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デジャヴな異世界で追憶を  作者: シバザキアツシ
記憶のない奴隷編

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13/16

スタンピードを止めよう

要塞都市(ようさいとし)サンゲイルの南東。尖山(せんざん)の迷宮近辺。

「久しぶりね、ここへ来るのも」

「へっ、オレもガキの時以来だぜ」

そう言うと二人は、自身の愛用の武器を抜いた。


先行して、ギルマスとザンガの二人が尖山(せんざん)の迷宮へと赴(おもむ)いていた。

後に、援軍が到着する手筈である。

ギルマスはいつもの赤いスーツ姿ではなく、赤い軽鎧(けいがい)を装備している。


「ほほぅ、いやがるいやがる!オレが先に出る。残りは任せたぜ!っと」


尖山の迷宮周りを確認、魔獣や魔物で溢れかえっている。


スタンピードが起きた証である。

通常魔獣や魔物が、ダンジョンの外に出ることはない。


舌なめずりしたザンガは、超大剣のギガントブレードを肩に担いで、尖山の迷宮の入口前に、飛んで行った。

文字通り飛んだ。その時、踏ん張った地面が、ザンガの足形に凹んでいる。

「相変わらず、凄(すご)いジャンプ力ね」

とても、超大剣を持っているとは思えない身のこなしだ。

ギルマスも、炎の属性が付与された、曲刀タルワールを下段に構え、迷宮入口へと走り出した。


◇


商業施設を解放したカード達は、町中の魔獣を討伐して回っていた。


東へと向かっている途中。

北東の公園に魔獣発見。

東の壁が壊されているのを目視する。


B級冒険者のフラウが、既(すで)に侵入した魔獣と戦っていた。

クラン、大地神(グランマザー)総出で事に当たっている。


総勢50名中々の大所帯、全員女性で構成されている。


「どうなってる?」

カードは見つけたフラウに走り寄り、現状を聞く。

辺りでは、あちこちで戦闘が起こっている。


「逃げ遅れた住民が多数、今は一箇所にまとまって貰(もら)っている。侵入した魔獣の殲滅(せんめつ)に集中している所だ」

一気に的確な説明をするフラウ。


「分かった、協力してさっさと討伐しよう」

カードはフラウの説明を受け、黒い大剣を抜き、目前の魔獣と対峙する。

「そうだな」

剣を抜き隣に立つと、その安心感にフラウの口元が綻(ほころ)ぶ。

対峙(たいじ)した時の圧力が、味方になるとこうも心強いとは思ってもみなかった。


フラウと情報を共有し、ある程度魔獣を排除した時、一人の女性冒険者がカードに詰め寄って来た。

「な、なに?」

詰め寄られる理由が分からないカードは、激しく狼狽(うろた)える。

「お前は!リーダーをボコボコにしたや…」

この女性、フラウのクランのメンバーである。

「やめろ!つまらん意地でこの町を落とさせる訳にはいかない。カードは優秀な冒険者だ、食って掛かるな!」

これが本来のフラウ・シーニュである。

リーダーとしての器は充分。

「う…すんません」

そう言うしかない、メンバーだった。


「放っておいても、黒騎士が何とかしてくれるんじゃ?」

大地神(グランマザー)のメンバーの一人が、ふとそんな事を口走る。

「黒騎士隊舎が、町中から城砦(じょうさい)オロバスに移された意味が分からないのか?」


町の南東に位置する城砦(じょうさい)。

中央の巨大な塔を、東西南北の塔、四つで囲んでいる。

その外には、幅の広い堀が張られており、鉄壁の守りとなっている。


「え?」

