スタンピードを止めよう
要塞都市サンゲイルの南東。尖山の迷宮近辺。
「久しぶりね、ここへ来るのも」
「へっ、オレもガキの時以来だぜ」
そう言うと二人は、自身の愛用の武器を抜いた。
先行して、ギルマスとザンガの二人が尖山の迷宮へと赴いていた。
後に、援軍が到着する手筈である。
ギルマスはいつもの赤いスーツ姿ではなく、赤い軽鎧を装備している。
「ほほぅ、いやがるいやがる!オレが先に出る。残りは任せたぜ!っと」
尖山の迷宮周りを確認、魔獣や魔物で溢れかえっている。
スタンピードが起きた証である。
通常魔獣や魔物が、ダンジョンの外に出ることはない。
舌なめずりしたザンガは、超大剣のギガントブレードを肩に担いで、尖山の迷宮の入口前に、飛んで行った。
文字通り飛んだ。その時、踏ん張った地面が、ザンガの足形に凹んでいる。
「相変わらず、凄いジャンプ力ね」
とても、超大剣を持っているとは思えない身のこなしだ。
ギルマスも、炎の属性が付与された、曲刀タルワールを下段に構え、迷宮入口へと走り出した。
◇
商業施設を解放したカード達は、町中の魔獣を討伐して回っていた。
東へと向かっている途中。
北東の公園に魔獣発見。
東の壁が壊されているのを目視する。
B級冒険者のフラウが、既に侵入した魔獣と戦っていた。
クラン、大地神総出で事に当たっている。
総勢50名中々の大所帯、全員女性で構成されている。
「どうなってる?」
カードは見つけたフラウに走り寄り、現状を聞く。
辺りでは、あちこちで戦闘が起こっている。
「逃げ遅れた住民が多数、今は一箇所にまとまって貰っている。侵入した魔獣の殲滅に集中している所だ」
一気に的確な説明をするフラウ。
「分かった、協力してさっさと討伐しよう」
カードはフラウの説明を受け、黒い大剣を抜き、目前の魔獣と対峙する。
「そうだな」
剣を抜き隣に立つと、その安心感にフラウの口元が綻ぶ。
対峙した時の圧力が、味方になるとこうも心強いとは思ってもみなかった。
フラウと情報を共有し、ある程度魔獣を排除した時、一人の女性冒険者がカードに詰め寄って来た。
「な、なに?」
詰め寄られる理由が分からないカードは、激しく狼狽える。
「お前は!リーダーをボコボコにしたや…」
この女性、フラウのクランのメンバーである。
「やめろ!つまらん意地でこの町を落とさせる訳にはいかない。カードは優秀な冒険者だ、食って掛かるな!」
これが本来のフラウ・シーニュである。
リーダーとしての器は充分。
「う…すんません」
そう言うしかない、メンバーだった。
「放っておいても、黒騎士が何とかしてくれるんじゃ?」
大地神のメンバーの一人が、ふとそんな事を口走る。
「黒騎士隊舎が、町中から城砦オロバスに移された意味が分からないのか?」
町の南東に位置する城砦。
中央の巨大な塔を、東西南北の塔、四つで囲んでいる。
その外には、幅の広い堀が張られており、鉄壁の守りとなっている。
「え?」
「移設を指示したのは中央議会だ。要塞都市とはアレが全てだ。アレ以外は守る必要はないと思ってる連中だ」
フラウは顎をしゃくる。
その先に視線を向けると、堅牢な要塞がそびえ立っていた。
フラウは巨大な堀に囲まれた堅固な塔を、忌々しげに見上げた。
「アレさえ無事なら下はどうなっても、奴らには大した問題じゃないのさ」
「そんな…」
「と言う訳で、黒騎士に期待は出来ない」
眉間にしわを寄せるフラウ。
「…なる程ね」
しかし、カードは、グレイがそんな人とは到底思えない。
ちゃんと説明すれば、絶対に助けてくれると信じている。
勿論、自身で解決出来るならそれに越したことはないのだけれど。
◇
息も切れ切れに走ってきた、一人の冒険者が叫んでいる。
「南の壁が突破された!誰かそちらに回ってくれ!人手が足りない!」
「わたしが行こう。カードはこちらを優先してくれ。終わり次第、わたし達の援護に」
「了解した」
フラウと、彼女率いる大地神は南へと向かった。
大地神がいなくなった事で、魔獣の標的は自動的にカード達に向く。
「まぁ、当然だよね」
カードは直ぐ様、魔獣に囲まれる。
「この魔獣は?」
「ナーガだな」
一言で答えるカイル。サエラは既に戦闘態勢に入っている。
ナーガ、人程の大きさの蛇型の魔獣である。
それが二十体、カード達を取り囲んでいる。
「…この光景って」
※追憶発動条件、魔獣に囲まれる。
『意識の消失を確認、敵対生物確認』
『操術、発動します』
カードの身体が、自動的に動き出した。
「これが、操術なのか?」
黒い大剣を構えるカード。
「たぶん」
カイルの問いに、自信なく|頷《うなづ》くサエラだった。
◆
