇ってんのさ。さぁ、そのペガサスを寄越しな!」
忍とは、忍者の事だ。
ジョブなのか、それとも別の何かなのかは分からないが。
「この程度の傷で、屈するとでも思ったか?」
ダークナイトは黒く染まった長剣を、真一文字に振り抜いた。
「んなもん、当たるわけ…!?」
後ろに跳んで難なく躱す頭領だが、ダークナイトの剣の違和感を感じ取る。
剣に力を溜めているのか、僅かに振動していた。
「邪波!」
漆黒の斬撃が一瞬遅れて、山賊達に向かって飛んでいく。
「嘘だろ…!!」
三十人以上いた山賊達の殆どが、その斬撃に呑み込まれて吹き飛んだ。
「あ…危ねえ!引くぞ!残った奴らは、俺の逃げる時間を稼げ!!」
壁にした一人の山賊を投げ飛ばし、頭領は走り去った。
頭領が逃げ切ったのを確認して、残りの山賊も去っていった。
ダークナイトを攻撃した忍も、頭領について行ったと思われる。
完全に気配はなくなった。
「くっ…かなり深く刺さってるな。毒が塗ってなかったのは不幸中の幸いだったな…」
そう言い、短い刀を脇腹から抜くと、ダークナイトは前のめりに倒れた。
自身が思っていたよりも、血を流しすぎたようだった。
◇
「ん…ここは?」
ダークナイトは、大きな木のうろに寝ていた。
鎧は着たまま、気を失っていたようだ。
身体が固まって痛みを感じる。
ダークナイトに寄り添って、寝息を立てているペガサス。
「傷が…ない」
ペガサスには、癒しの能力が備わっていると言う伝説があったが、まさか本当の事だったとは思ってもいなかった。
首を上げ、大きな欠伸をするペガサス。
「ありがとう、助かったよ」
素直に礼をいうダークナイトは、ペガサスの鼻先を優しく撫でる。
言葉が分かるのか、それに答え嘶くペガサス。
日が傾き出した頃、再び山賊が現れた。
「ただいま!!」と元気に言う山賊の頭領。
今度は五十人連れている。
「懲りないやつらだな」
ダークナイトは剣を構える。
「負ける喧嘩はしねぇ主義なんだわ」
「何が言いたい?」
ダークナイトは、兜の中の目を細める。
「これ、分かるか?」
頭領は黒い液体の入った瓶を、ダークナイトに見せつける。
「何だ…それは?」
その瓶に目が釘付けになるダークナイト、どこかで見たことがある。
「魔薬だよ魔薬!」
そう言うと頭領は、一気にそれを飲み干した。
「バカな!?」
魔薬は一時的にステータスを底上げするが、効果が切れた時の反応は地獄だと聞く。
それを、何の躊躇もなしに飲み干すとは、気が触れているとしか思えない。
身体から骨が砕ける音がする。
「ぐぇ!が!ごぉ!んぐぅ!!」
苦鳴を上げる頭領の身体が、見る見る膨れ上がっていく。
「ふん!」
変身が完了する前に、ダークナイトが漆黒の片手剣で頭領の胴を凪いだ。
「へっ、効かねぇなぁ!」
頭領の腹には赤い線が付いたのみ、傷すらつけられなかった。
頭領は片手剣を掴み、ダークナイトごと投げ飛ばした。
「ぐぁ!!」
背中から大木に叩きつけられ、苦鳴を上げるダークナイト。
他の山賊達も次々と魔薬を呷る。
全員が変異が完了した。
「一人一人やってたら、埒が明かないな」
立ち上がり、覚悟を決めるダークナイト。
「一気に決めるぞ!邪波!!」
「それはさっき見た、その程度じゃ…」
頭領は目を見開く、先程見たものとは、明らかに威力が違う。
「くそぅ!」
極大の斬撃波が山賊を襲う。
地が砕け草木が舞い、山賊が吹き飛ぶ。
「ぐぅ…」
しかし、仕掛けた側のダークナイトが膝をつく。
「なんだぁ?」
邪波は消費したHPにより、威力が増す。
その殆どを使い果たしてしまった。
一発勝負だったが、山賊全てを倒すには至らなかった。
「残念だったな!」
残った山賊達は、武器をダークナイトへ向けた。
「ここまでか…」
ペガサスを守り、ダークナイトが前のめりに倒れた。
ペガサスの白かった毛が、見る見る黒く染まっていく。目が赤く染まったペガサスは、咆哮し暴走を開始した。
「な、なんだ!?」
次々と山賊を倒して行くペガサス。
噛まれ、蹴られ、踏み潰される。