「移設を指示したのは中央議会だ。要塞都市(ようさいとし)とはアレが全てだ。アレ以外は守る必要はないと思ってる連中だ」

フラウは顎(あご)をしゃくる。


その先に視線を向けると、堅牢(けんろう)な要塞(ようさい)がそびえ立っていた。


フラウは巨大な堀に囲まれた堅固な塔を、忌々(いまいま)しげに見上げた。


「アレさえ無事なら下はどうなっても、奴らには大した問題じゃないのさ」

「そんな…」

「と言う訳で、黒騎士に期待は出来ない」

眉間(みけん)にしわを寄せるフラウ。

「…なる程ね」

しかし、カードは、グレイがそんな人とは到底思えない。

ちゃんと説明すれば、絶対に助けてくれると信じている。

勿論(もちろん)、自身で解決出来るならそれに越したことはないのだけれど。


◇


息も切れ切れに走ってきた、一人の冒険者が叫んでいる。


「南の壁が突破された!誰かそちらに回ってくれ!人手が足りない!」

「わたしが行こう。カードはこちらを優先してくれ。終わり次第、わたし達の援護に」

「了解した」

フラウと、彼女率いる大地神(グランマザー)は南へと向かった。


大地神(グランマザー)がいなくなった事で、魔獣の標的は自動的にカード達に向く。


「まぁ、当然だよね」

カードは直ぐ様、魔獣に囲まれる。

「この魔獣は?」

「ナーガだな」

一言で答えるカイル。サエラは既(すで)に戦闘態勢に入っている。

ナーガ、人程の大きさの蛇型の魔獣である。

それが二十体、カード達を取り囲んでいる。


「…この光景って」


※追憶発動条件、魔獣に囲まれる。


『意識の消失を確認、敵対生物確認』

『操術、発動します』

カードの身体が、自動的に動き出した。

「これが、操術なのか?」

黒い大剣を構えるカード。

「たぶん」

カイルの問いに、自信なく|頷《うなづ》くサエラだった。


◆


ある町の大劇場。

その外の門にある大階段から、優雅(ゆうが)に降りてくるウルトラスター。

「やぁ、出待ちかな?」

「何を言っている?」

「サインが欲しいのかな?」

「何を言っている??」

「う〜ん、じゃ、何が欲しいのかな?」

首を傾げるウルトラスター。

「貴殿と戦う権利が欲しい」

真剣な眼の豪剣士。

「ほぅ、それは決闘と言うことかな?」

ウルトラスターは目を細める。

「そう言う事だ」

「構わないよ」と穏やかにウルトラスターは答えた。


◇


「じゃ、始めようか?」

町の広場に移動してきた二人。

「…宣伝でもしたのか?」

開いた口が塞がらない豪剣士。

「まさか、勝手に引き寄せられるのさ。僕のオーラは隠せない」

片目を瞑るウルトラスター。

「………」

二人の回りで、大勢のギャラリーが騒いでいる。


「…気を取り直して、始めようか」

「いつでも」

ウルトラスターは美しい動作で、薄紅色の細剣を背中から抜く。

「先手はどうぞ」

ウルトラスターの配慮に、豪剣士も長いほうの刀を抜く。

「…ふん!」

豪剣士の初手は袈裟(けさ)斬り。

「おっと」

ウルトラスターはステップで難なく躱(かわ)す。

「乱れ突き」

ウルトラスターの真正面から、豪剣士は刀の突き技を放った。

「ふっ…」

超速度で、豪剣士の後ろに回ったウルトラスターは、細剣を突きの体勢に構える。

「なに!?」

豪剣士は目で追えていない。

「百花繚乱(ひゃっかりょうらん)」

豪剣士の放った突きの、実に十倍の数の突きを繰り出すウルトラスター。

美しい銀閃が舞う。

振り向くだけで精一杯、防御まで手が回らない。

「くっ!うおぉおぉ!!!」

両腕を交差して、耐え続ける豪剣士。

綺麗に豪剣士の周りだけ突いた形だ。

着物の欠片が宙に舞う。