ある町の大劇場。
その外の門にある大階段から、優雅に降りてくるウルトラスター。
「やぁ、出待ちかな?」
「何を言っている?」
「サインが欲しいのかな?」
「何を言っている??」
「う〜ん、じゃ、何が欲しいのかな?」
首を傾げるウルトラスター。
「貴殿と戦う権利が欲しい」
真剣な眼の豪剣士。
「ほぅ、それは決闘と言うことかな?」
ウルトラスターは目を細める。
「そう言う事だ」
「構わないよ」と穏やかにウルトラスターは答えた。
◇
「じゃ、始めようか?」
町の広場に移動してきた二人。
「…宣伝でもしたのか?」
開いた口が塞がらない豪剣士。
「まさか、勝手に引き寄せられるのさ。僕のオーラは隠せない」
片目を瞑るウルトラスター。
「………」
二人の回りで、大勢のギャラリーが騒いでいる。
「…気を取り直して、始めようか」
「いつでも」
ウルトラスターは美しい動作で、薄紅色の細剣を背中から抜く。
「先手はどうぞ」
ウルトラスターの配慮に、豪剣士も長いほうの刀を抜く。
「…ふん!」
豪剣士の初手は袈裟斬り。
「おっと」
ウルトラスターはステップで難なく躱す。
「乱れ突き」
ウルトラスターの真正面から、豪剣士は刀の突き技を放った。
「ふっ…」
超速度で、豪剣士の後ろに回ったウルトラスターは、細剣を突きの体勢に構える。
「なに!?」
豪剣士は目で追えていない。
「百花繚乱」
豪剣士の放った突きの、実に十倍の数の突きを繰り出すウルトラスター。
美しい銀閃が舞う。
振り向くだけで精一杯、防御まで手が回らない。
「くっ!うおぉおぉ!!!」
両腕を交差して、耐え続ける豪剣士。
綺麗に豪剣士の周りだけ突いた形だ。
着物の欠片が宙に舞う。
ウルトラスターが、豪剣士の身体の中心を刺すことは無かった。
急所を避けた攻撃。手心を加えられた証拠。
豪剣士は、豪快に後ろ向きに倒れた。
「気が済んだかな?」
ギャラリーの黄色い声が飛び交っている。
「………」
豪剣士は答えなかった。答えられなかった。
全く歯が立たなかった。
「まさか…これ程とは…」
これが、ユニーク職と三次職の、圧倒的な差であった。
「では、僕はもう行くよ。次の予定があるんだ。話しがあるなら今度はマネージャーを通してね」
ウルトラスターは颯爽と去っていった。
黄色い声もそれについて遠ざかる。
一対一では勝てない、では、どうやって勝てばいいのか。
「某は…何の為に?」
自問自答する豪剣士。
しかし、何故かやめると言う選択肢は、頭に浮かばなかった。
◇
「これを使えば…」
道具屋でオーガニップを手に入れた。
何かに取り憑かれたかのように、執拗にウルトラスターを狙う豪剣士。
オーガニップとは、猫のマタタビのようなもの。それの魔獣バージョンと言ったところだ。
オーガニップで魔獣を酔わせ凶暴化させる。
それをウルトラスターに向ける作戦だ。
ウルトラスターの後を付け、町の外に出るまで待った。
次の公演は、隣町でやるらしい。
さほど距離が離れていない為、ウルトラスターは一人、馬で移動していた。
「たまには一人も悪くないね」
舞台の道具諸々は、既に大型馬車で移送済みだ。
「そこだ!」
開けた場所に出たウルトラスターの前方に、豪剣士はオーガニップを投げつけた。
瞬時に効果が発動、魔獣が集まって来た。
「おや?」
数十の魔獣に囲まれたウルトラスターは、何故か口角を上げる。
「そう言うことね」
ウルトラスターは華麗に魔獣を誘導し、豪剣士の方へ差し向けた。
隠れたつもりの豪剣士の位置を、正確に把握していた。
「なに!?くそっ!」
慌てる豪剣士は咄嗟に刀を抜く。
「やれるのか?この数相手に?」
豪剣士を取り囲んだ魔獣は三十体。
必死に刀を振るうが、魔獣の攻勢は止まらない。
「この…!」
豪剣士が魔獣に倒される寸前に、ウルトラスターが助けに入る。
華麗な剣技で、あっという間に魔獣は殲滅された。
再び豪剣士は、またしても後ろ向きに倒れた。
「悪かった。某も今より、貴殿のファンだ」
「ファン一人ゲット!嬉しい誤算だね」
ウルトラスターは歓喜に舞う。
「そうだ!これを」
自身の公演チケットを、豪剣士に差し出すウルトラスター。
手を伸ばし一度止まる豪剣士。
「次回は自分で買ってくれよ」
じっと、チケットを見る。
「あぁ、そうするよ」
今度こそ、素直に受け取った豪剣士。
二人は暫くの間、笑い合った。
「それで、何故僕を標的に?」
「ユニーク職の中で、一番弱そうだったから。三次職でも倒せるかと」
「わお!オブラートに包まない言い方。嫌いじゃないけどね」
「悪い…」
「いいんだ、確かに君の言う通りかも知れないしね」