焦り逃げ惑う山賊達。
「もういい!殺せ!死骸でもいい!」
頭領の命令で、ペガサスに一斉に投げつけられた短剣は、体に当たる直前で急激に腐食し、黒い粉と成り果てる。
黒い粉のカーテンの後ろで、赤い双眸が揺らめく。
「なに!?」
魔獣の怒りが頂点に達すると、闇の能力を得て黒く変色し、暴走する事がある。
それを黒化と言う。
黒化した個体は強化され、何があろうと怒りが収まるまで止まる事はない。
「嘘だろ…なんでペガサスがこんなに強いんだよ…」
「ふざけるな!よ…!」
頭領はペガサスに蹴られ、彼方へ飛んで行った。
黒化ペガサスは山賊を殲滅するが、暴走は止まらない。
山を降り、近場の町を襲うペガサス。
次々と建物が破壊される。
悲鳴を上げ逃げ惑う人々。
たまたま通り掛かった高司祭に傷を治療してもらい、ペガサスの元へ急ぎ駆け付けるダークナイト。
「もういい!終わった!終わったんだ!」
ペガサスの首筋に抱きつくダークナイト。
涙を流し、黒が剥がれ落ちるペガサス。
町には住めない、本馬の意思ではないが、人や建物を傷つけてしまった事実は残る。
山へ戻るペガサス。
「悪いが一緒には行けない。その代わり必ず戻って来ると約束しよう」
ペガサスは淋しげに嘶く。
人は醜い生き物だ。
その醜い生き物の為に怒る事はない。
ましてや、命を賭ける必要はない。
『ダークナイトの記憶を一部取り戻しました』
『記憶レベル12/1000、スキルを一つ解放します』
スキル∶邪波
消費MP1000、クールタイム120秒。
超広範囲攻撃、消費するHPにより、威力と範囲が変わる。
※ダークナイトのスキンを獲得しました
◆
「戦闘終了、町に戻ろう…」
ギルマスはそう言い、ザンガの方を向こうとすると、不意に背中に衝撃を受け、前に転がされた。
「ぐっ!な、何を?」
ザンガに背中からタックルをされたようだ。
「先に町に戻れ」
「ふざけている場合…!?」
ギルマスが振り返ると、傷だらけのザンガと、その奥に見慣れない魔獣がいた。
ギルマスが立っていた場所には、クレーターが出来ていた。
見ていない一瞬、謎の魔獣にザンガは攻撃され傷ついていたのだ。
ザンガに突き飛ばされていなければ、ギルマスは潰されていた。
「え?」
「迂闊だった、ちゃんと死んだか確かめねぇとな」
先程のゴリラ型の魔獣が変異したらしい。
より、人間に近い形になっている。
「あの状態で生きていた…だと?」
ザンガの一撃を食らい、頭部が完全に破壊されていた。
その状態では、通常生物は生きられない。
何処にトリガーがあったのかは分からないが、進化してしまっている。
一説によると、人型に近ければ近い程、魔獣の能力は高くなるとされている。
「いいから行け!」
S級冒険者のザンガが、振り向く隙すら見せられない相手。
「お前だって傷だらけじゃないか!二人の方が…」
食い下がるギルマス。
「足手まといは、いらねぇってんだよ!」
振り向かず叫ぶザンガ、ギガントブレードを握る手に力が入る。
ザンガと付き合いの長いギルマスが、今まで聞いたことのない、必死な声だった。
「…分かった、ポーション類は、この鞄の中に入ってる。後でな」
一秒の逡巡の後、鞄を置きギルマスは走り出した。
「さて、付き合ってもらうぜ!」
不敵に嗤うザンガは、一歩足を踏み出した。
◇
目を覚ますカード。
戦闘は始まっていないらしく、操術は発動していなかった。
アンドレアルフスが塔の上から顔を出す。
「やっぱり孔雀だ。悪魔って、鳥の集団なのか?」
「………」
答えないハルファス。
塔の上からギャアギャア喚いている。
序列65位のやかましい孔雀。
「行け!すぐ行け!とっとと行け!!」
その号令に、塔から溢れるように一斉にカード達に迫るナーガの軍団。
「とう!」
ハルファスは羽で撹乱し、蹴りで攻撃する。
意外と強いハルファス。
シュールな光景ではある、鳩が大きな蛇人間を次々と倒しているのだから。
「くるっぽー!」
残りのナーガもサエラとカイルにより、ほぼ倒されていた。