ウルトラスターが、豪剣士の身体の中心を刺すことは無かった。


急所を避けた攻撃。手心を加えられた証拠。

豪剣士は、豪快に後ろ向きに倒れた。


「気が済んだかな?」

ギャラリーの黄色い声が飛び交っている。

「………」

豪剣士は答えなかった。答えられなかった。


全く歯が立たなかった。

「まさか…これ程とは…」

これが、ユニーク職と三次職の、圧倒的な差であった。


「では、僕はもう行くよ。次の予定があるんだ。話しがあるなら今度はマネージャーを通してね」

ウルトラスターは颯爽(さっそう)と去っていった。

黄色い声もそれについて遠ざかる。


一対一では勝てない、では、どうやって勝てばいいのか。

「某(それがし)は…何の為に?」

自問自答する豪剣士。

しかし、何故かやめると言う選択肢は、頭に浮かばなかった。


◇


「これを使えば…」

道具屋でオーガニップを手に入れた。

何かに取り憑(とりつ)かれたかのように、執拗(しつよう)にウルトラスターを狙う豪剣士。


オーガニップとは、猫のマタタビのようなもの。それの魔獣バージョンと言ったところだ。


オーガニップで魔獣を酔わせ凶暴化させる。

それをウルトラスターに向ける作戦だ。


ウルトラスターの後を付け、町の外に出るまで待った。

次の公演は、隣町でやるらしい。

さほど距離が離れていない為、ウルトラスターは一人、馬で移動していた。

「たまには一人も悪くないね」

舞台の道具諸々は、既(すで)に大型馬車で移送済みだ。


「そこだ!」

開けた場所に出たウルトラスターの前方に、豪剣士はオーガニップを投げつけた。


瞬時に効果が発動、魔獣が集まって来た。

「おや?」

数十の魔獣に囲まれたウルトラスターは、何故か口角を上げる。

「そう言うことね」


ウルトラスターは華麗に魔獣を誘導し、豪剣士の方へ差し向けた。

隠れたつもりの豪剣士の位置を、正確に把握(はあく)していた。


「なに!?くそっ!」

慌てる豪剣士は咄嗟(とっさ)に刀を抜く。

「やれるのか?この数相手に?」

豪剣士を取り囲んだ魔獣は三十体。

必死に刀を振るうが、魔獣の攻勢は止まらない。

「この…!」


豪剣士が魔獣に倒される寸前に、ウルトラスターが助けに入る。

華麗な剣技で、あっという間に魔獣は殲滅(せんめつ)された。


再び豪剣士は、またしても後ろ向きに倒れた。

「悪かった。某(それがし)も今より、貴殿のファンだ」

「ファン一人ゲット!嬉しい誤算だね」

ウルトラスターは歓喜に舞う。


「そうだ!これを」

自身の公演チケットを、豪剣士に差し出すウルトラスター。

手を伸ばし一度止まる豪剣士。

「次回は自分で買ってくれよ」

じっと、チケットを見る。

「あぁ、そうするよ」

今度こそ、素直に受け取った豪剣士。

二人は暫(しばら)くの間、笑い合った。


「それで、何故僕を標的に?」

「ユニーク職の中で、一番弱そうだったから。三次職でも倒せるかと」

「わお!オブラートに包まない言い方。嫌いじゃないけどね」

「悪い…」

「いいんだ、確かに君の言う通りかも知れないしね」

「とは言え、それにすら届かなかった某(それがし)は、とんだ紛い物(まがいもの)だな」

「今はね。まだ、成長出来るはずだよ」

同意と未来を語るウルトラスター。

「…そうだな。まさか慰(なぐさ)められるとは思ってなかったな」

「はは、まぁ、細かい事は気にしない事だね」


見た目が全てではない。

実力は内に秘められる。


『ウルトラスターの記憶を一部取り戻しました』


『記憶レベル10/1000、スキルを一つ解放します』


スキル∶気絶(スウォン)