「とは言え、それにすら届かなかった某は、とんだ紛い物だな」
「今はね。まだ、成長出来るはずだよ」
同意と未来を語るウルトラスター。
「…そうだな。まさか慰められるとは思ってなかったな」
「はは、まぁ、細かい事は気にしない事だね」
見た目が全てではない。
実力は内に秘められる。
『ウルトラスターの記憶を一部取り戻しました』
『記憶レベル10/1000、スキルを一つ解放します』
スキル∶気絶
消費MP200、クールタイム120秒。
指を弾いて鳴らす行動で、対象一体を気絶状態にする
※ウルトラスターのスキンをしました
◆
カードの意識が戻る。
『覚醒を確認、操術を解除します』
目の前で住民の一人が、蛇型の魔獣、ナーガに襲われそうになっている。
鋭い牙を剥くナーガ。
間に合わない。
「………!」
今、手に入れたばかりのスキルを放つ。
「間に合え!気絶!」
カードが指を鳴らすと、蛇型の魔獣は動きを止め地に伏した。
「た…助かった…」
「どうなってるんだ?」
ボロボロの、サエラとカイルがいる。
それは分かる。分からないのは立ち位置だ。
「え?」
先程助けた住民は、カードの前、その先に大量の魔獣の死骸。
そして、カードの後ろにサエラとカイル、更にその後ろに数十名の住民がいる。
まるで、カードから、住民を守るようにサエラとカイルが立ちはだかる。
サエラとカイルがボロボロになる要素はない。
「操術の設定を間違えたな」
カイルは珍しく肩で息をしている。
「関係ない人、巻き込むな!」
サエラは、今にもカードに掴みかかりそうな勢いだ。
「あ…」
操術で、住民諸共殲滅しようとしていたのだ。
サエラとカイルはカードから、住民を守っていたのだ。
「やばっ…」
行動登録に一般人を攻撃対象にしないと、設定しなければならなかった。
その設定が漏れていた。
「やばいのサエラ達!」
カードを止めるために、二人はボロボロになっていた。
「そうとも、皆殺しにされる所だったわ」
はははと、力なく笑うカイル。
「大剣奪うの大変だった…」
唇を尖らせるサエラ。
「嘘…僕、素手で戦ってたの?」
素手で大量の魔獣を捻じ伏せていたらしい。
自身の身体を見る限り、どこにも怪我を負っていない。
「この剣ヤバい、呪われたドラゴンスレイヤーなんて、手に負えない…」
「ほう」
カイルは目を細める。
「え?サエラ、今なんて?」
「知らない」
プイと顔を背け、鞘に入ったままの黒い大剣を、胸に抱えて走り去ってしまった。
「………?」
「謝って済む話じゃないかもだけど、ホントにごめん…」
カードは、深く深く住民達に頭を下げた。
「いやぁ、今生きてられんのは、やはり、君のおかげだからさ」
「あぁ、結果、俺たちは誰も怪我してないしな」
住民の援護もあり、サエラとカイルはカードへの追求を渋々止めた。
この時カードは始めて理解した。
自身が殲滅者足り得るのだと。
「ハルファス!」
「呼んだか、父よ」
カードがいつ呼んでも、直ぐに飛んで来てくれる鳩の悪魔。
カードを父と慕っている。
「ちょっと、見てきてくれる?」
「何を見れば良い?」
◇
スタンピードで中の魔獣や魔物は全て外に出てしまっているので、ダンジョンの敵は皆無だった、二人は楽にボス部屋へと辿り着いた。
そして、戦闘の終盤。
「これで!しまいだ!」
ギガントブレードを、ゴリラ型魔獣のボス、チタンコングに叩き付けるザンガ。
「うお!」
金属同士がぶつかる音が鳴る。
スチールウルフと同様に、防御力が高い個体。
「硬いわね!」
二人の攻撃は、あっさりと弾かれた。
「ちっ!!一気に決めるぞ!」
ザンガがギガントブレードを下段に構え、力を溜める。
「了解!準備して」
「よし!」
ギルマスがチタンコングの気を引く。
その間に、スキルの準備をするザンガ。
ギルマスが、ボスと一人で戦闘すること数秒。
「いいぞ!離れろ!」
充填完了。
「了解!」
ギルマスは真横に跳んで、攻撃範囲からはずれる。
「固有スキル、神槍!」
ギガントブレードは細長く伸び、それを間髪入れず投擲するザンガ。
踏み込んだ地面がひび割れた。
「おらぁ!!」
放たれた豪速の神槍は、狙い違わず、ボスの頭部を破壊した。
一瞬遅れての轟音と爆風。
「戦闘終了…っと」
ギルマスは額の汗を拭い、タルワールを、腰の鞘に戻した。
◇
「父よ!見つけたぞ!」
ハルファスが帰ってきた。
「ありがとう!早速行こう!」
ハルファスに頼んでいたのは、この騒動を起こした張本人を探す事、空からなら容易かったようだ。
存在しない事も考えられたが、カードは煽動者がいれば、それを抑えればこの騒動は収束すると思い、ハルファスに調査をさせていたのだった。