塔の上から見下ろすアンドレアルフス。
鳩対孔雀。
「いつからお前は人間側になったのだ?」
「お前は分かっていない。父を怒らすほうが、バエル様を怒らせるよりも怖いという事を」
身体を震わすハルファス。
「何を馬鹿な?」
「たしか、消費するHPによって、威力が変わるんだよね」
どの程度使ったらいいか分からないカードは、取り敢えず5000投入した。
「よし!邪波」
超広範囲スキル邪波で、残りのナーガを一瞬で殲滅するカード。
「な…んだと!?」
驚愕のアンドレアルフス。
「あれ?やっちゃった!」
冷や汗が止まらないカード。
巻き起こる粉塵。
崩れ落ちる塔。
投げ出されるアンドレアルフス。
「ほらな、怖いだろ?」
ドヤ顔のハルファス。
今度はハルファスが、アンドレアルフスを見下ろした。
「あんた馬鹿なのかい!?」
近くにいた住民に言われてしまった。
塔と北側の壁も破壊してしまっては、そう言われてもしょうがない所がある。
やり過ぎた。
気持ちを切り替えるカード。
「ハルファス、あの高い建物に行って、グレイさんに助けを求めてくれ。既に動いているとは思うけどさ」
「承知した!」
ハルファスは飛んで行った。
アンドレアルフスとの一騎打ち。
「さて、親分はどう戦う?」
「ふん、小細工はいらない。真っ向勝負だ!」
◇
「ぷすー…」
「お前…弱過ぎないか?」
「う…うるさい…うー」
黒い大剣を使う事すら無く、拳骨一発で終わった。
「さて…どうするか?」
辺りを見回して、自身が壊してしまった景色に、暫し硬直する。
「やっちまったな…」
「とう!」
カードが一瞬目を離した隙に、アンドレアルフスが空へと逃れる。
「まだ、飛べたのか?」
「ふん、付き合ってられ…ぶはぁ!」
アンドレアルフスは地に打ち付けられた。
戻って来たハルファスが、アンドレアルフスを両足で真下に叩き付けたのだ。
「父よ、グレイ殿に話はつけてきた。コイツはワタシに任せてくれないか?」
「…まぁ、いいか。但し危なくなったら介入するよ?」
「感謝する」
アンドレアルフスが、ふらふらと立ち上がる。
「一つ注文を付ける」
何かを思い付くカード。
「何なりと」
「町全体にお前の力を見せつけろ」
カードの目が怪しく光った。
「承った」
ハルファスが羽を広げると、見る見る巨大化していく。
「この野郎!やってやる」
アンドレアルフスも羽を広げ、巨大化していく。
ハルファスは褐色の巨人となり、アンドレアルフスは白色の巨人となった。
これで、町のどこからでも二人を視認できる。
「本気でやるのは、いつぶりだろうか」
アンドレアルフスは拳を鳴らす。
「ワタシがお前如きに本気になった覚えはない、序列の違いは実力の違いだ!」
ハルファスは、腰に手を当て仁王立ちし、不敵に嗤う。
「くっ!なら、お前を倒し、上に行くのみ!」
アンドレアルフスがファイティングポーズをとる。
「お仕置きの時間だ!!」
巨人同士の戦闘。
足元に気をつけなければならない。
色々壊れる。
「ハルファス、長引かせると、町が壊れる。早く倒して」
「承った!」
「軽く言ってくれる」
「分かってるだろう、巨人化するとスキルや魔法は使えなくなる。即ち純粋な戦闘技術の勝負と言う事」
「分かってるわ!」
走り出すアンドレアルフス。
揺れる地面。
構えるハルファス。
ハルファスはアンドレアルフスのタックルを躱して後ろに回ると、背中に一撃肘をいれる。
その流れでアンドレアルフスの膝裏を蹴る。
「ぐあ!」
膝から崩れ、仰け反るアンドレアルフスの肩甲骨の辺りに、下から膝を叩き込むと同時に上から額に肘を落とす。
「べふぇうあ!」
勝負あり。常人なら首の骨が折れ即死だが、悪魔はこの程度では死なない。
ハルファスがアンドレアルフスを圧倒した。
アンドレアルフスが倒れると、地震のような衝撃が起きる。
この戦いを町中が目撃した。
巨人状態が解除され、お互い鳥の姿に戻る。
アンドレアルフスの首がぷらぷらしている。
これでも悪魔は死なない。
「何故、軍団を召喚しなかった?」