消費MP200、クールタイム120秒。

指を弾いて鳴らす行動で、対象一体を気絶状態にする


※ウルトラスターのスキンをしました


◆


カードの意識が戻る。

『覚醒を確認、操術を解除します』


目の前で住民の一人が、蛇型の魔獣、ナーガに襲われそうになっている。

鋭い牙を剥(む)くナーガ。


間に合わない。

「………!」

今、手に入れたばかりのスキルを放つ。

「間に合え!気絶(スウォン)!」

カードが指を鳴らすと、蛇型の魔獣は動きを止め地に伏した。

「た…助かった…」


「どうなってるんだ?」

ボロボロの、サエラとカイルがいる。

それは分かる。分からないのは立ち位置だ。

「え?」


先程助けた住民は、カードの前、その先に大量の魔獣の死骸(しがい)。

そして、カードの後ろにサエラとカイル、更にその後ろに数十名の住民がいる。

まるで、カードから、住民を守るようにサエラとカイルが立ちはだかる。

サエラとカイルがボロボロになる要素はない。


「操術の設定を間違えたな」

カイルは珍しく肩で息をしている。

「関係ない人、巻き込むな!」

サエラは、今にもカードに掴(つか)みかかりそうな勢いだ。


「あ…」

操術で、住民諸共殲滅(せんめつ)しようとしていたのだ。

サエラとカイルはカードから、住民を守っていたのだ。


「やばっ…」

行動登録に一般人を攻撃対象にしないと、設定しなければならなかった。

その設定が漏(も)れていた。


「やばいのサエラ達!」

カードを止めるために、二人はボロボロになっていた。

「そうとも、皆殺しにされる所だったわ」

はははと、力なく笑うカイル。

「大剣奪うの大変だった…」

唇を尖(とが)らせるサエラ。

「嘘…僕、素手で戦ってたの?」

素手で大量の魔獣を捻(ね)じ伏せていたらしい。

自身の身体を見る限り、どこにも怪我を負っていない。

「この剣ヤバい、呪われたドラゴンスレイヤーなんて、手に負えない…」

「ほう」

カイルは目を細める。

「え?サエラ、今なんて?」

「知らない」

プイと顔を背け、鞘(さや)に入ったままの黒い大剣を、胸に抱えて走り去ってしまった。

「………?」


「謝って済む話じゃないかもだけど、ホントにごめん…」

カードは、深く深く住民達に頭を下げた。

「いやぁ、今生きてられんのは、やはり、君のおかげだからさ」

「あぁ、結果、俺たちは誰も怪我してないしな」

住民の援護(えんご)もあり、サエラとカイルはカードへの追求を渋々止めた。


この時カードは始めて理解した。

自身が殲滅者(せんめつしゃ)足り得るのだと。


「ハルファス!」

「呼んだか、父よ」

カードがいつ呼んでも、直ぐに飛んで来てくれる鳩の悪魔。

カードを父と慕(した)っている。

「ちょっと、見てきてくれる?」

「何を見れば良い?」


         ◇


スタンピードで中の魔獣や魔物は全て外に出てしまっているので、ダンジョンの敵は皆無(かいむ)だった、二人は楽にボス部屋へと辿り着いた。


そして、戦闘の終盤。


「これで!しまいだ!」

ギガントブレードを、ゴリラ型魔獣のボス、チタンコングに叩き付けるザンガ。

「うお!」

金属同士がぶつかる音が鳴る。

スチールウルフと同様に、防御力が高い個体。

「硬いわね!」

二人の攻撃は、あっさりと弾かれた。

「ちっ!!一気に決めるぞ!」

ザンガがギガントブレードを下段に構え、力を溜める。

「了解!準備して」

「よし!」

ギルマスがチタンコングの気を引く。

その間に、スキルの準備をするザンガ。


ギルマスが、ボスと一人で戦闘すること数秒。

「いいぞ!離れろ!」

充填(じゅうてん)完了。

「了解!」

ギルマスは真横に跳んで、攻撃範囲からはずれる。


「固有スキル、神槍(グングニル)!」

ギガントブレードは細長く伸び、それを間髪入れず投擲(とうてき)するザンガ。

踏み込んだ地面がひび割れた。

「おらぁ!!」

放たれた豪速の神槍は、狙い違わず、ボスの頭部を破壊した。

一瞬遅れての轟音(ごうおん)と爆風。


「戦闘終了…っと」

ギルマスは額の汗を拭い、タルワールを、腰の鞘(さや)に戻した。


◇


「父よ!見つけたぞ!」

ハルファスが帰ってきた。

「ありがとう!早速行こう!」

ハルファスに頼んでいたのは、この騒動を起こした張本人を探す事、空からなら容易かったようだ。

存在しない事も考えられたが、カードは煽動者(せんどうしゃ)がいれば、それを抑えればこの騒動は収束すると思い、ハルファスに調査をさせていたのだった。

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