アンドレアルフスに問うハルファス。
「ふん、しようと思っても、出来なかったんだよ」
「なる程、そうなると、魔神王は健在なのだな」
「どうやって、あの化物を倒すんだよ?バエル様でも倒せるか分からないのに…」
「では、何故出て来た?どうやって出て来た?」
「答える義務はない」
「答えろ!」
アンドレアルフスはそれ以上話すつもりはないらしく、口を噤んだ。
「ボクを捕らえたとて意味はない。我々はアビスに棲まう者だからな」
カード達に向け、そう言い放つアンドレアルフス。
「…」
ハルファスは口を挟まない。
「何を言っている?」
カードは首を傾げる。
「ちょっと何言ってるか分からない」
痛烈なサエラ。
アンドレアルフスを拘束。
ヴォーク監獄に連行され、そこで封印される事になる。
尋問はそれからになるらしい。
◇
スタンピードの起こし方を、皆に解説するハルファス。
「悪魔は魔獣や魔物に襲われる事はない」
「うん」
「尖山の迷宮は上層しか調査されてないと聞く」
「上層にいなければ、スタンピードは起きないからな」
「通常はそうです。しかし、下層には魔獣や魔物が存在する」
「そうだな」
「スルーして最下層に行ける悪魔なら?」
ハルファスがヒントを与える。
「ふむ、なる程」
「分からない…」
サエラは考える事を放棄した。
「最下層から、魔獣を追う。そう言う事だな?」
カイルはハルファスに確認する。
「その通りです」
ドヤ顔のハルファス。
「めでたく、スタンピードが完成する訳だ」
◇
冒険者ギルド、執務室。
アビス対策本部を紹介されるカード達。
「こちらは本部長代理のレン・マルクナス様だ」
「様はよして下さい」と、にこやかに笑う女性。
アビスとは、異界や魔界と呼ばれている、もう一つの世界である。
悪魔の巣とも言われており、通常、悪魔や魔人はそこから出ない。
魔界のトップは魔神王と悪魔王であり、そして、魔人王はこちら側に出る事を良しとしていない。
なので、結託して、魔神王を排除したと思われたが、ハルファスとアンドレアルフスの会話でそれは否定された。
何故こちら側に出てきたのか、出てこれたのか、その理由は今は分からない。
尖山の迷宮の攻略も完了。
ギルマスが去った後、数分で黒い衣が到着し、連携して進化個体を撃破。
ザンガは深手を負ったが、命に別状はないとの事だった。
町の南に向かったフラウと|《大地神》グランマザーは、無事侵入してきた魔獣を殲滅した。
町の壁と時計塔は、黒騎士のグレイ主導で復興に向かっている。
町の危機に参戦しなかった黒騎士は、非難を最小限に抑えようと画策する。
しかし、南東部の貴族街に近い壁からの補修が最優先で進められているあたり、非難は避けられないだろう。
勿論、グレイは単独で救援に向かおうとしていたが、黒騎士隊長と更に上に抑えられて動きを封じられていた。
後日、グレイは個人的にギルドへ訪れて謝罪した。
「このギルドの英雄を紹介しよう」
力強く言うギルマス。
「英雄は言い過ぎでは?」
カードは苦笑し頭を掻く。
「何を言う?君の今までやった事を思い出して見ればいい」
この数日で、ネームドモンスターを二体討伐している。しかも、単独で。
サンゲイルに侵入した魔獣の排除。
悪魔、一柱を捕縛。
建物一軒破壊、防護壁破壊、時計塔破壊。
「な?凄いだろ?」
確かにやっていた、やらかしていた、目立っていた。
レンは目を見開く。
「まさか、それ程とは…」
言葉を失う。
「さて、アビス対策本部の方に来て頂いた理由なのだが…」
本部長不在、レンが代わりにギルドへと訪れた。
アビス対策本部とは、その名の通り、アビスに対抗する為の組織である。
本部長には中央議会の政治家が置かれ、運営はマキナ特区が行なっている。
「近頃、扉の活動が活発化しています」
「扉…?」
「こちらとあちらを繋ぐものです」
「繋ぐ…?」
「渡り廊下のようなものですね」
「なる程」
「そう言えば、報告したい事が…」
カードが言いづ辛そうに手を挙げる。
「何だ改まって…悪い報告か?」
眉をひそめるギルマス。
「いえ、初心者ダンジョンの裏ボスを倒してしまいました…と言う報告です」
「は?」
「今更ですよね…」
乾いた笑いをするカード。
「まぁ、今更には違いないが、問題あるまい。だが、裏ボスを倒すと言う事がどういう事か、知っておいたほうが良い」
「意味?」
「そうだ。裏ボスを倒すと、特殊能力が解放されると言う。その能力は絶大な威力で、引き抜きやら、暗殺やら面倒事が増える」
あからさまに嫌な顔をするカードだが、特殊能力が解放された事実はない。
「他言無用と言う事だな」
「肝に銘じます」
ひとまず乗っておくカード。
「そうした方が良い」
したり顔のギルマスは、しきりに頷いている。
レンの護衛の教会騎士が一人、ドアの横で待機している。
何故か分からないが、あからさまな敵意を感じるカード。
「私と共に働きませんか?」
レンが手を差し伸べる。
「お断りします」
即答のカード。
後ろに控えている、教会騎士の溢れ出た殺気を受け流すカード。
「サエラ、カイル、お行儀よくね?」
「うん…」「承知した」
少し腰を浮かしていた二人は、再び席についた。
二人は教会騎士の殺気に気付き、反撃しようとしていた。
カードはそれを、事前に収めた形だ。
ギルマスの執務室で争い事など、もっての他だ。
「では、扉を破壊してもらえませんか?」
にこやかに別の提案をしてくるレン。
「は?」
扉とは、こちらと魔界を繋ぐ通路。
魔界、以前ハルファスに聞いたことがある。
悪魔や魔神が棲む場所だと言う事らしい。
扉の中にはボスがいて、それを倒すと扉は消滅する。
扉が消滅すると、侵入した側に戻されるという。
扉に取り残されたり、向こう側に送られたりする心配はないようだ。
「僕たちに出来る事ならやりましょう」
「ついでに武闘大会にでも出たらどうだ?扉のある島の隣の島だぞ」
散歩に行ってきたらどうだ?みたいな軽い言い方をするギルマス。
ドンピシャなタイミングらしい、一ヶ月後に開催されると言う。
「それに何の意味が?」
カードは特に、お金も名誉も求めてない。
求めるものは、自身の記憶。
「優勝の副賞が、貴殿の欲するものかも知れないぞ」
《妖精の手鏡》。
それを覗くと、自身の過去が見えるそうだ。
確かに、記憶喪失のカードには必要な物かも知れない。
そのアイテムが副賞らしい。
「そうだ、忘れていた。コレを」
ギルマスは懐から出した物を、カードに手渡す。
「あ、そう言えば…」忘れていた。
カードは冒険者証(本)を手に入れた。
本証が発行されるまでに、実に色々な事が起こったものだと、カードは感慨深く思う。
「もう一つ報告が」
カードは思い出した事をギルマスに報告する。
「今度はなんだ?」
おもむろに、執務室の窓を開けるカード。
「何を?」
皆がカードの動向を見守っている。
「おいで」
窓から鳩が入ってくる。
「その鳩は?」
「あのうるさい孔雀…白色の巨人を倒したやつです」
「は?」
「ハルファス、人型になって、僕と同じ位の大きさでいいから」
「承った」
ハルファスは、徐々に鳩から人へと変異していく。
「あの褐色の巨人はコイツです」
ハルファスの変身が完了した。
「…あ?」
「ついでにこいつ悪魔です」
「はあぁああああああ!!!???」
カードの功績に、悪魔を一柱仲間にした、が、付け加えられた。
◇
「ここは…?」
当たりを見ると、どうやら海岸のようだ。
ゆっくり立ち上がると、肩に掛けてあったローブがずり落ちる。
それを拾い上げると、胸に付いているエンブレムが目に入った。
「…そうか、そうだった」
そのエンブレムに見覚えがある
「私は…二位…いや、今は三位だったな」
男はローブを握りしめ、自身の目的を思い出した。
「まずは、ここが何処か確認しなくてはな。やはり飛ばされると、記憶に混乱が起きるのが問題だな」と頭を振る男。
朝焼けの海岸に一人、湿った砂に足跡をつけながら歩く。
公国に降り立ったのは、ある組織の序列三位の強者だった。




